*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽
「第10章 政治家と官僚のエクソダス」を複数回に分け紹介します。3回目の紹介
( Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。
作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。
( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。
過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から
救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」
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**『東京ブラックアウト』著書 「第10章 政治家と官僚のエクソダス」の紹介
前回の話:第10章 政治家と官僚のエクソダス ※2回目の紹介
ナガサキの被曝2世の母親から幼いころに放射線の恐怖を聞かされたことを、いまさらながら思い出していた。これまで原発のことは他人事かつ仕事上の話であったが、自分の家族に差し迫る問題となって初めて、いままでの自らの仕事を激しく後悔した。
「ほんとですよ。うちはもう妻と子どもは田舎に帰していますが、それに気がついた近所の人たちがパニクっていて・・・」
と、経産省から出向している東田係長が涙ぐんだ。東田は結婚3年目で、この冬に子どもが生まれたばかりだった。避難計画をバリバリつくっていたころの勢いはまったくない。
原発再稼働後、原子力規制庁の仕事は一段落している。忙しければ、妻や家族のことを真剣に考える暇すらなかったであろうが、いまはそうではない。
2人とも、日本原発に審査情報をリークしていた審議官を告発し、国家公務員法違反で逮捕された課長補佐、西岡進のことを思い出していた。
西岡は、裁判でも徹夜して無罪を訴え、反原発の支援者が結成した弁護団の支援を受けていた。西岡のように、原発推進に対し真剣に逆らえば、逮捕される。かといって、原発推進の旗を振れば、自分たちのように罪の意識に囚われることとなる。
「西岡さんは、どうしているんですかねぇ・・・」
経産省出身の東田係長は、しみじみとつぶやく。西岡は骨があり、上司に対してもいうべきことはいう。しかしだからこそ、後輩には慕われていたのだ。
「まだ、小菅の拘置所にいるはずだけどな・・・」
大学が同期で、経産省では年次が2年下、小菅に拘留中の西岡のところへ、経産技官の出世頭である守下は、このとき初めて面会に行こうと考えた。正直、経産省での出世など、守下にとってどうでもよくなっていたのだ。
守下や東田の気持ちは、首都圏で勤務する他の公務員すべての気持ちと同じだった。
「政府機能、3段階で関西に移転を検討 復興非関連省庁から順次」
という見出しが、散発的に全国紙の一面に載り始めた。
「政府高官によれば」とあり、これまでの状況からすると、放射線量の高い首都圏での生活を嫌がる、官僚の代表たる事務の官房副長官の観測気球であることは明らかだった。
いったんは日本経済団体連盟に東京に留まるよう説得した加部総理であったが、愛犬トイの被曝を極度に恐れる咲恵夫人の強い希望もあり、すぐに柔軟に考えを変えた。いまや本音では、すぐに官邸も関西に移転したいと考えていた。事務の官房副長官の観測気球も、加部総理の黙認のうえでのことであったのだ。
※続き「第10章 政治家と官僚のエクソダス」は、6/4(水)22:00に投稿予定です。
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