連載は終了しましたが、またまた東京スカイツリーの話です。
「東京タワー」や、パリの「エッフェル塔」といわれたとき、
思い浮かぶのは、タワーのどんな姿でしょうか。
足元から見上げた「近景」か、
東京の街やパリの街のなかに立つ「遠景」の、どちらかでしょう。
スカイツリーには、これに加えて「中景」というコンセプトがあります。
例えば、スカイツリーが伸びるにしたがい、
その姿は、連日のように新聞の紙面を飾りました。
その写真の多くは、路地の間から、ふいに、ニョキリと立ち上がった
スカイツリーの姿を写したものでした。これが、「中景」です。
スカイツリーは、隅田川、荒川、JR総武本線に囲まれた、
大きな3角形の中心付近に立ちます。
その三角形の地域に、ビルと家並みがびっしりとひしめくのが
墨田区の下町です。下町には、いまも
昔ながらの路地が数多く存在しています。
これらの路地から眺めるスカイツリーは、塔体の「そり」「むくり」から、
場所によって、さまざまな表情を見せます。
また、スマートなので、細い路地から見ても、川に映して見ても、
足元まできれいに見えることが多いのも、「中景」に適しています。
「中景」のスカイツリーは、下町の風景に溶け込み、サマになっています。
東京タワーやエッフェル塔では、こうはいかないと思うのです。
先日書いた通り、施主の東武鉄道は、
地域とのつながりを大切にしてきた企業です。
スカイツリーで目指したのは、下町に根付くコミュニティと結びつき、
絆をより深めるきっかけとなるようなタワーであり、
タワーのある町づくりです。
例えば、地域住民の間で、「うちの前からは、夕方5時ごろが見ごろで、
こんなふうに見える」と、スカイツリーをめぐって会話の生まれる
親しみに満ちたタワーを理想に掲げました。
地域住民が暮らしのなかで見るスカイツリーは、近くも遠くもなく、
まさしく「中景」です。
東武鉄道は、タワーが、墨田区をはじめ、東武の沿線活性化につながるよう、
地域にファミリー向けマンションや、保育所を設置するなど、
沿線の定住人口拡大にも取り組んでいます。
東日本大震災をはじめ、暗いニュースの多い日本で、
人々は自信をなくし、下を向いて歩きがちです。
そんななかで、スカイツリーを訪れた人たちは、みんな上を見上げています。
スカイツリーは、墨田区や東武沿線活性化にとどまらず、
日本全体の「元気印」となり、新たな日本の象徴に
なるのではないか、いや、なるに違いないと思います。