中国語学習者のブログ

これって中国語でどう言うの?様々な中国語表現を紹介します。読者の皆さんと一緒に勉強しましょう。

《雲郷話食》を読む: 硬面孛孛(インミエンボォボ)

2011年03月04日 | 中国グルメ(美食)



 前回の孛孛(ボォボ)の話では、お供えにする“孛孛卓”のことを取り上げましたが、今回は、昔北京で夜、もの売りが売り歩いた“硬面孛孛”についてです。北京の街では、様々なもの売りの姿が見られたことが、書物に書かれ、中国漫才の相声のネタとして取り上げられていますが、“硬面孛孛”もその代表格の一つです。
 尚、前回同様、“孛”bo1の字は本当は食偏ですが、便宜上、食偏を省略し、“孛孛”bo1boと表記します。

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■ 身無霊骨,不配作詩人,但小時候不知天高地厚,居然也写過詩,還写過白話詩。記得做中学生時写了一首詩,題名《老人的歌》。前面一節写道:“一首老人的歌,把氷涼的夜幕穿破,緩緩地来到我枕辺,像母親的手撫摸我進入夢郷。”我這里没把它分行写,権当作散文看吧。這詩中説的,正是北京旧時胡同中深夜売硬面孛孛(●食偏。以降、便宜上“孛孛”と表記する。bo1bo)的市声。

     “硬面 ―― 孛孛!?”

・霊骨 ling2gu3 生まれつき持った才能や素質
・不配 bu4pei4 ふさわしくない。~の資格がない。
・天高地厚 tian1gao1di4hou4 [成語]物事の難しさ、複雑さの形容。[用例]不知天高地厚:物事の難しさを知らない。身の程を知らない。
・権当 quan2dang4 ~と思えばよい。~とするがよい。
・夢郷 meng4xiang1 夢の世界

 生まれつき才能が無く、詩人になる素質が無いにもかかわらず、小さい頃は身の程を知らずに、詩を書いたことがあり、それも口語詩を書いた。確か中学生の時に詩を書き、その題を《老人の歌》としたのを憶えている。その前の方の一節にこう書いた。「老人の歌が、氷のように冷たい夜のとばりを突き破り、ゆっくりと私の枕もとにやって来た。母親の手でなでられるように、私は夢の世界に入って行った。」私はここで行を分けて書かなかったので、散文と思って読んでもらえばよい。この詩の中で言っているのは、正に北京の昔の胡同で、深夜に“硬面孛孛”を売りに来たもの売りの声である。

     “硬面 ―― 孛孛!?”

■ 其声音把“面”字拖的特別長,在韵尾部分有“儿”的余音,“孛孛”又声音急促。叫売硬面孛孛多在冬季深夜。在那極為寧静的深夜中,這種叫売声随着夜風,能穿過几進庭院,聴起来顕得特別凄涼,有一種孤苦無靠的感覚,凡聴到過這種叫売声的人,大概都很難忘記吧。我小時候聴慣了這種声音,而毎当聴到時,我已迷迷糊糊将進入夢郷。尽管我雖很少買硬面孛孛吃,却対它懐着深厚的感情。

・進 jin4 [量詞]北京の四合院の内部は、前後にいくつかの中庭があるが、その庭を数える。
・孤苦 gu1ku3 一人ぼっちで、寄る辺がないこと。[用例]孤苦無依的老人

 その声は“面”(ミェン)の字を特に長く引き伸ばし、語尾の部分に“儿”の音を残し、“孛孛”(ボォボ)のところでまた声は早口になる。“硬面孛孛”を売りに来るのは多くが冬の深夜であった。その極めて静かな深夜に、この呼び売りの声が夜風とともに、いくつかの中庭を越えて聞こえ、聞いてみるとたいへんもの寂しく、一人ぼっちで寄る辺のないような感じがし、このようなもの売りの声を聞いたことのある人は、おそらく忘れることができないだろう。私は小さい時からこの呼び声を聞き慣れていて、いつもこの声を聞く時は、もうまどろんで夢の世界に入っていた。私は“硬面孛孛”を買って食べたことはほとんど無いが、これには深い親しみを抱いている。

■ 硬面孛孛是什麼東西呢?《燕都小食品雑咏》有詩道:

     孛孛沿街運巧腔,余音嘹亮透灯窓,居然硬面伝清教,驚破鴛鴦夢一双。

・嘹亮 liao2liang4 声や音が高らかに響き渡る

 “硬面孛孛”とはどんなものなのか。《燕都小食品雑咏》にこんな詩がある。

     孛孛は街に沿って売り歩かれ、その呼び声の調子は巧みで、声の余韻が灯(ともしび)や家の窓を沁み通る。“硬面”(インミエン)ということばがはっきり伝わって教えてくれるので、そのため鴛鴦(おしどり)が、つがいで安らかにみている夢を破ってしまう。

■ 詩后有注云:“硬面孛孛,即火烙餅餌之類,惟多于夜間售売為可異耳。”這里“火烙餅餌之類”,説的還不够gou4清楚。据《一歳貨声》所載,這種孛孛有“子儿孛孛、双喜字加糖、硬面鐲子、咸螺螄転、油酥焼餅”等等。這些東西都是用発酵的面粉干烙的,午后烙,晩上背個食盒提着灯籠叫売,専門走很長的胡同。人們也許覚得奇怪,大家都睡覚了,這硬面孛孛還売給誰呢?実際這是専門為有不良嗜好、深更半夜不睡覚的人准備的。生意本是十分可怜的。那種孛孛只是発面和糖干烙的,大小如一個焼餅,堅硬難咬,一点也不好吃。但老北京人却喜愛它。記得有位満族親戚老太太,已是七十来歳的人了,已経咬不動硬面孛孛了,但却依旧愛吃它。把硬面孛孛擘bai1成小塊,放在口中慢慢咀嚼,似乎滋味無窮。不過在我的記憶中,総覚得硬面孛孛遠遠没有芝麻醤焼餅或馬蹄焼餅好吃。枝巣子《旧京秋詞》云:

     可怜三十六孛孛,露重風凄喚奈何?何処推窓呼買取,夜長料得女紅多。

・餅餌 bing3er3 小麦粉や米の粉などを捏ねて作った“餅”(ビン)と呼ばれる食べ物(主食にする)の総称。
・子儿 zi3r 小さくて硬い塊り
・双喜字 shuang1xi3zi4 “喜”という字を二つ横に並べて書いた模様。
・鐲子 zhuo2zi 腕輪
・螺螄 luo2si1 巻き貝
・油酥 you2su1 菓子やパイを作るのに、小麦粉に油脂やバターを練り込み捏ねたもの。“油酥焼餅”は小麦粉を平たく焼いた“餅”(ビン)の生地が、パイのように層になったもの。
・深更半夜 shengengban4ye4 [成語]深夜。真夜中。
・擘 bai1 両手で二つに割る。饅頭を両手で持って二つに割って食べるイメージ。
・咀嚼 ju3jue2 咀嚼する・女紅 nv3hong2 女性のやる仕事。
・三十六孛孛 この場合、“三十六”は具体的な数ではない。“三十六計”というように、極めて種類の多いことを言うのだろう。

 詩の後の注に言う。「“硬面孛孛”というのは、天火で焼いた、小麦粉を捏ねた餅(ビン)の類であるが、多くは夜間に売り歩かれるので、呼び売りの声を聞くとびっくりする。」ここで「天火で焼いた餅(ビン)の類」という説明では、まだはっきり理解できない。《一歳貨声》の記載によれば、こうした孛孛には、「小さくて硬い塊りの孛孛、“双喜字”の描かれた砂糖入りのもの、堅焼きの輪っかの形のもの、塩辛い巻き貝の形のもの、パイのように層になった焼餅(シャオビン)」などがあった。これらのものは発酵させた小麦粉を天火で焼いたもので、午後に焼いて、夜に背中に商品を入れた箱を背負って提灯を提げ、専ら長い胡同を売り歩いた。人々はひょっとすると不思議に思ったかもしれない、皆が寝静まっているのに、この硬面孛孛を誰に売るのだろうと。実際、これは専ら、良くない習慣で、真夜中にまだ寝ずに起きている人のために用意したものだ。商売自体大したことがなかった。そうした孛孛は発酵させた小麦粉に砂糖を入れて焼いたもので、大きさも同じ焼餅(シャオビン)は、硬くて噛めず、少しも美味しくなかった。しかし昔の北京の人はこれを愛した。確かある満州族の親戚のおばあさんは、もう七十過ぎの人だったが、もう硬面孛孛を噛むことができないのに、相変わらずこれを食べるのが好きだった。硬面孛孛を両手で持って小さな塊りに割り、口の中に入れてゆっくり咀嚼すると、その風味は無限に広がるようだ。けれども私の記憶の中では、いつも、硬面孛孛は、上に胡麻を振って味噌で照りのつけられた“芝麻焼餅”や馬蹄型をした“馬蹄焼餅”の美味しさには遠く及ばないと感じていた。枝巣子の《旧京秋詞》に言う:

     可哀そうな数多(あまた)の孛孛よ。冬のひどい風の中、もの悲しい呼び声をどうしようというのか。どこかで窓を開けて呼び止めて買われる。冬の長い夜、おそらく内職をする女が多いのだろう。

■ 枝巣老人是以忠厚的心吟唱的,詩后并注解説:“夜聞売硬面孛孛声,最凄惋。”老人并引《順天府志》,説是売給寒夜刀尺,深更做寒衣的婦女吃的。道光時余煌《京師新楽府》有《売孛孛》詩,写道:“売孛孛,携柳筐,老翁履敝衣無裳,風酸雪虐凍難耐,窮巷局立如蚕僵。売孛孛,深夜喚,二更人家灯火燦 ……” 把売硬面孛孛老人的形象写得十分感人。実在那深夜的叫売声太凄凉了。

      “硬面 ――孛孛……”

 這抑揚而有点凄凉的声音似乎又在我耳畔回響了。

・忠厚 zhong1hou4 正直で温厚である
・刀尺 dao1chi3 衣服を作ること。
・敝 bi4 破れた。ぼろぼろの。
・裳 chang2 衣服の下半身をおおう、はかまやスカート。
・二更 er4geng1 “更”は“初更”から“五更”まであり、日没から日の出までを5等分した時間で、1更は約2時間。“二更”は9時から11次までを指す。
・燦 can4 鮮やかに輝くさま。

 枝巣老人は正直で温厚な気持ちで詠っている。詩の後の注釈で、こう言っている。「夜、硬面孛孛を売る呼び声が最も寂しく悲しい。」老人は更に《順天府志》を引用し、寒い夜に服を作る人に売った。深夜、冬着を作る女達がこれを食べたと言う。道光帝の時、余煌の《京師新楽府》の中に《売孛孛》(“孛孛”売り)という詩が納められ、こう書かれた。「孛孛売りは、柳で編んだ籠を提げていた。年老いた翁は、靴は破れ衣服は下に履く袴も無く、寒風や雪に苦しみ、凍えて堪えがたく、貧しい家の並ぶ路地に立てば、蚕のように動きがにぶかった。孛孛売りは、深夜に呼び売りをする。二更(夜の9時から11時)頃は、人家の灯火は赤々と輝いている……」硬面孛孛売りの老人のイメージがうまく書かれ、たいへん人を感動させる。実際、あの深夜の呼び売りの声はたいへんもの寂しい。

      “硬面 ――孛孛……”

 この抑揚のある少しもの寂しい声が、また私の耳のそばでこだまするようである。


【出典】雲郷《雲郷話食》河北教育出版社 2004年11月


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