片山修のずだぶくろ Ⅰ

経済ジャーナリスト 片山修のオフィシャルブログ。2009年5月~2014年6月

東芝・日立・ソニー連合に救世主は現れるか?

2011-08-31 21:16:12 | 社会・経済

東芝、日立製作所、ソニーの三社は、
官民投資ファンドの
産業革新機構の投資を受け、
新会社を設立することになりました。
中小型ディスプレイ事業の統合です。
今日、その発表の記者会見がありました。

シャープを除いた
オールジャパンによる、
世界最大のシェアをもつディスプレイメーカーの誕生です。
3社を合わせると、売上金額ベースで22%になります。
韓国、台湾勢が大型投資を加速させるなかで、
日本が、
グローバルリーディングカンパニーを生み出そうというのです。
「ジャパンディスプレイ」という名前になる予定です。

ただし、現実は、決して甘くありません。
というのは、ディスプレイの主役は、
液晶パネルから有機ELパネルに移りつつあります。
その
中小型有機ELパネルは、韓国サムスンが約8割と、
圧倒的なシェアをもっています。
有機ELで出遅れた日本企業連合のジャパンディスプレイに、
果たして、
勝機はあるのかということです。

技術面において、サムスンのキャッチアップが可能かどうかの前に、
3社それぞれの
拠点が分散していることや、知的財産権の供給の問題など、
統合後に、3社が
シナジー効果を発揮するためには、大きな課題があります。
それらを
クリアして初めて、
スタートラインにつくことができる
といっていいでしょう。
私は、この
統合会社の成否は、一つにかかって
社長の座に就く経営者の腕にかかっていると思います。
ジャパンディスプレイのトップは、まだ決まっていません。
今日の発表では、「企業統合を経験したことがある」など適材を、
外部から招聘するために、人選を進めているということでした。

1988年、日立とNECのDRAM事業統合により、
エルピーダ・メモリが設立されました。
ムスンに追い抜かれて、衰退しつつあった日本の半導体業界において、
エルピーダが、
日本唯一の半導体専業メーカーとして
今日頑張っているのは、02年に
同社社長CEOに就任した、
坂本幸雄さんの存在
があったからです。
リーダーシップのある優れた経営者です。
何より、
リスクを恐れずチャンレジするところが素晴らしい。
坂本さんは、その手腕から
「半導体業界の救世主」とまでいわれています。

東芝、日立、ソニーは、それぞれに特徴をもつ企業です。
これから事業統合を具体的に進めるうえで、
さまざまな問題が浮上することは間違いありません。
3社の思惑をどう整理し、一つの方向に持っていくか、
文字通り、新社長の手腕にかかります。
私はいっそのこと、日本人に適任者がいなかったらば、
“青い目”の経営リーダーを引っ張ってきてもいいと思います。
当事者たちにそれくらいの
気概と覚悟がなければ、
成功はおぼつかないでしょう。


ファストリの「7・4制」は“三文の徳”になるか!?

2011-08-30 20:19:23 | 社会・経済

今日の日本経済新聞の3面、総合面に、こんな記事が載っていました。
始業は朝7時 ファストリ 本部2時間前倒し、余暇で自己研さん」
ご存じのように、ファストリは、
カジュアル衣料品店
「ユニクロ」を運営する
ファーストリテイリング
のことです。
9月から、
就業時間を現在より2時間前倒しし、
午前7時から午後4時とするというのです。
「7・4制」導入です。

ファストリは、もともと
残業をさせないことで知られます。
4時に帰宅して、社員はいったい、何をするのか。
語学や、ビジネス上の知識を学ぶ時間にあててもらうといいます。
そういえば、ファストリは
来春から、社内公用語が英語になります。
世界展開を進める上で、必要な
人材の育成につなげる狙いです。

この記事を見て、すぐに思い出したのが、
サムスンです。
じつは、サムスンは、1993年、当時サムスングループ会長の
李健康熙氏が、「新経営」宣言をし、その一環として、
「7・4制」を導入しました。
「新経営」宣言は、
「妻と子ども以外はすべて変えよう」
という発言が有名ですが、言葉通り、勤務時間までも変えてしまったのです。
サムスンの文化を
根底から変えるための、いわばショック療法でした。

当時、ほとんどの韓国企業は、
午前9時出社、午後6時もしくは7時の退社という勤務体系でした。
そこに、いきなり
「7・4制」を実施したわけです。
初めは、明るいうちに社員を退社させることに抵抗があり、
5時まで働かせるグループ企業もあったといいますが、
健熙氏は烈火のごとく怒り、
4時退社を徹底させたといいます。
結果として、従業員は徐々にこの態勢に慣れていきました。
ラッシュを避けて通勤でき、
4時以降を個人学習に活用できるようになり、
業務効率も上がったといいます。
一定の効果を上げたとして、2002年以降、
始業・終業時間は各社の裁量に任されるようになりました。
聞くところによると、
今日「7・4制」は、有名無実のようです。

さて、
ファストリはどうでしょうか。
記事によれば、社員の自己学習、自己研鑽の狙いに加え、
電話のやりとりが少ない早朝から働くことで、
「集中して仕事ができる」(柳井会長)という読みもあるといいます。
1時間早める夏時間導入さえ、異論が出る日本社会で、
いきなり
2時間前倒しは画期的です。
私は、
いろんな勤務体制があっていいと思います。
“早出”もいいじゃないですか。
昔から「早起きは三文の徳」といいますからね。
意外に、ポジティブな結果につながるかもしれませんよ。


松下塾出身初の首相、リーダーシップを発揮できるか

2011-08-29 20:08:41 | 社会・経済

民主党代表に野田佳彦氏が選ばれました。
いよいよ、
松下政経塾から、初の首相の誕生です。

ご存じのように、松下政経塾は、
松下電器産業(現パナソニック)創業者の
松下幸之助によって設立されました。
1979年のことです。
開校日に、幸之助翁に取材したことが思い出されます。
確か、そのとき、内容は忘れましたが、
1期生の野田新代表に取材した記憶があります。

松下政経塾といえば、先日、
パナソニック会長の中村邦夫氏の述懐を、
同塾とPHP研究所の共編でまとめた、
『これからのリーダーに知ってほしいこと――
松下幸之助創業者に学び実践したことから』
という本が、PHP研究所から出版されました。
さっそく読みました。

私は、
中村氏の改革について取材し、
2004年に『なぜ松下は変われたか』(祥伝社)を上梓しました。
今回、『これからのリーダーに知ってほしいこと』
を読んで、「こういうことだったのか」と、あらためて
“中村革命”について、より深く理解できたように思いました。

この本の中で、中村氏の次のように発言しています。
僕自身、あまり能がない男ですが、もしあるとするならば、
ものを考えることなのかもしれませんね

こんなことがいえるのは、
「考える」ことに対して、
日頃、よほど意識していて、
自負していらっしゃるからでしょう。
政界のリーダーも、“思い付きで発言”
“場当たり発言”
を金輪際辞めて、
しっかりと
「考え」て行動してほしいものです。

また、3.11のあと、幸之助ならいまの事態をどう考え、
行動したか考えてみたとして、次のように述べています。
想定外のことに処してこそ、それを考えてこそ、
行政の責任者といえるのではないでしょうか。
それは企業経営も同じであり、
あらゆるリーダーは想定外のことを
意識しておくことが必要なのです


また、中村氏は、次のように
日本の政治について注文をつけています。
いまの政治家は、企業経営も参考にしてほしいと思うのです。政治の機能不全が日本をいまのような国にしてしまったのです。変化に対応するスピード、みずからが変化していくスピードは、やはり民間企業が速いのです。そして一番遅いのが政治でしょう。それは日本だけに限らないことかもしれません。しかし日本はその中でも政治変革が遅いように思えてなりません

松下政経塾出身の野田新代表には、
是非、この本を読んでもらいたいと思います。



HPのパソコン事業分離、戦略転換の速さに学ぶ

2011-08-19 17:48:46 | 社会・経済

米企業のダイナミックな事業戦略には驚きます。

米コンピュータメーカーの
HP(ヒューレット・パッカード)は、
パソコン事業の分離を検討すると発表しました。
HPのパソコンといえば、
世界シェア1位です。
その、
ドル箱だったパソコン事業を、HPは、
なぜ、
本体からカーブアウトするのでしょうか。

将来性がないと判断したからです。
どういうことか。
いまは、世界シェア1位で、それなりの売上がありますが、
欧米市場が成熟し、パソコンの需要が伸び悩んでいます。
多機能端末やスマートフォン、クラウドサービスなど、
パソコン以外のIT事業が伸びてきています。
また、
営業利益がほかの主力事業に比べて低い。
HPの場合、他事業は15%程度の営業利益があるのに対し、
パソコン事業は5%前後といいます。
HPの選択は、いってみれば、
ITサービスやソフトに特化し、
収益性の低いハードのパソコンには、見切りをつけたということです。

かつて、ハードからソフトへと転換した企業としては、
IBMがあります。当時、ThinkPad」ブランドを捨てた
IBM
の決断
にも驚きましたが、今回のHPの戦略転換も大胆です。
現在、HPのパソコン事業は、
売上高の3割を占めます。
それを切り離すというのだから、
改めて、
米企業の経営のダイナミックさ、
決断のタイミングとスピード感
、そして、割り切り方に驚かされます。
日本企業で、かくもドライな経営決断をできるでしょうか。

じつは、
日本の家電メーカーは、
HP並みの大胆な事業戦略の転換が求められています。
ズバリ、
テレビ事業です。
日本の家電メーカーは、収益性が悪いどころか
赤字のテレビ事業を抱えています。
米国流のマネジメントからすれば、
ただちにテレビ事業はやめなければいけません。
ところが、
依然、テレビ事業は赤字を垂れ流し続けています。
日本流のマネジメントでは、切り捨てるのが簡単ではありません。

テレビ事業に携わる技術者は、
「われわれはテレビに命をかけている」というでしょう。
また、
雇用の問題もあります。
テレビ工場を閉鎖するなんてとんでもないことだといいます。
むろん、テレビ事業が
黒字化する保証があればいいでしょう。
しかし、それがないとすれば、それこそ、
取り返しがつかなくなるのではないでしょうか。
HPのパソコン事業分離に、学ぶことは多いと思います。