一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

新刊、旧刊とりまぜて
読んだ本の書評をお送りいたします。
活字中毒者のアナタのためのブログです。

『信長と十字架』を読む。

2005-08-12 00:01:25 | Book Review
「謎また謎」というか、「謎が謎を生み」というか、「推理小説でも読むような面白い歴史書」となるところだが、残念ながら、本書は〈プロット〉(構成)に難があるために、そうはいきませんでした。

内容は、副題に「天下布武の真実を追う」とあるように、信長がなぜ天下を目指したのか、本能寺の変で倒れたのはなぜか、という歴史上の大きな謎を解くというもの。
その大きな謎(著者は「大命題」という)を解くための過程で、小出しにされてくる複数の謎があるわけですが、小ネタの扱いがどうにも拙い。

推理小説の筆法なら、小ネタはその都度、適当な解決はつけられるものの、最後の大ネタを解く時に、全体の中で位置づけられ、思いがけない相貌を見せる、ということになるでしょう。
それが〈プロット〉の構成が甘いために、その都度、小解決してしまって、次の伏線にもなりきれないでいる。
うーん、カタルシスが得られないよ、これじゃあ。
一例を挙げたいのですが、そうすると「ネタバレ」になるので……、乞ご推量。

とケチを付けているばかりでは、読んでいても面白くないでしょう。
そこで、本書のキモをご紹介。

それは「あとがき」にもあるように、
信長の全国制覇が、南欧グローバリゼーションの一端を担うものであった
という視点にあります。

どうも、今までの歴史小説家は怠慢なところがあって、世界史全体の中で日本を見るという視角がなかった/乏しかった。
ある歴史家などは、
「信長の率いた軍団は、当時世界最強だった」
などと、馬鹿なことを言っている(野砲まで備えたオスマン帝国のイエニチェリを知らないな)。

それに対して本書は、結論の妥当性はともかくとして、少なくとも世界史的な動きの中で日本史を捉えようとしている。
それが、この時代を描いた歴史小説をよく読む人にとっては、目新しい点ではないかと思います。
ただ、新書の割りには、読み易い記述とは言えないので、本腰を入れて読む姿勢が必要になることだけは、付け加えておきましょう。

立花京子
『信長と十字架ー天下布武の真実を追う』
集英社新書
定価:本体777円(税込)
ISBN4087202259


最新の画像もっと見る