韓国のサムスン電子は5日、米アップルのスマートフォンの新機種「iPhone4S」の販売中止を求める仮処分をフランスとイタリアの裁判所で申請すると発表した。
アップルの訴訟攻勢が激しいため、半導体の大口顧客としての配慮よりスマートフォン事業の保護を優先。反撃する姿勢を明確にした。
●対抗意識むき出し
「無賃乗車をこれ以上見過ごさない」。5日夕に発表した資料で、サムスンはアップルに対抗する意向をむき出しにして見せた。
仮処分はオランダや日本でも申請したことがあるが、いずれも影響の大きくない既存機種。これから販売を重ねる新機種を対象にするのは、後に引けない泥沼の法廷闘争も辞さないとの態度の表明にほかならない。
パリとミラノの裁判所に申請する仮処分では、「W-CDMA」の特許をアップルが侵害したと主張。具体的にはデータの伝送エラーが発生する場合に復元する技術など計3件を挙げた。アップルが手薄の通信分野を取り上げて追い込もうとする意図は明らか。
サムスンによると、アップルとの訴訟は9月中旬時点で10カ国27件に拡大している。
サムスンにとりアップルはスマホで最大のライバルであると同時に半導体などの最大級の顧客。当初は一定の段階でクロスライセンス契約などで円滑に収束させるとみられていた。
しかし、アップルはサムスンが嫌がるツボに激しく攻め込んできた。
8月にはサムスンの物流拠点があるオランダで販売差し止めの仮処分が決定。豪州では9月、訴訟絡みでタブレット端末の発売が遅れるなどの実害も発生している。
打たれ放題となってきたサムスンには、「売られたケンカを買った」(幹部)との意識が強い。特許料稼ぎが目的のパテントトロールでなく、顧客と本気で戦うという産業の歴史上、例がない訴訟合戦は先行きが見えなくなっている。
【記事引用】 「日本経済新聞/2011年10月6日(木)/3面」