片山修のずだぶくろ Ⅰ

経済ジャーナリスト 片山修のオフィシャルブログ。2009年5月~2014年6月

日本の技術を狙う産業スパイ、対策は十分か

2012-04-12 20:30:02 | 社会・経済

「スパイ」と聞くと、何を連想するでしょうか。
冷戦時代ならいざ知らず、現代では「スパイ」は
映画の世界の話と思っている若者も、多いのではないでしょうか。

さて、4月12日のフジサンケイビジネスiに、
「米大学狙うスパイ留学」と題する、
すこぶる興味深い記事が載っていました。
米国の大学を標的としたスパイ活動が、
冷戦時代さながらに
活発化しているという内容です。

記事によれば、米国防省の報告書で、
学術論文の閲覧や、
共同研究の要請など、「学術的な依頼」
を通じて
機密情報を得ようとする、中国などの東南アジア諸国の試みは、
2010
年に、
前年の8倍に増加したといいます。
中東諸国からの、同様の試みも倍増しています。
分野は、情報システムや、レーザー、航空、水中ロボットです。
映画のなかどころか、
大学生になりすました産業スパイが、
米国の大学には、
ウヨウヨしているというのです。

米国は、よく知られるように、
大学が開放的で、留学生が多い。
同記事には、米国に理工系大学院生のうち、
短期ビザで留学している外国人の比率は、
ミシガン州立代で46%、
マサチューセッツ工科大学で41%
という数字が載っていました。
半数近くが留学生というわけです。
この体制が、
スパイに対する脆弱性につながっているのです。

日本も、人ごとではありません。米国の大学と同様に、
日本の大学が標的となっている可能性は、十分にあるでしょう。
日本は、多くの世界最先端技術をもっているにもかかわらず、
米国などと比較して、
情報漏洩に対する危機意識が低い。
じつは、日本は、スパイが暗躍するのに格好の国だともいわれています。
スパイ対策など、ほとんど耳にすることはありません。

今年3月、
工作機械大手のヤマザキマザックで、
中国籍の同社社員が逮捕されました。
容疑は、不正競争防止法違反です。
同社員は、退職を申し出た後、サーバーコンピューターにアクセスし、
2軒の秘密の図面情報を、私物のハードディスクに複製しました。
情報へのアクセス権はなく、
不正な手法で情報取得していたといいます。
不審に思った
同僚が通報して発覚しました。
同社に限らず、日本企業は、
せっかく最先端技術をもっているのだから、
機密情報の漏洩防止に、もっと真剣に取り組んでいいはずです。


家電メーカーは自動車メーカーを見習うべし!

2012-04-11 20:52:35 | 社会・経済

シャープと、台湾・鴻海精密工業(フォクスコン)が提携します。
鴻海は、アップルのiPhoneiPadの量産などで知られる、
EMS(電子機器受託製造サービス)の世界最大手です。
鴻海は、いわば下請け企業でありながら、
シャープに約1300億円を出資し、“救済”したわけです。

市場は、この提携を評価していますが、
シャープの将来を考えると、出口が見当たりません。
98年、当時社長だった町田勝彦氏は、
液晶がまだ注目されていなかった時代に、
「すべてのテレビを液晶に置き換える」と宣言しました。
以来、シャープは、
液晶の技術で地位を築き、大躍進を果たしました。
いわば、
液晶で成功した企業なのです。

それが、いま、同じ
液晶の不振で苦境に立たされています。
もう一つの主力である、
太陽光発電パネルも、
中国企業の躍進で、
苦戦が続いています。
鴻海と提携したとはいえ、では、この先、
生き残りの道をどこに見出すのか、トンネルの出口が見えないのです。

シャープだけではありません。
ソニーは、
年内にも1万人の従業員を削減すると発表しました。
「いまごろ、リストラか」という印象をぬぐえません。
同社は、12年3月期まで、
4基連続の最終赤字が続いています。
パナソニックも然りです。三洋電機とパナソニック電工を子会社化し、
ソリューション・ビジネスに舵を切ったのはいいですが、
ソリューション・ビジネスが稼ぎ頭に育つのはいつのことなのか。
両社とも、やはり突破口はまだ見えていないのが現状です。

比較的、いま、安心して見ていられるのは、
自動車業界でしょう。
昨年は、
3.11の東日本大震災に加え、タイの大洪水
日本の自動車メーカーはどうなるか……と危惧されました。
ところが、
トヨタ、ホンダ、日産とも、いまや回復軌道に乗り、
世界市場で競争力を維持しています。
以前、ソニー、パナソニック、シャープの社長交代により、
50代社長のトリオが誕生すると、このブログで書きました。
じつは、
トヨタ社長の豊田章男氏、ホンダ社長の伊東孝紳氏、
日産CEOのカルロス・ゴーン氏
は、いずれも50代です。
もちろん、それだけの理由ではありませんが、
9・15のリーマン・ショック、3・11の東日本大震災という、
2つの大きな転換期を経た、いまのグローバル市場に、
自動車業界は、比較的、対応できていると感じます。

いま、
シャープ、ソニー、パナソニックの3社は、
本当に、
危機的な状況に置かれています。
社員一人ひとりが、
危機感をもてるかどうか。
そして、
リーダーが突破口をつくれるかが、問われています。

かつて、シャープが液晶の技術で躍進したように、
ビジネスの世界は、きっかけさえあれば、
突然、
大きな突破口が現れることがあります。
そのチャンスを、掴みとることができるかどうか。
とりあえず、
今年度が3社にとって、正念場であることは確かです。
新しい家電メーカートップには、企業の進む
方向性を、
しっかりと覚悟をもって示す
とともに、
日本企業の最大の弱点ともいうべき
スピード経営が求められます。


「レバ刺し」のリスクマネジメントは個人がすべし!

2012-04-10 20:40:58 | 社会・経済

もし、この世の中からタマゴかけご飯が禁止されたら、
どうなるでしょうか。
タマゴかけファンは、
暴動を起こす
のではないでしょうか。
食い物の恨みは恐ろしいですからね。

「レバ刺し」は、近年こそあまり食べなくなりましたが、
一時期は、よく焼き肉屋で注文して食べていました。
クセがありますが、
独特の食感や味わいがあり、
意外にファンの多い食べ物です。
「レバ刺し」を看板商品とするお店も少なくありません。
しかし、
日本では食べられなくなりそうです。

厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の部会が、
生レバーの販売を禁止する意見をまとめました。
近く、食品衛生法に基づく規格基準をつくるとか。
なんとも
情けない話です。
これまで、
長年、平気で食べていたものを、いきなり禁止とは、
なんだか
国民を幼稚園児扱いしているような気がします。

もとはといえば、昨年4月、焼き肉チェーン店で、
「ユッケ」が原因の集団食中毒で5人が死亡した事件がきっかけです。
以後、厚労省の
自粛要請や、規制強化を受けて、
牛生肉は、ほとんどの店で食べられなくなっていました。

さらに、昨年12月、厚労省は、
150頭の牛の調査を行い、
2頭の牛の肝臓内部から「O-157」を発見
しました。
ここから一気に
「レバ刺し」の提供が「禁止」に動き出したのです。
むろん、安全に関する事柄については、しっかりと規制する必要があります。
しかし、少し危ないからといって、
「ユッケ」や「レバ刺し」まで
規制して「禁止」
し、国民の安心を図るというのは、
いささか
過保護ですし、短絡的すぎますわね。

4日の日本経済新聞の社説「『レバ刺し禁止令』の愚かしさ」
にも指摘されていましたが、
食べ物からリスクを取り除くのは難しい。
生の食肉だけでなく、生卵や、生ガキ、魚介類など、
食中毒の原因となりうる食材
は、ほかにもたくさんあります。
それらをすべて規制し始めたら、
食文化が衰退してしまうでしょう。

冷蔵庫に保存していた卵を、
生で食べるのか、焼いて食べるのか。
私は、
タマゴかけご飯が大好物です。
将来、
生だというので、禁止されるのでしょうか。心配ですな。
いまのところ、タマゴをどのように食べるか、
最終的な判断を下す権利は、個人にあります。
「レバ刺し」だって、最終的な判断は個人に託されていいでしょう。
それくらいの
リスクマネジメントは、
国民が自分の責任で行っていい
はずです。
お節介はほどほどにしてほしいですな。


東京スカイツリーの「中景」の魅力

2012-04-06 19:42:13 | 社会・経済

連載は終了しましたが、またまた東京スカイツリーの話です。

「東京タワー」や、パリの「エッフェル塔」といわれたとき、
思い浮かぶのは、タワーのどんな姿でしょうか。
足元から見上げた「近景」か、
東京の街やパリの
街のなかに立つ「遠景」の、どちらかでしょう。

スカイツリーには、これに加えて
「中景」というコンセプトがあります。
例えば、スカイツリーが伸びるにしたがい、
その姿は、連日のように新聞の紙面を飾りました。
その写真の多くは、
路地の間から、ふいに、ニョキリと立ち上がった
スカイツリーの姿を写したものでした。これが、
「中景」です。

スカイツリーは、隅田川、荒川、JR総武本線に囲まれた、
大きな3角形の中心付近に立ちます。
その三角形の地域に、
ビルと家並みがびっしりとひしめくのが
墨田区の下町です。下町には、いまも
昔ながらの路地が数多く存在しています。
これらの路地から眺めるスカイツリーは、塔体の「そり」「むくり」から、
場所によって、さまざまな表情を見せます。
また、
スマートなので、細い路地から見ても、川に映して見ても、
足元まできれいに見えることが多いのも、「中景」に適しています。
「中景」のスカイツリーは、
下町の風景に溶け込み、サマになっています。
東京タワーやエッフェル塔では、こうはいかないと思うのです。

先日書いた通り、施主の東武鉄道は、
地域とのつながりを大切にしてきた企業です。
スカイツリーで目指したのは、
下町に根付くコミュニティと結びつき、
絆をより深めるきっかけ
となるようなタワーであり、
タワーのある町づくりです。
例えば、地域住民の間で、「うちの前からは、夕方5時ごろが見ごろで、
こんなふうに見える」と、スカイツリーをめぐって会話の生まれる
親しみに満ちたタワーを理想に掲げました。
地域住民が暮らしのなかで見るスカイツリーは、近くも遠くもなく、
まさしく
「中景」です。

東武鉄道は、タワーが、墨田区をはじめ、東武の沿線活性化につながるよう、
地域に
ファミリー向けマンションや、保育所を設置するなど、
沿線の定住人口拡大にも取り組んでいます。

東日本大震災をはじめ、
暗いニュースの多い日本で、
人々は自信をなくし、
下を向いて歩きがちです。
そんななかで、スカイツリーを訪れた人たちは、
みんな上を見上げています。
スカイツリーは、墨田区や東武沿線活性化にとどまらず、
日本全体の「元気印」となり、新たな日本の象徴
なるのではないか、いや、
なるに違いないと思います。