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最近の拾い読みから(190) ―『戦後腹ぺこ時代のシャッター音ー岩波写真文庫再発見』

2007-10-18 03:05:22 | Book Review
サブタイトルどおりに、かつて刊行されていた「岩波写真文庫」という写真を主としたシリーズに著者が再度目を通し、そのテーマに関するエッセイを書いたものです(もちろん、「岩波写真文庫」からピックアップされたページも載っています)。

「岩波写真文庫」についてご存じない方がほとんどだと思いますので、基礎データを示しておきます。
「岩波書店が1950年6月から1958年12月まで刊行していた写真集のシリーズです.B6版モノクロ、当時定価百円、合計286冊が世に出されました。」(「関心空間」より)

著者の赤瀬川氏は「終戦時小学校3年生」ですから、このシリーズが刊行され始めた当時は、「中学、高校、そして上京してからの時間帯」。このシリーズに写し取られた風景には、懐かしさがあるのです。
ですから、エッセイ部分では「昔話」が多くなる。

しかし、小生などは、ここに撮影された光景は、一部懐かしさはあるものの、リアル・タイムで体験したものではありません。
ちなみに、小生がこのシリーズ(の表紙)を見たのは、近くの図書館で。しかも、「大人の書棚」に置いてありましたので、手に取ってじっくりと見たことはなかった。だから、中味を見たのは、近年復刊された『東京案内』などの東京についての4冊が初めて。

それでは、そのような小生が今現在、このシリーズの写真を見て、何が面白いのか。

その第1は、戦後という時期の「リアル感」が捉えられているからでしょう。
「敗戦という事実は、ラジオの玉音放送で知るわけだけど、それは音質の不明瞭さもあり、濃厚な文学性をまとっていた。でもそれをリアルに受けとることになったのは、例の天皇陛下とマッカーサー元帥の併立写真だ。それを見て人々は、いやおうなく敗戦という底点に立ったのだと思う。やっぱり、本当にそうだったのか、ということで、新しい転換が始まる。」
と著者が書いているのが、戦後映像の「リアル感」の原点になるのでしょう。

そういう意味では、第2点として、著者の「映像」論(殊に「戦後映像論」)が、エッセイ部分では興味深いところ。

第3は、第1、第2と比べて、かなり個人的な興味。
つまり、『東京セブンローズ』『下駄の上の卵』といった井上ひさしの「戦後もの」に描写されている被写体が、映像で示されていること(1例としては、本書176ページの「米軍基地の鉄条網の前で、着物姿で花を売る少女」の写真。ただし、実は男の子。「こうしないと花が売れない」からという。たしか、この話『東京セブンローズ』にあったと思う)。

最低限、旧警視庁ビルや旧国技館(両国の「メモリアル・ホール」の方)をご存知の方には、いくぶんなりとも懐旧の思いをもって、まったく見たこともない映像ばかりの方には、戦後映像のごく初期の記録として見る/読むことのできる書籍でしょう。

赤瀬川原平
『戦後腹ぺこ時代のシャッター音ー岩波写真文庫再発見』
岩波書店
定価 1,680 円 (税込)
ISBN978-4000236713

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