メディアもなぜ触れないのか
2015年11月12日
歴代社長3人が不正な決算処理を幹部に指示した事件が、名門企業の東芝で起きましたね。トップダウンの不正決算を社長が3代続けて指揮するなんて前代未聞です。厳しく刑事責任まで追及されるのかなと思っていたら、そういう展開にはなっていません。
これまで大企業ではオリンパス、カネボウ、西武鉄道などで粉飾決算がなされ、トップが刑事告発され、「重要事実の虚偽記載」(金融商品取引法違反)で有罪になりました。ホリエモンの異名で有名になったライブドアの堀江社長は53億円の粉飾決算による特別背任で有罪、さらに上場廃止にまで追い込まれました。牢屋にもぶち込まれ、出所した時、げっそりしていました。
不適切と粉飾の違いが分らない
新聞の経済記事は「不適切な会計操作」とか「不適切会計をめぐる旧経営陣の経営責任」など、「不適切」という表現で通しています。「粉飾」、「刑事責任」という厳しい表現はお目にかかりません。「なぜ粉飾でなく不適切な処理」という理解なのか、「なぜ刑事責任」を問題にしないのか、新聞は解説すべきでしょう。
東芝が設置した役員責任調査委員会の報告書が公表され、問題の3人を含む5人に総額3億円の損害賠償訴訟を起すことを明らかにしました。日経新聞(10日朝刊)では「東芝トップの暴走を非難」、「社長の手腕を高く見せかけようとした」、「部下の進言を拒み、利益水増し」など、厳しい見出しが並んでいます。「損害賠償の対象を最小限におさえた」とも批判しています。多くの企業では、株主代表訴訟に備えて保険に加入しているでしょうから、3億円はそう痛まない規模の金額だと思いますね。
読者の疑問に答えない
メディアは「なぜ粉飾あたらないのか」、「なぜ刑事責任が追及されないのか」という論点に踏み込むべきでしょう。読売新聞も「損害賠償の請求額の根拠が不明確」、「責任追及の姿勢が消極的」と批判しています。「株主を怒らせ、大規模な訴訟に発展しうる」との著名弁護士の談話まで載せているのですから、読者が疑問に思う肝心な論点に触れなくてはいけません。
報告書によると、「赤字の営業損益を計上したいと伝えると、拒否した」、「会社が苦しい時に、正常な会計処理すべきでない」、「無理で不自然な収益改善を強引に要求した」など、決算処理の初歩の初歩をねじ曲げるよう社長が直接、指示したとされます。これだけ明確な証拠、証言がそろっているのですから、刑事裁判は維持できそうなものです。
公平さを欠いてはならない
不正を指揮した社長を逮捕すれば、いいというものではありません。それを機に、企業の収益構造を改革してイメージを修復するとともに、そのようなトップが二度とでないようにすることが重要です。それが問題の本質でしょう。合わせて他の重大な粉飾決算と同じように、司法や金融・証券当局は厳しい態度で臨まなくては公平さを欠きます。
そうした問題点の指摘や当局の動きを伝える報道がないものですから、「原子力発電を担っている東芝を窮地に追い込まないようにしている」、「代表的な電機メーカーの経営に重大な影響を与えないようにしている」などという情報が流れるのです。不正を指揮した過去のトップに対して厳しい姿勢を示したところで、こうした問題とは無関係だと思うのが普通でしょう。
小規模企業で財務諸表の虚偽記載があっても、よほど詐欺的でない限り、刑事責任までを追及するはないでしょう。東芝の粉飾は企業業績を偽って水増しし、配当や株価に影響を与えたことは間違いなく、証券市場に対する重大な責任を負っています。ホリエモンに「なぜ自分だけが見せしめになったのか」と思われないようにすべきでしょう。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます