＊『世界が見た福島原発災害』著者：大沼安史
「第１２章 サムライ」を複数回に分け紹介します。５回目の紹介
福島原発災害は、東電、原子力安全・保安院など政府機関、テレビ・新聞による大本営発表、御用学者の楽観論評で、真実を隠され、国民は欺かれている。事実 上の報道管制がしかれているのだ。「いま直ちに影響はない」を信じていたら、自らのいのちと子供たちのいのち、そして未来のいのちまで危険に曝されること になってしまう。
本書は、福島原発災害を伝える海外メディアを追い、政府・マスコミの情報操作を暴き、事故と被曝の全貌と真実に迫る。
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＊＊『世界が見た福島原発災害』著書 「第１２章 サムライ」の紹介
前回の話：『世界が見た福島原発災害』 第１２章 サムライ ＜ボディー・バンキング＞ ※４回目の紹介
カミカゼ
「フクシマ」の最前線で戦う作業員について、世界のメディアは「フクシマ５０」以外の呼び方もしていた。
これまた書くのが辛いことだが、外国メディアのジャーナリストたちは「カミカゼ」とも読んでいた。「自殺攻撃」とさえ書いていた。
英雄的な行為を讃えようとして記事に書いたのだろうが、読んでいて辛かった。
もちろん「フクシマ５０」の作業員たちは、たしかに私たちの「英雄」である。それはまったく疑い得ないことだ。彼らが現場で戦ってくれなければ、「フクシマ」は「チェルノブイリ」をはるかに上回る、空前の大惨事になりかねないわけだから。
しかし私たちにとって、「フクシマ５０」の作業員たちは、そもそもどういう意味で「英雄」なのだろう？
菅直人首相は「現場でがんばってくださっている皆さん」と、例によって敬して近づかない言い方をしているが、私達は日本人として、政治的な打算を超え、「フクシマ５０」の人たちにどう向き合わなければならないのか？
「フクシマ５０」は私たちにとって、どんな意味での「英雄」であり、どんな意味での「英雄」でなければならないのか？
私のそんな疑問を解いてくれたのは、英紙ガーディアンの女性記者、スザンヌ・ゴールデンバーグさんの記事だった。
スザンヌさんは、イスラエル軍のガザ侵攻の際、攻撃されるパレスチナ人の側からレポートを続けた人。私が尊敬するジャーナリストの一人だ。
現在の任地であるワシントンから飛んできて、３月２１日付の同紙電子版に、「フクシマの『核のサムライ』の真実」という記事を書いた。
その記事に、私が勝手に見出しをつけるとすると、こうなる。
「命のつながり、または[核のサムライ]シンゴさんとマサオおじいさんのこと」
記事の内容を紹介しよう。
「マサオおじいさん（カンノ・マサオさん）」の孫の「シンゴ」さんは、現場で奮闘する「フクシマ５０」の一人だ。そしてマサオおじいさんは南相馬を脱出し、山形県米沢市の体育館で避難生活を送っている。そのマサオおじいさんに、スザンヌさんが取材したのだ。
マサオさんは原発の近くのタバコ農家。事故が起きると、孫のシンゴさんは家族と親族を避難させ、電話での招集に応じ、「フクシマ」に戻ったそうだ。
これから原発に行くというシンゴさんを親類の人は「行くな」と説得した。「自分の家族（奥さんとお嬢さん）のことも考えろ。それにお前は農家だろう。エンジニアじゃないだろう。会社よりも家族を考えろ」
シンゴさんが原発に戻ったのは、１８日の日。
それから何の連絡もない・・・
そんな孫のシンゴさんのことを、マサオおじいさんはスザンヌさんに一言、こう言ったそうだ。
「みんな（シンゴたちのことを）サムライだと言ってるよ」・・・
この一言を聞いて、スザンヌさんは記事になんと書いたか？
彼女はたぶん、「マサオおじいさん」のこの一言で、「サムライ」のほんとうの意味を理解したのだ。「フクシマのサムライたちの真実」を理解したのだ。だから彼女は、こう書いた。
マサオさんのように原発の危機に身近な人間的な関係を持つ人々は、５００人の人間的な勇気に心動かされ、感謝しているのだ。日本の首相が（血の通わないダンボール製の）「英雄」像を仕立て上げようとしたところに、マサオさんたちは「血肉のつながり」を見ているのだ。
「血肉のつながり」ー「命のつながり」。シンゴさんたちの「人間的な勇気」は、そうした血の通った「命のつながり」の中で感謝されねばならないことなのだ。
それは多分、直接、血のつながらない私たちにも求められていることだろう。
私たちは「フクシマ５０」といって、シンゴさんたちを「数」ととらえてはならない。放射線量を累積する「ボディー・バンク」ととらえてはならない。
私たちがそんな傲慢な態度をとったら、「フクシマ」の第一線で戦い続けるシンゴさんたちのような人々の苦労は報われないではないか！
同じガーディアン紙に、シンゴさんのような人々の英雄的な行為を考える、こんな記事が載っていた。「利己」と「利他」の視点から論標した記事だった。
「利己」の代表格として記事が挙げていたのは、インサイダー不正の限りを尽くし、遂に破綻した米国の巨大エネルギー企業、「エンロン」の経営者、ジェフリー・スキリング。ドーキンスの『利己的な遺伝子』を読んで「利己」を追求したあげく、破滅に至った男だ。
それに対して、事故犠牲的な精神で原発事故に立ち向かっている作業員らの「利他」とはどういうものか？
記事はごく率直に、こう書いている。
日本の原発作業員のヒロイズムは、私たちの最も古く、最も価値ある人間的な財産である。
「利己」と「利他」 −自己の「利益」を追求するあまり、安全をないがしろにしてきた「原子力村」の人々は、ここでいう「利己」の部類に入る。
対する、原発作業員たちの「利他のヒロイズム」。
その意味で「フクシマ」は、現代日本社会における「利己」と「利他」のコントラストを鮮明に描き出すものであるのだ。
「フクシマ」の現場で戦う第一線の下請け・孫受けの作業員たちにだけ犠牲を強いてはならない。これ以上、彼らを被曝させてはならない。
※「第１２章 サムライ」の紹介は、本日で終了します。
引き続き「第１３章 カク・ミチオ教授の警告」の紹介を始めます。7/16（木）22:00に投稿予定です。
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tomoko isobe（脱被曝に一票） @sobtomk