片山修のずだぶくろ Ⅰ

経済ジャーナリスト 片山修のオフィシャルブログ。2009年5月~2014年6月

自動運転技術で交通事故死者ゼロは実現するか

2014-05-30 17:21:58 | 自動車関連

米グーグルは、27日に、「自動運転車」の試作車を発表しました。
従来、自動運転車の開発には、トヨタ車を改造して使っていましたが、
今回は、自社設計したクルマです。

丸っこい、ユーモラスな外見の写真を目にした人も多いと思います。
報道によれば、ハンドルも、アクセルも、ブレーキもないそうですね。
自動運転の開始ボタンと終了ボタンしかない。

グーグルは、今後2年間で100台を生産し、走行試験を行うといいます。
順調なら、2年以内にカリフォルニア州で小規模な試験運用を始め、
2020年ごろの実用化を目指す方針です。

自動運転技術の開発の目的は、温室効果ガスを削減したり、
渋滞をなくして効率的な交通を実現する、
高齢者の外出手段としての高齢化対策など、さまざまです。
しかし、もっとも大きな目的は、交通事故を減らすことでしょう。

交通事故は、90%以上が人間のミスによる事故といわれます。
優れた自動運転技術が完成すれば、これをゼロにできるかもしれない。
ちなみに、グーグルの自動運転車は、
これまでに、112万キロ以上を走っていますが、無事故です。

思えば、かつての自動車業界では、「“安全”は食えない」といわれました。
消費者がクルマに求める“安全”のレベルは、それほど高くなかったのです。
クルマを手に入れることが重要で、それがいかに安全かは、二の次でした。

しかし、例えば日本では、1970年に、
交通事故死者数が過去最悪の1万6765人となりました。
自動車メーカーは、“走る凶器”をつくっているわけにはいかないと、
対策に乗り出しました。
自動車メーカーが、交通安全教室などを主催することも増えました。
同時に、消費者の“安全”へのニーズも高まり、
いまや、クルマは“安全”性能をウリにする時代です。
日本の交通事故死者数は、09年以降、5000人を切っています。

米国でも、交通事故は課題の一つです。
90年代には5万人以上が交通事故で亡くなっていました。
近年は減少傾向にありますが、いまだに年間3万人を超えます。
人口は日本の3倍に満たないのに、死者数は6倍以上です。
おそらく、米国は、日本以上に、
交通事故対策に切迫感をもっているはずです。

自動運転車が普及するには、まだまだ課題がたくさんあります。
しかし、確実に開発は進み、技術は進歩しています。
交通事故死者がゼロになる日は、夢物語ではないと思いますね。

 


時代に合った雇用制度で日本を元気に!

2014-05-29 15:55:13 | 社会・経済

政府は産業競争力会議において、労働時間の規制を外す方針を決めました。
時代は、どんどん変化しています。労働法制も変わるのが当然だと思います。
サラリーマンの働き方を、変えるべきときにきていると思います。

日本は、少子高齢化のもと、労働人口の減少が大きな課題といえます。
その対策として、ホワイトカラーの生産性向上、
女性の活用、働き方の多様化などが求められています。

具体的に見てみましょう。
現在、管理職以外の一般社員は、一日8時間以上働くと、
残業代が支給されます。しかし、この制度では、
残業時間が長いほど、給料が増えることになる。
つまり、簡単な仕事でも、だらだらと時間をかけてする人のほうが、
効率よく短時間で片付ける人よりも、たくさん給料をもらえるというわけです。

これでは、生産性はあがりません。
実際、日本の労働生産性は、OECD加盟34カ国中21位です。
長時間労働が当たり前の職場では、女性の活用も進展しませんよね。
誤解を恐れずにいえば、現行の制度は、
男性中心で、長く働くほど大量に商品を生産できるという、
製造業の、それも、大量生産大量消費時代の制度です。

つまり、労働を「時間」で評価するのは、現状に即していません。
新しいものを生み出したり、デザインしたりする仕事は、
長時間働けば、必ずいいアイデアが生まれるわけではありません。
また、ファンドマネジャーや経済アナリストなど専門職は、
「時間」での評価になじみません。

「時間」に対して対価が支払われる制度では、
高い能力をもつ人たちを、正当に評価することができませんね。
サービス産業で働く人口が増えている今日、
現行の制度は、古いといっていいでしょう。

今回、そうした専門職について、
週40時間が基本の労働時間の規制を外したうえ、
「時間」の代わりに、「成果」に対して給与を払うとした、
「ホワイトカラー・エグゼンプション」が検討されています。

では、「ホワイトカラー・エグゼンプション」を導入すれば、どうなるか。
かりに労働時間が長くなっても、残業代は支払われません。
しかし、求められている成果を出せば、1日8時間も働かなくていい。
忙しい時期は、思う存分に働いて、
忙しくない時期は、休みをとったり、短時間で切り上げたりできる。
働き方をフレキシブルにでき、
モチベーションを高める効果があると指摘されています。
その通りだろうと思います。

「ホワイトカラー・エグゼンプション」には、反対の声もあります。
反対派は、残業代を払う必要がなくなれば、企業は労働者を際限なく働かせ、
弱い立場にある労働者が、長時間労働を強いられると主張します。
厚生労働省も、規制緩和について慎重な意見のようです。

しかし、現状維持では、何も解決しません。
日本のサラリーマンは、世界的に見て、
なぜ、長時間労働を強いられているのか。
「時間」にしばられているのではないか。
ダラダラ残業し、「時間」稼ぎをする人がトクをするような制度では、
サラリーマンは長時間労働から解放されないばかりか、
日本企業は、グローバル経済のなかで生き残っていけないでしょう。

この際、「ホワイトカラー・エグゼンプション」だけではなく、
裁量労働制の積極的な導入や、成果給、能力主義、実力主義の考え方など、
さまざまな雇用制度、給与体系、評価基準なども検討されるべきです。
何も、アメリカ型成果主義的制度を導入しろといっているのではありません。
日本に即した制度設計を考えたらいいと思うのです。

そして、新しいサラリーマンの働き方、
ライフスタイルを確立すべきではないでしょうか。
日本が元気を取り戻すには、時代に合った働き方ができる制度を模索して、
この際、新しい社会をつくりあげていく必要があると思います。

 


大漁旗に見る日本人の「つながり」

2014-05-28 17:58:53 | 社会・経済

先日、仕事で青森県を訪れる機会がありました。
そのとき、JR八戸線の、八戸・久慈間を走る、
Tohoku Emotion(東北エモーション)」に乗車しました。
全席レストラン空間の車両として、
昨年10月から、土日祝日を中心に運行されています。

ご存じの通り、八戸線は、海岸線に沿って走ります。
東日本大震災では、津波で線路や枕木が流出するなど、
甚大な被害を受けました。
しかし、震災から1年を経た2012年3月には、
全線運行再開にこぎつけています。

車窓に映る海岸線を楽しんでいたのですが、
あちこちで、列車に向けて大漁旗を振る、地元の人たちを見ました。
NHK
の連ドラ、「あまちゃん」で見た風景ですよね。

 

 
海岸で、ワカメを干す作業をしている人たちが、
Tohoku Emotion」が通る時間に合わせ、振っているのです。
漁協のオジサン、オバサンだけではありません。
子どもや、自転車にまたがった、通りすがりのオジサンまで、
手を振っていましたよ。

以前ならば、「わざとらしい」と感じる人がいたかもしれません。
しかし、そんな印象は、まったく受けませんでした。
手を振り返す乗客も少なくありません。
それは、乗客と地元の人たちの間に、
「東日本大震災」という「共有体験」があるからかもしれません。

もちろん、同じ場所で震災に遭ったわけではありませんが、
乗客は、東北の被害の様子や、観光客の減少、風評被害、
復興への思いなどを、メディア等を通して、間接的に知っています。
地元の人たちも、観光が大切な収入源であり、
観光客が増えることが、復興への足掛かりになることを知っている。
そして、実際に少なくない数の観光客が、
被災地を応援したいと思って観光にきていることを知っているわけです。

私は、26日に、サントリー文化財団が開催した、
震災後の日本に関する研究会公開フォーラム
「『災後』の文明」に参加しました。
席上、座長を務めた御厨貴さんが語った通り、
また、『別冊アスティオン「災後」の文明』のなかに書いていらっしゃる通り、
戦後、日本には、国民が共有する大きな出来事である「同時代体験」、
すなわち「共有体験」がありませんでした。

心の「つながり」「絆」は、震災後に脚光を浴びました。
「戦後復興」という「共有体験」のあと、日本人は、
経済発展、長期的景気低迷を経て、バラバラになっていきました。
核家族化が進み、世代間ギャップが生まれ、価値観は多様化しました。
コンビニエンスストアやIT化の影響もあり、生活は便利になり、
多くの人が、一人でも生きていけると誤解しかけていました。

しかし、「震災」という「共有体験」をもったことで、
日本人は、「つながり」や「絆」を思い出しました。
経済活動においても、サプライチェーンの寸断など、
自分たちが、どれだけ他者に依存し、
「つながり」ながら生きているのかを、再認識させられたのです。

大漁旗は、その「つながり」や「絆」を、目に見える形で表しています。
あの「共有体験」があるから、乗客は、
大漁旗を振る人たちに、素直に手を振り返すのではないでしょうか。


震災後、日本人や日本企業のなかで、何かが確実に変わっています。
その「何か」は、時間が経たなければ、はっきりとは見えてきません。
「戦後」と呼ばれた時代と同様、震災後の時代とはどんな時代なのか。
これから、じっくりと見つめていくべき課題だと思います。


日本メーカーは、またもやサムスンに負ける?

2014-05-27 16:13:43 | 電機メーカー

 

ご存知のように、サムスンはいまや、テレビやスマートフォンで
圧倒的な世界的ナンバーワン企業です。
ところが、サムスンは「何一つ、新しいモノをつくっていない」
と、日本人は批判します。
実際、これまでは、そうだったと思いますが、いまは違います。
日本メーカーに次ぐ“二番手商法”を続けていては、
中国メーカーに追いかけられるばかりか、
これ以上の成長はないと危機感をもっています。

過日、「サムスンは世界に先駆けて、“曲がるスマホ”“曲がるテレビ”
といった、まったく新しい商品の開発を行っています」
と、元サムスン役員から聞きました。

 

すると、5月26日付「フジサンケイビジネスアイ」の
「Bloomberg GLOBAL FINANCE」に、
「次の主戦場は“究極の素材”-サムスンなど関連特許獲得にしのぎ」

 と題する記事が出ていました。
サムスンの「曲げられる時計型端末や折り畳むとスマートフォン
になるタブレット型端末など、革新的な機器のタッチスクリーン」

の開発に関する内容です。

その曲げられる素材とは、いま世界のハイテク企業が実用化に向けて
開発競争を繰り広げている炭素シート「グラフェン」です。
現在、サムスンは「グラフェン」の特許争いで一歩も二歩も
リードしているといわれています。
現に、サムスンはすでに“曲がるスマホ”の試作品を公表しています。

じつは、日本の電機メーカーなども、当然のことながら、
「グラフェン」の開発を手掛けています。ところが、
日本のメーカーは、いまひとつ、乗っていません。
“曲がるスマホ”をつくろうとすれば、いつでもできる……
とのんびり構えているようです。

デジタル商品は、早く出した者勝ちです。
サムスンでは、100%の商品をつくるよりも、
“機会先取”といって、早く出すことをモットーにしています。

このままいくと、テレビ、スマホに続いて、
“曲がるテレビ”でも、また日本メーカーは、サムスンの後塵を拝することは
間違いないでしょう。