ぐるりのこと。
2008
橋口亮輔
この映画、大好きです。
140分という割と長尺にもかかわらずその時間を感じさせません。
試写にて鑑賞させていただきました。
橋口監督ということもあり期待せざるを得ませんでしたが、その期待に十分応える作品でした。むしろ、それ以上。
同行して鑑賞した方は『「ハッシュ!」の方がもっとエッジが効いてた』という感想だったのですが、むしろそのエッジの鈍さというか、まさにタイトルにある「ぐるり」と人を描く目線がとても好き。
説教クサイ台詞を言うでもなく、とんでもない事件が起こるでもない。
そのとりとめもない夫婦の姿をドキュメントのような目線で追った作品。
恐ろしいほど真剣に撮られた映画です。
もちろん、見た目の派手さはありませんし、物語の奇抜さもそれほどありません。
しかし、そんなことはむしろ邪魔。
設定では法廷画家の夫(リリー・フランキー)と小さな出版社に努める美大卒の妻(木村多江)という夫婦。
この二人、というかそれ以外にも良い役者さんが多数出演しています。おかげで、随分と個性的な人間ばかりが出てきますが、それらは香辛料に過ぎず。
物語の節々出てくる過去10年を騒がせた数々の事件。その法廷を描く夫。
でも、その事件たちはなんだかその時間を感じるための舞台装置であったのでは。その事件の時に感じた気持ち。そのときに交わしたその事件に関する会話。それを含めての私たちの時間。
そうではないのかもしませんが、私はそう感じました。
「わたし」の中心はすべからく「あなたとわたし」であるべきなのだなぁ。
あまりに脇の役者さんが上手いために「そこもうちょっと上手いこと描いたら面白いのになぁ」なんて気分にもなりますが、そこを掘らないことで、むしろその一見アクの強い人たちと対比させることによって主人公夫妻の凡庸さが際だっています。
ただ「離婚しない夫婦」を描いた「だけ」の作品です。その夫婦を巡る出来事は他人から観たら酒の肴になる程度の事件しか起こさない。けれどもその周辺の出来事を描く橋口監督の目がものすごく暖かい。暖かいというか、こういう目で人を見ることができることが羨ましい。
前作からの6年を費やした作品とのこと。しかし、その年月は別としても橋口監督の想いを超えた魂が入り込んでいる気がします。おかげで、作品との距離を感じてしまった。あまりにもプライベートな目線。
決して号泣する映画ではないと思うのですが、節々でニヤつきつつノドの奥が締め付けられる気分になります。
そして鑑賞後、シーンを思い出すほどにどんどん締め付けられる。
家に帰っても思い出される数々のシーン。
目に付く何かを見ることで思い出す何か。
まるで、誰かと一緒に聴いた音楽をもう一度聴くような感覚。
愛おしいとはこういうことか。
この映画を観たあとに頭の中に描きたいのは誰の顔でしょう。
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予告編をみて泣いてしまいました。
そのあと
jurakyさんの文章を読んで、この文章は確かなのだ、と。
胸が喉がきゅう、となりました。
そちらはちょっと遅くの公開みたいですが、是非。
私の感想は、結構ハズシてること多いので、あまり真に受けず、でお願いします。
でも、予告編で感じるよりも良い映画ですよ。