スタジオジブリ出版部のサイトで、小冊子「熱風」というのをただでダウンロードできるというのがあったので
試しに落としてみました。
http://www.ghibli.jp/shuppan/np/
10月10日から11月9日までの1か月限定で配信されるようです。連載の講談の徳川時代の忍者たちなどの話も面白かったのですが、一番考えさせられたのが特集の本格化する電子出版、という部分でした。
色々な分野の方々が文章を書かれていたのですが、感銘を受けた部分を下記引用してみました。
(””は引用部分です。)
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●ゲームクリエーター、立命館大学教授 米光一成さん→”著者・読者・編集者がダイナミックに変化”
”インタラクションのスピードが速くなる。書いたものは即日、読まれて、意見が交わされる。それを伝書に組み込んで、また流すことができる。プロセスの楽しさ、コミュニケーションの楽しさ、作り上げていく楽しさだ。”
”紙の本と電子書籍を対立させて考えたり、紙の本をそのまま移し替えるという発想でやっている限り、イノベーションのジレンマに陥ってしまう。”
●講談社取締役 第七編集局・デジタルビジネス局担当 古川公平さん→”電子化した雑誌をどうするか?”
”1 雑誌自体を販売する
2 月額料金で売る
3 無料公開し、広告を入れたり、eコマースで収益をあげる
4 雑誌宣伝として、無料で公開する”
”価格については賛否両論がありましたが、紙と同じ値段で販売しました。紙の本で重版がかかり採算がとれていれば、データ制作費をかけても、電子版は紙の低下の8掛けといった値段設定が可能になります。”
●ライター、書評家 豊崎由美さん→”電子出版と紙の出版が並存して欲しい”
”実用書、辞書、辞典に関しては、どんどん電子書籍化してほしい。いや、大部の百科事典に関しては電子書籍として買うことすらしたくなくて、一定の使用料を支払うことで版元のライブラリーにアクセスして利用するというシステムにしてほしいくらい。”
”読書端末ごとに読める作品、読めない作品があっては、読者はついてきません。すべての電子出版物は、あらゆる読書端末、もしくはパソコン、スマホで読めるようにしてほしい。もし、ゲーム業界のような自体に陥るのなら、せめて端末機自体をうんと安くするべき。そうでなければ、誰が買うかよ、電子の本を。”
●弁護士 村瀬拓男さん→”電子出版が本格化するために乗り越えなければいけないもの”
”辞書・事典は本質的にはデータベースであり、ランダムにアクセスして利用されるものである。デジタル化され検索できるようになったほうが遥かに使い勝手がいいことは明らかである。地図もGPSによる位置情報を把握できるほうが便利である。道路地図はとくにそうだが、自分がいない場所の地図を利用する必要性はほとんどない。ガイドブックの類もそうであろう。学術の分野もスピードや検索性が重要であり、デジタル化してネットワークを通して提供するメリットは明らかに存在する。一方、小説などの文芸書やコミックス、一般的な内容のビジネス書や実用書などは、頭から順を追って読むことを前提に書かれている。その点で辞書などのような明らかなデジタル化のメリットは存在しない。もちろんデジタルデータ化されていれば、販売店での在庫切れなども心配することなくいつでも入手可能となるし、読書家にとってもっとも頭の痛い問題は増え続ける本をどうするか、ということであって、デジタルデータ化はその有力な解決策である。”
(文芸書、一般書などの)”この分野での電子出版を考えるのであれば、「置き換え」が及ぼす影響を検討していかなければならない。”
”「電子出版の本格化」とは、言い換えれば「置き換え」が本格的に進行しているのかどうか、ということに他ならない。そして、本格化がなかなか進まないというイメージがあるのだとすれば、それは「置き換え」によるデメリットがなかなか克服できていない、または「置き換え」がスムーズに可能となる基盤が整っていないということになる。”
(問題を解決するには)
”まず、一つは出版社の仕事の再構成が必要であろう。”
”次に必要なのは、技術的な基盤整備である。”
”もう一つ必要なのは、法的な基盤整備である。”
●ジャーナリスト 津田大介さん
編集者 杉原光徳さん
ドワンゴ 川上量生さん
夜間飛行 井之上達矢さん
→”今電子出版に必要なものはなにか”
川上量生さん→
”日本においてメルマガという部門が、これはすごく小さなマーケットなのだけどなぜか盛り上がりを見せている。で、「これを電子出版時代にどう取り上げればいいのか」。というか、僕は取り上げないといけないと思っているんです。”
津田大介さん→
”僕が把握している一番最初の流れは、堀江さんがジャーナリストの日垣隆さんと有料メルマガの話をしたときに「有料メルマガはおいしいよ」と言われたことがきっかけで、そこから着想を得たと。月に840円という価格も、日垣さんが1万円の有料メルマガ、ある種のファンクラブモデルの会員制のやつをやっていて「年間1万円というのがいいんだ」というので、「きみも年間1万円にしなさい」みたいな話になったとか。”
(メルマガで質問に答えることについて)”堀江さんはマイクロコンサル、僕は「ペットボトル」と。1週間に1回ペットボトルを買える計算じゃん」というのを630円にすると人に言いやすいなと思って、それで630円にしました。”
杉原光徳さん→
(ホリエモンメルマガを)”最初に始めたのは2010年2月ぐらいだったと思うんですが、始めたら大体一ヶ月で読者が1000まで行ったのかな。それで、堀江さんがなんとかしてコンテンツを増やさなきゃいけないっている話を始めて。そこで。いまキラーコンテンツになっているQ&Aを堀江さんが自分で考え出して「これやったら杉ちゃん、絶対人来るよ」「俺が答えるんだからつ行ったーと一緒だよ」という話になったんです。「そうなんですか、じゃ、やりましょうか」と始めたら、本当に大爆発して。で、月間1000人ぐらいのペースでバンバンバンバンと人が増えていったんです。”
井之上達矢さん→
(出版社として電子書籍とどう向き合うべきかについて)”僕がもっとも重要だと思ったのは、プラットフォームの競争に巻き込まれてはいけない、ということでした。アップル、アマゾン、ソニーのどこが勝つのか、予測して動くこと事態がナンセンスだと思ったんです。”
”そこで堀江さんのメルマガを見たら、「ああ、これは電子書籍だ」とすぐに思ったんです。テキストで配信できますから、フォーマットに縛られることもない。アップルに30%を取られることもないと。”
(津田さん”定期購読の電子書籍をやるという意味ですね。”)
”それも大きい理由でした。紙の書籍に比べて、一般的にはまだまだ「購入」までの敷居が高いと思いましたから、興味を持ってくれている人と大きな契約をする必要がある。そうであるならば、やはり一冊一冊売るよりも、定期購読のほうがいいと考えました。”
”もう一つメルマガがいいなと思ったのは、PCでも、ケータイでも、タブレットでも何でも読めるところです。”
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・・・等々。
色々な立場から電子書籍が語られていて凄く面白かったのですが、非常に膨大な量でした。興味がある方は、是非ジブリの「熱風」、読んでみるといいと思います。
内容では、最後の4人の対談が、読んでいて一番新しい事をしているように思いました。他の方々は、紙の本でないとまだ売れていないという事実があるので、紙と電子書籍の並立を基準に考えておられるようです。
自分は個人の消費者として見て、メルマガのようなテキストで過去記事の検索や(ブログ等で引用するときに)コピーしやすいのは歓迎だと思いました。また、暫くアップルストアで買い物をしていて、アプリの値段が0円、85円、115円、170円などおおよその値段に収斂しつつあり、そろそろどれ位の価値にはいくら、という新たな基準が自分の中に出来つつあります。今のテキストをただPDF化した程度のアプリには、何もない状態でお試しで買うとしたら、正直170円位しか出したくないような・・・。(すでに価値があったり、話題だったり、CMされていた場合は別ですが) そう考えると、津田さんの話すペットボトル1本分というのは、非常に近似値でリアルな値段に見えてきます。
非常に考えさせられる内容で、こんな雑誌をフリーで読ませてくれるジブリには感謝です。