片山修のずだぶくろ Ⅰ

経済ジャーナリスト 片山修のオフィシャルブログ。2009年5月~2014年6月

ハタ迷惑な話

2009-06-30 17:49:12 | 社会・経済
日本では、立ち小便は、古くは明治5年(1872年)、
東京府知事によって発令された「違式註違条例」において、禁止されていました。
もちろん現在でも、軽犯罪法第一条二十六号の
「街路又は公園その他公衆の集合する場所で、
たんつばを吐き、又は大小便をし、若しくはこれをさせた者」
に該当する、立派な犯罪ということになります。

もっとも、かつて、立ち小便は見なれた風景でした。
いまの若い人は、たぶん知らないでしょうが、
民家の塀などに、立ち小便禁止のマークとして
赤ペンキで小さな“鳥居”が描かれていたものです。
しかし、いまはほとんどお目にかかりません。
立ち小便がなくなったからです。

そう思っていたらどっこい、違っていました。
今日の新聞では、日本航空(以下JAL)の男性副操縦士が、
ホノルルの街中で立ち小便をし、身柄を拘束されたというニュースが、
各紙にとりあげられています。
なるほど、ハワイには“鳥居”のマークはないわな、と思いながら、
産経新聞の記事を読んでいくと、
この男性副操縦士は、飲食店など2軒で、
ワインハーフボトル1本や、ビール小瓶5本を飲んだ後、
ホテル周辺を散歩中に尿意をもよおし、木陰で用を足しているところを、
地元の警察官に見つかって身柄を拘束された、とあります。

男性は、2晩留置された後、罰金25ドルを払って釈放されました。
日航は、その立ち小便副操縦士に代わり、
別の副操縦士を急遽乗務させて対応したそうですが、
結果的に人員不足から一便が欠航。
まったく、ハタ迷惑な話です。

JALといえば、つい一週間ほど前の6月22日に、
一部に政府保証が付いた、日本政策銀行とメガバンク3行による
1000億円規模の融資が決まったばかりです。
金子国交相は、「日航をしっかり指導、監督する」とコメントしていました。
しかし、さすがにパイロットの“生活指導”までは行き届かなかったようです。

今日の日本経済新聞には、政府のJAL支援をめぐり、
全日本空輸が「政策上、公平性を欠く」として、国交省に再考を申し入れていた、
という記事も出ています。当然だと思います。
全日空関係者は、JAL副操縦士拘束の事件を見て、
いったいどう思ったか。
もう、JAL社内の緊張感、危機感のなさには、
あきれるばかりではありませんか。



「マルちゃん」になれるか

2009-06-29 17:43:41 | 社会・経済
日本経済新聞に連載中の「新興国で稼ぐ」の第2回(6月27日掲載)には
東洋水産がとりあげられています。
記事によれば、東洋水産のカップめんブランド「マルちゃん」は、
メキシコでシェア8割を占めているといいます。

カップめんのトップメーカーといえば、日清食品です。
海外に進出したのも日清が最初です。
1970年代に米国に進出し、いまや、シェア7割を占めています。
後発組の東洋水産は、他に販路を開拓せざるを得なかったわけです。
そこで、「マルちゃん」は89年、メキシコに本格進出した。
いまでは、「マルちゃん」という言葉が、
現地では「簡単にできる」という意味に使われるほど、
人々の生活に浸透しているそうです。

似た例は、他にもあります。
自動車メーカーのスズキは、国内では、トヨタ、ホンダ、日産に継ぐ
業界4位の下位メーカーです。
ところが、インドの現地法人マルチ・スズキ・インディアは、
現在、インドの乗用車市場で50%以上のシェアをもっています。
スズキ会長兼社長の鈴木修さんがインド進出を決めたのは、1982年です。
いまでこそ、新興国の代表選手のようにいわれるインドですが、
同国の自動車市場は、ほとんど注目されていませんでした。
鈴木氏は、「どんな市場でもいいからトップになって、社員に誇りを持たせたい」
との願いから、インド政府の「国民車構想のパートナーの募集」に応募したのです。
それが今日、「インドの国民車」といってもいいほどの普及ぶりです。

まだあります。かつてのヤオハンもそうです。
ヤオハンは、もともと熱海に開業した「八百半商店」がはじまりです。
チェーン展開をはじめますが、当時社長の和田一夫さんは、
国内では、大手と勝負できないと考え、
1971年、生き残りをかけ、ブラジルに海外進出第一号店を出店します。
ブラジルの店舗はインフレの影響で撤退しますが、その後、シンガポールで成功、
米国やマレーシア、香港など、一時、15か国に400店舗以上を構え、
各国で人々に絶大に支持されました。
ヤオハン・ジャパンは、1997年に事実上倒産しましたが、
アジアでは、一世を風靡しました。

カップめん業界の東洋水産のようなチャレンジャー企業は、
日清食品のようなトップ企業と同じ戦略で闘いを挑んでも、
もともと経営資源に差があるため、勝目はほとんどありません。
勝つためには、トップ企業と違う路線を選択するのが、理にかなっています。
そして、現地の人に愛されることです。
「マルちゃん」や「スズキ」「ヤオハン」は、まさにそうです。
「人の行く裏に道あり花の山」です。



現代の“怪談”

2009-06-26 21:55:10 | 社会・経済
エレクトロニクスの世界では、
アナログからデジタルへの移行と同時に、猛烈にスピード化が進みました。
IT革命の特色は、スピード化にあります。
IT界でいわれている「ドッグイヤー」という言葉は、まさにそれを象徴しています。
つまり、犬は人間の約7倍の速さで成長していくように、
ITも猛烈なスピードで進化しているというわけです。

パソコンや半導体、携帯電話がいい例です。
パソコンの場合、3か月で開発し、3か月で売り切るのが常識になっています。
携帯電話も同じだと聞きます。商品寿命はどんどん短くなるばかりです。
テレビも、いまやそれと同じような状況になっているといいます。
家電製品の、生鮮食品化といえます。

ただ、アナログ製品に比べ、デジタル製品の開発費は巨額にのぼります。
携帯電話ならば、一機種の新たな開発費は、約50億円。
ところが、50万台売るつもりでつくった商品が、
10万台も売れないケースは珍しくありません。
わかりやすくいうと、開発費50億円のうち、5分の4にあたる40億円を、
どぶに捨てるようなものです。

そして、厄介なことに、メーカーを苦しめるのがデジタル製品の価格下落です。
新しい商品が出てくれば、古くなった商品は、当然値段が下がります。
液晶テレビの場合、毎年20%価格が下がっています。
もともと、半導体は、一般製品と違って、
機能がアップすればするほど価格は下がります。
テレビもまったく同じです。これはデジタルの宿命です。
だから、ソニーのように、テレビを1520万台も販売し、
(これは世界第2位、ちなみに1位はサムスン電子)
およそ1兆円の売り上げをあげながらも、
テレビ部門は赤字という話になっているのです。
これは、“豊作貧乏”というよりは、もう、現代の“怪談”といっていいでしょう。

私たちは、日頃そうしたことに気付いていませんが、
ちょっと立ち止まって考えると、
摩訶不思議な世界の住人だということに思い当たるはずです。



日本に“ノブレス・オブリージュ”はない?

2009-06-25 20:54:14 | 社会・経済
今日は嘆き節です。

今日の日本経済新聞の文化面に、興味深い記事が出ています。
エドワード・B・クラーク氏は、日本で初めて慶應大学の学生にラグビーを教え、
日本ラグビーの父とされています。

筆者の龍谷大学准教授の星野繁一さんによると、
クラークはラグビーだけの人ではなく、
京都大学でシェークスピアを教えるなど、教育者としても立派な業績があり、
まさしく「ノブレス・オブリージュ(高い身分に伴う徳義上の責任)」の
実践者だったというのです。

「ノブレス・オブリージュ」という言葉を久しぶりに目にしました。
私が初めてこの言葉を聞いたのは、故・天谷直弘さんからです。
天谷さんは、通商産業省(現・経済産業省)出身で、論客として知られました。
天谷さんからこんな話を聞きました。

「食うに困らなくなった日本は、食うことを超える価値を追求しなくてはならない」
この発言には、説明が必要です。
日本経済は、戦後の再出発から高度経済成長期を経て、
世界一の経済大国になりました。
つまり、日本は「町人国家」の道を選び、経済大国になった。
しかし、これからは、経済だけでなく、
「ノブレス国家としての道を歩まなければいけない」というのです。
天谷さんには、『さらば町人国家』という著作があります。

私は、いまの日本にもっとも必要な言葉こそ、
「ノブレス・オブリージュ」ではないかと思っています。
日本人は、いつの間にか「志」を失ってしまいました。
ベストセラー本の世界では、「品格」なる言葉がしきりに踊っていますが
天谷さん流にいえば「真・善・美」がどこかにいってしまいました。
鶴田浩二さんの歌ではありませんが、
日本は「右も左も真っ暗闇じゃござんせんか」――。

金融危機に端を発した世界同時不況から、日本はいかに復活するか。
その際、日本は、単に経済の再生だけでなく、世界に向かって、
どんな「ノブレス・オブリージュ」を備えたメッセージを発信するのか。
日本の叡智が問われていると思います。



いま一度、JALについて

2009-06-24 17:53:20 | ニュース
昨日に引き続き、日本航空(JAL)の話題です。
昨日私は「第二の国鉄化」と書きましたが、
今日の日経産業新聞に「日航“GM化”の危機」という記事が載っています。
GMが全米自動車労組(UAW)の企業年金や健康保険関連の債務に苦しんだように、
JALもOBの企業年金に苦しめられているからです。
双方とも、組合が強いのが共通点です。

記事によれば、企業年金の予定利回りは4.5%ですが、
1%強にまで落とす計画といいます。
結果、給付額は5割強の減額になる可能性が高いというのです。

当然、OBからの反発は強い。「約束は約束」と、彼らは既得権を主張します。
しかし、年金の運用利回り4.5%は、
高度経済成長期なら可能であっても、この低成長時代に、
いや、今日の世界同時不況のなかでは不可能に近い。
会社が傾いていれば、補填にも限界があります。
そして、既得権に固執したとしても、JALが破綻したらば、元も子もありません。
会社存続の危機に際し、年金生活を保障してくれというのは
今日、相当ムリがあるのはたしかですね。

企業年金給付額をめぐる会社とOBのもめごとは、過去にも例があります。
旧松下電器産業では、02年、企業年金の「福祉年金」の利率を、一律2%引き下げ、
反発した退職者の一部と訴訟にまでなりました。
しかし、結果、原告(退職者)側の主張は認められませんでした。
GMの例を見ても、結局UAW側の譲歩で決着しました。

旧松下にしろ、GMにしろ、JALにしろ、
企業年金生活者は、どれだけの生活レベルを求めているのでしょうか。
そもそも、人々が求める生活の豊かさとは、いったい何でしょうか。
少子高齢化が進むなかで、年金の原資をどう確保すればいいのでしょうか。
JALやGMに関わらず、年金の問題は、我々にとって大きな問題です。

年金問題は、身につまされる部分があるのはたしかですが、
かといって、欲張っていては、何も解決しません。
結局、企業年金のシステム自体を設計し直すしかないのではないでしょうか。
かりに、企業年金の給付水準の引き下げができないと、
JALの再建は、いよいよ危ういともいわれているのですから。

ただ私は、問題は簡単だと思います。
JALが成長すれば、年金だろうと何だろうと、
すべての矛盾は解決されるのです。
そこをしっかりと考えてほしいと思います。