Bankの秘密基地

個人日記兼つれづれなるままに

ビットコインバブル

2021年03月31日 | マクロ経済


ビットコインをやっている人には面白くない話かもしれないが、現在のビットコインあるいは暗号資産相場がバブルかどうかという点ではバブルとしかいいようがない。ただバブルがいつ終焉を迎えるかとかいう考察をするつもりはない。これから価格が4倍になろうが、99%下がろうと正直興味はない。ここではブロックチェーン技術に支えられた新しい資産クラスは投資対象ではなく、投機目的以外には使いようがないということを考えるのが目的だ。

ビットコインは投機対象にはなるが投資対象にはならない。いくつか理由がある。第1には市場の流動性に大きな問題があるからだ。



ビットコインの時価総額は110兆円程度あると推定される。しかし、その保有構造をみると非常にいびつである。投資対象として健全な市場の要件は流動性が十分に提供されること。個人・機関投資家問わず、影響力を行使できないのが理想である。つまり市場参加者は市場価格を'given'として与えられそれを前提として行動する。しかしながら、ビットコインは1万ビットコイン以上のアドレスが100程度、1000ビットコインでも2000アドレス程度である。さらに下の図では総アドレスのたった2.21%でビットコインの95%を保有している。いわゆるクジラと呼ばれる人たちである。ビットコインを一番保有しているのはシステムを創ったサトシ・ナカモト氏で100万ビットコインを保有していると言われている。特に大口の保有者は長期保有している傾向が強く、市場にビットコインがほとんど供給されていない原因にもなっている。しかもサトシ・ナカモト氏は1つのアドレスで保有しているのではなく、多くのアドレスに分散させているとされる。他の大口保有者も同じで、それらを勘案すれば、1000以上保有の2000アドレスは2000人でなく、もっと少数の人に保有されている可能性が高い。彼らが売るからバブルが崩壊する...などという主張をするつもりはない。もしかしたら大口長期保有者はこのさきもずっと売却をしないかもしれない。サトシ・ナカモト氏はもしかしたら死ぬまで売らないかもしれない。

第2の理由としてはビットコインは決済手段としては利用ができない。つまり登場したときに「仮想通貨」と呼ばれていたが、通貨としての機能に著しく欠陥を抱えている。ビットコインなどの暗号資産はその存在意義が悪意のある第三者に不正手段を行わせない対抗手段を持っているというのがそれである。中央集権的でなく、分散型のP2Pネットワークに存在する多くの人たち(マイナー)よって検証されつづけるのが重要だ。



ブロックチェーンの技術的特性からとトランザクションデータの真実性を担保させるために多くのマイナー達の競争によって正しいブロックが追加されていく。そのブロックが追加されることによってトランザクションは正式に完結するようになっている。しかも、ブロック追加は多くのマイナー達の計算競争によって一番最初に追加した者が報酬を得られる仕組みになっている。この競争的環境が悪意のある第三者を駆逐する原動力になっており、とてもうまく出来ていると思う。ブロックについては上の図の通り、トランザクションデータ、前ブロックのハッシュ値それにナンスを加えたものである。マイナー達はこの正しい「ナンス」発見するために熾烈な計算競争をしている。ナンスは'Number of used once'のことでブロックにつけられる使い捨ての数字列であり、意味のないデータだ。しかし、ブロックに追加されていることで前のブロックのハッシュ値が算出可能になる。

通貨として利用するならトランザクションは瞬時に終わるのが望ましいが、それでは真実性の担保やマイナーの競争環境が保全されない。従って、システムによってナンスの難易度が決められる。ビットコインの場合にはだいたい10分程度に設定されている。あまり難易度が低いとマイナー達の競争にならないし、強力な計算パワーを保有する悪意のある第三者を排除できない。つまり、ビットコインは決済に利用しようとしても10分以内には出来ないようにあらかじめシステムで決められている。仮にビットコインで買い物をしても「10分待って下さい」では話にならない。そんなことならクレジットカードを出した方が何倍も速いし便利だ。

第3の理由としてはビットコインが価値保全の仕組みとして導入した発行上限と半減期が投資対象として問題がある。ビットコインの設計者はドル・ユーロ・円などの中央集権型通貨の別の選択肢として管理者の存在しない分散型ネットワークを考案した。管理者(国家)がいると管理者による恣意的な発行などを防止できず、インフレによる価値の減少をもたらすリスクが増大する。実際に野放図に発行された通貨によって価値が大幅に減失したケースは数が多い。



政府が経済運営に失敗すると財政が破綻し、赤字財政をファイナンスするために通貨増発に頼ることになる。すると当然ながら通貨価値は大幅に下落する。第1次大戦後のドイツのハイパーインフレが有名だが、ベネズエラやジンバブエのように戦後でも発生している。当然ながらそんな状況だと下の写真のようにトイレットペーパー1つでこれだけいるようになる。



ビットコイン設計者はインフレによる価値毀損防止の為にいくつかの仕掛けをしている。まず発行上限を設けビットコインの発行上限は2100万コインとし、さらにマイナーによる採掘枯渇を防ぐために半減期を設けることにした。マイナーはブロック追加による報酬を得るがビットコインがスタートした時には1ブロック当たり50BTCとされた。4年に一度半減期が設定され報酬は半分になる。厳密には4年ではなく21万ブロックごとに半減期が設定されているが、前にも述べたようにブロック追加の為にナンスの難易度を10分程度に設定していることらからほぼ4年に一度の半減期になる。ビットコインは既に3度の半減期を経験しており、現在の獲得報酬は6.25BTCに下がっている。



ビットコインはその仕組みや考え方はなかなか興味深いものがある。発行上限を設けるというのは希少性を維持して価値の下落を防ぐという意味で普通の方法だが、半減期を設けるのはなぜかと言えば、これも価値保全の仕組みといえる。マイニング競争が激化すれば当然ながら発行量が増大することになるが、一定間隔でマイニング報酬が減少するとマイナーの淘汰が起こり発行量の増大速度が減少することになる。つまり需給を改善し、急激な発行量増大による価格下落を防止しようという仕組みだ。



問題となるのは半減期によってマイニング報酬が減少すると報酬を維持するためには価格は上昇し続ける必要がある。次の半減期には同じ報酬を得るためには価格は倍にその次の半減期にはさらに倍にならないとマイナーは報酬を維持できない。供給量の減少はコイン保有者にとって望ましくてもマイナーにとっては必ずしもプラスにならない。現在ビットコインの発行量は1800万に達しており、発行量は幾何級数的に減少する。枯渇が予想されるのは2140年とかなり先だが、それ以前にマイニング報酬は半減期ごとに価格が倍にならないと維持できない。何が問題かといえば、マイナーが退出してしまうと、ブロックチェーンの検証作業する人がいなくなる。検証ができないとその暗号通貨は価値を維持できない。マイニング報酬でなく、送金手数料を取るという手もある。現在は送金手数料はないに等しい。それはマイニング報酬が得られればゼロでも構わないからだ。実際に取ることが可能だが、マイニング報酬と比較すると極めて小さい。それこそ送金手数料10%とか金融機関で送金するよる高くなる可能性すらある。

現在ではマイニングは個人では不可能となっている。マイニングプールと呼ばれるマイナー集団が多くいてその計算パワーに太刀打ちすることはできない。例え参入しても収入はゼロであり、参入しようとする個人はどこかのマイニングプールに参加して報酬をもらう形が一般的だ。しかし、半減期が続くとマイニングプールはマイニング自体から撤退するか送金手数料を大幅に上げて収入を維持するかどちからになる。ビットコインの仕組み自体は緻密でなかなか魅力的だが、価値保全に力を入れるあまり、決済手段にはなることができない。永遠に価格上昇を前提とした資産はどこかで破綻するか、それともポケモンカードのようなレア資産として市場の片隅に追いやられるだろう。では発行上限を上げてはというのがすぐに頭に思い浮かべるがこれには問題がある。



確立したブロックチェーンに対して何等かの変更を加える場合、ソフトフォーク、ハードフォークの2種類が存在する。ソフトフォークは仕様のマイナーチェンジであり、ブロックチェーンの互換性は保たれる。しかしながら抜本的な変更を加える場合にはハードフォークと呼ばれる手法に頼らざるを得ない。ハードフォークでは新旧のブロークチェーンに分けることであり、ノードも新旧に分裂することになる。実はこれがやっかいだ。古い方を廃止して新しくするというやり方ができない。ハードフォークは2つの異なる暗号通貨が生まれるととらえている人が多いが、ハードフォークして分裂したチェーンはより長いブロックチェーンが生き残り、そうでないのは消滅するというのが本来の目的だ。発行上限を変更した新しい新ビットコインと従来のビットコインが生まれた時、ノードの全てが新の方に移行すれば問題ないが、そうならない可能性が極めて高い。特に発行上限は価値保全の為の基本的なパラメータであり、マイナーの都合で発行上限が変更されればビットコインの信用が失墜する可能性がある。ビットコインは既に何度かハードフォークされている。有名なのはビットコインキャッシュだが、それ以外にもビットコインダイヤモンド、ビットコインゴールド、ビットコインシルバー、ビットコインウラニウム、ビットコインゴッドなどなんと6種類にもハードフォークされた。

結果を見るとビットコインキャッシュはまだ存続しているが、その他は将来消滅するリスクがある。つまり、ハードフォークによって支持されたのは結局もとのビットコインのみということを意味している。ハードフォークがうまくいかないのはシステムの基本を作ったサトシ・ナカモト氏を熱狂的に支持するグループがおり、抜本的な変更に反発しているからだ。



ビットコインは例え2140年にマイニング枯渇を迎えると言っても発行量は幾何級数的に減少する。次の半減期で半分。さらに次で半分とマイニング報酬も幾何級数的に減少する。仮に現在のマイニング報酬を維持するなら、次の半減期に価格は倍に、さらにその次に倍と3回目の半減期の2032年には1ビットコイン当たり48万ドル(4800万円)になってなくてはならない。なんかおかしくないか。永遠に価格上昇が前提の資産というのは? 2032年にはマイニング報酬は0.781825ビットコインまで減少する。その時、マイニングプールはどれだけの数が残っているだろうか。



ケンブリッジ大学の試算のチャートを見るとビットコインの電力使用量は価格上昇とともに急増している。計算競争の結果ともいえる。この先価格上昇が継続すれば、さらなる計算パワーの投入が必要となるだろう。既にアイルランドや南アフリカの電力量を上回っており、ドイツ銀行の試算では1回当たりのトランザクションに必要な電力は家庭1世帯の1か月分に相当するという。この先地球の電力使用量の0.5%に達すると予測されている。なんかおかしくないか? 最初の流動性に議論でも述べたが、全人口の99.999%が無縁の資産に地球全体の電力使用量の0.5%を充てるのは正しい事なのか。銀行システムなどの旧来システムに対するアンチテーゼとしして登場した暗号通貨がその実、最も非効率なものになっているとしか思えない。テスラがビットコインを購入したとの話題で盛り上がったが、私個人としては「テスラのイーロン・マスクはなにとち狂ってるの」という感想がまずでた。

まとめると
1. 決済手段の要件を満たしていない。
2. 流動性にかなりの問題がある。
3. マイナーの参入障壁を下げないために永続的な価格上昇が(暗黙的に)前提されている
4. 電力消費など経済的持続可能性のある資産とはいえない。

別に暴落論に与する気は毛頭ないし、この先も上がり続けるかもしれないが、ビットコインは投資資産の要件は満たしていない。投機の手段以外の利用法は皆無だ。

暗号通貨に関する書籍は沢山でているが、その中でお勧めとして2点ばかり



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