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胃癌日記78

2013-03-12 18:24:14 | 闘病

   胃 癌 日 記 78

   -スキルス胃癌手術から1年半(2013年6月9日)までの日々-

-映画「東京家族」を見て-

 日頃の業務はいよいよ多忙で、2月3日の日曜日も大阪での名刺交換会で日帰り出張だった。日曜出勤の代休で4日は休み。絶好のチャンスとばかり映画「東京家族」を見に行く。連れ合いも一緒に行こうと誘ったら、もう既に見たとのつれない返事。仕方がないので一人で行った。

 瀬戸内の小島に住む学校の教員をリタイアした老夫婦が、亡くなったかつての同僚への弔問と併せて東京に住む3人の子供を訪問する。両親を迎える長男、長女、末っ子の次男と初老の親との家族の絆とそれぞれの思いが、実に細やかに丁寧に描かれ、山田洋次監督の『小津安二郎監督にささげる』というメッセージにあるように、監督の自分にとっての集大成の作品の一つにしようと言った思い入れが伝わってくる映画だった。日常のさりげない景色だが、美しい瀬戸内を丁寧に撮影し、景色そのものがメッセージを伝えてくるような画面にも監督の思いが伝わってくる。ただ、美しい瀬戸内の風景の中に見える、祝島の対岸に原子力発電所が計画されているのだが、家族の絆や瀬戸内の小島に住む人と人との暖かい心の触れ合いの対極にある原発に対するネガティブメッセージも、山田監督は発しているのだろうか。

 主演の橋爪功は、昭和の高度成長期を生き家族の絆やしがらみを包含し、自分の人生を眺める初老の役が最近は多い。彼のことで強く印象に残っているのは、私が中学・高校の頃にテレビドラマや後に映画にもなった、『若者たち』で次男の役をしたときのことだ。両親を無くし協力し支えあって生きていく4人の兄弟妹の生き様を描いた作品で、長男が田中邦衛、次男が橋爪功、三男が山本圭、長女は佐藤オリエが演じた。時代は高度成長期の真最中で、長男の田中邦衛は自分には学が無くなんとしても三男の山本圭には大学を卒業させようと思って我を忘れて頑張る現業労働者の兄を強烈な個性で演じていた。次男の橋爪功は、高度成長期に企業戦士として真面目で一生懸命に働く現業労働者を、三男の山本圭は知的で情熱的な学生役を演じ、ドラマの中で社会の矛盾や不正義をいつも告発していた。長女の佐藤オリエは、冷静で強く優しく兄たちの母親のような存在であった。私は、自分の実生活や丁度思春期で感受性の強かった頃であったが、自分の感性の琴線に触れるようなリアリティのあるメッセージに大いに心が洗われたことを覚えている。

 『東京家族』での橋爪功は『若者たち』の時の次男が、教員としてそのまま年輪を積み上げてきたような思いに重なってくる。演技は朴訥として達観したかのような個性を好演していた。笠智衆に重なるようなイメージが随所にあったが、特にわざとらしいわけでもなく自然的であり、山田監督のクリエイティビティなのか、橋爪功の脚本理解と表現なのだろう。

 何よりもたいへん綺麗な、山田監督らしい、押し付けでなくそっと控えめに、ごく自然に差し出すメッセージに心が洗われる映画らしい映画であった。

(続く)

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