先日、『台北アセット 公安外事・倉島警部補』の読後印象を載せた。これは第7弾。その時、第6弾の本書を見過ごしていたことに気づいた。このことには触れている。
そこで遅ればせながら本書を読んだ。冒頭の画像は単行本の表紙である。
奥書を読むと、「オール讀物」(2020年2月号~2021年3・4月号合併号)に連載された後、2021年7月に単行本が刊行された。

2023年11月に文庫化されている。この文庫本の表紙を見て気づいたことがある。カバー写真として景色を撮った視点が変化している。それよりも、文庫本には、「公安外事・倉島警部補」という添えの標題が加わっていた。第7弾の単行本には添え標題が記されていた。この第6弾の単行本には記されていない。調べてみると、文庫の新カバー版からこの添え標題が冠されたようである。
公安部外事一課第五係に所属する倉島警部補が、「作業」に従事すると、それは諜報活動なので極秘事項である。つまり、「コンフィデンシャル」なマターを扱うという意味でこの第6弾のタイトルに「コンフィデンシャル」が使われることはいたってあたりまえといえる。だけど、本作を読了してみて、ロータス(LOTUS)という語が冠言葉として選択されたのはなぜなのか。読後印象としてこの由来がわからなかった。倉島は佐久良公総課長に作業の計画書を提出したが、別にこの計画書にコード名が付された記述はないし、ストーリーの中でも、記憶では「ロータス」という言葉は出てこなかった。なぜ「ロータス」が冠されたのか。それが一つ不可思議として印象に残った。
さて、本作のおもしろさは、警視庁公安部外事一課の倉島、外事二課の盛本、刑事部捜査一課の田端課長以下の殺人事件捜査本部、この3者が複雑に絡み合っていくところにある。3者それぞれは、己の捜査活動においてコンフィデンシャルな情報を抱えている。問題解決のためには、立場が異なるとはいえ相互に情報を交換して関わり合っていかなければならない。お互いの立場を斟酌しつつ、ぎりぎりのところで連携協力関係を築き上げる努力を重ねる。互いにコンフィデンシャルな情報の共有を図らなければ、効率よく効果的に目指す目的を達成できないからだ。想定される敵よりも早く対処しなけらば・・・・という緊迫感がつきまとう。刑事部と公安部という水と油のように発想の違う組織がぶつかり合いながら協力するところが読ませどころになる、
冒頭では、ロシア外相が随行員を伴い総勢65人で来日する。公安部は随行員のうち、50人を行確対象者とし、分担して監視体制を組む。この中に第5係の倉島たちも24時間体制で組み込まれる。公安部の作業班、つまり諜報活動担当者の一人である倉島は、ロシア大使館の三等書記官コソラポフとコンタクトをとりつづける。倉島の情報源である。このストーリーの進展で、しばしば登場してくる人物。勿論、タヌキとキツネのだましあいのような駆け引き関係が繰り広げられる。
監視中に、倉島は、刑事部から公安部に異動してきた年齢では先輩の白崎から、殺人事件のニュースを知らされる。被害者はベトナム人で、外事二課も動きだしたそうだという。倉島は軽く聞き流した。監視業務を終え、宿舎で眠っていた倉島は、公安機動捜査隊の片桐秀一からの電話で起こされる。片桐がもたらした情報は、白崎が言っていたベトナム人を殺害した被疑者がロシア人かもしれないことと、そのロシア人が来日中の随行員の一人と接触した可能性があるということである。そのことを捜査一課の刑事から聞いたという。
片桐は一度行確に駆り出されそのロシア人の名前を思えていた。名前はヴォルコフ。日本に滞在する音楽家でバイオリニスト。刑事部では、まだ被疑者と断定した段階ではないという。片桐は、ヴォルコフを要注意人物と認識し、彼の犯行と思っているという。倉島は初めて聞く名前でもあり、片桐の情報をも軽視した。
これが後に、倉島にとっては、大きな反省材料になっていく。
被害者はベトナム人。チャン・ヴァン・ダット。37歳。技能実習生として来日。
被疑者はロシア人。マキシム・ペトロヴィッチ・ヴォルコフ バイオリニスト。
日本在住。
倉島はものの見方を逆転させる。ヴォルコフが被疑者という観点から、彼の身辺調査と殺人の理由を調べ始める。ここからこのストーリーが始動する。
その最初の進め方が、後に問題視される。随行員の行確、監視業務が終了した後、白崎が独自の行動をはじめ、倉島は白崎との連絡がつかず、白崎の行方不明という状況が発生する。
倉島は、まずはできること、優先度の高い事項を列挙する。「ヴォルコフノ身辺調査。白崎の足取りを追う。ヴォルコフの行確。チャン・ヴァン・ダッド殺害の捜査の進捗を聞く」
直属の上司上田係長と佐久良公総課長の二人から大目玉を食う羽目になる。このあたりも、公安部という組織のあり様がリアルに描かれていて興味深い。
紆余曲折をへて、倉島の作業計画書は佐久良課長から承認される。作業班が立ち上げることがな能になる。そのメンバーを記しておこう。
リーダーは勿論、倉島警部補。
白崎 第五係の同僚。元刑事の人脈が生かされていく。
片桐 公安機動捜査隊員
伊藤 公安総務課公安管理係。公安のセンスがある人材。
それぞれの持ち味がうまく相乗効果を生んでいくところが楽しめる。特に、伊藤のキャラクターが一つの要として作用しているように思った。このシリーズが続いていくならば、いずれ再び登場してくるのではないかという気がする。
倉島は外事二課で中国担当の盛本とコンタクトをとる。一方、殺人事件の捜査本部を訪れ、情報のギブ・アンド・テイクを行いながら、捜査本部との協力関係を築いていく。面白いのは、公安機動捜査隊の隊長との交渉である。公安的センスのない隊長というのが、ユーモラスである。どんな組織にも、場違いな人物が居る。そんな要素を盛り込んでいるのもおもしろい。
なぜ、外事二課が絡んでくるのかがこのストーリーを複雑にし、かつおもしろくする要素になっていると思う。
このストーリー、倉島がヒューミントと称される情報収集活動を中軸に織り込みながら殺人事件の捜査と公安視点の捜査の違いを対比させつつ、公安部と刑事部が連携していく難しさと必要性をリアルに描いている。そこが読ませどころである。
著者は、公安部と刑事部の思考・発想の違いとそれぞれの長所の対比を読者がイメージしやすく描き出そうという意図が根底にあったのではないかと思った。
情報をどのように収集し、分析し、読み取っていくか。情報をどのように組み合わせ、ていくか。そこにも力点がおかれているように感じる。公安の「作業」の意味合いを感じ取れるところがよい。
ご一読ありがとうございます。
補遺
この作品を読み、リアルな現実世界での事実情報を少し検索してみた。
ベトナムにおける原子力発電所建設計画に係る事務レベル協議について
平成23年(2011)9月9日 :「外務省」
ベトナム、原発計画中止 日本のインフラ輸出に逆風 2016.11.22 :「日本経済新聞」
ベトナム・原発からの「勇気ある撤退」の理由とは :「FoE Japan」
ベトナムの国情と原子力開発 2014年12月 :「ATOMICA原子力百科事典」
ロシア ベトナムの原子力科学技術センター建設を支援 2024.1.26:「原子力産業新聞」
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そこで遅ればせながら本書を読んだ。冒頭の画像は単行本の表紙である。
奥書を読むと、「オール讀物」(2020年2月号~2021年3・4月号合併号)に連載された後、2021年7月に単行本が刊行された。

2023年11月に文庫化されている。この文庫本の表紙を見て気づいたことがある。カバー写真として景色を撮った視点が変化している。それよりも、文庫本には、「公安外事・倉島警部補」という添えの標題が加わっていた。第7弾の単行本には添え標題が記されていた。この第6弾の単行本には記されていない。調べてみると、文庫の新カバー版からこの添え標題が冠されたようである。
公安部外事一課第五係に所属する倉島警部補が、「作業」に従事すると、それは諜報活動なので極秘事項である。つまり、「コンフィデンシャル」なマターを扱うという意味でこの第6弾のタイトルに「コンフィデンシャル」が使われることはいたってあたりまえといえる。だけど、本作を読了してみて、ロータス(LOTUS)という語が冠言葉として選択されたのはなぜなのか。読後印象としてこの由来がわからなかった。倉島は佐久良公総課長に作業の計画書を提出したが、別にこの計画書にコード名が付された記述はないし、ストーリーの中でも、記憶では「ロータス」という言葉は出てこなかった。なぜ「ロータス」が冠されたのか。それが一つ不可思議として印象に残った。
さて、本作のおもしろさは、警視庁公安部外事一課の倉島、外事二課の盛本、刑事部捜査一課の田端課長以下の殺人事件捜査本部、この3者が複雑に絡み合っていくところにある。3者それぞれは、己の捜査活動においてコンフィデンシャルな情報を抱えている。問題解決のためには、立場が異なるとはいえ相互に情報を交換して関わり合っていかなければならない。お互いの立場を斟酌しつつ、ぎりぎりのところで連携協力関係を築き上げる努力を重ねる。互いにコンフィデンシャルな情報の共有を図らなければ、効率よく効果的に目指す目的を達成できないからだ。想定される敵よりも早く対処しなけらば・・・・という緊迫感がつきまとう。刑事部と公安部という水と油のように発想の違う組織がぶつかり合いながら協力するところが読ませどころになる、
冒頭では、ロシア外相が随行員を伴い総勢65人で来日する。公安部は随行員のうち、50人を行確対象者とし、分担して監視体制を組む。この中に第5係の倉島たちも24時間体制で組み込まれる。公安部の作業班、つまり諜報活動担当者の一人である倉島は、ロシア大使館の三等書記官コソラポフとコンタクトをとりつづける。倉島の情報源である。このストーリーの進展で、しばしば登場してくる人物。勿論、タヌキとキツネのだましあいのような駆け引き関係が繰り広げられる。
監視中に、倉島は、刑事部から公安部に異動してきた年齢では先輩の白崎から、殺人事件のニュースを知らされる。被害者はベトナム人で、外事二課も動きだしたそうだという。倉島は軽く聞き流した。監視業務を終え、宿舎で眠っていた倉島は、公安機動捜査隊の片桐秀一からの電話で起こされる。片桐がもたらした情報は、白崎が言っていたベトナム人を殺害した被疑者がロシア人かもしれないことと、そのロシア人が来日中の随行員の一人と接触した可能性があるということである。そのことを捜査一課の刑事から聞いたという。
片桐は一度行確に駆り出されそのロシア人の名前を思えていた。名前はヴォルコフ。日本に滞在する音楽家でバイオリニスト。刑事部では、まだ被疑者と断定した段階ではないという。片桐は、ヴォルコフを要注意人物と認識し、彼の犯行と思っているという。倉島は初めて聞く名前でもあり、片桐の情報をも軽視した。
これが後に、倉島にとっては、大きな反省材料になっていく。
被害者はベトナム人。チャン・ヴァン・ダット。37歳。技能実習生として来日。
被疑者はロシア人。マキシム・ペトロヴィッチ・ヴォルコフ バイオリニスト。
日本在住。
倉島はものの見方を逆転させる。ヴォルコフが被疑者という観点から、彼の身辺調査と殺人の理由を調べ始める。ここからこのストーリーが始動する。
その最初の進め方が、後に問題視される。随行員の行確、監視業務が終了した後、白崎が独自の行動をはじめ、倉島は白崎との連絡がつかず、白崎の行方不明という状況が発生する。
倉島は、まずはできること、優先度の高い事項を列挙する。「ヴォルコフノ身辺調査。白崎の足取りを追う。ヴォルコフの行確。チャン・ヴァン・ダッド殺害の捜査の進捗を聞く」
直属の上司上田係長と佐久良公総課長の二人から大目玉を食う羽目になる。このあたりも、公安部という組織のあり様がリアルに描かれていて興味深い。
紆余曲折をへて、倉島の作業計画書は佐久良課長から承認される。作業班が立ち上げることがな能になる。そのメンバーを記しておこう。
リーダーは勿論、倉島警部補。
白崎 第五係の同僚。元刑事の人脈が生かされていく。
片桐 公安機動捜査隊員
伊藤 公安総務課公安管理係。公安のセンスがある人材。
それぞれの持ち味がうまく相乗効果を生んでいくところが楽しめる。特に、伊藤のキャラクターが一つの要として作用しているように思った。このシリーズが続いていくならば、いずれ再び登場してくるのではないかという気がする。
倉島は外事二課で中国担当の盛本とコンタクトをとる。一方、殺人事件の捜査本部を訪れ、情報のギブ・アンド・テイクを行いながら、捜査本部との協力関係を築いていく。面白いのは、公安機動捜査隊の隊長との交渉である。公安的センスのない隊長というのが、ユーモラスである。どんな組織にも、場違いな人物が居る。そんな要素を盛り込んでいるのもおもしろい。
なぜ、外事二課が絡んでくるのかがこのストーリーを複雑にし、かつおもしろくする要素になっていると思う。
このストーリー、倉島がヒューミントと称される情報収集活動を中軸に織り込みながら殺人事件の捜査と公安視点の捜査の違いを対比させつつ、公安部と刑事部が連携していく難しさと必要性をリアルに描いている。そこが読ませどころである。
著者は、公安部と刑事部の思考・発想の違いとそれぞれの長所の対比を読者がイメージしやすく描き出そうという意図が根底にあったのではないかと思った。
情報をどのように収集し、分析し、読み取っていくか。情報をどのように組み合わせ、ていくか。そこにも力点がおかれているように感じる。公安の「作業」の意味合いを感じ取れるところがよい。
ご一読ありがとうございます。
補遺
この作品を読み、リアルな現実世界での事実情報を少し検索してみた。
ベトナムにおける原子力発電所建設計画に係る事務レベル協議について
平成23年(2011)9月9日 :「外務省」
ベトナム、原発計画中止 日本のインフラ輸出に逆風 2016.11.22 :「日本経済新聞」
ベトナム・原発からの「勇気ある撤退」の理由とは :「FoE Japan」
ベトナムの国情と原子力開発 2014年12月 :「ATOMICA原子力百科事典」
ロシア ベトナムの原子力科学技術センター建設を支援 2024.1.26:「原子力産業新聞」
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