中国語学習者のブログ

これって中国語でどう言うの?様々な中国語表現を紹介します。読者の皆さんと一緒に勉強しましょう。

沈宏非のグルメエッセイ: 【対訳】 臘味

2011年01月08日 | 中国グルメ(美食)
 “臘”la4というのは旧暦の12月のこと。またこの時期に肉や魚を塩漬けにし、寒風に晒して保存食としたことから、肉、魚の燻製のことを“臘”と言います。新年の第1回目の読み物として、沈宏非の《臘味》を取り上げます。
 本文で紹介されている、広東式釜飯の臘味煲bao3仔飯、しばらく食べていませんが、また食べたくなりました。

                          臘味

■ 臘肉総是譲我想到下雪,棉襖,火炉,以及冬令里的種種節慶。如果要用一種味道来形容冬天,臘味会是我的首選。

 燻製の肉というと、降雪、綿入れ、ストーブ、更には冬の間の様々な行事やお祝いを思い浮かべる。もし一つの食べ物の味で冬を形容するとしたら、燻製の肉や魚を第一に挙げる。

■ “臘,干肉也”(《辞源》),凡是経過腌制,并且到了臘尾春頭時拿出来吃的,才算臘肉。本国的咸肉之類雖然也是経過腌制的“干肉”,欧洲的“干肉”雖然也很好吃,却因想吃就吃,終究不能称為臘味,再説老外的暦書里曾経有熱月,霧月,却従来没有臘月。

・腌 yan1 塩漬けにする
・熱月,霧月 フランス革命の時に使われた革命暦で、8月を“熱月”(Thermidor)、11月を“霧月”(Brumaire)と言った。

  “臘”とは、乾し肉のことである。」(《辞源》)凡そ塩漬けにし、年末から春先に取り出して食べるものが、“臘肉”である。中国のベーコンの類も塩漬けにされた“乾し肉”であり、欧州の“乾し肉”もたいへん美味しいが、食べたい時にいつでも食べられるもので、結局のところ“臘味”と呼ぶことができない。また外国の暦には嘗て“熱月”(Thermidor)、“霧月”(Brumaire)はあったが、“臘月”は無かった。

■ 臘肉以湘粤両省所産最佳。不同的是,湘臘偏咸,而且在腌漬過程中還加以煙熏,滋味剛烈,且有錯綜複雑的煙熏感(包括稲谷、甘蔗皮、橘皮及木屑)。臘味做主角的代表作,是臘味合蒸。参與“合蒸”者,除了片狀的臘肉,還有條狀的臘魚,以料酒、猪油和鶏湯調味,入蒸籠中蒸20分鐘,色澤金黄,咸香味濃,乃為天作之合。

・天作之合 tian1zuo4zhi1he2 [成語]神様が結びつけたように、完璧な取り合わせである

 燻製の肉は湖南省と広東省のものが最も良い。両者の異なる点は、湖南の燻製は塩辛過ぎ、しかも塩漬けの途中、煙で燻すので、味は力強く、複雑に錯綜した燻し感(稲籾、砂糖キビの皮、蜜柑の皮、木屑を含む)がある。燻製肉を主役とする料理の代表作は、“臘味合蒸”(燻製肉の合わせ蒸し)である。いっしょに蒸されるのは、薄切りの燻製肉の他、燻製の魚の細切りで、料理酒、ラード、チキンスープで味を調え、蒸籠で20分蒸せば、色は黄金色、塩辛く味は濃厚、まるで神様が結びつけたように、完璧な取り合わせである。

■ 粤式臘味的制造属于無煙工業,故味道較淡,湖南人吃起来可能感覚它“半生不熟”。正因如此,粤式臘味不宜独食,也不宜挙行湖南臘味的和蒸式的全体会議,扮演的往往是調味的角色,也就是説,它通常参与的只是一場場“拡大会議”,而且是列席身份。例如在秋、冬季節応市的煲bao1仔飯,便最能体現粤式臘味的魅力。炉火在煲bao1底不緊不慢地焼著,而在煲bao1内,米飯是主体,臘肉是陪襯,當那些覆蓋在表面的臘肉、臘鴨、臘腸的肉汁全面地滲透了満煲bao1的米飯,掲開煲bao1蓋,澆上醬油,米香肉香撲面而来,再佐以広東特有的陰湿寒風,端的是意奪神駭,讓吃客感動得落涙。因此,広東人不大説“臘肉”,而是取代以“臘味”一詞。

・煲仔飯 bao1zai3fan4 小さな土鍋に米と具を入れ、直接火にかけて炊き上げたもの。広東でよく見られる。釜飯。
・陪襯 pei2chen4 引き立て役・滲透 shen4tou4 浸透する。染み込む
・駭 hai4 驚く。びっくりする

 広東式の燻製の作り方は煙で燻さないので、味が比較的淡白で、湖南の人が食べると「まだ半分生で熟成していない」感じがする。このために、広東式の燻製はそれだけで食べるには適せず、湖南の燻製の「合わせ蒸し」式の全体会議を挙行するのにも適さず、演じるのはしばしば味を調える役割、つまり、それが通常加わるのは一回一回の「拡大会議」で、しかも列席者の身分である。例えば秋、冬の季節に市場に出る釜飯は、広東式燻製の魅力を最も良く表している。コンロの火は鍋の底から早すぎず遅すぎず焚いていく。土鍋の中は、米飯が中心で、燻製は引き立て役である。表面を覆う燻製の豚肉、アヒル、腸詰の肉汁は全面的に鍋の中の米飯全体に染み込み、鍋の蓋を開け、醤油を振りかけると、米の香りと肉の香りが顔に当たり、広東特有の陰湿な寒風を手助けに、テーブルに運ぶと気も漫ろになり、お客に感動の涙を落とさせるのである。そたがって、広東人は“臘肉”とはあまり言わず、代わりに“臘味”ということばを使うのである。

■ 説到臘肉,早在2500年前就有了中式的版本,事実上,在冰箱発明之前,臘肉的腌制術完全是出于保存食物的目的。不管是塩蔵、燥蔵、熏炙,臘的手段多種多樣,関鍵詞却只有一個,就是脱水。多樣化的不僅是手段,還包括了脱水目標,牛、羊、馬、鹿、獐子、狗熊,皆是早期被臘的熱門。反正,若為保存故,一切皆可臘。人能不能臘?可臘,非常臘,遠的有木乃伊,近的有蠟像館,不過,“臘人”的原則却完全不同于針対牛、羊、馬、鹿、獐子的“有臘無類”,它従来都只奉行一個標準,即非成功人士不臘。

・獐子 zhang1zi キバノロ。鹿の仲間
・狗熊 gou3xiong2 クマ。ツキノワグマ

 燻製について言うと、2500年前には中国式の燻製が生まれたが、実際のところ、冷蔵庫の発明以前は、燻製肉を塩漬けにより作る技術は完全に食物を保存する目的から生まれたものだった。塩漬け、乾燥、燻製にして炙るなど、燻製の手段は多種多様であるけれども、肝心なことは一つだけ、すなわち水分を抜くことである。多様であるのは手段だけでなく、水分を抜く対象も、牛、羊、馬、鹿、ノロジカ、ツキノワグマは何れも昔はよく燻製にされた。いずれにせよ、もし保存したいと思えば、皆燻製にされた。人間は燻製にできるか?できる、間違いなくできる、遠くはミイラがそうであり、近くは蝋人形館(“臘”と“蝋”は同じ発音であるla4 )がそうである。しかし、「人間の“燻製”」の目的は牛、羊、馬、鹿、ノロジカの「種類を選ばず燻製にする」のとは異なり、一つの基準を守っている。すなわち、「成功しなっかった人は“燻製”にされない」のである。

■ 史上最著名的臘肉属于孔子,“束脩十条”是孔老師辧教育的定額收費。“束脩”者,即鮮肉加上香料再経風干制成的臘肉。批林批孔的時候,“束脩十条”亦忝列為公審孔老二的呈堂証供,七十二乗以十,至少七百二十条臘肉足以将他帰入罪悪的肉食者階層并清理出教師隊伍。奇怪的是,在我吃過的各種孔府菜里均不見這一口。“莫春者,春服既成,冠者五六人,童子六七人,浴乎沂,風乎舞雩yu2,咏而帰。”不知此踏青団除了“冠者五六人,童子六七人”之外,有没有携帯“臘肉七八条”以做野餐之用?“三月不知肉味”,到底是“肉味”還是“臘味”?孔子究竟是更愛吃肉還是更愛音楽,這些都不太好説,不過以臘肉的質感而論,倒也不失為一種適用于收取教学費用的“硬通貨”。

・脩 xiu1 乾し肉。孔子が自分の教える弟子の学費を乾し肉十本と定めたことから、後に転じて“束脩”shu4xiu1は先生への謝礼、学費の意味となった
・忝 tian3 [謙譲語]かたじけなくも
・孔老二 孔子のこと。孔子の兄弟には、上に一人兄がいたので、“孔老二”という呼び方をする。
・呈堂証供 cheng2tang2zheng4gong4 法廷に提出する証拠や供述
・莫春 “莫”は“暮”のことで晩春。
・冠者 成人に達し元服した者は冠をつけたことから、ここでは成人の意味。
・踏青 ta4qing1 4月5日の清明節の頃に若草を踏んで春のピクニックに行くこと。

 歴史上著名な燻製肉は孔子に関係がある。“束脩十条”、乾し肉十本は孔子が学問を授ける時の定額の学費であった。“束脩”とは、新鮮な豚肉に香料を加え、風に当てて乾燥させて作った燻製肉である。“批林批孔”の時代、“束脩十条”も孔子の罪状審議の証拠物件に並べられ、72 x 10、少なくとも720本の燻製肉は、彼を、罪を犯した肉食者階層と結論づけ、教育者の名誉を剥奪するに十分であった。不思議なことに、私は各種の“孔府菜”(孔子一族の家庭料理)を食べたが、燻製肉が使われているのを見たことがない。“莫春者,春服既成,冠者五六人,童子六七人,浴乎沂,風乎舞雩yu2,咏而帰。”(晩春、春の衣服が整ったら、成人5、6人、子供6、7人で、沂水の水を浴び、雨乞いの舞台で風に吹かれ、歌を歌いながら帰ってきたいものだ。)《論語・先進》この春の遠足の一行は、「成人5、6人、子供6、7人」の他、「燻製肉を7、8本」持って行ってお弁当にしなかったのだろうか?“三月不知肉味” (三か月の間、肉の味も忘れる程に斉の音楽に夢中になった)《論語・述而》これは果たして「新鮮な肉の味」なのか、それとも「燻製の肉」の味なのか?孔子はつまるところ肉の方が好きだったのか、それとも音楽の方が好きだったのか、これはどちらともいえないが、燻製肉の質感から言えば、学費徴収に使う「ハード・カレンシー」としての資質は失っていないだろう。

■ 還是先別替古人担憂了。欲哭無涙的是,世界上好吃的臘味,怕是終有一天也会被以“健康”的名義徹底消滅,更為淒惶者,甚至連冬天也可能不再寒冷。一年四季三缺一,終生不知臘味,那光景,可就真個是“臘肉成灰涙始干了”。

・欲哭無涙 yu4ku1wu2lei4 泣きたいのに涙が出てこない。心配でたまらないが、それをうまく表現できないこと。
・三缺一 元々麻雀で3人いるが1人欠けていて麻雀を始められないこと。そこから転じて、何か一つが欠けているため物事が始められないことを言う。
・臘肉成灰涙始干了 唐・李商隠の詩“蠟炬成灰涙始乾” 蠟炬灰と成りて涙始めて乾く(蠟燭は燃え尽きる時に蠟の涙はやっと乾く。恋する女性のことを死ぬまで思い続けるという意味)をもじったもの。“臘”も“蠟”も同じ発音la4。

 やはり先ずは昔の人の代わりに憂えるのはやめよう。泣くに泣けないのは、世界中の美味しい“臘肉”が、いつの日か「健康のため」という名目で消し去られることで、もっと心配なのは、(温暖化で)冬でも寒くなくなることだ。(そうなると美味しい“臘肉”が作れなくなる。)一年四季のうち三つはあるが一つが欠け、一生燻製の味を知らない、そのような情景は、「“臘肉”灰と成りて涙始めて乾く」だ。私はあくまで“臘肉”のことを思い続けたい。


【出典】沈宏非《飲食男女》南京・江蘇文藝出版社 2004年8月

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