系譜から逸れたがるひと胸もとに辛夷の花をぼうと灯して
古樹なのか老翁なのか濁り江に身をせり出して影をなすもの
怒りちいさく芽吹く夜半をびらびらとはみだしながら下る坂道
ふゆの根を踏みゆくこども長靴にムーミントロールをねむらせて
爛れつつとどまりながら陽光は今朝みずうみの氷を剥がす
系譜から逸れたがるひと胸もとに辛夷の花をぼうと灯して
古樹なのか老翁なのか濁り江に身をせり出して影をなすもの
怒りちいさく芽吹く夜半をびらびらとはみだしながら下る坂道
ふゆの根を踏みゆくこども長靴にムーミントロールをねむらせて
爛れつつとどまりながら陽光は今朝みずうみの氷を剥がす
獣肉をブライン液に漬けながらこの週末もほどよく弱い
見切られているのか声をあまくして問う種種のとどのつまりは
十代のひとに教わる声優のなまえひとつもおぼえられない
雪氷雪とかさねて如月をしずかに保つ尾根を思えり
動かずにすごす真冬の軒先に誤謬のようなつらら育てて
両耳をわずかに立てて雪を聴く犬の時間に生きるおまえは
駈け回ることもなくなり寝息まで老いてこのまま澄んでゆくのか
遠のいて弱まる夜をあたためる蕪のスープに麦ひとつかみ
どのような命にふれてきたのだろう小さいひとはゆびを揃えて
低いねえ こらえきれずにあめゆきをこぼし始めるあなたの雲は
品くだる王と王妃に統べられし国の岸辺をゆく物語
ほろびろ。ひくくつぶやく青年の声はフロアの隅に凝りぬ
そこここにみだりがわしく咲きながら川面を流れゆく霜の花
老いてゆくための力を思いつつ緑のネルでガラスを磨く
水際に脚をさしいれ青鷺のような暮らしをつないでゆくか
心拍を探られている霜月の胸を港のようにひらいて
木枯らしに巻かれ残んの実をこぼすほつえしずえという美しさ
庭先に秋をあつめて焼べている長子であればことば少なく
クスクスをこぼしつづける真昼間を会いたいひとはこの世の外に
まきこまれやすい体を診せながら質されながら冬を迎える
灯台のおなかに触れる休日のわたくしという粗野ないきもの
ひとびとのなかのひとりとして秋をたたむことしかできないだろう
傘を振る子ども小さく跳ぶ子どもじゅくじゅくと地面をにじませて
国家、からすみ、みどりごの舌、玉手箱、棍棒で撲つ波の頂
からだからことばをすべて剥がしたい十月の廊下が冷えている
草の穂のひとつひとつをひからせてそんなに待っていたのか、のはら
ほどけてはまたからみあい駆けていくたんぽぽ組はみんな素足で
遠景をよぎる白帆は喩のようににじむ どなたに会いにゆこうか
いくたびも地を離り空を突いているお前は雲雀のままでいなさい
戦から次のいくさへ春服の少女がこぼす焼き菓子の粉
望まれて水になるまでここにいる睡蓮の葉をむねにひろげて
刃の先で背骨をさぐる あばいてもあばいても美し春の魚は
心根を推しはかられる三月のみどりみだれるランチプレート
弥生から卯月へわたる素はだかのパンをしずかに呑みこみながら
うす紙に草をつつんで帰り来る春はてしない弟たちよ
にほんごがくるしい胸に蜜蜂をとまらせたまま笑い死ぬ夢
水際はみだりがわしくつま先にからむ銀杏草のむらさき
土を恋うほどのさみしさ濡れ雪に鼻をさしいれながらおまえは
ふゆの死の上にひろがる春の香をいえば小さく尾をふるばかり
いくたびも川を見下ろすくらぐらと氷をのせたまま流れる水を
如月の息をこぼして朝夕のおまえはとても犬らしくなる
裂けながらはげ落ちながらこの冬のきわみに立っている裸の木
たどりつく夢からさめて水際に胸をよごしている鳥たちよ
かなしみが洩れてあたりを乱すまで川のかたちで待っていたのか
道の辺に根を深めゆく堅雪よ濁りを踏めばぎうと応えて
朝礼に揃うあしゆび年度から年度へ鳥をわたらせながら
つぶつぶと甘酒は沸きどのように終えるかなんて知ったこっちゃない
ときおりは川を眺める遠からず綻ぶものを数えあぐねて
隔たれている安寧にうちごもる赤子がふいに我をゆびさす