手づくり漆器 ~うるし うるおい うるわし~

鳥取の漆職人がお届けします。

伝統工芸士

2010-11-01 07:57:29 | Weblog
平成15年ごろまで、鳥取県の伝統工芸士の認定基準がはっきりしていなかった。

焼き物や民芸品の職人が多く認定され偏った評価があるように思えていた。

そのことを、鳥取県の担当職員に話したことがあったが、田中さんのことなど微塵にも知らなかった。というより、漆の業界についてまったく無知であった。

「こんなんでは、だめだわ・・。やるしかないなあ・・。」

それから、田中さんの伝統工芸士認定の運動に走った。

伝統工芸士に認定してもらうにはどうしたらいいのか?

そのころ、「ほんもの市」というイベントが鳥取県庁内で開催された。
鳥取県のものづくり職人が一同に、自慢の作品を展示するというイベントである。

私は、田中さんに話をして出展してもらった。

それが良いチャンスになった。当時の知事であった片山知事がそれを見てくださった。

「これは、あなたが作られたのですか?」と田中さんに質問された。田中さんは緊張して「はい、私が作りました。」と答えた。

田中さんは、戦争で軍隊に行った経験があるので、上司に対する受け答えは、背筋を伸ばして答えるような仕草があった。


「すばらしい作品ですね。鳥取でもこうした漆の作品があるんですね・。」「はい。」こうした会話が、歴史的に行われた。私は、二人の顔を見ながらそのやり取りを嬉しい気持ちで聞いていた。

その後、鳥取市役所に相談した。そしたら、まず、鳥取市の教育委員会がその事を認証し、それを鳥取県に上げるという手順がいることを知った。

そのうちに、鳥取県から田中さんの伝統工芸士の認定について私のほうに連絡が入り、書類が送られてきた。

その書類を持って、すぐに田中さんの家に車で走った。

「田中さん。やっときましたよ。」と届いた書類を見せた。

田中さんは、「すいません。あんたになにからなにまでしてもらって。すいません・。」

「たなかさん良いですよ。そんなこといわんでも・・。」
私は、神妙にお礼を言われる田中さんに言った。

「すいませんが、これも書いてもらえんですか?」と悪そうに田中さんがぼそっと言った。

「良いですよ・・。じゃ書きます。書いて又来ます。」私は、やっと実現した田中さんの伝統工芸士認定に心が躍った。

「やっぱり、片山さんは早いわ・・。よく、理解してくださった・。」帰る途中の車の中で片山鳥取県知事に感謝した。

  つづく


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