「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和三年(2021)5月2日(日曜日)
通巻第6892号
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完成予定は2019年だった。いまだに全線開通の目処が立たない
インドネシア新幹線工事、中国はコロナを理由に遅延の言い訳
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インドネシア新幹線構想は、2008年頃から浮上し、ユドヨノ政権(当時)は、日本にフィージビリティスタディを打診した。ジャカルタ → バンドン間150キロを35分で結び、経済の大動脈とする計画だった。
筆者は、ジャカルタからバンドンへ行きはバスで、帰りは鉄道を利用した。山岳地帯から河川の多い区間を、列車は3時間以上かけて夕暮れの風景を走り、日が暮れたジャカルタに到着した。乗客があまりにも少ないことが気になった。新幹線をここに通すというプロジェクトのことはニュースで知っていた。
日本は土地の地盤調査から、予定線路に沿っての地質、地形、トンネルの必要性などを、三年掛けて調査し、2015年までに詳細な見積もりと照査結果を書類にして提出した。日本案は総額44億ドル。金利は0・2%、10年返済という応札だった。
この間に、ユドヨノ政権は退陣し、ウィドド政権が誕生した。
2015年三月、突如中国が応札すると言い出した。直前にウィドド大統領が北京を訪問し、習近平と会談した。中国はインドネシア新幹線への積極的支援を表明した。
2015年九月、インドネシア政府は、中国が落札したと発表した。総額55億ドル(このうち75%を中国が融資し、金利2%で、50年で返済)。
判明した事実は、中国側の提案は日本側の用意したフィージビリティスタディを単に翻訳しただけで、しかも一部は中国語のままだった。時の官房長官は管(現首相)で、中国に決まったと聞いて「理解しがたい。極めて遺憾である「」と記者会見した。
その後、工事は起工式から一年経っても着工せず、中国側は「用地買収に手間取っているので、2020年にずれ込むだろう」と言い逃れた。
2021年4月現在、「コロナで労働者が戻らず工事は遅れている」として、2023年弐完成は遅れるだろう」と再度、遅延理由を述べた。
インドネシア政界は、この中国へのどんでん返しの裏になにか政治的取引があったのではないかとし、関係閣僚の発言を引き出そうとしてきたが、ふたつの監督官庁はお互いに横を向き合ったまま。世論は「最初から日本に決めれば良かったのだ」という声が強い。
つまり、新幹線受注は、背後に「何が何でも受注しろ」とした習近平の強い圧力があって、中国鉄建は採算を度外視したうえ、事前調査などまったくせずに日本のフィージビリティスタディをどういう手を使ったのか事前に入手して、50年返済という釣り餌で、プロジェクトをまとめたのだ。
いったん決まれば、あとはどうにでもなるというのが伝来の中国人の思考特質であって、あらゆる言い訳を駆使し、また途中で条件を変更する。これは常套手段である。すでに総予算55億ドルが60億ドルに増えたとか。
令和三年(2021)5月2日(日曜日)
通巻第6892号
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完成予定は2019年だった。いまだに全線開通の目処が立たない
インドネシア新幹線工事、中国はコロナを理由に遅延の言い訳
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インドネシア新幹線構想は、2008年頃から浮上し、ユドヨノ政権(当時)は、日本にフィージビリティスタディを打診した。ジャカルタ → バンドン間150キロを35分で結び、経済の大動脈とする計画だった。
筆者は、ジャカルタからバンドンへ行きはバスで、帰りは鉄道を利用した。山岳地帯から河川の多い区間を、列車は3時間以上かけて夕暮れの風景を走り、日が暮れたジャカルタに到着した。乗客があまりにも少ないことが気になった。新幹線をここに通すというプロジェクトのことはニュースで知っていた。
日本は土地の地盤調査から、予定線路に沿っての地質、地形、トンネルの必要性などを、三年掛けて調査し、2015年までに詳細な見積もりと照査結果を書類にして提出した。日本案は総額44億ドル。金利は0・2%、10年返済という応札だった。
この間に、ユドヨノ政権は退陣し、ウィドド政権が誕生した。
2015年三月、突如中国が応札すると言い出した。直前にウィドド大統領が北京を訪問し、習近平と会談した。中国はインドネシア新幹線への積極的支援を表明した。
2015年九月、インドネシア政府は、中国が落札したと発表した。総額55億ドル(このうち75%を中国が融資し、金利2%で、50年で返済)。
判明した事実は、中国側の提案は日本側の用意したフィージビリティスタディを単に翻訳しただけで、しかも一部は中国語のままだった。時の官房長官は管(現首相)で、中国に決まったと聞いて「理解しがたい。極めて遺憾である「」と記者会見した。
その後、工事は起工式から一年経っても着工せず、中国側は「用地買収に手間取っているので、2020年にずれ込むだろう」と言い逃れた。
2021年4月現在、「コロナで労働者が戻らず工事は遅れている」として、2023年弐完成は遅れるだろう」と再度、遅延理由を述べた。
インドネシア政界は、この中国へのどんでん返しの裏になにか政治的取引があったのではないかとし、関係閣僚の発言を引き出そうとしてきたが、ふたつの監督官庁はお互いに横を向き合ったまま。世論は「最初から日本に決めれば良かったのだ」という声が強い。
つまり、新幹線受注は、背後に「何が何でも受注しろ」とした習近平の強い圧力があって、中国鉄建は採算を度外視したうえ、事前調査などまったくせずに日本のフィージビリティスタディをどういう手を使ったのか事前に入手して、50年返済という釣り餌で、プロジェクトをまとめたのだ。
いったん決まれば、あとはどうにでもなるというのが伝来の中国人の思考特質であって、あらゆる言い訳を駆使し、また途中で条件を変更する。これは常套手段である。すでに総予算55億ドルが60億ドルに増えたとか。