
写真は、「誰のエサだと バ コ ッ!」(カラパイアから)。
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半導体業界に数十年 身を置いて (今は外から) 見続けてきましたが、半導体というものは確かに “ハイテクの塊” ですが、初期投資してから撤退するまでを積算してみると一体儲かる産業なのだろうかと疑問を感じざるを得ません。
勿論 撤退するからには、赤字続きだから撤退するケースと、黒字のうちに売却して撤退するケースがあるでしょうが、圧倒的に前者が多いはずです。
なぜそうなるのでしょう? 過去を振り返ってみると __ 70年代に日本の電機各社が一斉に半導体業界に参入した理由は、”今後の電機電子産業の要 キーデバイスとなるのが半導体だ” という風潮 (共通認識) に促されてのことでした。
だから 初期の数年から10年くらいは赤字続きでも 他部門の黒字をつぎ込んで設備投資を続け、何とか世界の最先端のレベルに達した (自己満足?) のが80年頃です。
そして 一時期ほんの短い間 “半導体業界の花が開いた” のが、80年代後半の 正に日本のバブル真っ盛りの頃です。 この時期に日本製は世界の半導体市場の半分のシェアを取り、DRAM に至っては6割を越えていました。
日本の殆どの半導体メーカーは IDM (Integrated Device Manufacturer 垂直統合型) と呼ばれる 開発/生産/販売まですべて自社で行っているので、これが強みだといわれていましたが …
欧米からは日本市場での外国系半導体の売上比率が少な過ぎる、シェア2割を目指して輸入額を増やせ、とせっつかれて通産省が音頭をとって外国系半導体の日本販売を後押ししていた時期でもあります。 私も外国系半導体を販売する側に身を置いていたから、多少なりともお手伝いしました。
世界の半導体トップメーカー10社中 半分が日本メーカーであり、欧米市場にも現地工場を建設するなど ”我が世の春” を満喫していたかのように見えましたが、バブル崩壊とともに凋落が始まります。
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日本の半導体業界の興隆を横から見ていた韓国・台湾が、後を追うように猛烈な設備投資を始め、90年代後半の DRAM 不況時に日本勢が投資を抑えたのに対し、”逆ばりで投資” を続けた韓国勢の読みが当り、日本の DRAM メーカーを突き放したのが2000年頃。
台湾 DRAM メーカーは大成功とはいかないものの、そこそこのシェアを取りましたが、何といっても大躍進したのがファウンドリービジネス (半導体受託製造) です。
その間 最先端を行く米国メーカー勢はというと、MPU の王者インテル以外は、華々しい業績を上げるには至らず 多くはファブレス (工場を持たず開発設計販売に専念) となり、これが台湾のファウンドリーを潤しました。 欧州では1人 ST マイクロが躍進しましたが、これは大手ユーザーの (携帯電話のトップセラー) ノキアを抱えていたからで、直近のノキアの業績から ST マイクロの将来も危ういと予想します。
一方 独シーメンスや蘭フィリップスはもう大手ではなくなった。 また半導体設計だけを行い、製造も販売もせず、設計した内容をライセンス販売だけをする新しい形態の半導体設計会社が英国に現れました。 ARM 社といって、その設計した低消費電力型の MPU は世界中の携帯電話や携帯端末機器に使われ、PC 向け MPU の王者 インテルを携帯機器向けでは寄せ付けません。
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話しを日本に戻すと、韓国 DRAM メーカーの台頭と対照的に 日本メーカーは設備投資の負担に耐えられなくなり、東芝を除く大手 DRAM メーカー (NEC/日立/三菱) が1社に団結して99〜03年 エルピーダとなりましたが、円高に抗しきれず この2月に破綻しました (東芝は DRAM から撤退 NAND メモリーに絞る)。
一方で 90年代後半の DRAM 不況時に、各社が一斉に注力したのがシステム LSI です (※ なぜかは後述) __ 早くいうとカスタム IC です。 ところが過当競争で単価が上げられない。 汎用品ではないから 本来は開発費を別にもらわなくてはならないが、各社はラインを休止させたくないために低価格で受注を続け、また本来は少量ではペイしないものでも注文があると ラインに流し続けて慢性的な赤字体質となっていました。
それでも デジタル家電やゲーム機などで数が数百万とはけるから何とか微々たる利益を出していましたが、日本の LCD TV や携帯電話の凋落とともに数そのものも出なくなり、システム LSI は赤字が決定的となり、(NEC/日立/三菱の DRAM を除く部門が統合した) ルネサスなどは従業員の三割を削減することになります。
そして今月 更に進展があり、米投資ファンドによるルネサス買収を懸念する自動車業界が動きだし、自動車生産に欠かせないマイコンの安定調達のため 官民が 2000億円 で買収する計画が固まりました __
出資は産業革新機構が 1500億円、トヨタやパナソニックなど10社が 500億円。 ルネサスはマイコン専業会社へと生まれ変わる。 ルネサスのシステム LSI 部門は、富士通・パナソニックの事業と統合して、別のシステム LSI 会社となる予定です。
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もう一度いうと、半導体は “ハイテクの塊” ですが、もはや利益を出せる体質の産業ではなくなっています。 インテル MPU は知的財産権によって守られ、韓国の DRAM は早期の設備投資による微細化でのコストダウンとウォン安に守られているともいえます。
日本の IDM (垂直統合型) ビジネスモデルは崩れ、ファブレスで行くのか、ファウンドリーで行くのか、それとも ARM 型のライセンス販売で行くのか、混沌状態が続きます。 今度は、日経エレクという雑誌の指南に従うだけの “みんなで渡れば怖くないという単純行動” (※ 自分で考えず 雑誌のいう通りにした) は止めて欲しい。
世界中どこでも潤沢な投資を続けられる企業であれば、半導体ビジネスに参入でき、汎用品を扱っている限り、競合製品と熾烈な価格競争に晒される日用品と同じレベルの製品となっています。 一度 設備投資をすれば、後々再投資の必要がないという産業ではないから、数年おきに多額の設備投資をし続けないと、旧製品はすぐに低コストの新製品に見劣りする製品となり、市場では全く売れなくなるからです。
いわば 自転車のペダルをこぎ続けないと倒れてしまうから、休むヒマのない業界ともいえます。 日本勢はバブル期にホッとして自転車こぎを止めて、うまいコーヒーなどを飲んで休んでいたのでしょうか?
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日本が得意にしていた半導体に続いて後を追うように 韓国・台湾が、眼を付けた (日本が得意にしていた) 産業が LCD です。 日本の電機各社が発売し始めた LCD TV は初期には独壇場の観がありましたが、韓国・台湾が安値で発売を始めると、年3割も価格が下がり続ける 半導体ライクな製品となり、今や日本に残る LCD パネルメーカーはシャープ1社となり (他のメーカーは外部からパネルを購入して LCD TV として出荷)、そのシャープも売れ行きが鈍って経営が危ぶまれています。
日本の LCD 業界も半導体業界と同じ道を歩むのだろうか? そうなってはほしくないのですが …
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「日の丸半導体、背水の陣 ルネサス再建始動へ」(10月13日 日経) _ ※追加1へ
「半導体の壊滅から日本は何を学ぶか 」(9月3日 武者陵司/ドイツ証券グループアドバイザー・埼玉大学大学院客員教授/ブロゴス) _ ※追加2へ
「復活賭ける日の丸半導体構想、成否の鍵はグローバル戦略」(2月20日 ロイター) _ ※追加3へ
「半導体の壊滅から日本は何を学ぶか 」(9月3日 武者陵司/ドイツ証券グループアドバイザー・埼玉大学大学院客員教授/ブロゴス) _ ※追加2へ
「復活賭ける日の丸半導体構想、成否の鍵はグローバル戦略」(2月20日 ロイター) _ ※追加3へ
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以上
※追加1_ 産業革新機構やトヨタ自動車などによるルネサスエレクトロニクス買収が動き出す。 1980年代に世界を席巻した日の丸半導体は、韓国や米国勢との競争に破れ失速した。 エルピーダメモリが外資の傘下に入ることが決まり、半導体産業を国内に残せるかどうかの瀬戸際でルネサス再建策が固まった。
官民挙げての支援を受け、ルネサスはマイコン専業会社へと生まれ変わる。 本来の「看板製品」は違った。 同社は2010年4月に NEC、日立製作所、三菱電機のシステム LSI (大規模集積回路) 事業が統合して発足。 家電やゲーム機向けでの飛躍が期待された。
だが、システム LSI は国内家電市場の冷え込みとともに、赤字に悩まされてきた。 一方 世界シェア3割で首位のマイコンは、営業利益率2ケタの収益源だ。
米ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ (KKR) によるルネサス買収が現実味を帯びた9月、官民一体の買収計画は異例の速さで練り上げられた。
車のエンジンや産業機械のモーターをきめ細かく制御する高性能マイコンを安定して供給できるメーカーはルネサス以外に見当たらない。 日本を代表する製造企業に広く製品を供給するルネサスの再建は「国内製造業の基盤を守ることにつながる」(経産省幹部)
最盛期に20社近くあった日本の半導体メーカーはすでに半減。主要メーカーは5社程度まで絞られた。 マイコンの大口顧客が出資するという異例のルネサス支援体制は、文字通り背水の陣といえる。
一方 赤字のシステム LSI 事業は、富士通、パナソニックと統合新会社を設立する。 設計開発に特化し、多額の投資を必要とする製造は外部に委託する。 米テキサス・インスツルメンツ (TI) など海外の大手は2000年代半ばに製造部門を切り離し、高収益をあげている。ようやく海外企業と同じ土俵に立つ。
DRAM 専業のエルピーダは米マイクロンが13年に買収する予定。 メモリーの総合メーカーであるマイクロンの傘下で、モバイル端末向けなど付加価値の高い製品開発などに注力する。
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※追加2_ ■ 日銀、政府は産業の慟哭が聞こえるか ■
● 20年前 世界最強を誇った日本の半導体産業がほぼ壊滅、危機は他の産業分野に蔓延しようとしている。 産業集積は一度失われたら取り戻せない。
● 仲間内主義に捕らわれた企業経営・企業統治が一因、しかし超円高・デフレなど不適切な金融・経済政策が危機を決定的にした。
● 日銀・政府は日本の産業集積の崩壊に責を負え。
■ 日本の産業集積の崩壊が始まった!! ■
日本の産業集積が音を立てて崩れつつある。 素材からエレクトロニクス・機械・自動車まで ほとんど全ての産業分野をカバーするフルセット型の産業構造が日本の強みかつ特徴であった。 膨大なシナジー効果が発揮され自動車・エレクトロニクスの成功が部品・素材・装置等 膨大な産業のすそ野を形成し、世界最大の産業強国になった。 1980年代半ばから2000年ごろまで、日本は世界の貿易黒字を一手に引き受ける圧倒的な産業強国であった。
しかし時代は変わった。 ここにきて産業の衰退が否定できないトレンドになりつつある。 かつて「産業のコメ」といわれていた半導体は存亡の淵にある。 過当競争の反省から、日本の大手半導体メーカーは DRAM のエルピーダメモリーと論理 IC 中心のルネサスエレクトロニクスの2社に集約されたが、この二社が事実上破たんし外資傘下に入ろうとしている。 公的資金が注入されたにもかかわらず 倒産したエルピーダは、米マイクロンテクノロジーに身売りされ、ルネサスは米国の買収ファン ド KKR に買われようとしている。 20年前世界最強であった日の丸半導体の壊滅である。
■ 半導体壊滅・エレクトロニクス存亡の危機 ■
テレビ・VTR・オーディオなどの民生用エレクトロニクスでも圧倒的世界シェアを誇っていたのも今は昔、薄型テレビではサムスン、LG の先行を許し、新世代の有機 EL では韓国勢の背中すら見えなくなった。 今ブームとなった最先端のスマートフォン、タブレットでは日本企業の顔も見えない。 ソニー、パナソニックなど 民生用エレクトロニクスメーカーは軒並み大赤字に陥り大リストラを余儀なくされ、シャープに至っては EMS (OEM 生産請負) メーカー、ホンハイに出資を依頼している。
■ ハイテク素材・部品・装置も他山の石ではない ■
でも大丈夫だ、半導体 DRAM、薄型テレビなどコモディティー化した最終製品では敗退しても、それに使われる部品、ハイテク素材、それを作る機械・装置などは圧倒的に日本メーカーが強い、との主張がこれまでは可能であった。 そうしたハイテク素材・部品・装置の輸出により 日本の対韓国、対台湾などアジア向け貿易収支は大幅な出超であった。
しかし そのハイテク素材・部品・装置にも暗雲がたちこめている。 ハイテク機械の花形、半導体製造装置における日本の独壇場は2000年ごろまで。 中枢デバイスである露光装置は日本メーカーキャノン、ニコンが圧倒的であったが、オランダのメーカー ASML が新世代の機種開発で先行し 圧倒的シェアを握っている。
更に ASML にインテルが資本参加し開発資金を提供、それにサムスンと台湾の最大手 TSMC が加わり、次世代装置開発の大コンソーシアムが築かれ、日本メーカーは完全に蚊帳の外に置かれてしまった。 ルネサスは世界の自動車用マイコンで 42% の高シェアを持っているが、その技術流出も懸念されている。 シナジーが崩れようとしているのだ。
同様の日本の凋落は太陽電池、鉄鋼、エチレン、造船へと広がっている。 原発稼働凍結による代替化石燃料の輸入で、日本の貿易収支はとうとう大幅赤字に転落してしまった。
■ 決定的な超円高・デフレなど誤政策 + 仲間内主義の企業体質 ■
二大要因が考えられる。 極端な円高による競争力の喪失、デフレによる経営の頽廃、日本国内の不適切な資源配分、国益無視の産業政策などマクロの問題が一つ。 超円高とデフレは日本企業の活力を決定的に奪っている。
米・英・ユーロ・韓国・中国・スイスなど各国政府と中央銀行が金融政策、為替政策を総動員して通貨高とデフレを回避しようとしている時に、「これ以上出来ることはありません、それはわれわれの領域ではありません」とうそぶく日本の当局の「鈍感さ・無責任さ」は際立っている。
日本企業の世界標準で戦えない仲間内主義があと一つ。 日本の企業統治と経営判断に決定的欠陥があるようだ。 企業内でも産業間でも若々しい部門に資源が配分されず、老いた巨木が若い芽を摘む構造が変わらない。 リスク回避に凝り固まった貯蓄者の資金が国債と問題企業への貸し出しとして機能し、間接金融が電力などの成熟企業への銀行貸出として復活する。
19世紀初頭 世界最強の産業国家だったイギリスが通貨高とデフレであっという間に凋落した二の舞を日本が犯しかねない情勢である。 日本の企業と政策当局の覚醒が必須である。
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※追加3_ ルネサスエレクトロニクスと富士通、パナソニック3社が、苦境に陥っている半導体のシステム LSI 事業を切り出し、統合する交渉に踏み出した。 現在 浮上している有力案は、設計・開発と製造のそれぞれ専門会社に分けるスキームだが、それだけでは新会社の生き残りは難しく、その場しのぎの弱者連合になってしまうとの懸念も出ている。
「日の丸半導体」構想が成功するためには、世界を見据えた戦略が作れるのかどうかが鍵になりそうだ。
<対症療法に過ぎない設計と製造の分離>
「東日本大震災のせいで、重い腰を上げざるをえなくなった」――。 3社のある幹部はこう打ち明ける。 2011年の日本勢の半導体市場のシェアは 18.9% (米 IHS アイサプライ調べ、速報暫定値) と 20% を割り込んだ。 ここ10年間はなんとか 20% 台を維持してきただけに、「ショックは大きかった」(同幹部)
ルネサスエレは震災で自動車産業の巨大なサプライチェーン (部品調達網) の要を担っていることが浮き彫りになったが、その震災が響き今期は連結営業赤字に転落する見込み。 同社は10年にルネサステクノロジと NEC エレクトロニクスが統合して生まれた会社だが、システム LSI 事業は統合前から引き継いできた負の遺産で、震災前から赤字が続いている。 ルネサスは非中核事業の整理を進めており、システム LSI もその筆頭候補。
富士通も同事業を手がける子会社の富士通セミコンダクター (横浜市) が発足3年目の11年3月期に黒字化したものの、今期は再び赤字の見通し。 パナソニックはすでにシステム LSI を縮小して画像センサー分野に特化する方針を示している。 各社とも震災前から あらゆる選択肢を検討してきたが、なかなか踏み出せずにいた。
今回の統合・再編案の特徴の一つは、設計・開発と製造のそれぞれ専門会社に分けるスキームだ。 関係筋によると 2つの専門会社には官民ファンドの産業革新機構も出資。製造専門会社にはファウンドリー2位の米グローバル・ファウンドリーズも共同出資する。
製造拠点には、DRAM 専業メーカーのエルピーダメモリの広島工場を買い取り、システム LSI に転用する案も浮上している。 エルピーダは売却後も工場の一部を借りて生産を続ける方向だ。 3社のシステム LSI 事業を足し合わせると、同事業でトップクラスの米インテルや米ブロードコムに匹敵する。
世界では設計・開発、製造それぞれの専業会社として運営する「水平分業型」が台頭。 設計専門会社で携帯電話用半導体最大手の米クアルコムや受託生産最大手の台湾 TSMC がその代表例だ。 今回は、その潮流に乗ったスキームとも評価できる。 これまで日本勢は設計から生産まで一貫して自ら手がける「垂直統合型」が主流だった。 このため、業績が低迷しても「最先端製品を生産するための巨額投資は継続的に負わねばならず、収益力を落としてきた」(半導体業界アナリスト)
しかし 垂直統合型から水平分業型に転換するだけで生き残れるのか。 IHS アイサプライの南川明主席アナリストは「統合しないよりはしたほうがいい」と一定の評価をする。 国内企業同士の体力消耗戦がなくなり、コスト削減ができて重複投資も避けられるからだ。 だが、「設計と製造の分離だけでは対症療法に過ぎない。 世界で勝つための戦略がなければ新会社に未来はない」と警鐘を鳴らす。
<世界に通用する製品企画力・マーケティング力が必要>
垂直統合型もそれ自体が悪いわけではない。 半導体最大手のインテルは垂直統合型だが、 PC 用演算半導体という特定分野での世界市場を独占することで利益を稼ぎ出している。 同じように 半導体2位のサムスン電子もシステム LSI 事業での量産品が米アップルのスマートフォン iPhone やタブレット型端末 iPad に使われており、特定顧客に入り込むことで急成長を遂げている。
システム LSI は、本来 分野や顧客ごとに細かく仕様を分けた特注品が多い。 特に日本勢は国内の家電・自動車メーカーの要求に応じて技術を擦り合わせ、カスタマイズすることで完成品の差別化にもつなげてきた。 こうした多品種少量生産が経営効率を低下させ、「国内メーカーのいわれるままに製品を作ってきたことが、独自の製品企画力も弱めてきた」(南川氏)。 その国内メーカーもテレビなどの家電を中心に製品販売は不振。 日本勢失速の背景がここにある。
垂直統合型と水平分業型のどちらにせよ、「生き残るために必要なのは、世界に売り込むための製品企画力やマーケティング力、人材だ」と、ハイテク業界のシンクタンク「アーキテクトグランドデザイン」のチーフアーキテクト、豊崎禎久氏は強調する。
さらに 豊崎氏が具体的に重要だと指摘するのは、「中長期的にどんなアプリケーション (自動車、携帯端末など半導体を搭載するハードウエア) が世界で伸びるかの見極め」だ。 例えば 携帯電話用でクアルコムや台湾メディアテックなどは強い競争力を持つ。 世界の競合相手は特定用途向けの汎用品を開発し、価格競争力のある製品を大量生産して成功している。 特化する分野を見定め、自ら新たな市場を創造することが必要とされている。
<統合は外資の参入機会にも>
一方 統合はもろ刃の剣にもなりかねない。 国際競争力のある日本の自動車向けなら、擦り合わせ技術やカスタマイズ生産が十分生かせるとの声もある。 今後も世界での需要拡大が見込まれ、先端技術を駆使したハイブリッド車や電気自動車なら、システム LSI が活躍する場面も多いはずだ。
だが 部品は複数購買が基本だ。 特に震災でサプライチェーンが寸断し、減産を余儀なくされた自動車メーカーにはその志向が強まっており、統合が外資の呼び水になる可能性もある。 実際 ルネサスエレが誕生した時、米フリースケールなどに参入の機会を与えることになった。
<統合の連続だった日本の半導体業界>
日本勢が世界を席巻していた80年代のピーク時はシェアが 50% を超えていたが、その後は下がり続け、もはやその勢いは見る影もない。 苦境を脱するため、これまでも日本の半導体業界は統合を繰り返してきた。 03年に日立製作所と三菱電機が半導体事業を統合してルネサステクノロジになり、10年4月に NEC エレクトロニクスが合流、ルネサスエレが誕生した。 そのルネサスは、今も統合の連続で膨らんだ過剰な人員と設備の整理に追われている。
エルピーダは2000年に NEC と日立の DRMAM 事業の統合により設立、03年には三菱電機の DRAM 事業を吸収した。 円高や市況悪化でエルピーダの11年4~12月期は 989億円 の連結最終赤字。 リーマン・ショックの影響で業績が落ち込み、09年に公的資金による支援を受けたものの、業績低迷から抜け出せていない。
過去にも各社の生産部門を集約する「日の丸半導体」構想は何度か浮上したが、頓挫した。 今回も曲折が予想され、「再編劇」で終わる可能性もある。「デジタル社会はいす取りゲームで、勝者は1人。 今の日本勢は場外から眺めているだけで、ゲームに参加すらできていない」(豊崎氏) 中で、日本勢に残されたチャンスは限りなく少ない。
以上