7月4日(土)、再開後二度目のジネンカフェである。梅雨の真っ只中だが、この日は薄曇ってはいるものの、何とか持ちこたえている感じの空模様。この日のゲストは本来なら4月4日にご登壇下さる筈で、新型コロナウイルスのせいでこの日になってしまった、一般社団法人oneness理事の石井計義さんである。不可抗力とはいえ、本当にお待たせしてしまって申し訳ありません。石井さんとは知りあいになって以来、何度かジネンカフェに参加者としてご参加いただいているし、ゲストさんを紹介してもらったりといろいろとお世話になっている。本当にありがたい。石井さんは私よりも10歳年長者だが、様々な団体に入られて活動されている。失礼ながらそんな歳でよく活動されているものだと頭が下がるが、ご本人は至って自然体で飄々としておられる。不思議なお人である。お話のタイトルは『「ふくし」と「ぼうさい」をテーマに! まちづくりにも繋がる諸活動』
【石井計義さんってこんな人】
石井計義さんは1949年に愛知県知多市に生まれた。愛知工業大学名電高校(イチローや現ソフトバンクの工藤監督の母校でもある)電気科を卒業後、42年間大手ビルメンテナンス会社に勤続。ビルの管理業務・営業などを担当されていた。新規事業開発担当として中・大病院の院内感染対策関連業務を3年間ほど経験し、1995年には阪神淡路大震災時企業ボランティアとしての活動も経験されている。2011年6月に定年退職。大阪勤務通算9年、それ以外は名古屋勤務⇒定年後同会社で3年間アルバイト勤務されていた。会社を完全にリタイヤされて後、東日本大震災災害ボランティア同士として知りあった磯部和美さんと 2016年2月、一般社団法人onenesss設立され、監事を経て現在は理事を務められておられる。知多市在住。軽度の認知症の妻と大手介護福祉事業会社の名古屋市緑区デイサービス 事業所の責任者の仕事をされている長男(45歳で独身)との3人で暮らされている。また、2007年頃から「ふくしとぼうさい」をテーマに、これをライフワークとして知多半島を中心に福祉・防災ボランティア等の諸活動をされておられる。
【石井さんが関わる活動―ふくし編】
石井さんが関わっておられる活動は、主に福祉分野と防災分野に分けられるが、先ずは福祉分野から
一般社団法人oneness理事
・知多市南粕谷コミュニティ総務部会(広報誌編集委員)
・知多市南粕谷小学校 学校評議員
・内海・山海まちづくり協議会「きずなの会」 会員
(防災、防犯・交通安全、福祉、環境、広報、ふれあい部会があり、防災部会に所属)
・知多市高齢者いきいきサロン「南粕谷元気会」副会長
(平成30年度 知多市・愛知県の功労賞受賞団体)
・知多市福祉救援ボランティア「こだま」 幹事
(平成29年度 知多市・愛知県の功労賞受賞団体)
・知多市国際交流協会(CIA) 副会長
・知多市ボランティア連絡協議会 理事
・知多市身体障害者福祉協議会 会員
・知多市のNPO法人びすた~り 会員
(障がい者福祉事業、自然栽培農業、自然環境講座)
・知多市環境を良くする市民の会 会員
・財団法人日本野鳥の会 会員
・愛・地球博ボランティアセンター 会員
・知多市の日比野徳男代表の回想法を取り入れた講座を行う知多市総合ボランティアセンタ―登録団体の「ひびのきおく」の活動に参加
・同じく日比野さんらが主催している「ちたざっく」(お招きした講師のお話の後、テーマに添ってざっくばらんに意見交換を行う会)の定例メンバーとして参加
「ちたざっく」では知多市大興寺の「大日竹灯籠祭り」にも作品を製作し、ベテランの山法師の会、一寸法師の会、幼稚園の園児、小・中学校の生徒たちの作品に混じって竹灯籠作品展示参加をしている
【石井さんが関わる活動―防災編】
・日本防災士機構認定防災士
・あいち防災リーダー会 会員
・内海・山海まちづくり協議会きずなの会 防災部会 会員
・美浜・南知多防災の会 会員
・愛知工業大学地域防災研究センター「あいぼう会 」 副運営委員長
(平成27年度 防災まちづくり大賞・消防庁長官賞受賞団体、
平成29年度 内閣総理大臣賞受賞団体)
・認定NPO法人レスキューストックヤード 会員
・福祉救援ボランティア「こだま」 幹事
(平成27年度 知多市・愛知県の功労賞受賞団体)
・知多市内の中学校ほかにて社会福祉協議会と連携し、防災講師、DIG(図上訓練)、HUG(避難所運営ゲーム)、CRG(クロスロードゲーム)等の指導
・知多市内の地域自主防災会での防災・減災講師、DIG、HUG、CRG等の指導及び災害ボランティアコーディネーターの立上げ運営訓練の指導など多数。
・知多市消防本部登録の八幡出張所内市民防災コーナーでのガイドサポータとして地震体験、煙体験装置の操作及び指導を実施(知多市内の各小学校、幼稚園、看護学校、企業が毎年多数体験)
【石井さんの活動の原点】
このように数々の活動に関わっておられる石井さんだが、その原点は少年の頃に経験し
た災害の恐ろしさや不安であるという。石井少年が10歳の秋、昭和34年9月26日、
紀伊半島は潮岬に上陸した台風15号(国際名、ヴェラ)は、紀伊半島から東海地方を中
心にほぼ全国的に被害をもたらした。殊に東海地方の被害は甚大で、死者・行方不明者含めて5,000人の犠牲者を出した。石井少年の父親は鉄道員であり、こういう災害時にはいつも家にいなかった。頼りになる父親の不在、荒れ狂う風と雨の中、石井少年は母や兄弟と家が倒れないように泣きながら、喚きながら玄関の戸を押さえていたそうだ。夜の台風だったから、真っ暗な中、停電もし、蝋燭の灯りだけが頼りの家庭にあって、仕事とはいえ父親の不在は一家を不安にしたのだろう。知多半島や名古屋市南区・港区・中川区など伊勢湾岸の地域は、壊滅的な被害だった。その最中、台風の目に入ったその一瞬、吹き飛ばされた藁葺き屋根の一部、その僅かな隙間から垣間見えた明るい月や星が妙に印象的だったという。現在も暮らしている石井家は標高20mの高台で伊勢湾から約2,5㎞のところにあり、水害は問題なかったですが、海の近くでは軒下まで高潮の海水で浸水して屋根にあがって助けを求めていたところもあった。幸いなことに、当時の愛知県知多郡知多町(現・知多市)は被害が比較的少なかったが、名古屋市南区や港区、飛島村などは大変な被害で愛知県内のみで3,000名余の死者-不明者という大災害となってしまった。 その時、全国の皆さんから救援物資や募金ほか多くの手助けをいただいたことがとてもありがたかった。それが石井さんが「ふくしとぼうさい」をライフワークに活動するようになった原点なのだという。
【一般社団法人onenessを立ち上げる】
こうして防災・災害支援ボランティアとして活躍していた石井さんは、東日本大震災災害支援ボランティアとして、同じ知多半島で障がい者のための就労支援事業所を立ち上げようと模索していた磯部和美理事長と出会うことになる。磯部マジックの効果覿面で石井さんも磯部さんに協力して一般社団法人onenessを設立し、監事として手腕を振るうことになった。そして現在は理事を務めている。
【ふたつの「海空」】
一般社団法人onenessの主な事業として、ふたつの「海空」がある。ひとつは多機能型就労継続支援B型「海空(うらら)」と、放課後等ディサービス「海空(みそら)」だ。漢字は同じだが、読みが違う。どなたが名付けられたのかは知らないけれど、こういったネーミングのセンスは巧いと思う。多機能型就労継続支援B型「海空(うらら)」は、民宿だった建物を借りて使っており、1階にカフェ・厨房・多目的室を備えている。定員が当初の10名から20名に増え、サービス管理責任者1名、職業指導及び生活支援員4名、目標工賃達成指導員1名の配置になっている。放課後等ディサービス「海空(みそら)」は、
定員が10名、児童発達支援管理責任者1名、指導員2名の配置になっている。どちらも
海岸線に面しており、ロケーション的にも素晴らしい。
【事業所でも、地域でも、避難訓練を実施】
地球温暖化の影響なのか、このところ毎年のように豪雨がもたらす水害や、地域的な地震が起きている。それでなくても日本は火山国だから、古来度々大地震に見舞われて来た。記憶に新しい阪神淡路、新潟中越、東日本、熊本…。そして現在、南海トラフ地震が30年の内には必ず来るだろうと推定されている。それを想定して日本各地の自治体や地域で避難訓練等が行われてはいるが、一般社団法人onenessが運営する事業所や、内海山海防災連絡協議会でも避難訓練を行っているという。先ずは石井さんが過去の内海での津波災害の歴史や、今後起こりうる南海トラフ巨大地震の被害の想定ならびに津波避難における注意事項の説明をし、実施した。それに対応する障がい者福祉事業所の防災マニュアル、BCP策定を模索中であるという。「参加者」としては防災リーダー:石井さんに、事業所スタッフ、b型事業所利用者ほかが参加されたそうだ。また、地域の防災訓練にも参加の予定がある。毎年7月の海の日に民間主導で行われている内海海岸大規模津波避難訓練(過去7回実施)並び地区自主防災会の訓練である。(こちらはきずなの会防災部会活動)中京テレビほかの報道にも時々登場し、紹介されていたが、2020年度の訓練は新型コロナで中止が決定している。
【石井さんと他者との繋がり】
前述したように、石井さんと一般社団法人onenessの代表理事の磯部和美氏とは、2011年の東日本大震災復興支援の活動などで知りあい、繋がった。(石井さんが2012年5月から愛工大の地域防災センターと連携して前述の内海山海まちづくり協議会「きずなの会」防災部会の活動に参加していたのが大きい)磯部さんは「社会生活に何らかの困難を抱えた若者や子どもたち」への真の支援をするための事業所開設に特に熱い心を持ち、3年間ほど場所の選定や体制づくりに試行錯誤されるなど大変苦慮し、悩んでいたところだったのだ。その話を聴いた石井さんの仲間の中で、磯部和美氏の考えに共感し、それをサポートしたいという方が出て来た。それが推進力となり、事業所の立ち上げは急進展することになる。そして2016年2月、事業所運営のため、一般社団法人onenessを設立。
幾多の困難をも乗り越え、同年5月、南知多町内海の千鳥ケ浜沿の景観の良い場所に「多機能型事業所うらら(海空)」を開設されたのであった。うららの誕生から現在5年目を迎え、多くの人の輪も拡がり、磯部代表理事は今後さらに事業所の将来構想を計画・推進し、幾多の困難を乗り越えつつも、ご利用者の真の自立支援のため、明るく、前向きに活動し、努力を重ねている。南知多町社協を定年退職後事業所へ来ていただいた知識・経験豊富な澤田忍氏との信頼関係も良く、今年の1月から新職員の山本和弘氏を迎え、規律のある明るい職場環境の整備がはかられる様になったことが特に大きいという。同じく今年の9月にかねてから課題となっていた新職員採用も確定に至り、さらに充実した体制での運営が期待できる様になってきているそうだ。事業所運営に熱い想いを持った磯部代表理事の周りには信頼できる素敵な人が繋がって、集まってきている。「磯部マジック」と呼称される所以だろう。
【新型コロナの影響―withコロナを生きる】
2020年2月28日(金) 内閣総理大臣の要請で、新型コロナウイルス感染症対策のため小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校等における一斉臨時休校が発表された。事業所では3月2日(月)~急遽受け入れのニーズを調査し、急遽体制を整備・調整。マスク着用、手洗いの順守、室内換気等新たな感染防止対策を検討して、当事業所の障がい児者支援の「放課後等デイサービス」(ミソラ)での児童・生徒の受け入れをすることになった。福祉事業所は社会に不可欠な障がい者福祉事業所で、石井さんや磯部さん始め、職員は利用者と共に感染リスクを背負っても働かなければならない「エッセンシャルワーカー」のお仲間であることを認識させられた出来事であったという。就労継続支援b型事業所うららでは、新型コロナほか経済情勢の変化により従来あった業務(牛乳パックのリサイクル、旅館等の清掃ほか)が急に激減するとともに新型コロナの感染防止対策としての時短運営により、利用者への工賃アップが極めて困難な状況となっていたそうだ。新型コロナとの共生社会(Withコロナ)として新しい生活様式を取り入れ、利用者の特性を考え合わせながら「農福連携」の外部就労作業や自社製品製作などを模索しつつ、皆で力を合わせ逞しく、楽しい仕事環境の整備をはかることに努力して行こうと、石井さんらは心を新たにしている。
【海空の事業のあれこれ】
その就労継続支援b型事業所「海空(うらら)」では、実に様々な事業を行っている。ギャラリー&カフェ、ここでは南知多産の有機栽培のニンジンを使った100%ニンジンジュースも限定販売されている。自然のニンジンの甘みが感じられて、とても美味しい。PCの分解・材料分別作業は、細かく神経を使う仕事だ。製菓会社の仕事も食品衛生的に神経を使うが、利用者さんはきっちりとこなしているという。また、自社製品の「笑い地蔵」や「貝殻アート」も只今模索中だとか…。自社農園でみんなで農園作業をする時もある。外部就労として「チッタナポリ」や「城下公園」などの公共広場の整備や、農作業や旅館の清掃なども請け負っている。それにより人手不足の農家や旅館などは助かるし、利用者さんの工賃を工面するのに汲々としている作業所が多い中で、更にこのコロナ渦である。減収して立ち行かなくなっている施設が多く出て来ている中で、地域連携を掲げて事業を次々に手がけてゆく手腕は、正に「磯部マジック」のなせる技だろうが、それを支えている石井さんを始め、スタッフの皆さんの努力の賜でもあるだろうと甚く感心している。その他にも地域貢献活動として、「おたから博」と称してビーチの清掃活動や、利用者・スタッフ全員で手作りマスクをつくったり、全員が一丸となって楽しもうとされておられるのが窺えてほのぼのとしたものも感じられる。今後とも一般社団法人onenessは、一丸となって血の通った福祉を目指されてゆくのだろう。onenessの掲げる理念通り、誰もがそれぞれの色で輝くために…。
【石井計義さんってこんな人】
石井計義さんは1949年に愛知県知多市に生まれた。愛知工業大学名電高校(イチローや現ソフトバンクの工藤監督の母校でもある)電気科を卒業後、42年間大手ビルメンテナンス会社に勤続。ビルの管理業務・営業などを担当されていた。新規事業開発担当として中・大病院の院内感染対策関連業務を3年間ほど経験し、1995年には阪神淡路大震災時企業ボランティアとしての活動も経験されている。2011年6月に定年退職。大阪勤務通算9年、それ以外は名古屋勤務⇒定年後同会社で3年間アルバイト勤務されていた。会社を完全にリタイヤされて後、東日本大震災災害ボランティア同士として知りあった磯部和美さんと 2016年2月、一般社団法人onenesss設立され、監事を経て現在は理事を務められておられる。知多市在住。軽度の認知症の妻と大手介護福祉事業会社の名古屋市緑区デイサービス 事業所の責任者の仕事をされている長男(45歳で独身)との3人で暮らされている。また、2007年頃から「ふくしとぼうさい」をテーマに、これをライフワークとして知多半島を中心に福祉・防災ボランティア等の諸活動をされておられる。
【石井さんが関わる活動―ふくし編】
石井さんが関わっておられる活動は、主に福祉分野と防災分野に分けられるが、先ずは福祉分野から
一般社団法人oneness理事
・知多市南粕谷コミュニティ総務部会(広報誌編集委員)
・知多市南粕谷小学校 学校評議員
・内海・山海まちづくり協議会「きずなの会」 会員
(防災、防犯・交通安全、福祉、環境、広報、ふれあい部会があり、防災部会に所属)
・知多市高齢者いきいきサロン「南粕谷元気会」副会長
(平成30年度 知多市・愛知県の功労賞受賞団体)
・知多市福祉救援ボランティア「こだま」 幹事
(平成29年度 知多市・愛知県の功労賞受賞団体)
・知多市国際交流協会(CIA) 副会長
・知多市ボランティア連絡協議会 理事
・知多市身体障害者福祉協議会 会員
・知多市のNPO法人びすた~り 会員
(障がい者福祉事業、自然栽培農業、自然環境講座)
・知多市環境を良くする市民の会 会員
・財団法人日本野鳥の会 会員
・愛・地球博ボランティアセンター 会員
・知多市の日比野徳男代表の回想法を取り入れた講座を行う知多市総合ボランティアセンタ―登録団体の「ひびのきおく」の活動に参加
・同じく日比野さんらが主催している「ちたざっく」(お招きした講師のお話の後、テーマに添ってざっくばらんに意見交換を行う会)の定例メンバーとして参加
「ちたざっく」では知多市大興寺の「大日竹灯籠祭り」にも作品を製作し、ベテランの山法師の会、一寸法師の会、幼稚園の園児、小・中学校の生徒たちの作品に混じって竹灯籠作品展示参加をしている
【石井さんが関わる活動―防災編】
・日本防災士機構認定防災士
・あいち防災リーダー会 会員
・内海・山海まちづくり協議会きずなの会 防災部会 会員
・美浜・南知多防災の会 会員
・愛知工業大学地域防災研究センター「あいぼう会 」 副運営委員長
(平成27年度 防災まちづくり大賞・消防庁長官賞受賞団体、
平成29年度 内閣総理大臣賞受賞団体)
・認定NPO法人レスキューストックヤード 会員
・福祉救援ボランティア「こだま」 幹事
(平成27年度 知多市・愛知県の功労賞受賞団体)
・知多市内の中学校ほかにて社会福祉協議会と連携し、防災講師、DIG(図上訓練)、HUG(避難所運営ゲーム)、CRG(クロスロードゲーム)等の指導
・知多市内の地域自主防災会での防災・減災講師、DIG、HUG、CRG等の指導及び災害ボランティアコーディネーターの立上げ運営訓練の指導など多数。
・知多市消防本部登録の八幡出張所内市民防災コーナーでのガイドサポータとして地震体験、煙体験装置の操作及び指導を実施(知多市内の各小学校、幼稚園、看護学校、企業が毎年多数体験)
【石井さんの活動の原点】
このように数々の活動に関わっておられる石井さんだが、その原点は少年の頃に経験し
た災害の恐ろしさや不安であるという。石井少年が10歳の秋、昭和34年9月26日、
紀伊半島は潮岬に上陸した台風15号(国際名、ヴェラ)は、紀伊半島から東海地方を中
心にほぼ全国的に被害をもたらした。殊に東海地方の被害は甚大で、死者・行方不明者含めて5,000人の犠牲者を出した。石井少年の父親は鉄道員であり、こういう災害時にはいつも家にいなかった。頼りになる父親の不在、荒れ狂う風と雨の中、石井少年は母や兄弟と家が倒れないように泣きながら、喚きながら玄関の戸を押さえていたそうだ。夜の台風だったから、真っ暗な中、停電もし、蝋燭の灯りだけが頼りの家庭にあって、仕事とはいえ父親の不在は一家を不安にしたのだろう。知多半島や名古屋市南区・港区・中川区など伊勢湾岸の地域は、壊滅的な被害だった。その最中、台風の目に入ったその一瞬、吹き飛ばされた藁葺き屋根の一部、その僅かな隙間から垣間見えた明るい月や星が妙に印象的だったという。現在も暮らしている石井家は標高20mの高台で伊勢湾から約2,5㎞のところにあり、水害は問題なかったですが、海の近くでは軒下まで高潮の海水で浸水して屋根にあがって助けを求めていたところもあった。幸いなことに、当時の愛知県知多郡知多町(現・知多市)は被害が比較的少なかったが、名古屋市南区や港区、飛島村などは大変な被害で愛知県内のみで3,000名余の死者-不明者という大災害となってしまった。 その時、全国の皆さんから救援物資や募金ほか多くの手助けをいただいたことがとてもありがたかった。それが石井さんが「ふくしとぼうさい」をライフワークに活動するようになった原点なのだという。
【一般社団法人onenessを立ち上げる】
こうして防災・災害支援ボランティアとして活躍していた石井さんは、東日本大震災災害支援ボランティアとして、同じ知多半島で障がい者のための就労支援事業所を立ち上げようと模索していた磯部和美理事長と出会うことになる。磯部マジックの効果覿面で石井さんも磯部さんに協力して一般社団法人onenessを設立し、監事として手腕を振るうことになった。そして現在は理事を務めている。
【ふたつの「海空」】
一般社団法人onenessの主な事業として、ふたつの「海空」がある。ひとつは多機能型就労継続支援B型「海空(うらら)」と、放課後等ディサービス「海空(みそら)」だ。漢字は同じだが、読みが違う。どなたが名付けられたのかは知らないけれど、こういったネーミングのセンスは巧いと思う。多機能型就労継続支援B型「海空(うらら)」は、民宿だった建物を借りて使っており、1階にカフェ・厨房・多目的室を備えている。定員が当初の10名から20名に増え、サービス管理責任者1名、職業指導及び生活支援員4名、目標工賃達成指導員1名の配置になっている。放課後等ディサービス「海空(みそら)」は、
定員が10名、児童発達支援管理責任者1名、指導員2名の配置になっている。どちらも
海岸線に面しており、ロケーション的にも素晴らしい。
【事業所でも、地域でも、避難訓練を実施】
地球温暖化の影響なのか、このところ毎年のように豪雨がもたらす水害や、地域的な地震が起きている。それでなくても日本は火山国だから、古来度々大地震に見舞われて来た。記憶に新しい阪神淡路、新潟中越、東日本、熊本…。そして現在、南海トラフ地震が30年の内には必ず来るだろうと推定されている。それを想定して日本各地の自治体や地域で避難訓練等が行われてはいるが、一般社団法人onenessが運営する事業所や、内海山海防災連絡協議会でも避難訓練を行っているという。先ずは石井さんが過去の内海での津波災害の歴史や、今後起こりうる南海トラフ巨大地震の被害の想定ならびに津波避難における注意事項の説明をし、実施した。それに対応する障がい者福祉事業所の防災マニュアル、BCP策定を模索中であるという。「参加者」としては防災リーダー:石井さんに、事業所スタッフ、b型事業所利用者ほかが参加されたそうだ。また、地域の防災訓練にも参加の予定がある。毎年7月の海の日に民間主導で行われている内海海岸大規模津波避難訓練(過去7回実施)並び地区自主防災会の訓練である。(こちらはきずなの会防災部会活動)中京テレビほかの報道にも時々登場し、紹介されていたが、2020年度の訓練は新型コロナで中止が決定している。
【石井さんと他者との繋がり】
前述したように、石井さんと一般社団法人onenessの代表理事の磯部和美氏とは、2011年の東日本大震災復興支援の活動などで知りあい、繋がった。(石井さんが2012年5月から愛工大の地域防災センターと連携して前述の内海山海まちづくり協議会「きずなの会」防災部会の活動に参加していたのが大きい)磯部さんは「社会生活に何らかの困難を抱えた若者や子どもたち」への真の支援をするための事業所開設に特に熱い心を持ち、3年間ほど場所の選定や体制づくりに試行錯誤されるなど大変苦慮し、悩んでいたところだったのだ。その話を聴いた石井さんの仲間の中で、磯部和美氏の考えに共感し、それをサポートしたいという方が出て来た。それが推進力となり、事業所の立ち上げは急進展することになる。そして2016年2月、事業所運営のため、一般社団法人onenessを設立。
幾多の困難をも乗り越え、同年5月、南知多町内海の千鳥ケ浜沿の景観の良い場所に「多機能型事業所うらら(海空)」を開設されたのであった。うららの誕生から現在5年目を迎え、多くの人の輪も拡がり、磯部代表理事は今後さらに事業所の将来構想を計画・推進し、幾多の困難を乗り越えつつも、ご利用者の真の自立支援のため、明るく、前向きに活動し、努力を重ねている。南知多町社協を定年退職後事業所へ来ていただいた知識・経験豊富な澤田忍氏との信頼関係も良く、今年の1月から新職員の山本和弘氏を迎え、規律のある明るい職場環境の整備がはかられる様になったことが特に大きいという。同じく今年の9月にかねてから課題となっていた新職員採用も確定に至り、さらに充実した体制での運営が期待できる様になってきているそうだ。事業所運営に熱い想いを持った磯部代表理事の周りには信頼できる素敵な人が繋がって、集まってきている。「磯部マジック」と呼称される所以だろう。
【新型コロナの影響―withコロナを生きる】
2020年2月28日(金) 内閣総理大臣の要請で、新型コロナウイルス感染症対策のため小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校等における一斉臨時休校が発表された。事業所では3月2日(月)~急遽受け入れのニーズを調査し、急遽体制を整備・調整。マスク着用、手洗いの順守、室内換気等新たな感染防止対策を検討して、当事業所の障がい児者支援の「放課後等デイサービス」(ミソラ)での児童・生徒の受け入れをすることになった。福祉事業所は社会に不可欠な障がい者福祉事業所で、石井さんや磯部さん始め、職員は利用者と共に感染リスクを背負っても働かなければならない「エッセンシャルワーカー」のお仲間であることを認識させられた出来事であったという。就労継続支援b型事業所うららでは、新型コロナほか経済情勢の変化により従来あった業務(牛乳パックのリサイクル、旅館等の清掃ほか)が急に激減するとともに新型コロナの感染防止対策としての時短運営により、利用者への工賃アップが極めて困難な状況となっていたそうだ。新型コロナとの共生社会(Withコロナ)として新しい生活様式を取り入れ、利用者の特性を考え合わせながら「農福連携」の外部就労作業や自社製品製作などを模索しつつ、皆で力を合わせ逞しく、楽しい仕事環境の整備をはかることに努力して行こうと、石井さんらは心を新たにしている。
【海空の事業のあれこれ】
その就労継続支援b型事業所「海空(うらら)」では、実に様々な事業を行っている。ギャラリー&カフェ、ここでは南知多産の有機栽培のニンジンを使った100%ニンジンジュースも限定販売されている。自然のニンジンの甘みが感じられて、とても美味しい。PCの分解・材料分別作業は、細かく神経を使う仕事だ。製菓会社の仕事も食品衛生的に神経を使うが、利用者さんはきっちりとこなしているという。また、自社製品の「笑い地蔵」や「貝殻アート」も只今模索中だとか…。自社農園でみんなで農園作業をする時もある。外部就労として「チッタナポリ」や「城下公園」などの公共広場の整備や、農作業や旅館の清掃なども請け負っている。それにより人手不足の農家や旅館などは助かるし、利用者さんの工賃を工面するのに汲々としている作業所が多い中で、更にこのコロナ渦である。減収して立ち行かなくなっている施設が多く出て来ている中で、地域連携を掲げて事業を次々に手がけてゆく手腕は、正に「磯部マジック」のなせる技だろうが、それを支えている石井さんを始め、スタッフの皆さんの努力の賜でもあるだろうと甚く感心している。その他にも地域貢献活動として、「おたから博」と称してビーチの清掃活動や、利用者・スタッフ全員で手作りマスクをつくったり、全員が一丸となって楽しもうとされておられるのが窺えてほのぼのとしたものも感じられる。今後とも一般社団法人onenessは、一丸となって血の通った福祉を目指されてゆくのだろう。onenessの掲げる理念通り、誰もがそれぞれの色で輝くために…。