一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

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『クラシック音楽の政治学』を読む。

2006-02-09 04:15:42 | Book Review
「『帝国の音楽』としてその出自をもち、『高級』という記号として流通・機能しているクラシック音楽の現在形を、グローバリゼーションと観光、ポピュラー音楽との関係性、語られ方、歴史、聴衆、生態学などの視覚から照射する」
というのが、本書の〈セールス・トーク〉(企画・編集意図)。

しかし、包括的な編集意図に、決して成功しているとは言えない。
具体的にそれを示す前に、全体像を目次からご紹介。

本書は全7章構成。
 第1章「クラシック音楽」の新しい問題圏
 第2章「クラシック音楽」によるポピュラー音楽の構造支配
 第3章 レクイエムとしてのクラシック音楽
 第4章 戦時下のオーケストラ
 第5章 クラシック音楽愛好家とは誰か
 第6章 クラシック音楽の語られ方
 第7章 距離と反復

この中で、まず第4章(戸ノ下達也執筆)について、簡単に述べれば、日響(日本交響楽団。NHK交響楽団の前身)・東響(東京交響楽団。東京フィルハーモニー管弦楽団の前身)・大東亜響(大東亜交響楽団)などのオーケストラを中心にした、15年戦争期の活動を、政治状況と関連づけて述べたもの。
けれども、「おわりに」に「戦時期の音楽を考える際には、(中略)総合的かつ多面的に捉え、歴史に位置づけたうえで正負両面から評価すべきであろう」とあるが、そのような分析にまで達していないで、いわば年表に註を加えれば済む内容で記述が終始している。
はっきりいって、これで編集意図に合っているのだろうか。

また、第1章の著者渡辺裕は、『聴衆の発見』(青弓社)で、なかなか面白い観点を提示しているのに、本書では、単なる「ウィーン観光」と「ウィーンの音楽」との概略を述べているだけである。
そこには、新規な視点の提示がなされているとはいえない。
かなりおざなりな、エッセイ的文章としか言いようがない。

その点で、最も評価できるのは、第6章(輪島裕介執筆)であろうか。
ここでは、前述した『聴衆の発見』を踏まえた上で、「ハイソ」「癒し」「J回帰」の3つのキーワードで、現在のクラシック音楽状況(生産者―媒介者―消費者という構造)を分析している。
ここには「日本での(ひいては『非西洋地域』での)文化的な『近代化』および『西洋化』の問題として捉え直す」という問題意識が生きている(したがって、論理の射程はクラシック音楽のみに留まるものではない)。

その他、簡単に触れれば、第3章(清水穣執筆)は〈現代音楽〉論として読むに値する。
第2章(増田聡執筆)、第5章(加藤善子執筆)、第7章(若林幹夫執筆)は、エッセイないしは大学生のレポート程度の出来。
商品として如何なものであろうか。

渡辺裕/増田聡ほか
『クラシック音楽の政治学』
青弓社
定価:本体3,000円(税別)
ISBN4787271954

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