創作日記&作品集

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池窪弘務作品集3 一九九五年(四十九歳)

2021-12-05 14:33:32 | ラジオドラマ
池窪弘務作品集3 一九九五年(四十九歳)
『バスが行く(ラジオドラマ)』
1995-09-30(FMシアター)
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入選すればシナリオ依頼が来ると思っていたのは甘かった。
『一人で跳べる』の演出家のS氏を頼ってシナリオを持ち込む日が続いた。
やっと興味を示されたのが『バスが行く』だった。
だけどそれからが長かった。
何度も書き直しが続いた。
「もうやめます」という言葉が何度もでかけた。
シナリオは原形をとどめないぐらいになった。
私は迷路に落ちた鼠みたいだった。
そんなある日言葉が落ちてきた。
初登場する風(ふう)やんの科白である。

音吉「風やんどこ行くんや」
風やん「めばちこできたよって、鶴橋の目医者行くねん」
音吉「お前も白髪が目立ってきたなあ」
風やん「アホは年とらへんのに、言いたいやろ」
平三郎「せやけど、風やんはほんま男前やなあ」
音吉「千代の富士みたいや」
風やん「おおきに」
音吉「それで、しゃべらへんだら、ほんま、ようもてるで」
風やん「こんなとこで、いちびってんと、目医者いこ。あるときは、片目の運転手、そして、その実体は、正義と真実の人、藤村泰造、ばーん、ばーん。はいよシルバー、ローレン、ローレン、ローレン」
うた「気つけていきやあ」
風やん「おおきに、ローレン、ローレン、ローレン(次第に遠ざかっていく)」
ゆめ「えらいこっちゃ、鶴橋行くて言うてたなあ。風やん止めて」
うた「ゆめちゃんどうしたん」
ゆめ「鶴橋で、車にぶっかって、ほんで風やんは」
(ローレン、ローレン、ローレンの小さい声)
音吉「風やん」
うた「自転車が、空を駆け上がっていく」
ゆめ「消えた」
(ローレン、ローレン、ローレンの小さな、小さな声。一拍おいて、大きく、ローハイド)

『バスが行く(ラジオドラマ)』は関西演劇界の四人の重鎮の出演でラジオドラマ化された。