片山修のずだぶくろ Ⅰ

経済ジャーナリスト 片山修のオフィシャルブログ。2009年5月~2014年6月

デンソーあってのトヨタだ!

2014-06-11 21:41:21 | トヨタ

 

デンソーが、今月中にも、自動運転支援システムの実証実験を行います。
国内部品メーカー初です。

運転手がハンドルを握らなくても、
ボタン一つで、車が安全に動き、目的地まで連れていってくれるという、
完全な自動運転が実現するには、時間がかかるどころか、
法整備の必要性などを考えると、現段階では、夢のまた夢の話です。

むしろ、メーカーが自動運転に取り組むのは、
安全技術に寄与するところが大だからです。
実際、自動車メーカーや部品メーカーが取り組む自動運転技術は、
ドライバーの運転支援に応用されています。

例えば、トヨタのプリクラッシュセーフティシステムには、
自動ブレーキによる衝突回避支援や、
ドライバーの顔の向きを検知し、
よそ見や居眠りに対して警報するシステム、操舵回避支援、
そして、追突される前に、ヘッドレストを移動させて、
むち打ち障害の軽減を図るシステムなどが含まれています。

これらを実現するためには、
障害物を検知するためのミリ波レーダをはじめ、
前方の障害物の立体物認識情報を得るためのステレオカメラ、
運転者の顔の向きを撮影する車室内カメラ、
ブレーキやサスペンションのコントロール、画像処理など、
さまざまな技術が必要です。

デンソーは、
ステレオ画像処理ECU(エンジン・コントロール・ユニット)、
走行支援ECU、前方ミリ波レーダ、
プリクラッシュシートベルトECUなどを供給しています。

デンソーが、自ら自動運転支援システムの実証実験をするのは、
それらの技術やシステムについて、自らが磨きをかけるためです。
デンソーのような日本を代表する部品メーカーには、
その役割が期待されているのです。
部品メーカーが強くならなければ、
日本の自動車メーカーは強くならない。
この際、思い切っていいます。
デンソーあってのトヨタ――なんですから。

 


新素材パワー半導体とトヨタのコスト低減力

2014-05-21 17:00:25 | トヨタ

トヨタは、昨日、新素材のパワー半導体を開発したと発表しました。
SiCと呼ばれる新素材は、シリコンと炭素の化合物です。

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ハイブリッド車には、現在、シリコンパワー半導体が使われています。
シリコンからSiCのパワー半導体を使うことにより、
10%の燃費向上、PCU(パワーコントロールユニット)は、
5分の1の小型化が可能だという。
すでに、試作車では、5%の燃費向上が確認されているとも。

ハイブリッド車向けにSiCパワー半導体を開発したのは、
世界の自動車メーカーで、トヨタが初めてだといいますが、
しかし、SiCパワー半導体は、例えば東芝は、
すでに昨年3月から量産しています。

なぜ、トヨタのパワー半導体が注目を集めているのでしょうか。

パワー半導体は、簡単にいってしまえば、スイッチです。
交流、直流の相互切り替えや、電圧の上げ下げによって、
電力を高効率にコントロールする役割を果たします。
家電製品や産業用機械、そして、エコカーなど、
幅広く使用されています。
パワー半導体の市場は、20年には、
現在の10倍に増えるといわれています。

ハイブリッド車の場合、パワー半導体は、PCUに使われています。
PCUは、バッテリーの電力をモーターに供給したり、
逆に、減速したときに回生した電力を
バッテリーに充電したりする役割を果たします。
そのスイッチングは、一秒間に数万回に及びます。

PCU自体が消費する電力は大きく、
なかでも、パワー半導体はたくさん電力を消費します。
ハイブリッド車全体の、じつに約20%の電力が、
パワー半導体によって消費されているといわれています。

そのパワー半導体を高効率化することで、
一気に燃費向上が図れる。飛躍的な燃費向上のカギを握る基幹技術を、
自動車メーカーのトヨタが、自社グループで開発したから、
注目されているといえるでしょう。

一般的に、ハイブリッド車の燃費向上は、グラム単位の軽量化など、
小さな努力を積み重ね、数%ずつ向上させていきます。
それが、一気に1割も向上するというのです。

今後、トヨタの課題は、何より低コスト化です。
現在、従来品の約10倍のコストがかかっているといいます。
ただ、コスト低減は、トヨタの得意分野ですからね。
「最終的には、いまと同じコストにする」という目標は、
遠くない将来に達成できると期待します。

 


豊田章男社長が「繰り返した言葉」について考える

2014-05-12 17:46:16 | トヨタ

前回に続き、8日に開かれた、
トヨタの2014年3月期決算説明会についてです。

章男さんは、今回の説明会の席上、
いくつかの言葉を繰り返し使いました。
一つは、前回あげた「踊り場」です。6回口にしました。



二つめは、「商品と人材」という言葉です。
とくに、「人材投資」「人材育成」「人づくり」など、
「人」に関する発言は
、10回近くありました。

ご存じのように、章男さんは、社長就任以来、
「もっといいクルマ」というキーワードを繰り返し主張してきました。
これは、「商品」のことです。
加えて、今回は「人」を強調したのが印象的でしたね。
過去、トヨタの赤字や、品質問題の背景には、
人材育成が追い付いていなかったという反省があります。
それを踏まえた発言であるのは、間違いありません。

もう一つ、章男さんが、全部で8回口にした言葉があります。
「年輪」です。

「年輪」といえば、
木の幹の横断面に毎年刻まれる、同心円状の輪のことですよね。
章男さんは、トヨタを、毎年確実に、少しずつ太くなっていく、
木にたとえたのです。
つまり、持続的成長をするという意味です。

「年輪、年輪と申し上げたのは、屋久島の杉のように、毎年毎年、一つずつ、年輪を重ねていくことこそが、持続的成長につながる。年輪を重ねていくエンジンが、『商品』と、それをつくりあげる『人』だというふうに思っております」
と、章男さんは語りました。

「年輪」は、毎年積み重なり、木はだんだん太くなります。
細くなることはありません。
一方で、急に太くなると、木全体の強度が落ちます。
章男さんは、赤字転落やリコール問題についても、
「木の幹に例えれば、ある時期に、急激に年輪が拡大したことで、
幹全体の力が弱まり、折れやすくなっていた」と説明しました。

「年輪」すなわち、持続的成長と、「商品」「人材」という言葉が、
章男さんの経営におけるキーワードであるのは、間違いありませんね。

 


豊田章男社長「踊り場」発言の真意

2014-05-09 17:15:53 | トヨタ

昨日、トヨタの2014年3月期決算説明会に出席しました。
社長の豊田章男さんは、じつによく語った印象です。
章男さんの思い、考えが、強く感じられる会見でした。

報道にもある通り、トヨタの今期の営業利益の見通しは、
2兆3000億円と、前期比0.6%の微増にとどまります。
いわば「横ばい」ですよね。

章男さん自身は、現状認識について、
「意志をもった踊り場」という言葉で表現しました。
私は、この言葉に、章男さんの強い意思と覚悟を感じましたね。

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「踊り場」発言のウラには、苦い経験があります。
かつて、トヨタは、リーマンショックがあったとはいえ、
1000万台を目前につまずきました。
つまり、「1000万台の壁」です。
いたずらに拡大路線に走った末、品質問題でコケた。
それに、グローバル人材の育成も手付かずだった。
強烈な反省があります。
章男さんは、反省を込めていいました。
「人材育成が追い付かず、従業員や
関係者のみなさまのガンバリに依存したムリな拡大を重ねてきた」

さらに、章男さんは、会見の席上で、
「1000万台という大きな転換点を迎えた」として、こう続けました。
「前例もお手本もない、誰も経験したことがない未知の世界で成長し続けるためには、人材育成と同じスピードで年輪を重ねていく。身の丈をこえた無理な成長は絶対にしないという“覚悟”が必要だと思っております。また、将来に向けて経営資源を振り向けられるいまこそ、思い切った変革や、将来の成長に向けた種まきを、積極的に進めて参りたいと思います」

章男さんは、成長エンジンおよび持続的成長のキーは、
「商品」と「人材」だと語りました。
かりにも、「商品」と「人材」をおろそかにすれば、同じ過ちをおかす。

つまり、「1000万台の壁」を乗り越え、
確実に「持続的成長」を成し遂げるためには、
利益があがり、投資が可能な、いまのタイミングに、
できる限りのリソーセスを、商品や人材への投資に回さなくてはいけない。

そのことを考えれば、今期は、やはり
強い意思をもって「踊り場」でなくてはならないというわけです。

わかり易くいえば、1000万台をスタート台にして、
さらに今後、販売台数を伸ばしていくには、いまこそ、
種まき、土壌の改良をしっかりとする必要があるということです。

ライバルのフォルクスワーゲンやゼネラル・モーターズは、
一気にトヨタを抜くべく、今後とも拡大路線を走り続けるようです。
まあ、急がば回れということですよね。

 


トヨタがソフトバンクに抜かれる日はくるか

2014-05-08 17:53:05 | トヨタ

トヨタは今日、14年3月期の決算発表をしました。
昨日は、ソフトバンクの決算発表がありました。
両社は“ライバル関係”だという。本当でしょうか。

世界の産業史を振り返ると、経済の発展とともに、
その国の産業構造は、第一次産業の農業、林業、漁業などから、
第二次産業の鉱業、建設業、製造業、そして、
第三次産業の金融や流通、飲食などサービス業へとシフトしていきます。

これは、いわば必然の流れで、欧米をはじめ先進国ではすでに、
自動車や電機といった製造業より、ITや金融といった
サービス業に、産業の中心が移っています。
日本においても、産業別の就業者数を見ると、
第三次産業に従事する人口は増え続け、すでに約70%に達しています。

日本は、自動車や電機といった製造業が、
産業構造のなかで、いまだ大きな影響力をもっています。
“モノづくり大国”を自負しています。
断るまでもなく、トヨタはその代表選手です。
今日発表された、トヨタの14年3月期の決算によると、
売上高が25兆6919億円で、営業利益は2兆2921億円です。
営業利益は、過去最高を更新しました。
私は、トヨタは、まだまだ成長すると思います。

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※会見に臨む豊田章男氏

 

ソフトバンクは、昨日、14年3月期の決算発表をしました。
売上高が6兆6666億円で、営業利益は初めて1兆円を超えました。
いまや、日本の第3次産業の成長を代表するトップランナーです。
日本企業の営業利益ランキングを見ると、ソフトバンクは、
1位のトヨタ、2位のNTT(持ち株会社)に次いで、3位です。
3社はいずれも、営業利益が1兆円を超えています。
ソフトバンク社長の孫正義氏は、会見の席上、こう豪語したのです。
「いずれトヨタも抜き、圧倒的な1位になる」と。
「トヨタを抜く」などと豪語する人は、日本では孫氏しかいないでしょう。

孫氏のソフトバンク成長戦略のポイントは、
資金力を生かしたM&A戦略ですね。
今回の業績拡大も、米スプリントの買収効果が大きかった。
今後も、米TモバイルUSの買収などを検討しているとされています。

ソフトバンクは、現在のところ、資金調達手段には事欠きません。
先日、ソフトバンクが34.4%を出資して筆頭株主を務める
中国のアリババ集団は、米市場への上場を申請しました。
孫子は、「売るつもりはない」としていますが、
かりにも株を売却すれば、多額の資金を調達できることは事実です。
つまり、ソフトバンクには、まだまだM&Aによる成長の余地があります。

トヨタは、堅実に「持続的成長」を目指しています。
2兆円以上を稼ぐトヨタに対し、ソフトバンクは、現在、
その半分の1兆円台に達したにすぎません。
M&A戦略で、一気に拡大を目指す第三次産業代表のソフトバンクが、
トヨタを抜き、日本一になる日は、くるのでしょうか。
つまり、トヨタがソフトバンクに抜かれる日はくるのか。

近い将来、トヨタの営業利益が3兆円台に達することは、
不可能ではないと、私は思います。
リーマンショック後の体質改善の成果は、
むしろこれから現れると思われるからです。
そのとき、ソフトバンクは、どこまで躍進しているでしょうか。

営業利益のトップ争いなんていう話は、
久し振りに明るい話題じゃないですか。
大いに闘ってほしいですよね。