一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

新刊、旧刊とりまぜて
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最近の拾い読みから(64) ― 『日本の音楽を考える』

2006-09-10 06:11:15 | Book Review
前回の続きのような話題になります。

日本音楽(近現代を除く)を考えると、これはもう民族音楽の一つとなります(意外と、そのような視点からの本が少ないのね)。
本書第1章「日本の文化としての音楽」というのが、民族音楽としての日本音楽を考察したパート。

著者の基本的な音楽についての考え方が、ここに示されています。
第2章以降の論旨にも関係あるので、引いておきましょう。
「洋の東西や時代と歴史の差を越えて、また芸術音楽とか、民俗音楽、大衆音楽、あるいは宗教音楽などの差を越えて、およそ音楽はすべて音楽であるはずである。」
小生も、この見解には同意します。
それは、日本の近代化が西欧化と等しかったことから、
「明治以後の音楽教育があくまで洋楽に基礎を置いてきた」
に対する批判にもなります。

したがって、それに対峙する方法としては、
「世界の音楽文化全体の中に洋楽も日本音楽もそのままおいて、それぞれの性格を見届けること」
が大事になってくるわけです(まさに文化人類学における相対的視点の考え方)。
しかし、それは洋楽を絶対化することを排除するだけではなく、日本音楽を何か特殊な(良い意味でも悪い意味でも)ものと考えることから離れることになります。

そのような視点から、子どもの音楽生活について述べたのが、第2章「日本の子どもたちと音楽」。
ほとんどの原稿が、1970年代に書かれたものですので、データは古いのですが、音楽教育への提言としては、今でも通用するものがあるでしょう。

小生が、もっとも興味深く読んだのが、第3章「童謡の作曲家たち」。
中山晋平から湯山昭に到るまでの童謡の実作者たちの、作品分析のパートです。

特に中山晋平の項は、「メロディの音階の種類によっての分類」によって、その作品の分析に及んでいるのが、なかなかおもしろい。
「中山晋平は、日本の子どもたちの音楽的発想を、よく感じ取り、表現することのできた作曲家であったことがわかる。下駄ばきの庶民の感覚で童謡を作曲した、童謡運動としてはほとんど唯一の作曲家ではなかったかと思う。」
という結論に、さほどの意外性はないが、方法論がしっかりしているので、説得力を持っていると思います。

異なる時期に異なる媒体に書かれた文章を集めた本書ではありますが、以上のように、一環した観点が背景にあるので、全編を通しても違和感なく読めます。

特に、音楽教育に携わっている方へ、一読をお勧めします。

小島美子(こじま・とみこ)
『日本の音楽を考える 新装版』
音楽之友社
定価:2,100円 (税別)
ISBN4-276-21389-4

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