片山修のずだぶくろ Ⅰ

経済ジャーナリスト 片山修のオフィシャルブログ。2009年5月~2014年6月

<お知らせ>

2014-06-16 12:38:20 | お知らせ

ブログを引っ越しました。

新しいブログ「片山修のずだぶくろⅡ」は、こちらからアクセスください。

あわせてホームページをリニューアルしましたので、ぜひご覧ください。

http://katayama-osamu.com/wordpress/

 


マニラに「渋谷行バス」が走るわけ

2014-06-13 17:08:22 | 社会・経済

世の中、リサイクル時代です。
以下は、日本をめぐるグローバルなリサイクルの話です。

インドネシアの首都、ジャカルタを、
JR埼京線の旧車両が走っています。
昨年9月以降、JR東日本は、ジャカルタ首都圏鉄道株式会社に、
埼京線で使用してきた車両180両を、安く譲渡しているのです。
埼京線の緑色の帯の車両は、ジャカルタでは、
赤い地に黄色い帯の、いかにも南国チックな色に塗られています。
さらに、横浜線の車両約170両も、先月末から譲渡が開始されました。

しかし、電車の車両というものは、
まったく違う環境にポンと譲渡して、すぐに走れるものなのか。
そんなことはないでしょう。
まず、レールの幅が必ずしも同じとは限りません。
電圧が違えば、不都合が出てきます。
ホームの高さが大きく違えば、乗り降りが不便です。
しかし、ジャカルタ首都圏鉄道では、何の不都合もないようです。

というのは、かれこれ30年ほど前、国鉄時代末期のこと。
日本から、鉄道の技術者がインドネシアに派遣され、
電車を走らせるための技術協力をしたのです。
したがって、ジャカルタの線路の幅や電圧などの基本構造は、
日本と同じだというわけです。
インドネシア当局の認証が得られれば、大きな手を加えなくても、
そのまま走れるんだそうです。

電車の耐用年数は、約20年といわれますが、
日本製の家電が、耐用年数をこえても壊れないのと同じで、
自動車や電車も、耐用年数を迎えたからといって、簡単には壊れません。
実際、日本でさんざん使ったタクシーを、
アジアに払い下げるという話を耳にします。

会社によって違うようですが、タクシーは40万km以上走って、
廃車になります。そのタクシーは、アジアに輸出され、
第2の“お勤め”をします。バスも同じです。
フィリピンの首都マニラを、“渋谷行”のバスが走っていた
という話があるのは、以上のような理由からです。

また、日本のユーズドカーは、東南アジアの新興国で重宝されている。
ロシアのシベリア地区でも、品質がいいというので、
日本の中古車は人気が高いといいます。

このほか、衣類についても、同じことがいえます。
例えば、以前に聞いた話ですが、バングラディシュには、
日本人のネームが入った背広が出回っているといいます。
古着として、はるかバングラディシュで、
これまた第2の“お勤め”をしているわけです。

それから、廃棄物も海を渡っているといわれました。
資源が埋もれている家電ゴミは、究極のリサイクルですね。
日本の家電製品のゴミを、中国の“ゴミ商人”が、
高値で買い取っていくという話でした。
あれは、いま、どうなっているんでしょうかね……。

まあ、日本の「MOTTAINAI」精神からいえば、
耐用年数を過ぎたからといって、解体、処分というのは、
まさしく、もったいない。
大量生産・大量消費の高度経済成長時代の名残りか、
いまだ“使い捨て”文化が横行する日本社会ですが、
意外な形というか、意外なところで、よその国のお役に立っているわけですな。

 


サムスンの“世代交代”

2014-06-12 16:38:24 | 電機メーカー

先週、サムスン二代目会長の
李健熙(イ・ゴンヒ)さんが倒れたことに関して、
サムスンの事業継承は成功するか」というブログを書きました。
今日は、その続報です。

前回、サムスンは、トップ交代に向け、
周到な準備をしてきたはずだと書きました。
具体的に、どのような準備が進められてきたのか。
人事異動から見てみましょう。

まず、2010年、サムスングループのなかで目立った
トップをめぐる人事異動がありました。
長男の李在鎔(イ・ジェヨン)さんが、サムスン電子の社長に就任。
長女の李富真(イ・ブジン)さんは、
エバーランドの戦略担当社長兼ホテル新羅社長のほか、
サムスン物産商事部門の顧問にも就任しました。
これは、事業継承の布石の第一弾といえるでしょう。

さらに、その後、注目すべき人事がありました。
李健熙さんの側近集団、すなわち
サムスングループの参謀本部「未来戦略室」の人事異動です。第二弾です。
12年6月、
サムスン電子副会長兼CEOだった
崔志成(チェ・チソン)さんが、突然、未来戦略室長に就任。
サムスンの人事は、毎年12月に行われますが、このときは異例でした。
崔志成さんは、現在も同職を務めています。
同年12月には、
李在鎔さんがサムスン電子の副会長に就任しました。

そして、いまから考えると、もっとも大きな布石が打たれました。
今年4月30日の未来戦略室の大幅な人事異動です。第三弾です。
これは、5月1日付で、前日の30日に発表されました。
これまた、12月の定期的な人事とは別です。
関係者も、「なぜ、こんな大きな人事が、この時期なのか」と、
首をかしげたほどです。
未来戦略室は、現在、6つのチームと遵法経営室がありますが、
これらのそれぞれのトップ7人のうち、
6人が変わるという大きな人事でした。

じつは、その10日後の10日、李健熙さんは、急性心筋梗塞で倒れたわけです。
この倒れる直前の大幅な「未来戦略室」の人事異動こそは、
李健熙さんの“世代交代”に向けての
メッセージだったのではないかと思われるのです。

この人事の特徴は、ズバリ「未来戦略室」各チームのトップの若返りです。
60歳を超えるのは、室長の
崔志成さんと、
以前からいた未来戦略室次長の張忠基(チャン・チュンギ)さんだけです。
あとは、すべて50代になりました。
これは、何を意味するか。
つまり、45歳の息子の李在
鎔さんへの
バトンタッチの準備ではないのかと思われるのです。

また、未来戦略室のチーム長を離れた6人のうち3人は、
サムスン電子に戻りました。同じような役割をもつポジションに就いたのです。
これは、サムスン電子の経営体制の強化だと考えられます。
いずれにせよ、その人事異動の10日後に病に倒れたわけですから、
さまざまな憶測を呼ぶのは、当然ですよね。

李健熙さんは、今年1月11日に韓国を出て以来、
約3か月間、海外生活を送っていました。
4月17日に帰国しましたが、おそらく、
自らの体調が思わしくないことを、よくわかっていたのではないでしょうか。

海外への長期滞在中、熟考に熟考を重ね、
いつ、息子がトップに立っても問題なくグループが運営されるよう、
新たなマネジメント体制を練り上げたと考えることができます。

帰国2週間後の人事発表、そして病に倒れる……。
ギリギリ間に合った、という印象を受けますね。


デンソーあってのトヨタだ!

2014-06-11 21:41:21 | トヨタ

 

デンソーが、今月中にも、自動運転支援システムの実証実験を行います。
国内部品メーカー初です。

運転手がハンドルを握らなくても、
ボタン一つで、車が安全に動き、目的地まで連れていってくれるという、
完全な自動運転が実現するには、時間がかかるどころか、
法整備の必要性などを考えると、現段階では、夢のまた夢の話です。

むしろ、メーカーが自動運転に取り組むのは、
安全技術に寄与するところが大だからです。
実際、自動車メーカーや部品メーカーが取り組む自動運転技術は、
ドライバーの運転支援に応用されています。

例えば、トヨタのプリクラッシュセーフティシステムには、
自動ブレーキによる衝突回避支援や、
ドライバーの顔の向きを検知し、
よそ見や居眠りに対して警報するシステム、操舵回避支援、
そして、追突される前に、ヘッドレストを移動させて、
むち打ち障害の軽減を図るシステムなどが含まれています。

これらを実現するためには、
障害物を検知するためのミリ波レーダをはじめ、
前方の障害物の立体物認識情報を得るためのステレオカメラ、
運転者の顔の向きを撮影する車室内カメラ、
ブレーキやサスペンションのコントロール、画像処理など、
さまざまな技術が必要です。

デンソーは、
ステレオ画像処理ECU(エンジン・コントロール・ユニット)、
走行支援ECU、前方ミリ波レーダ、
プリクラッシュシートベルトECUなどを供給しています。

デンソーが、自ら自動運転支援システムの実証実験をするのは、
それらの技術やシステムについて、自らが磨きをかけるためです。
デンソーのような日本を代表する部品メーカーには、
その役割が期待されているのです。
部品メーカーが強くならなければ、
日本の自動車メーカーは強くならない。
この際、思い切っていいます。
デンソーあってのトヨタ――なんですから。

 


人間支援ロボットはどこまで進化するか

2014-06-10 20:07:01 | 電機メーカー

今日は、産業ロボットではなく、
近年とみに進化の著しい
人間支援ロボットについて考察しました。

近年、ロボットやAI(人工知能)の市場は、
急速に熱を帯びています。
新たなロボット市場が、生まれつつあるといっていいでしょう。

経産省とNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)によれば、
国内のロボット市場は、2035年に9兆7000億円に達します。
うち、サービス分野のロボットは、4兆9000億円と、半分超です。
当然、ロボット市場は、国内にとどまらず、世界に広がりますから、
市場規模は、何倍にも膨らむと考えられます。

ソニーは1999年、ペット型ロボット「AIBO」、
ホンダは2000年、二足歩行ロボット「ASIMO」を発表するなど、
日本は、世界のロボット開発をリードしてきました。

このほか、病院で薬などを運ぶパナソニックの「ホスピー」、
プロペラで飛びながら不審者などを撮影する、セコムの監視ロボット、
トヨタのリハビリテーションを支援する「歩行練習アシスト」など、
物流、警備、清掃、介護分野などに広がっています。
ようやく、市場が形成されつつある印象ですね。

そこに、新たに今月5日登場したのが、ソフトバンクの
感情を認識する人型ロボット「Pepper(ペッパー)」です。
来年2月には、一般向けに市販される予定です。

開発したのは、ソフトバンクが2年前に出資した、
仏ベンチャー企業、アルデバラン・ロボティクス社。
生産するのは、iPhoneiPadEMS(受託製造サービス)で知られる、
台湾の鴻海精密工業グループです。

「ペッパー」は、インターネットを通じ、クラウドで情報処理をします。
「ペッパー」が普及すればするほど、
クラウド上には、「ペッパー」からのデータが収集される。
つまり、膨大な「ビッグデータ」が蓄積される仕掛けです。

じつは“ロボ・クラウド”といって、
世の中にある数々のロボットの経験から学習した知識を
クラウド・コンピューティングのもとで共有する計画まであります。
「ペッパー」も、そのようにして、どんどん賢くなっていくというのです。
通信技術の進化や、クラウドのサービスが普及したからこそ、
こうしたロボットビジネスモデルが成り立つわけですね。

ただ、いまのところ、
ロボットビジネスが育つには、長い時間がかかります。
実際、ソニーは「AIBO」を育てきれず、
2006
年に、ロボット事業を撤退しました。
ホンダ「ASIMO」は、市販の計画はありません。
「ペッパー」は、19万8000円と安価です。
決して高額ではありませんが、簡単に普及するとは思えません。
しかし、ソフトバンクは、長期的な視点のもと、「ペッパー」を育てていく方針です。
莫大な資金力があるからこそできるんですな。

ロボット・フィーバーは、日本だけではありません。
米シリコンバレーでも、ロボットやAIは、注目を集めています。
13年11月、グーグルは、
東京大学発のロボットベンチャー企業「シャフト」を買収し、
話題になりました。
グーグルは、シャフトのほか、
ロボットに関連企業7社を、続けざまに買収しています。
また、米フェイスブック、中国の百度(バイドゥ)をはじめ、
資金力のあるIT企業は、ベンチャー企業を買収するなどして、
ロボット事業に参入する例が、相次いでいます。

日本は、少子高齢化が深刻化するなか、
労働力不足を補うため、産業用のロボットや、
サービス用ロボットなどの活躍が期待されます。

日本が、世界のロボット市場において存在感を示し続け、
ロボット先進国の座を維持できるかどうかは、
長期的視点で、ロボット事業を育てられるかどうかにかかっていると思います。
ソニーのように、途中で放棄してはダメですよね。