テンペスト・デラックス・エディション(初回生産限定盤) | |
ボブ・ディラン | |
SMJ |
京都市出身みうらじゅん氏も大好きなボブ・ディランの新譜アルバム『テンペスト』(日本盤)が、9月26日に発売されました。
初回生産限定盤のみスペシャル・ブックレット付(ファン垂涎? 世界各国の超レアな雑誌の表紙を集めた60ページにも渡るブックレット! メモ付きの手のひらサイズ手帳です。所持しなくてもこれからの人生に何ら影響はありませんが、持ってないよりは持っていた方がよいかも)
○
【CD帯裏・紹介文】
デビュー50周年、今もなお走り続けるロックの神様ボブ・ディラン。通算35作目となるオリジナル・ニュー・アルバムには71歳にして衰えを知らないエネルギーがつまっている。タイタニック号の悲劇を紐解く14分間の大作「テンペスト」。「カム・トゥゲザー」や「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」などの歌詞の断片をいくつか引き合いに出しながら、ジョン・レノンに捧げた7分半に渡る感動の「ロール・オン・ジョン」他全10曲のディラン書き下ろし新曲を収録。
○
▼ アルバムの冒頭を飾る「デューケイン・ホイッスル」のPV。
ふーむ……、今回のアルバムもアメリカン・ルーツ・ミュージックを基調とするオールド・タイム・サウンドである。砂っぽいアメリカの片田舎の場末のハンバーガー・ショップで、壊れかけたAMラジオからノイズ混じりに流れてきそうな音楽なのである。オールディーズもたまには聴くが、純日本人のオイラにとっちゃもうお腹いっぱいいっぱいなのだが、ファンのサガで毎回CDは買ってしまうのであるなあ。(T_T)
しかしながら、古き良き時代のアメリカを彷彿とさせるディラン御大の最近の一連のアルバムは、輝かしく懐かしい過去に回帰したいという欧米人の心理が働いているのか、本国では凄いセールスを上げているのだった。
1997年の『タイム・アウト・オブ・マインド』はビルボード10位、プラチナ・ディスク獲得、グラミー賞で最優秀アルバム、ベスト・コンテンポラリー・フォーク・アルバム、男性ロック・ボーカルを受賞。2001年の『ラヴ・アンド・セフト』はビルボード5位、ゴールド・ディスク獲得、グラミー賞で最優秀コンテンポラリー・フォーク・アルバムを受賞。2006年の『モダン・タイムズ』はビルボード1位、世界中で250万枚以上を売り上げたほか、グラミー賞で最優秀コンテンポラリー・フォーク/アメリカーナ・アルバムを受賞し、最優秀ソロ・ロック・ボーカルも受賞。2009年の『トゥゲザー・スルー・ライフ』は御大にとって初めての全米・全英アルバム・チャート初登場1位を記録。
今回の『テンペスト』もビルボード初登場3位で好調なすべり出しである。
オイラにはアメリカ人の知人が一人もいないのでわからないのだが、そんなに御大はアメリカで人気者なのかい? アジアの片隅にいると、まったく実感が湧かないのである。今年5月にはアメリカ市民に与えられる最高位な勲章「大統領自由勲章(Presidential Medal of Freedom)」までもらってはるのである。
歌詞が評価されて毎年ノミネートされては落選しているノーベル文学賞も、今年は英ブックメーカーのオッズで1位と2位を村上春樹と争っているようだ。
▼ 近年使いはじめたこのマークは、人気と引き替えに魂を売り渡したことの表明なのか?
○
オイラがディラン御大の音楽をリアル・タイムで聴くようになったのは、1981年にリリースされたアルバム『インフィデル』からだった。
御大50年のキャリアの中で最も低迷期だった頃で、やることなすこと裏目裏目の絶不調期に聴きはじめているので、今のように脚光を浴びているのが嘘のようである。80年代ですでに過去の人扱いだったからな~。
▼ パンクっぽいアレンジで一生懸命歌ってはるのは伝わってくるのだが、ハーモニカで放送事故!
▼ ミキサーにアーサー・ベイカーを起用して時代に乗っかろうとしたが……。極秘来日して撮ったPVも不評を買う。
▼ 「ウィ・アー・ザ・ワールド」レコーディング中は終始居心地悪そうだった。スティーヴィー・ワンダーから歌唱指導を受ける。一生懸命さはわかります。
▼ 世界中に中継されたライヴ・エイドで幕前の幅1mの最悪なステージ。ギターの弦も切っちゃうし。でも汗びっしょりで一生懸命ですよね。
▼ 主演映画「ハーツ・オブ・ファイア」。不評のためにアメリカでは1週間だったか2週間だったかで公開打ち切りだったっけ? 日本では劇場未公開。テレビの深夜映画枠で一度観たきり。
▼ 低迷期でも決めるときは決める。カッコいいっス!
人は御大のことを「ロックの神様」とか「フォークの神様」と呼んだりするが、非常に人間味溢れる愛すべきドジでマヌケなシンガーソング・ライターなのである。
音楽評論家からの評価が著しく低い80年代のアルバムであるが、秘かに名曲が散りばめられていてオイラは好きである。逆に著しく評価が高い1997年の『タイム・アウト・オブ・マインド』は、オイラからすれば幽冥界から聞こえてくるような陰鬱で退屈なサウンドのアルバムで、まったく聴く気がしないのでどーすりゃいいんだろう。
みうらじゅん氏はディラン初心者に対して、自分の年齢とアルバム・リリース時のディラン御大の年齢が同じアルバムを聴くことを推奨している。その説に則れば、オイラも55歳を超えれば、最近の御大のシブさがグッと心に入ってくるのであろうか? ディラン道は長くて深い。それまで待とうホトトギス。
『タイム・アウト・オブ・マインド』(御大55歳)
『ラヴ・アンド・セフト』(御大59歳)
『モダン・タイムズ』(御大65歳)
『トゥゲザー・スルー・ライフ』(御大68歳)
○
ところで、ビートルズの中で最も御大と親交があったのはジョージ・ハリスンである。
はたしてジョン・レノンとはどのぐらい近しい仲だったのか? 互いに時代を転がせ合った盟友であったことは確かなことだ。
「ディランなんか信じない」と歌っておきながら、ずっとジョンは御大のファンだったようである。生前、自宅録音された物まね音源が1998年に発表されている。
アルバム『テンペスト』のトリを飾るのは亡きジョンに捧げた「ロール・オン・ジョン」。合掌。
死後30年を経てなんで今さらジョン・レノンなんだろうか? と思うけれど、御大もジョンのファンだったのかもしれないねえ。
○
御大の作品は、聴けば聴くほど味が出るスルメみたいなもんなのだ。しばらく『テンペスト』はヘビロテなのである。
【2012-10-05 追記】
御大のダミ声をまったく受け付けない人にとっては苦痛以外の何者でもないアルバムであろうが、聴き慣れているオイラにとっちゃ久々の良盤(5段階評価で★★★にしておこう)でありました。
お気に入り曲は、クレジットにはないけれどキース・リチャーズがギターを弾いてるのではないかと思ってしまう「ペイ・イン・ブラッド」と、ジョン・レノンに対して真摯に、そして慈しむように切々と唄う「ロール・オン・ジョン」。
50年間転がり続けている人のシブい大人のロック、ここにあり! である。