いせ九条の会

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竹中平蔵氏の主張を考える/山崎孝

2009-03-10 | ご投稿
3月9日の朝日新聞に元経済財政相へのインタビュー記事が掲載されていました。以下はその抜粋です。聞き手は深津弘氏です。

(記事は前略をしています)

■勉強し稼ぐカを

――製造業への派遣解禁など、労働市場の規制緩和が格差を拡大させたのではありませんか。

 「事実と違います。小泉政権の5年半は格差拡大のスピードは弱まっています。そもそも日本の格差は競争の結果ではなく、制度がゆがんでいるから生じているんです。非正規雇用が増えたのは、正規雇用はクビが切れないという30年前の裁判所の判例があるから。怖くて正規は雇えず、非正規を増やさざるを得ない。正規と非正規の給与格差も、それを容認する判例があるから。だから私はそんな解釈ができないように法律を変える改革が必要と言い続けている」

 ――構造改革は止まりました。

 「消費や投資は、自分の所得が将来何%増えるかという期待成長率に基づいて動くんです。小泉改革のとき、それがようやく高まり05年は株価が42%上がった。しかし改革が頓挫して成長が止まってしまった。日本経済はサブプライムの影響で世界が沈む前から沈み始めていたんです。これは重要なポイントですよ。成長するには必要な改革を続けるしかない。一つは羽田空港の24時間国際化を進めるなどして日本をゲートウェイ国家にすること。もう一つは税制改革。日本の法人税は高すぎます」

――日本の生きる道として、竹中さんはアメリカ型を目指してきましたが、今も変わりませんか。

 「国民が高い税金を払って多くのサービスを受ける、それをスウェーデン型と言い、できるだけ国民が自立して税金の負担を抑え、その代わり政府のサービスも最小限にする、それをアメリカ型と呼ぶなら、私は後者を選びます。日本のような人口が多い国で政府に大きな役割を任せたら、社会保険庁みたいな役所が増え、むちゃくちゃなことをやるだけですから。でも私はアメリカ型という言葉は使いません。アメリカかぶれじゃないですから。自助自立を前提にした社会、と言っています」

――もう少し具体像を。

 「まさに福沢諭吉が描いた世界ですよ。一人一人が勉強して稼ぐ力を身につけ、自分の足で立っていく。そうすることで初めて真に助けの必要な人に公的なお金をきちんと回すことができるんです」

■頑張るのは嫌か

――郵政民営化は自助自立ですか。年金の引き出しを郵便局員頼んでいた過疎地のお年よりは、不便になって困っています。

「日本の郵便料金はアメリカの2倍です。赤字が増え、料金がどんどん高くなるかも知れないという中で、年金の引き出しのようなサービスを続けていいんですか。私はそこまでする必要がないと思う。それが自助自立ですよ」

 「小泉改革でやったのは、郵政民営化のほか、不良債権の処理と公共事業を減らしたこと。だれが困りましたか。郵政民営化では、200余の子会社を作って甘い利権を吸っていた人たちが困った。不良債権処理では、ずるずるやってきたゾンビのような企業が困った。仕方ないですよね。公共事業を7兆円減らしたので、地方の土建屋さんが困った。でもこれをやっていなかったら消費税を3・5%上げなければならなかった。どっちがいいですか。国民は、公共事業を減らしても消費税を上げない方を選んだと思いますよ」

――竹中さんの話を聞いていると、日本人は常に気を張っていなければいけないようです。競争一辺倒でなく、「脱成長型」を目指す選択肢はないのですか。

 「だってグローバル化の時代ですよ。インドや中国が世界で頑張っている中、もう頑張るのは嫌だと言うのですか。所得が増えなくていい、みんな平等にしてくれ、と国民が求めるならそうすればいい。でも国民は、景気をよくしてほしいと常に言っているじゃないですか。マイナス成長でもいい、でも景気もよくしてほしい、と言うのは虫がよすぎます」(以上)

【コメント】竹中平蔵氏は《小泉政権の5年半は格差拡大のスピードは弱まっています》と述べています。事実を見てみます。小泉政権は2001年4月26日から始り2006年9月26日までです。絶対的貧困を表す指標となる生活保護受給所帯は、1996年は61万所帯であったのが2004年には100万所帯となり2005年は105万所帯になっています。

絶対的貧困を表す指標となる貯蓄のない所帯は1970年代から1980後半にかけては5%あたりを推移していましたが2005年は22.8%に上昇しています。

絶対的貧困層が増加したのは低賃金の非正規労働者が増えたのと比例しています。1995年は正規労働者3779万人、非正規労働者は1001万人でした。2005年になると正規労働者は3374万人で非正規労働者は1633万人となっています。製造業への規制を取り払った法律の労働者派遣法が変えられたのは1999年ですが、竹中平蔵氏の持論である新自由主義の具体化の一つでした。

竹中平蔵氏は《正規と非正規の給与格差も、それを容認する判例があるから。だから私はそんな解釈ができないように法律を変える改革が必要と言い続けている》と述べていますが、新自由主義とは、国の規制を受けずに資本家が企業の利益を最大限追求できる経営環境を整える経済主義ですから、竹中氏がこのように述べるのは矛盾しています。新自由主義は、労働者を人間として扱わず単なる労働力として経営者の都合よく使用して最大限の利益を追求するという資本家の本性を見落とした経済主義なのです。そして労働者が真面目に働いても生活出来ないような労賃から受取れなかったことや非正規労働者の大量解雇が原因となって、2009年1月には生活保護受給所帯が116万8305所帯を越してしまいました。

家計が行き詰まり学費が払えず高校を退学せざるを得ない生徒が多く出ています。竹中平蔵氏が福沢諭吉を持ち出して《一人一人が勉強して稼ぐ力を身につけ、自分の足で立っていく》この社会環境が崩れはじめています。

竹中平蔵氏は《日本の法人税は高すぎます》と述べています。しかし、小泉政権下の2005年の段階でも法人税減税などで、大企業は、過去最高の利益を上げて、内部留保は82兆円に膨らんでいます。

竹中平蔵氏は大企業の経営者の立場でものをいう人だと思います。