灯台下暗し -カッターナイフで恐竜を腑分けした記録-

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統合失調症の素因は未開社会では生存に有利に働いたかもしれない

2017-06-25 14:32:12 | 日記

僕は心理学・精神医学を学んだことはなく、むしろ精神科の患者で他人より病んだ精神の持ち主なのですが…… 自分が楽になりたくて精神医学の一般向け解説書を読むと、いろいろ思うことも出てくるわけです。それと、自分の経験を話したい気持ちがありまして。

統合失調症は素因、分かりやすく言えば遺伝が大きく関わっていることが分かっています。すると多くの人が考えるはずです。どうしてそんな遺伝子が残っているの? と。

中井久夫「最終講義」は統合失調症が精神分裂病と呼ばれていた当時の著作ですが、そこにも「もし、分裂病が太古からあったものとすると、どうして今日まで残っているのか、分裂病になりやすい人は淘汰されて残らないはずではないか、という疑問があるでしょう。」(p.90)とあります。そこには中井氏なりの仮説が述べられています。

そこに、現代の精神医学の潮流から全く外れており顧みられることのない一文があります。「私はひょっとすると、分裂病は特に幼児期あるいは青年期のマインド・コントロールに対する防衛という面があるのではないかと思っています。」(p.93)

この一文が無視されるのは、一つには、患者の家族に汚名を着せる恐れがあるためです。現代の精神医学では、まず患者に病院に来てもらわなければ治療できず、そのためには家族を味方につけなければならないので、家族を責めることを徹底的に避けます。発育環境によって生じる「愛着障害」を、あえて、先天的な(つまり親に責任がない)「発達障害」と診断して患者家族を引き留める、という事態もあるくらいですし。それと「マインド・コントロール」の定義も曖昧です。研究者によれば「このような破壊的カルトのマインド・コントロールを一言でいえば、それは、ボトム・アップとトップ・ダウンの二種類の情報を統制することによって、個人の精神過程および行動の完全なコントロールをもくろむものといえる。」(西田公昭「マインド・コントロールとは何か」p.60)という定義もありますが、それと同じなのかも分かりません。問題だらけの一文です。

でも、これを念頭に他の解説書を読むと、繋がっているのではないかと思うことがあります。

岡田尊司「統合失調症」では、未開社会での統合失調症患者への治療が解説されています。そこでは、土着のシャーマンが、患者の身内が正しくない行動をしたため超自然的な力が封印を解かれたと説明し、患者の身内すべての者が治療に関わるように説得します。(p.205)

そんなので統合失調症が治るわけがない、と笑うかもしれませんが、驚くなかれ。そのような「治療」を受けた患者の回復は現代の治療より早いことが確認されています。原因がでたらめでも、結果オーライ。

現代でも、患者を無下に否定しない対話を重ねることで薬物治療の必要性を減らす「オープン・ダイアローグ」という治療法があり、薬物なしで統合失調症の初期の患者を回復させる治療法が患者を「教育」していないというのは面白いところです。「精神病患者は知的に劣った人間である。知的に劣った人間には教育が有効である。よって精神病患者には教育が有効である」という三段論法は近代以降のものです。そこに落とし穴はないのかな、と言い出すと話を広げすぎですね。ごめんなさい。

さて、ここで中井氏の著作に戻ると、このような社会なら統合失調症の遺伝子を持つことは生存に有利ではないかと思えるのです。

多くの人がマインド・コントロール的扱いを受けた際に精神を操られていくのに、そこで統合失調症を「発症できる」人はシャーマンによるドクターストップがかかり周囲の振る舞いが矯正されて本人は短期で正常に復帰できるとしたら。

この状況なら統合失調症の素因が明確に社会的利益をもたらします。

しかし現代は「精神病患者には教育が有効である」という社会です。統合失調症に陥れば相手が「いかようにでも教育してよい」権利を得て、患者は生殺与奪を握られます。そこで、社会的に有利だった特質が不利な特質に変わったわけですね。

これは一般向け解説書を二冊つなげただけで、証拠は何もありません。でも、与太話としては十分に面白いと自負しています。


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