大前研一のニュース時評 切れ味の鈍さ感じる「22年世界の10大リスク」 4位は中国内政「恐怖のネット企業統制」…最大のリスクは?
Zakzak より 220122
米国のコンサルタント会社「ユーラシア・グループ」は、新春恒例の「2022年の世界の10大リスク」を発表した。同社は著名な国際政治学者、イアン・ブレマー氏が社長を務め、1998年から年初に世界の政治や経済に深刻な影響を及ぼす地政学リスクを予測している。
⚫︎1位は中国の「ゼロ・コロナ政策」の失敗。新型コロナの封じ込めに失敗し、世界経済が混乱に陥る可能性が高いとした。2位は巨大IT企業の影響力がさらに強まって、その偏った解決法が混乱や暴動を引き起こすリスク。3位に米国の中間選挙で共和党が連邦上下院の過半数を奪取することを挙げた。
報告書は冒頭、米中がそれぞれの内政事情から内向き志向を一段と強め、世界の課題に対処する指導力や協調の欠如につながると指摘している。ま、当たらずといえども遠からずということか。
ただ、1位のコロナ封じ込め作戦の失敗については、かつて中国広東省で発生して世界に拡大したSARS(重症急性呼吸器症候群)などの経験もあるので、リスクはリスクだが、これが「世界の重大リスク第1位」と言われたところで疑問がある。
私は最大のリスクとして、米国政府に世界に対する理解が欠けていることを挙げたい。ドナルド・トランプ前大統領はハチャメチャな人間だったが、それに続くジョー・バイデン大統領も、長い間、政治に取り組んできて、副大統領の経験もあったのに、この程度なのかという思いだ。
ロシアや中国に対する理解の程度は、前大統領とあまり変わらない。そういう意味で、私は米国の能力不足、世界の状況を把握する弱さについては、ユーラシア・グループよりも憂えている。米国がのさばっていろいろなことをするが、それ自体がリスクになるのではないか。
⚫︎リスクの4位は中国内政。今年後半の共産党大会で習近平国家主席の異例の3期目政権が確実視されていて、習政権に対するチェック機能がほとんどないと指摘した。
これに関連した話題。中国のネットを統制する国家インターネット情報弁公室は5日、スマホなどで使うアプリの情報サービス管理規定の改訂案を発表した。
内容は、アプリの提供企業に対して、中国当局にとっての「正しい政治的な方向性」や世論誘導などを要求し、国家安全を強化する内容を盛り込んだもの。今年中の施行を目指す。要は、共産党の立場からネット企業の締め付けを強化するということだ。
習政権の情報統制は最近ますます強くなっている。あの文化大革命時代を思い起こさせるほどだ。こんな風に言論統制をしていくと、偏狭な考えの人たちがどんどん増えていく。政府が「これだよ」と言ったら、「はい、これです」という人間が13億人も出てくるというのは、これはこれで非常に恐ろしいリスクだと思う。
⚫︎ ちなみに、
5位は米国との関係が緊張状態のロシア、
6位は核合意の立て直しを巡って強硬姿勢を崩さないイラン、
7位は脱炭素政策とエネルギー政策の衝突、
8位は世界の力の空白地帯。で、
9位は価値観の衝突に敗れる多国籍企業、10位はトルコを挙げていた。
この総花的な一覧表を見ていると米ソ冷戦のG2が終結し、米国独り勝ちとなった時にG1、そして誰も指導者がいなくなってG0とうまい表現で一世を風靡したイアン・ブレマーの切れ味が鈍ってきているのではないか、とふと感じさせる今年のレポートであった。
■ビジネス・ブレークスルー(BBTch)の番組「大前研一ライブ」から抜粋。
この総花的な一覧表を見ていると米ソ冷戦のG2が終結し、米国独り勝ちとなった時にG1、そして誰も指導者がいなくなってG0とうまい表現で一世を風靡したイアン・ブレマーの切れ味が鈍ってきているのではないか、とふと感じさせる今年のレポートであった。
■ビジネス・ブレークスルー(BBTch)の番組「大前研一ライブ」から抜粋。