一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

新刊、旧刊とりまぜて
読んだ本の書評をお送りいたします。
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『世の途中から隠されていること』を読む。

2005-03-26 08:22:57 | Book Review
「著者は、元兵庫県立近代美術館学芸員。現在は東京大学大学院文化資源学研究室助教授。専攻は日本美術史」
などと聞き、かつタイトルが『世の途中から隠されていること』となると、とてつもなく難しい「美学論」の本かと思うでしょう。
でも、以前に同じ著者によって書かれ、一部書評でも好意的に取り上げられた『ハリボテの町』(朝日新聞社刊)となるとどうでしょうか。『世の中の……』は、その『ハリボテ……』のいわば続編です。

著者紹介から引きます。
「見世物、造り物、人形、写真、お城など、美術史のなかからこぼれ落ちたものを丹念にひろいあげ」
紹介し、論じている本です。
何しろ面白がる視線が、ちょっと変った物(この本でいえば、「戦艦三笠」「大船観音」「広島の平和塔=旧凱旋碑」「第一軍戦死者記念碑」等に向けられているのですから、普通の美術史の本になるわけもない。とはいっても、ことさらエキセントリックな論理が立てられたり、結論が出されたりしているわけではない(その点、「トンデモ本」と違うところ)。

従来の美術史で無視されてきた物を通じて、日本人の美意識や、美術に対する社会意識に迫ろうという試み。なかなか面白い視点であり、こちらの想像力をそそります。

例えば、ヴァンドーム広場・アウステルリッツ戦勝記念柱の載せていた銅像が、政権交代に伴って、ローマ皇帝風の衣装を着けたナポレオン像から、アンリ4世像、再度ナポレオン像(今度は軍服姿)に変っていったこと、一方、広島の日露戦争凱旋碑が金鵄を載せたまま戦後は、平和塔となったこと。

これを著者は、こう意味付けます。
「時々の社会に合わせて変えるべき物は、記念碑に付される言葉であった。言葉さえ入れ替えてしまえば、イメージを改変せずに、イメージの意味だけを無効にできると、われわれの社会は信じているからだ」
どうです、いろいろなことを思い浮かべませんか?

これって、「イメージ」より「ことば」の力を信じているようで、実は「ことば」をも粗略にしていることになりはしませんかね。

木下直之
『世の途中から隠されていること』
晶文社
定価:3,990円(税込)
ISBN4794965214