ジネンカフェだより

真のノーマライゼーション社会を目指して…。平成19年から続いているジネンカフェの情報をお届けします。

ジネンカフェ063レポート

2012-07-23 10:18:42 | Weblog
今月のゲストは、名古屋市北区と西区で障がい者の生活介護事業所オリーブを営まれているNPO法人ポパイの理事長、山口未樹さん。山口さんは1974年生まれ。社会福祉士と精神保健福祉士の資格をもたれている。ポパイさんは知的・発達障がい者を中心にした生活介護事業、就労支援事業を主にしているのだが、福祉を事業所内で完結させず、「分けあう福祉、寄りあう福祉」を目指し、アートプロジェクトや様々な作家とのコラボ商品の開発、映画の上映会など、多くの人々が関わって成し遂げられる〈MO-YA-COプロジェクト〉にも力を注いでおられる。地域にはいろいろな方たちがいる。障がい者もまた地域で暮らす人たちなのだ。様々な人々がMO-YA-COプロジェクトに関わることにより、障がい者が地域に溶け込め易くなり、強いては開かれた関係性が生まれてゆく…。今年の4月にも名古屋市東区の〈文化のみち橦木館〉でアートプロジェクトとして、ワークショップの成果物や、東海地方のアウトサイダーアートの作家さんたちの作品を展示した〈MO-YA-CO展覧会〉を開催された。今回はその展覧会を開催するに至る経緯や、会期中の出来事や、アートプロジェクトのワークショップの様子などを語っていただいた。タイトルも『MO-YA-COする町、できる町。そんな町がつくりたい~今回は「アート」で“もーやーこ”しました』

山口さんが橦木館でのこの展覧会を企画しようと思われたのは、一年前に岐阜県可児市でNPO法人エイブルアートさんが催していた障がい者アートの展覧会を観に行って、面白いと思われたのがきっかけだったという。しかし、アート作品を描いたり、作ったりしようと言っても、ただ単に事業所内で絵を描いていても面白くない。事業所の利用者さんもスタッフも、関わってくくれる人たち全員が楽しめる参加型ワークショップをしよう! と思った山口さんは、アート関係の仕事をしている知りあいを通じてひとりのアーティストさんと出会う。

そのアーティストのミイナさんが先ず最初に行ったワークショップは、〈エプロンをつけてお母さんになろう〉というテーマのものだった。森(公園)の中で行われたのだが、ミイナさんという人は毎回ワークショップの始めに何の前触れもなく派手なパフォーマンスをする方らしく、ここでもミイナさんがいきなり産気づいて呻きだし、子どもを出産する…というパフォーマンスを行った。参加者には何をするのか事前に知らされていなかったため、どうして良いのか解らず、困ったような顔でミイナさんの周りを囲んでいたという。そうしてミイナさんが生んだ赤ちゃん(人形)を、参加者全員が授乳用のブラジャーを連ねられた、ミイナさんお手製のエプロンをつけて胸に抱きながら森の中を歩くのである。このワークショップにはもうひとつテーマがあり、〈お母さんの真似をしましょう〉というもので、お母さん役になった参加者の歩き方を真似てその後ろを付いて歩くのである。ミイナさんが無作為に「あなたはお母さんよ」とエプロンを腰に巻き、巻かれたその人がお母さん役になって順番に先頭で赤ちゃん人形を抱いて歩くのだ。森自体をひとつの家に見立てているので、参加者は全員裸足である。車いすの人がお母さん役になった時も条件は同じで、その人は歩けないので草地の上を這いずって進んでゆくのだが、ゴロンと横になった時には〈お昼寝の時間〉として、参加者全員草の上へ横になり、〈お昼寝の時間〉を享受したという。

初日にこれだけのことをしたのだが、利用者さんの反応は様々だったという。授乳用のブラジャーを連ねたエプロンをつけて嬉しいやら恥ずかしいやら複雑な表情で着けている人もいれば、スタッフがエプロンを着けさせるために近づいてゆくだけで拒絶反応を示し、逃げ出す人もいたそうだ。このワークショップの様子は、橦木館での展覧会では実際の映像を二枚のスクリーンに映し出し、展覧会に来た人たちにも二枚のスクリーンの隙間から通り抜けられるようになっていて、ワークショップが追体験出来る仕掛けになっていた。

二日目は〈歩いて泥の跡をつけよう〉というワークショップを行った。これも事前にどれだけの規模で、どんなことをするのか知らされないまま、利用者さんにはとりあえず汚れてもよいような服で来てねとだけ伝えてあった。〈泥〉とはいっても、利用者さんの中には何でも口に入れようとする人もいるので小麦粉に食紅で色をつけたものである。その泥をつけた足や手や体で地面に敷かれた布の上を歩くというシンプルなもので、裸足になることに過敏な利用者さんも多くいたが、それもあえてストレートに出して、どんな表現になるのか楽しんだワークショップだったという。このワークショップの成果物は、展覧会の会期中、橦木館のお座敷の上に敷かれてあり、その上を通って車いす利用者が車いすに乗ったまま展示をみられるような仕掛けが施されていた。

三回目のワークショップのテーマは、〈温かいスープをつくろう〉これは文字通り新鮮な野菜を使ってスープを作る…という、ただそれだけのワークショップであるが、前二回のワークショップに参加しなかった利用者さんたちも、〈料理を作る〉という解りやすい目的があったため 積極的に参加したという。やはり人は誰しも自分が経験したり、見知っている物事に対しては積極的に参加出来るが、未知なるものには警戒心を抱いて様々な反応を示すものだ。そこには障がいの有無は関係ないであろう。

スープを作る、料理をするとはいっても、そこはアーティストのミイナさんが行うワークショップである。料理教室のようなきっちりとした手順はなく、野菜を切るにしても包丁を使ってもよいし、千切ってそのまま鍋の中に入れてもよかったので、包丁が使えない人でも楽しめたのではないだろうか? また、参加者それぞれに役割をもたせたので、それも利用者さんひとりひとりに責任感と充足感をもたせる結果に繋がったのであろう。中にはスパイスにこだわる人や、トイレに行きたいのにまだ野菜を洗い終わっていないため、身もだえながら自分の役割を全うしようとする人もいた。そうして作られたスープはこの日も試飲されたが、そのまま保存され橦木館での展覧会でも容器に入れられて展示されていた。もちろん展示されていたスープは、カビが生えていて飲めなかったのだが…。しかし、二日間行われたこのワークショップの様子と、作られたスープのレシピを収めた本が今度出版されることになったそうである。楽しにしていよう。

第4回目は〈続きの絵を描こうワークショップ〉であった。これは他者が描いた絵に付け足して、自分の絵を描いてみよう…というものだ。障がいのある人に限らず白い紙を渡して「さあ、好きな絵を描いて下さい」と言っても、慣れた人以外はすんなりと描けないものだ。なるべく抵抗がなく描けるように…ということをミイナさんは首尾一貫したテーマにしてきたそうで、これもその一環として行われた手法なのであった。参加者が歌を唄いながら絵を描いて、描いたら少しずつ横に移動してゆく…。そうして参加者全員他者が描いた絵に、自分なりの続きの絵を描いて行くのである。他人の絵に落書きをしてもよいのかという逡巡する気持ちもあったようだが、誰かの絵の続きを連想して続きの絵を描くのはなかなかに描きやすく楽しかったようで、展覧会の会期中も会場でその続きを行ったそうだ。

また、白い紙を紐に通して空中にぶら下げ、そのまま絵を描くというワークショップも行、った。紐にぶら下がった紙に絵を描くなんて、障がいの有無に関わらず誰もが巧く描けるわけがない。しかし、だからこそひとりひとりの個性が出やすく、味わい深い作品が描けるのだろう。展覧会でもワークショップの再現とばかりに、完成した作品が紐に通して縦横無尽に吊してあった。なるほど…。これは個性的で面白い。お座敷に寝転がって見上げると、色彩が宙を飛び交っている感覚になったとか…。

はじめのうちは戸惑い、躊躇いをみせていたオリーブの利用者さんも、職員の方たちも、ワークショップが回を重ねるに連れて、自分たちも楽しく参加できるようになれたそうだ。それはやはりミイナさんのアートを愛する気持ちと、ワークショップの面白さと、山口さんの情熱と、それを支えたスタッフの方たちの努力の結晶に違いない。

そうしたアートワークショップの総決算として、二週間〈文化のみち橦木館〉を借り切って催されたのが〈MO-YA-CO展覧会〉なのであった。障がいのある人たちの作品展というと、会場はどうしてもバリアフリーの公共施設になってしまいがちだが、山口さんはあえて昭和初期に建てられ、紆余曲折があって名古屋市の施設となったバリアフルな〈文化のみち橦木館〉を会場に選んだ。それはワークショップの成果や、障がい者アートの面白さや魅力を福祉に関心がない一般の人にも感じてもらいたかったからだ。その狙いは見事にあたり、期間中の来場者は約1,000人にも上った。もちろん展覧会目当てに来場した人ばかりではなく、橦木館を見学に訪れて必然的に展覧会を観ることになった方たちもいるだろう。しかし、たまたまにあるにしてもそういう方々が障がい者アートの世界に触れて、何かを感じてくれたのならば、山口さんやスタッフが伝えたかった想いはきっとその人たちの心にも届いているだろう。

山口さんは「このワークショップや展覧会の成果を、今後どのように繋げてゆけるかが課題です」とおっしゃっていたが、ポパイさんは設立当初から〈地域との繋がり〉とか〈事業所内で完結させない福祉事業〉を展開しておられている。おそらく山口さんの頭の中では、もう既に次の展開が見えているのに違いない。楽しみである。

山口さん、並びにNPOポパイさんの〈MO-YA-COプロジェクト〉の今後を期待したいと思う。





ジネンカフェVOL.064 のご案内

2012-07-08 15:08:22 | Weblog
日時:8月4日〈土〉14:00~16:00
場所:くれよんBOX
ゲスト:福原春菜さん(大学ボランティアセンター職員)
タイトル:「あなたは『ボランティア』という言葉から何をイメージしますか?」
参加費:500円(カフェ代別途)

ゲストプロフィール
1988年4月生まれ 社会人2年目。大学入学と同時に『ボランティア』というものに出会う。日本語教室での学習支援、国内外のNPO/NGOでのインターンを経て、現在は愛知県内の大学で学生のボランティア・地域活動のサポートをしている。

コメント
大学生になってボランティアと出会い、仕事としてもボランティアを扱う仕事に就いたという経緯から、「ボランティア」について皆さんとお話できれば嬉しいです。