片山修のずだぶくろ Ⅰ

経済ジャーナリスト 片山修のオフィシャルブログ。2009年5月~2014年6月

パナソニックとホンダの違い

2012-07-31 22:03:38 | 社会・経済

電機産業と自動車産業。
両者の明暗はいまや、はっきり分かれています。
自動車産業がリーマン・ショックおよび3.11から立ち直る気配なのに対して、
電機産業はいまだ、再生の兆しが見えてきません。

パナソニックが今日、発表した2012年度4-6月期の連結決算は、
最終損益が128億円の黒字でした。
四半期ベースの黒字転換は、2010年10-12月期以来、6四半期ぶりです。

120731_panasonic


黒字転換の要因には、
プラズマパネルの生産拠点だった尼崎工場を一部停止し、
固定費を圧縮したことや、
人員削減など構造改革に取り組んだことがあげられます。

リストラは、聖域といわれてきた門真のパナソニック本社にもおよんでいます。
2012年度中をメドに、本社従業員約7、000人を半減する計画といいます。
歴代トップが踏み込まなかった、本社従業員の削減に踏み切り、
今回、128億円の黒字を出したわけですが、
これで一安心とはいっていられません。

いよいよ、これからが本番です。

ここで、再生に向けたサプライズが欲しいところです。
しかし、残念ながら、今回の記者会見ではサプライズはありませんでした。

冷蔵庫や洗濯機などの“白物”は増収増益ですが、
これは、かねてから指摘されてきたことで、サプライズではありません。

やはり、問題はテレビ事業の赤字をどうするかです。
ここのところがはっきりと見えてこないと、
パナソニックが完全に再生したとはいえません。

それから、エコソリューションズ事業は、
売上高は3552億円で前年並みを確保していますが、減益です。
パナソニックは、三洋電機を傘下におさめることで、
三洋の保有する電池事業を生かし、両者のシナジー効果で
エネルギー事業の成長と経営体質の強化を図る計画だったはずです。
ところが、いまだにシナジー効果が出ているとはいえません。

太陽電池の新たな生産拠点として、
この12月にパナソニックエナジーマレーシアが稼働しますが、
時間が少しかかるということですかね。
まごまごしていると、中国との競争に巻き込まれます。

また、お隣の韓国では、サムスン電子が第2四半期決算で、
営業利益が6兆7、200ウォンとなり、過去最高利益となりましたが、
これは、スマートフォン「ギャラクシ―S」の販売が好調だったからです。
パナソニックはというと、スマートフォンには期待がもてそうにありません。
「たいへん厳しい事業です。苦戦しております」と、
常務取締役の河井英明さんは正直に語りました。
こちらは、多分、時間の問題ではないでしょう。

このほか、記者会見会場からは、
「オリンピック需要」についての質問が出ましたが、
「今年はむずかしい。日本も海外もオリンピック需要は見えない」
と、河井さんはいいます。

つまり、再建の道は依然、厳しいといえそうです。
いちだんの構造改革が必要なのでしょう。
社長の津賀一宏さんの手腕が問われるわけです。

一方、今日発表された、ホンダの2012年4-6月期の連結決算は、
純利益が前年同期にくらべ、約4.1倍の1.317億円でした。
その要因には、北米の販売の倍増、軽自動車「N‐BOX+」の貢献があります。

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ホンダは、09年2月、伊東孝紳さんが社長に就任後、
軽自動車へと見事に戦略転換を図りました。
そして、今日の記者会見で取締役専務執行役員の池史彦さんが語ったように、
「顧客に受け入れられる軽をつくる」ことによって、その戦略を成功させました。

世界経済は、不透明感を増していますが、トンネルの先に、光が見えるかどうか。
企業の明暗は、ここでわかれるのではないでしょうか。
リストラだけでは光は見えてきません。
求められるのは、収益力の本格回復を牽引するサプライズです。


勝者の美学より敗者の美学を

2012-07-30 19:57:21 | スポーツ

ロンドン五輪の100メートル平泳ぎで、

北島康介選手は五位に終わりました。

「泳いでいくうちに迷いが出てきた。

これだったらいけるなと自信を持てるところは一つもなかった」

と、北島選手は、レース後に語りました。

日本オリンピック委員会は、金メダル数で世界5位を目標に掲げ、

15個以上を目標にしていると語っていますが、

そう簡単には実現しそうもありません。

メダルがとれないのにはさまざまな理由があると思いますが、

いえるのは、世界は広く、強い人は世界にあまたいるという事実です。

日本は、そのことを認識しなければいけません。

これは、スポーツに限ったことではありませんわな。

私は、金メダルの数にこだわる必要はないと思います。

金じゃなくても悲観することはないし、

とったからといって狂喜乱舞することはないと思います。

国ぐるみでスポーツ振興に力を入れているのは、

韓国や中国です。

たとえば、韓国は、スポーツ立国を目指し、

国をあげて英才教育をしています。

中国は、国威発揚のためにスポーツに力をいれています。

中国や韓国にならって、

日本は金メダル作戦に力を入れる必要はないと思います。

いまの日本では、金メダルで国威は発揚できません。

それよりも、個人的には、

敗者にこそ目を向けたいと思いますね。

敗者にこそ、ドラマがあるからです。

メダル候補といわれた人たちがなぜ、

メダルをとれなかったのかを考える。

そこには、物語があります。

そもそも人生は思う通りいきません。

何が起きるかわかりません。

スポーツも同じ。

人生と同じで、スポーツも敗者がいるからこそ、

おもしろい。

だいいち、敗者がいてはじめて勝者がいるわけですから。

勝者には、みんなが目を向けます。

勝因についても、さまざまに検証されます。

ちょっとひねくれて、負けた人に目を向けてほうがいい。

失敗から学ぶのも、一興じゃありませんか。


オリンピックとサッカーと若者についての雑感

2012-07-27 15:54:43 | 社会・経済

オリンピックの開会式に先立って、
サッカーの予選リーグの試合が始まりました。
先日の「なでしこ」の対カナダ戦白星に続き、男子も、
金メダル候補のスペイン相手に「大金星」で初戦を飾りました。

試合の中継を見ていて
「最近の若者らしさが出ているな」と感じました。
強豪を相手にまったく臆さないのです。
以前の日本チームは、国際試合ともなれば、
委縮して、本来の力を発揮できないところを何度も見てきました。
ところが、いまは違います。
何回か書いてきたように、サッカーはグローバル化し、
若い選手たちも、海外に出て活躍しています。
だから、国際試合でも対等に勝負できるのでしょう。

もう一つ、サッカーと若者といえば、
熱狂的なファンの姿を思い浮かべます。
実際に現地で観戦するファンに加え、
渋谷のスポーツバーなどで盛り上がっている若者たちです。
彼らについて、批判的な声も聞きますが、
難しく考える必要はないと思っています。他愛のないものです。

オリンピックに対して、若者の関心が薄いという話を耳にします。
確かに、2016年のオリンピック誘致にも、積極的とはいえません。
テレビやスポーツが娯楽の中心だった時代と比較して
現代は、インターネットやゲームなど、娯楽が多様化しています。
国をあげてオリンピックを応援したり、誘致するムードにはなりにくい。
寂しい気もしますが、サッカーに熱狂する若者もいるのですから、
それでいいのではないでしょうか。

さて、いよいよ、オリンピックが開幕します。
若者たちが世界を相手に戦うのを見ると
日本の現代の若者たちを、悲観する必要はないと思えます。
「内向き」「海外に出たがらない」などといわれますが、
そんな若者ばかりではありません。
スポーツ界に留まらず、海外で活躍している若者も多いのです。
果敢に挑戦する選手たちの姿には、希望が持てます。

こうして、若者や日本の将来にポジティブになれるのも、
オリンピックの効用の一つかもしれません。


日本は世界のスマート化をリードできるか!?

2012-07-26 19:47:24 | 社会・経済

スマートグリッドは、いま、世界中で注目されています。
エネルギーをマネジメントすることにより、
エネルギー不足はもとより、資源の枯渇や、
再生可能エネルギーの導入など、
世界が抱える多くの問題を解決できる可能性があるからです。
電力や情報など社会インフラのスマート化には、
大きなビジネスチャンスが期待されています。
世界中の企業が、このチャンスをものにしようと狙っています。

日本企業も現在、スマートグリッドに地域単位で取り組む
スマートコミュニティ構想を進めています。
自動車、家電、住宅、医療機器、鉄道など、スマート化の分野は幅広い。
とりわけ、社会インフラを担う重電メーカーや通信会社が中核で、
東芝や日立、三菱電機、そして、NTTなどは、
スマートコミュニティ事業への参入を積極的に始めています。

例えば、スマートコミュニティや、
より大きな単位でスマート化に取り組むスマートシティ構想は、
これまで、日本はもとより、世界中で実証実験が行われてきました。
しかし、3.11以後、原発事故によるエネルギー危機により、
スマートコミュニティ構想は、日本で一気に進みつつあるのです。
仙台市など、震災後の復興地での町づくりに
いまやスマート化は、実証実験をこえ
“導入事業”として取り組まれています。

日本は、スマートコミュニティ構想の先頭を走っています。
スマートコミュニティは、今後、
日本の産業を立て直すための、成長戦略の柱になるでしょう。
いや、しなければいけません。


企業はCSRをどこまでやるべきか

2012-07-25 15:30:19 | 社会・経済

日本経済新聞の「韓国と財閥(チェボル)」という連載は、
今日が2回目で、「慈善事業まで一手に」というタイトルでした。
SK
グループが、経済的理由で3度の食事ができない児童に
お弁当を届ける慈善事業を全面支援しているケースなどが紹介されています。
サムスンは、会長の犬好きが発展して盲導犬訓練施設を運営しているほか、
オリンピック種目などの競技団体の運営費を負担したり、
プロ野球チームを抱えたり、病院を運営したり、大学を支援したりしています。
韓国の財閥は、サムスンに限らずCSR(企業の社会的責任)活動に熱心です。
近年、韓国がオリンピックで日本より金メダルの獲得数が多いのも、
サムスンのなどの手厚いサポートがあるからです。

ところが、一方で、韓国では「大企業は利益を社会に還元しているか」
というアンケートに、7割以上が否定的に答えたといいます。
CSR
に力を入れていながら、それが評価されないのです。
韓国は、財閥の市場占有率が高く、日本以上に格差社会だともいわれます。
財閥の影で、中小企業が育たないともいわれます。
それらの影響から、財閥に対する世間の目は厳しいのでしょう。

例えば、サムスンサイドから聞いた話では、
サムスンでは、97%の社員が、
自分の給料から毎月一定額を寄付し、年間約25億ウォンが集まるといいます。
それと同額をサムスンが負担し、合計約50億ウォンを、
青少年未来育成事業や地域社会支援事業などに寄付している。
さらに、全国に約40箇所の保育所をつくり、
自治体に寄付したうえ、その運営費も、毎年相当な額を寄付している。
しかし、そういったことはほとんどマスコミには出ず
評価されないと聞きました。

一方、前出の記事にも出ていましたが、サムスンは今年1月、
コーヒー・ベーカリー専門店チェーンからの撤退を表明しました。
もともと、サムスン傘下の「新羅(シーラ)ホテル」の
宿泊客向けベーカリー部門を、
お客さんの評判がいいのでチェーン展開したものでした。
経営者は、李健熙(イ・ゴンヒ)会長の長女で
新羅ホテル社長の
李富真(イ・ブジン)さんです。
実際、パンはおいしいし、業績は伸びていたにもかかわらず、
サムスンのような大財閥がパン屋を展開することで、
地域の“町のパン屋さん”がつぶれてしまう、と批判を受け、
結局、撤退することになりました。

慈善事業や社会貢献活動は、
できる企業やおカネ持ちがやるべきなのは、確かです。
ただし、企業は、収益をあげて「ROE(株主資本利益率)」を上げなければ、
株主などステークホルダーから叩かれます。
したがって、CSR活動などにおカネを割くには限界があります。
ただし、今日では、CSR活動を活発にしない企業は評価されません。
難しい話です。やらなくてもダメ、やり過ぎてもダメ。
バランスでしょうか。

財閥や大企業が、中小企業や一般の人々から羨望の対象となるのは、
これはもう、仕方のないことなのでしょう。
いかにも日本人的ですが、「陰徳の美」といわれるように、
企業は、CSR活動や慈善事業に称賛を期待せず、
見返りを求めずに、続けることがいいのかもしれません。