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カズTの城を行く

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『戦国に散る花びら』  第二話  敗走の中へ

2008-07-25 23:48:25 | Weblog
「本河田、中にいるのか?」
三津林は、洞穴に向かって呼びかけた。
「先生、来て下さい。・・・中は広いですよ。」
そう言われても、正直三津林は怖かった。
「危ないから、出て来なさい。」
「先生、怖いんですか?」
図星だった。しかしここは教師の面目もあり行くしかない。仕方なく屈んで穴の中に入って行った。
「おい、何も見えないぞ。」
中に入ると真っ暗で何も見えなかった。
「目が慣れれば、だんだん見えてきますよ。」
あいつは、怖くないのか?と三津林は思った。
「先生、ここ。」
愛美の手が三津林の手を握った。三津林は思わず強く握り返してしまった。
「危ないから出よう。」
「先生、奥の方に何か光るものが見えますよ。」
「出口じゃないか?ここはただの地中に出来た空洞だよ、きっと・・・。」
「じゃ、行ってみましょ。」
「いや、何があるか判らないから出よう。」
三十過ぎの男だが、怖いものは怖い。三津林は出たかった。
・・・とその時。
ドドドドドッと地鳴りと共に洞穴が揺れた。
「うわっ!」「きゃっ!」
二人は、肩を抱き合ってしゃがみこんだ。
「じ、地震?」
「だ、大丈夫だ、離れるな!」
「は、はい!」
強い揺れが続いた。
「きゃあっ!」「うわあっ!」
二人のいる地面が数十センチ程二人諸共陥没した。愛美は三津林にしがみつき、三津林も愛美を抱きかかえた。
「先生!」「大丈夫だ、きっと助かる!」
その時、横たわる二人の足元の地面が地鳴りと共に大きく割れ、その割れ目から目も開けられない程の光が飛び出して来た。
「きゃああっ!」
再び地面が崩れ、二人は光の中へ落ちて行ってしまった。



どれくらいの時間が経っただろうか?
「せ、先生・・・。」
気が付いた愛美は、暗闇の中を手で探った。すぐ横で三津林は倒れていた。
「先生大丈夫、先生!」
三津林が動いた。
「先生、生きてる?」
「あ、ああ生きてるよ、あ、痛っ!」
「出口あるかな?」
二人が周りを見渡すと、光が差し込む所があった。
「出口だ。さあ出よう。」
三津林は、愛美の腕を掴んで出口へと向かった。
二人は、狭くなっている洞穴の出口を屈んで出た。愛美そして三津林と。
「先生、何か違う。」
「何が?」
土を掃っていた三津林も辺りを見ると、洞穴に入る前の周りの状態と違っていた。木々も多く、茂みもかなり違う。
「違う出口だったのかな?」
ザザザザッ!と音がした。
「きゃっ!」
愛美が思わず叫んで三津林に抱きついた。二人の前に男が現れたのだ。しかも陣笠をかぶり、胴や籠手、脛当てをし、そして刀を持った男だった。
「お、お前達!」
男は、愛美と三津林を見て、目を丸くしていた。
「いかん、隠れろ、さあ!」
男は、二人を無理矢理出て来たばかりの洞穴に押し込んだ。そして辺りを見回して葉のたくさん付いた木の枝を折り、自分も洞穴に入ると穴を塞ぐように、木の枝を立てた。しばらくすると穴の近くを人が走った。
「待てえ!」
すぐにまた数人の男達が、追うように通り過ぎた。
「うわあ!」
ほんの少し先で、追われていた男が数人の男達に囲まれ、時代劇のように刀で切られ、そして突かれて倒れた。男達はそのまま先を進んで行った。林の中が静まり返った。



「もう大丈夫だ。」
男が洞穴を出た。愛美と三津林も後に続いて出た。
「あの、時代劇の撮影ですか?」
愛美が男に尋ねた。
「あはははっ!」
男が笑った。そして陣笠を取りながらしゃがみ込んだ。
「そう思っても仕方ないな。・・違うよお嬢さん。本物の戦だよ。」
「じゃ、ここは戦国時代?」
「嘘、私達は戦国時代に来ちゃったってこと?」
「そういうこと。」
「でもあなたは?」
男は、ニヤッとして言った。
「君達と同じようにタイムスリップして来た人間さ。・・もう三年になると思うけどね。」
ザザッと物音がした。
「やばい、また追っ手だ!逃げるぞ。」
男は、二人の背中を押して走り出した。三津林は走りながら男に聞いた。
「追って来るのは?」
「武田勢だ!双俣城が落ちて、逃げて来たんだ。」
「きゃっ!」
愛美が転んでしまった。
「大丈夫か?本河田!」
そこへ追っ手が二人やって来た。
「クソッ!足軽か。」
追っ手の一人が言った。
「足軽で悪かったな!お前達も同じだろコノヤロー!」
男が刀を振って二人の追っ手に立ち向かった。
「今のうちに逃げろ!」
三津林は、愛美を起こすと手を握って林の中を走った。
信じられない思いを胸にひたすら走った・・・。

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