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海外のREIT投資(13) - Cambridge Industrial(シンガポール)

2010年05月21日 | 海外REIT研究



 ケンブリッジ・インダストリアル・トラスト(CIT)はシンガポール上場の産業分野特化ファンドで、
物流・倉庫、製造業施設等に投資している。2006年7月にシンガポール市場に上場し、43
拠点、面積で65万6千平方m、時価で9億66百万ドルの資産を有している。施設は全てシンガ
ポールの産業ゾーンに位置している。シンガポール市場に上場しているREITは海外の資産特化
や国際分散投資をしているREITが結構あるが、このREITはシンガポール100%のREITだ。





 上記の地図を見ても分かるが、シンガポールは小さい国なのでほぼ全国に施設が点在している。
産業用がメインということで日本の産業ファンドのようなイメージを持つかもしれないが、実際の当
法人の顧客ベースは物流・軽工業などが主体で、例えば物流・倉庫部門では3PL、サプライチェーン
マネジメント。軽工業ではエレクトロニクス・コンピュータ周辺機器、医療用機器、情報機器などの
IT関連組立てがメインである。産業・倉庫ではケーブル、アルミ製品、配線基盤、金属のほか、その
他産業用途では印刷、精密エンジニアリング、金属加工、プラスチック成型などに関連する倉庫施設
など様々な顧客が対象になっている。アジアのハブとしてのシンガポールの特徴がよく出ている。
大分類で見てみると製造業36%、建設・エンジニアリング36%、物流・倉庫が34%という比率になって
いる。




とりあえず、下に当法人のポートフォリオの写真を掲載しておく。43拠点あるので全ては載せ
られないが、一部を掲載。まあ、写真を見たからといって何かが分かるわけでもないのだけれど
もイメージないよりはましなので載せておく。でもやはり物流施設とかビルの写真では何もわか
らないのは確か。




 とりあえず中身を見てみよう。その前に株価等について書いておくと現在株価は51セント、時価総額
は4億43百万Sドル(287億円)、1株当りの純資産は59セントだから株価純資産倍率は0.86倍。
配当利回りは10.4%(実績ベース)となっている。時価総額はそれほど大きくないものの流動性に関して
は個人投資家には十分。出来高100万株を切る日もあるが、だいたい100万株以上の出来高はあり、1000万
株近くできる日もある。

 当法人の主張する強みは以下の点に集約されよう。(1)ポートフォリオの44%のテナントはシンガポール
ニューヨーク、香港上場企業。(2)顧客上位10位のテナントからの収入がポートフォリオ収入の6割を超える
(3)7年-15年の長期契約では固定のエスカレーション条項を入れており、レント収入の安定性と成長性
を担保。上位10社はしたのグラフの通りだが、最も売上げの多いCWTはシンガポール上場大手の企業、
2番目のYCHもシンガポールの物流企業だ。



 業績の方はというと実は停滞している。下のグラフに不動産収益とNPIの両方を載せているが、よく言えば
安定している。悪く言えば停滞。特に2008年1Qから停滞しているのがわかるだろう。これはやはり、
リーマンショックによる金融機関の貸し渋りの影響を受けているのがひとつ。景気の悪化によるところもある
と考えられるが、現時点では財務のリストラを優先しているのが影響していると考えたほうが良いだろう。


 バランスシートの方だが、LTVが44.4%。ギアリングが42.6%。高いとは言い切れないが、低い
ともいえずバランスシートに関しては可もなく不可もなくといったところだ。有利子負債のコストは5.97%と
まあ.....これも普通。デッド・マチュリティプロファイルで留意する必要があるのは2012年2月償還の
390百万Sドルのシンジケートローンの存在であるが、金融危機でない限りそれほど心配する必要はないと
思われるが市場環境がどうなるかは予測できないので抑えておく必要はあるだろう。



もうひとつ投資家にとって注目すべきなのは現在のLTVの水準ではなく、当法人が今後の適切なギアリング
レシオを30-35%と目標としていることで、そのためには資産売却、エクイティなどのイベントリスクが
存在することに留意する必要がある。法人側はノン・コアアセットの売却など考えているらしい。さらに今年
度に入り当法人は初めてDRPを実行した。DRPとはDividend Reinvestment Planの略で配当を
受け取った投資家に投資口再投資のオプションを付与することである。配当の権利を獲得した投資主
は現金で配当を受け取るか株式で受けるかを選べる。再投資を選択した投資家は2%ディスカウント
で株式を受け取れる。投資家に取って配当を複利で増やすことができ、さらには市場価格よりも割安
に手にできる。

 キャッシュの方がいいんじゃないかと思われるかもしれないが、投資先に魅力があって保有する株式
価値を増加させたい場合(株価変動はこの場合考えない)、DRPは魅力的である。例えば、2人の投資家
がおり、1人がキャッシュをもう一人がDRPを選択したとしよう。キャッシュを選択した投資家は受け
取ってそれで終わり。一方、DRPを選択した投資家はディスカウント分だけ価値を増やせる(株価が変動
しないという条件はあるが)。さらに次の配当では再投資した分の配当の増加があるだけでなく、
DRPによって株式の希釈化の影響を受けない。キャッシュを受け取った人は株式が増加した分、持分
が減少していることになる。即ちDRPは複利で配当を増やすことができる。

 当法人はDRPでキャッシュの社外流出を抑えギアリングを下げる手段として位置づけているが、実際に
DRPを選択したのは投資主の10%程度。配当利回り10%でtek up ratioが10%なら1%程度になる。
つまりそれほど効果はなかったというわけだ。やはり、ギアリング低下の主力は資産売却で1Qに
Toh Guan Eastを売却したことで21百万Sドルを手に入れた。



 直近の業績も実はそれほど芳しくない。前四半期比で減少しているが、前年比ではプラスを記録しており、
正直、ぱっとしない。取りあえずの目標が財務リストラなので拡張計画もなくむしろDRPと資産売却に期待
といわれてもそれほど興奮する話でもない。良い話がないわけでもない。当法人の稼働率は99.9%を維持し
ており、きわめて高稼働率を維持している。これはシンガポールの市場平均と比較して8%以上高い。また
2010年1Qに契約期限がきたテナントは全て契約を更新した。



 Lease Expiry profileを見ると2010年は1%、来年で3.4%、再来年で2.5%とほとんど契約更新がない。
したがって再交渉時の値下げ圧力というものを今後3年間は受けないことを意味しており、キャッシュフロー
の安定性に寄与することだろう。



投資先としての判断だが、正直言ってどっちでもいいやという感じ。悪くはないんだろうけど。なんというか、
投資妙味という点であまり訴求力がないのが残念。因みに持ってはいるんだけれど....

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