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片山修のずだぶくろ Ⅰ

経済ジャーナリスト 片山修のオフィシャルブログ。2009年5月~2014年6月

サムスンの“世代交代”

2014-06-12 16:38:24 | 電機メーカー

先週、サムスン二代目会長の
李健熙(イ・ゴンヒ)さんが倒れたことに関して、
サムスンの事業継承は成功するか」というブログを書きました。
今日は、その続報です。

前回、サムスンは、トップ交代に向け、
周到な準備をしてきたはずだと書きました。
具体的に、どのような準備が進められてきたのか。
人事異動から見てみましょう。

まず、2010年、サムスングループのなかで目立った
トップをめぐる人事異動がありました。
長男の李在鎔(イ・ジェヨン)さんが、サムスン電子の社長に就任。
長女の李富真(イ・ブジン)さんは、
エバーランドの戦略担当社長兼ホテル新羅社長のほか、
サムスン物産商事部門の顧問にも就任しました。
これは、事業継承の布石の第一弾といえるでしょう。

さらに、その後、注目すべき人事がありました。
李健熙さんの側近集団、すなわち
サムスングループの参謀本部「未来戦略室」の人事異動です。第二弾です。
12年6月、
サムスン電子副会長兼CEOだった
崔志成(チェ・チソン)さんが、突然、未来戦略室長に就任。
サムスンの人事は、毎年12月に行われますが、このときは異例でした。
崔志成さんは、現在も同職を務めています。
同年12月には、
李在鎔さんがサムスン電子の副会長に就任しました。

そして、いまから考えると、もっとも大きな布石が打たれました。
今年4月30日の未来戦略室の大幅な人事異動です。第三弾です。
これは、5月1日付で、前日の30日に発表されました。
これまた、12月の定期的な人事とは別です。
関係者も、「なぜ、こんな大きな人事が、この時期なのか」と、
首をかしげたほどです。
未来戦略室は、現在、6つのチームと遵法経営室がありますが、
これらのそれぞれのトップ7人のうち、
6人が変わるという大きな人事でした。

じつは、その10日後の10日、李健熙さんは、急性心筋梗塞で倒れたわけです。
この倒れる直前の大幅な「未来戦略室」の人事異動こそは、
李健熙さんの“世代交代”に向けての
メッセージだったのではないかと思われるのです。

この人事の特徴は、ズバリ「未来戦略室」各チームのトップの若返りです。
60歳を超えるのは、室長の
崔志成さんと、
以前からいた未来戦略室次長の張忠基(チャン・チュンギ)さんだけです。
あとは、すべて50代になりました。
これは、何を意味するか。
つまり、45歳の息子の李在
鎔さんへの
バトンタッチの準備ではないのかと思われるのです。

また、未来戦略室のチーム長を離れた6人のうち3人は、
サムスン電子に戻りました。同じような役割をもつポジションに就いたのです。
これは、サムスン電子の経営体制の強化だと考えられます。
いずれにせよ、その人事異動の10日後に病に倒れたわけですから、
さまざまな憶測を呼ぶのは、当然ですよね。

李健熙さんは、今年1月11日に韓国を出て以来、
約3か月間、海外生活を送っていました。
4月17日に帰国しましたが、おそらく、
自らの体調が思わしくないことを、よくわかっていたのではないでしょうか。

海外への長期滞在中、熟考に熟考を重ね、
いつ、息子がトップに立っても問題なくグループが運営されるよう、
新たなマネジメント体制を練り上げたと考えることができます。

帰国2週間後の人事発表、そして病に倒れる……。
ギリギリ間に合った、という印象を受けますね。


人間支援ロボットはどこまで進化するか

2014-06-10 20:07:01 | 電機メーカー

今日は、産業ロボットではなく、
近年とみに進化の著しい
人間支援ロボットについて考察しました。

近年、ロボットやAI(人工知能)の市場は、
急速に熱を帯びています。
新たなロボット市場が、生まれつつあるといっていいでしょう。

経産省とNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)によれば、
国内のロボット市場は、2035年に9兆7000億円に達します。
うち、サービス分野のロボットは、4兆9000億円と、半分超です。
当然、ロボット市場は、国内にとどまらず、世界に広がりますから、
市場規模は、何倍にも膨らむと考えられます。

ソニーは1999年、ペット型ロボット「AIBO」、
ホンダは2000年、二足歩行ロボット「ASIMO」を発表するなど、
日本は、世界のロボット開発をリードしてきました。

このほか、病院で薬などを運ぶパナソニックの「ホスピー」、
プロペラで飛びながら不審者などを撮影する、セコムの監視ロボット、
トヨタのリハビリテーションを支援する「歩行練習アシスト」など、
物流、警備、清掃、介護分野などに広がっています。
ようやく、市場が形成されつつある印象ですね。

そこに、新たに今月5日登場したのが、ソフトバンクの
感情を認識する人型ロボット「Pepper(ペッパー)」です。
来年2月には、一般向けに市販される予定です。

開発したのは、ソフトバンクが2年前に出資した、
仏ベンチャー企業、アルデバラン・ロボティクス社。
生産するのは、iPhoneiPadEMS(受託製造サービス)で知られる、
台湾の鴻海精密工業グループです。

「ペッパー」は、インターネットを通じ、クラウドで情報処理をします。
「ペッパー」が普及すればするほど、
クラウド上には、「ペッパー」からのデータが収集される。
つまり、膨大な「ビッグデータ」が蓄積される仕掛けです。

じつは“ロボ・クラウド”といって、
世の中にある数々のロボットの経験から学習した知識を
クラウド・コンピューティングのもとで共有する計画まであります。
「ペッパー」も、そのようにして、どんどん賢くなっていくというのです。
通信技術の進化や、クラウドのサービスが普及したからこそ、
こうしたロボットビジネスモデルが成り立つわけですね。

ただ、いまのところ、
ロボットビジネスが育つには、長い時間がかかります。
実際、ソニーは「AIBO」を育てきれず、
2006
年に、ロボット事業を撤退しました。
ホンダ「ASIMO」は、市販の計画はありません。
「ペッパー」は、19万8000円と安価です。
決して高額ではありませんが、簡単に普及するとは思えません。
しかし、ソフトバンクは、長期的な視点のもと、「ペッパー」を育てていく方針です。
莫大な資金力があるからこそできるんですな。

ロボット・フィーバーは、日本だけではありません。
米シリコンバレーでも、ロボットやAIは、注目を集めています。
13年11月、グーグルは、
東京大学発のロボットベンチャー企業「シャフト」を買収し、
話題になりました。
グーグルは、シャフトのほか、
ロボットに関連企業7社を、続けざまに買収しています。
また、米フェイスブック、中国の百度(バイドゥ)をはじめ、
資金力のあるIT企業は、ベンチャー企業を買収するなどして、
ロボット事業に参入する例が、相次いでいます。

日本は、少子高齢化が深刻化するなか、
労働力不足を補うため、産業用のロボットや、
サービス用ロボットなどの活躍が期待されます。

日本が、世界のロボット市場において存在感を示し続け、
ロボット先進国の座を維持できるかどうかは、
長期的視点で、ロボット事業を育てられるかどうかにかかっていると思います。
ソニーのように、途中で放棄してはダメですよね。



日本メーカーは、またもやサムスンに負ける?

2014-05-27 16:13:43 | 電機メーカー

 

ご存知のように、サムスンはいまや、テレビやスマートフォンで
圧倒的な世界的ナンバーワン企業です。
ところが、サムスンは「何一つ、新しいモノをつくっていない」
と、日本人は批判します。
実際、これまでは、そうだったと思いますが、いまは違います。
日本メーカーに次ぐ“二番手商法”を続けていては、
中国メーカーに追いかけられるばかりか、
これ以上の成長はないと危機感をもっています。

過日、「サムスンは世界に先駆けて、“曲がるスマホ”“曲がるテレビ”
といった、まったく新しい商品の開発を行っています」
と、元サムスン役員から聞きました。

 

すると、5月26日付「フジサンケイビジネスアイ」の
「Bloomberg GLOBAL FINANCE」に、
「次の主戦場は“究極の素材”-サムスンなど関連特許獲得にしのぎ」

 と題する記事が出ていました。
サムスンの「曲げられる時計型端末や折り畳むとスマートフォン
になるタブレット型端末など、革新的な機器のタッチスクリーン」

の開発に関する内容です。

その曲げられる素材とは、いま世界のハイテク企業が実用化に向けて
開発競争を繰り広げている炭素シート「グラフェン」です。
現在、サムスンは「グラフェン」の特許争いで一歩も二歩も
リードしているといわれています。
現に、サムスンはすでに“曲がるスマホ”の試作品を公表しています。

じつは、日本の電機メーカーなども、当然のことながら、
「グラフェン」の開発を手掛けています。ところが、
日本のメーカーは、いまひとつ、乗っていません。
“曲がるスマホ”をつくろうとすれば、いつでもできる……
とのんびり構えているようです。

デジタル商品は、早く出した者勝ちです。
サムスンでは、100%の商品をつくるよりも、
“機会先取”といって、早く出すことをモットーにしています。

このままいくと、テレビ、スマホに続いて、
“曲がるテレビ”でも、また日本メーカーは、サムスンの後塵を拝することは
間違いないでしょう。

 


パナソニックとテスラのコラボは大丈夫か

2014-03-03 20:27:04 | 電機メーカー

 

パナソニックの決断は、ソニーに比べると、
クッキリ、ハッキリしていますね。
リチウムイオン電池への投資の話です。

パナソニックは、
米電気自動車メーカーのテスラ・モーターズと共同で、
米南西部に設ける大規模電池工場を建設する計画です。
報道によれば、パナソニックは、
部材メーカーなどの参加を呼びかけ、
総額1000億円以上を投資する。
工場の総事業費は、5100億円にのぼる見通しで、
17年の稼働、20年にフル稼働の予定。

何度も指摘してきましたが、
パナソニックは、津賀一宏さんの体制下で、
B2CからB2Bビジネスに舵を切りました。
18年には、車載、住宅関連、家電事業で、
それぞれ、売上高2兆円を目指すとしています。
ダイナミックな事業戦略の転換です。
その意味で、今回の投資の決断は、
車載事業の2兆円達成に向けた一歩というわけです。
リチウムイオン電池は、車載事業の柱ですからね。

今回建設される工場は、
自動車向け電池工場としては、世界最大規模といわれています。
敷地内に、材料メーカーやパナソニック、
テスラなどの工場が設けられて、
電池の心臓部といわれるセルから、組み立てまで、
すべてを一貫して行う。まあ、ずいぶん思い切った構想ですよ。

リチウムイオン電池は、そもそも1991年に、
世界で初めて実用化したのは、ソニー。
ところが、ソニーは、昨年、
リチウムイオン電池事業の売却を検討していました。

 

売却の話を聞いたとき、エッ、なぜ?と思いましたよ。
技術を海外に流出させまいと、産業革新機構が動き、
売却先として、日産やNECの名前があがっていましたが、
結局、昨年12月には、売却が見送られました。
円高がおさまり、新規受注が増えて事業環境が改善したから
というのが、ソニーの説明です。

ソニーは、今度は、リチウムイオン電池事業を、
「中核事業に育成」するといっています。
いささか場当たり的なものを感じざるを得ません。
パナソニックが、
本腰を入れた投資の決断をしているのとは、好対照ですね。

これは、相当、リスクを賭けたチャレンジであることはたしかですよ。
しかし、リスクをとらなければ、
成長がないというのは、ビジネスの鉄則。
肝心のリスクは、EVが、いまのところ、
環境対応車の本命ではないことですが、
果たしてどうでしょうか。

 


パナソニックは津賀体制で復活できるか!

2014-02-27 18:02:12 | 電機メーカー

昨日、パナソニックは、
4月1日付の取締役・役員の人事を発表しました。
一目見て、いよいよ、社長の津賀一宏さんの体制が
始動したのではないか、という印象を受けましたね。

津賀さんがパナソニック社長に就任したのは、
約2年前の2012年6月です。
しかし、日本企業では、多くの場合、
新社長が人事権を完全に掌握するのには、時間がかかります。
会長やらOBやらに振り回されて、苦労するものです。

パナソニックの場合、津賀さんが社長になったタイミングで、
08年以降、会長の座にあった中村邦夫さんが相談役になり、
それまで社長だった大坪文雄さんが、新会長の座につきました。
中村・大坪体制が、尾を引いていたと思います。
いや、後ろ盾がなければ、社長は務まらなかったともいえます。

13年6月に、事実上の引責の形で大坪氏が会長を退き、
会長の座には、パナソニック電工出身の長榮周作さんが就きました。
津賀さんは、その後、10月に異例の役員人事を行い、
徐々に津賀カラーを出していきましたが、
今回の役員人事で、それが明確になったと思います。
つまり、旧体制の一新ですね。

取締役・役員の一覧を眺めると、
電工出身の長榮さんが、引き続き会長を務めるほか、
専務に昇任した吉田民夫さんは電工出身です。
5人の新任役員のうち、北野亮さんは電工出身です。
パナソニック、電工のバランスに
配慮した人事といっていいのではないでしょうか。

津賀さんは、事業部制を復活させたり、
聖域だった本社にメスを入れたり、
B2CからB2Bへと、大きく経営戦略の舵を切るなど、
前向きな改革を次々と行っています。
本格的な津賀体制のもと、
2015年に営業利益3500億円以上という、
中期計画を達成できるのか。
まあ、ここからが正念場でしょうね。