Bankの秘密基地

個人日記兼つれづれなるままに

海外のREIT投資(11) - Ascendas India Trust(シンガポール)

2010年03月29日 | 海外REIT研究


 アセンダス・インディア・トラスト(AIT)はシンガポール上場の不動産に特化した事業信託で
その名前の通り、インドのに特化したファンドだ。シンガポールの事業信託法の下で組成された
ファンドで厳密にはREITではなく、事業信託ではあるが、シンガポールの投資信託法の不動産
投資信託ガイドラインに準拠しており、REITライクな性格を有している。インカム収入の90%
以上を分配する事をコミットしており、分配金はシンガポールの所得税が免除される。(パスス
ルー課税であるという意味....だと思う) さらにギアリングの上限は35%と定めており、格付け
を一定要件を満たせば60%まであげることができる。2009年12月末の純資産は647百万
Sドル(420億円)、1ユニット当たりで85セントとなっている。現在の株価の98セントはプレ
ミアムがついていることになる。配当利回りは直近3四半期の年率換算で7.8%になる。

 AITは2004年12月に私募投信として組成された後、インドの不動産市場に投資する初め
ての不動産投資信託として2007年8月にシンガポール証券取引所のメインボードに上場した。
2009年12月末には時価総額7億シンガポールドル(455億円)。ポートフォリオはインドの
強みでもあるIT産業の比率が高く、4つのビジネスパークのほとんどがIT関連となっている。

 4つのビジネスパークはHyderabad、Bangalore、Chennaiのインド中南部に位置している。
International Tech Park Bangalore(ITPB、180万平方フィート)、International Tech Park
Chennai(ITPC、 125万平方フィート)、The V(128万平方フィート)、Cyber Pearl(43万
平方フィート)の4つのビジネスパークをあわせると477万平方フィートの広さがある。テ
ナント構成を見るとIT関連63%、研究開発5%、金融1%、その他IT関連で27%と圧倒的にIT関連が
多い。IT関連という形で見れば9割以上となり、単一業態のエクスポージャーが高いという
点に留意する必要がある。但し、すでに承知しているようにインドはグローバルなITアウトソー
シングの受け皿となっていて、IT一辺倒といっても影響するのはインド経済でなくグローバルな
経済動向がリスク要因となる。



 先ほどの4つのビジネスパークだが、Hyderabadに2箇所存在しているので、3地域となるが、
その3地域のエクスポージャーはほぼ均等になっている。地域的な偏在があるというわけではな
い。繰り返しになるがITアウトソーシングの受け皿であるインドではIT関連とはインドの内需と
あまり関係がないと考えて差し支えないだろう。それは顧客のブレークダウンを見ればあきら
かである。インド国内企業と多国籍企業(MNC)の比率で見てみるとMNCの比率が9割を占めており
インド企業の比率は1割にも満たない。国籍別で見ると米国が7割になっているが、米国経済の
リスクが高いということには必ずしもならない。なぜならば、多国籍企業は米国に多いのが第一
の理由であり、それらの多国籍企業でグローバルに展開していることからやはりグローバル経済
の動向が最もリスク要因として挙げられるだろう。




 なお、上位10社の売上げに占める比率は30%となっており、Affiliated Computer Services、
Applied Materials、Cognizant Technolgy Solution、GM、Invensys Development Cneter、Merrill
Lynch、Pfizer Pharmaceuticlaなどの多国籍企業郡が顧客の上位を占めている。

 (バランスシート)

 バランスシートは比較的健全だ。デットプロファイルを見ても現在のギアリングが19%と低い
水準に留まっており、借入れ余力はまだあるように見える。またスポンサーがシンガポールで最大
規模のREITの運用しているアセンダスグループであることから信用上のリスクはそれほどないと
考えてもよいだろう。但し、留意すべき点は最大60%までのギアリングがかけられることになっ
てはいるが、それは一定の格付け要件を維持するという条項があり、これを満たしているのかどう
かは確認できなかった。それでも35%までの引き上げは可能であることから140百万Sドルの
借入れ余力は現状であることになる。デットファイナンスに関してはすでに2015年12月満期
で25億インドルピー(74百万Sドル)での借入れに成功しており、5.255%クーポンまた
は330bpスプレッドでの60百万Sドルの3年無担保社債の発行を実施しており、今後の拡張
資金はすでに確保したことになる。

 一方でマチュリティ・プロファイルを見るとデットデュレーションが短いような気もするが、
インドのような新興国は常にインフレ気味で金利水準が高いことから長期での調達では金融費用が
高くなるデメリットがあることは確かであろう。またローンもシンガポールドル建ての比率が高い。
従って、為替変動による損益が発生することも留意する必要がある。因みに調達コストは加重平均
ベース、税効果を含むネットベースで6.2%となっている。



(売上・利益成長・成長戦略)

 過去5四半期の売上げ水準の推移を見ると意外に停滞している。停滞している理由は新規物件の
追加が特段なかったのがその理由だと思われるが、NPIベースでは伸びている。これはコスト削減
などの効果があったことが大きいが、この状況がいつまでも続くわけではない。やはり利益成長の
ためには新規物件の追加取得が必要だ。3Qの状況を見てみると売上げは4%の増加に対してNPI
は13%の増加になった。増加の最も大きな理由としては運営費用・メンテナンス・警備コスト及び
その他運営費用の減少によってコストが10%の減少となったことだ。




 今後の成長に関しては2010年から11年にかけて追加取得が予定されている。現在の保有物件
面積の35%にあたる170万平方フィートに拡大する予定である。その内Zenith(74万平方フィート
ITPC)、Park Square(45万平方フィート、ITPB)の2件合計119万平方フィート分に関しては2010
年半ばにも完成する見込みであり、今年後半から来年にかけての売上げ成長が期待される。



 一方で懸念材料も少なからずある。まずは今年から来年にかけて完成する170万平方フィートを
新規顧客で埋めることができるのかという点だ。インドは成長しているといっても、IT特化でグローバル
な経済環境の影響を受ける業態であることから、景気の腰折れがあったときにどうなるのかという点
は常に留意する必要があるだろう。さらに2011年には現在リースしている契約の35%が満了と
なる。契約更新が多いことから新規物件との競合も考えられるし、レントへの影響など若干不安な点が
あるとみてよいだろう。



 リスク要因は確かにいろいろあるとはいえ、インド不動産市場へのエクスポージャーを持つことがで
きるという点や、スポンサーの安心感、成長ポテンシャルなどを考えると面白い投資対象であると言え
るだろう。インドの強みといえばやはりITでIT技術者の給与水準が日本の5分の1、韓国の3分の1、
中国の2分の1とスキルのある技術者を最も安く雇用することができる国である。加えてインドでは
英語が通じることなど中国の技術者と比較しても優位性が高い。中長期の投資という観点ではポート
フォリオには入れておきたい銘柄だ。

web拍手
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« MMDを触ってみる(12) | トップ | 第一生命株式会社 IPO (1) »
最新の画像もっと見る

海外REIT研究」カテゴリの最新記事