法人営業に最適な『理詰めの営業』で日刊工業新聞社賞受賞の中小企業診断士 齋藤信幸の営業力強化手法 <情報デザイン>

営業自身のシンになる営業手法を確立し、自信に。営業案件の可視化と営業の行動管理を実現。特にコンプレックスセールスに最適。

『理詰めの営業』- サービス業の営業力強化 - 顧客基礎情報を収集・分析する

2020-10-25 10:51:44 | ・・顧客の基礎情報を収集・分析する
前回の「営業ステップの定義」は、詳しく書きすぎました。顧客から打診があった直後に作成できる「営業ステップの定義」は、もっとラフなものですね。

「顧客基礎情報収集・分析シート」は、顧客の現状分析に必要な基礎的情報の収集と不足情報に関する入手計画を立案するツールです。新規顧客の場合は最初のステップであり、既存顧客であれば最新情報に更新するステップです。

必要な情報は、企業業績、関連事業業績、中期・長期事業計画、投資計画、組織図、意思決定プロセス、当該企業の課題、競合情報などです。

これらの情報から顧客の全体像を把握し、当該案件実施の確度(本気度)や関係者の洗い出し等に活用します。提供する製品やサービスにより調査項目・内容にメリハリをつけるとよいでしょう。  

1.企業業績、関連事業業績、中期・長期投資計画、本年度投資計画
株主向けの情報や経済新聞、業界新聞などでこれらの情報を収集します。関連事業の企画部門や購買部門からも必要な情報を入手できる場合もあります。会社のトップ同士が懇意になり、日ごろの付き合いの中で、投資情報等を聞き出すというのがもっとも現実的で精度の高い情報入手方法と言えるでしょう。本年度あるいは中期の当該部門の投資計画に限って言えば、関連部門の部長・課長からも入手可能です。

また、予算案の作成、申請、承認、執行というサイクルを調査することも重要です。

例えば、会計年度が4月1日から始まり、翌年の3月31日に終わる会社の場合、翌年度の予算案の作成は8月のお盆明けから9月までに行い、10月に申請し、年内に承認を得、新会計年度の5月連休明けから予算の執行を行うといったサイクルが考えられます。
自社の製品やサービスを買ってもらうためには、予算作成前に営業活動を行う必要があります。

もちろん、年間計画の投資ではなく、スポットでの投資もありますので、顧客の投資の仕組み、ルールを把握しておくとよいでしょう。

今回、事例として扱う「ビル管理業」でも、企業業績、中期・長期投資計画、本年度投資計画などは重要項目です。最初にビル管理の案件を取りにいく場合はそれほど重要ではありませんが、案件が取れた後は必須の項目です。企業の業績が悪化すれば、コスト低減の圧力が加わります。一旦、下げた契約金額を上げるのは極めて困難です。ビル管理業での中期・長期投資計画は、設備のオーバーホールや更新・新設、フロアの拡張・縮小計画、リノベーション、移転計画などを含んでおり、ビル管理を実施していく上で必須の情報です。

2.組織図(全体・関連部署)
当該企業全体の組織の概要と当該案件と関連のある部署の組織図を入手あるいは作成します。組織図上で、貴社に好意的な顧客、貴社に好意的でない顧客(いわゆるアンチ)と中立的な顧客に色分けしましょう。また、馬の合わない顧客同士の関係も注視しておきましょう。これらから人間関係構築に関する課題が見え、「関係顧客分析」の貴重な情報となります。

3. 意思決定プロセス
まずは、予算作成から購入承認までの意思決定プロセスや予算の執行に関わる意思決定プロセスを把握します。プロセスごとの関係者の特定し、その中で力のあるのは誰かを調査します。

意思決定プロセスは、投資計画立案段階か、実施を決める段階かなど、案件の進捗状況や会社の組織変更あるいは購買手続きの変更等により変わっていきます。また、最終的には社長あるいは当該事業の事業部長・役員が承認することになるのでしょうが、実際には現場の課長の意見が尊重される会社もあります。実質的で最新の意思決定プロセスを把握しておきましょう。これも「関係顧客分析」の重要な情報となります。

4. サプライチェーン
当該企業の上流および下流のサプライチェーンを調べましょう。営業戦略に活用できる場合があります。例えば、貴社が計測器メーカーで、ターゲットにしている顧客の製品の販売先を知っている場合、その販売先から貴社の計測機で検査したものを納品するように仕様書に書いてもらくことにより商談を有利に導くことができます。あるいは、逆に当該顧客の部品納入業者に計測器を買ってもらい、当該顧客での歩留まり改善を図るという方法も考えられます。サービス業の場合も上流、下流の企業と同じサービスを提供することなどで、当該企業のメリットになることがあるはずです。

5. 競合情報
当該案件と関連のある競合情報の収集です。競合情報の収集・分析は、奥が深く、これだけで大きな仕事になるでしょう。

まず、公にされている会社案内やホームページから情報収集します。競合他社が大きな会社ならば、業界紙や雑誌からでもかなりの情報が得られます。収集する情報は社員数、総売上高、純利益、およびそのトレンド、取り扱っている製品・サービスの種類と各々の売上高、販売先、販売先でのシェア、営業・サービス拠点と営業・サービスの人数、代理店などです。

更に、ターゲットにしている顧客での納入実績、人脈、強み・弱み、販売体制、サポート体制などを調べます。特に、顧客と競合会社との人脈は、より詳細に調べる必要があります。

長年、同じビジネスを行っていれば競合情報はある程度蓄えていると思います。しかし、提供する製品やサービスによっては、見方を変えて競合を探す必要があります。例えば、マクドナルドの競合は、ハンバーガーという切り口で言えばモスバーガーやバーガーキング、ロッテリアなどですが、ランチの価格帯で見ると、コンビニ弁当や吉野家の牛丼などが競合になります。貴社の製品、サービスをいくつかの切り口で分析してみましょう。これらの情報は、「競合分析」および「関係顧客分析」に必須となります。

事例となるビル管理業では、新設のビルの場合、ビル建設会社と紐づいたビル管理会社が、一番の競合となります。具体的にはビル建設会社等の名前が付いたビル管理会社。例えば三井不動産ファシリティーズ、三菱地所プロパティマネジメント、阪急阪神ビルマネジメント、NTTファシリティーズ、東急ファシリティサービス、大成有楽不動産、野村不動産パートナーズなどなど。

新設のビルでない場合は、現在のビル管理会社が分かりやすい競合です。新設時と同じ管理会社の場合もありますし、そうでない場合もあります。防災センター等になにげなく行ってみれば、ユニフォームなどからどの会社か直ぐに判明します。興味のある方は、今、入居しているビルの管理会社を調べてみましょう。

6. 業界情報
業界紙やサプライチェーンの中での情報収集から、業界としての技術トレンドや課題、大きな潮流などをつかんでおきましょう。大きな潮流が変わると、貴社の製品やサービスは不要になるかもしれません。直近の案件のためというよりも、営業トークのタネ、あるいは、中長期的なビジョン作成のためと考えていただければと思います。
もちろん、業界としての課題は、「顧客の問題・課題・ニーズ分析」の情報の一つです。初めて訪問する顧客で具体的な課題が分からない場合は、業界情報としての課題から入るのもよいでしょう。

提供する製品やサービスによっては、顧客のユーザーや元社員からの評判を調べることも有効です。例えば、人事・総務関連のサービスであれば、転職情報サイトでの書き込みから、人事・総務の課題が透けて見えることがあります。メーカーの製品関連であれば、アフターサービスに対する不満なども見えてきます。

7.問題・課題
企業には大きな経営課題から現場の問題、課題まで様々な問題、課題があります。ここでは、貴社が提供するソリューションで解決可能と考えられる問題、課題を整理します。それらが経営課題と結びついていれば、実施の可能性は高くなります。これらの情報は「問題・課題・ニーズ分析」の基礎資料となります。

顧客自身が問題・課題・ニーズを認識していない場合もあります。コンサルタントとして顧客の業務等の分析等を行い、問題等を抽出する必要があります。

顧客基礎情報は、顧客の全体像を把握し、今回の投資の確度の分析や関係者の洗い出し、あるいは顧客の選択等にも活用します。これらの情報の収集・分析の一部は、マーケティングの仕事ですが、一般的に独立したマーケティング部のない企業では、営業が積極的かつ日常的に行わなければなりません。

実際のところ、営業が個人的にこれらの情報をもれなく収集するのは不可能に近いと言えます。また、タダで入手できる情報には限界があります。業界に精通したマーケティング会社から情報を買うなど会社としての対応も必要となります。

以下は、情報の記入例です。情報の有無、入手予定、入手先、入手・分析責任者名、部署、分析レポート番号などを記入します。収集した情報と分析結果は、言うまでもなく共有されねばなりません。



新人営業は、自分が今の会社の面接を受けるときしっかりその会社について調べたはずです。それを思い出して顧客の調査をするとともに、前述のような切り口も参考にして顧客情報の収集を行います。

また、新人営業の場合は、業界用語もしっかり学習する必要があります。例えば、半導体業界の「歩留まり」、コンビニ業界の「日販」、福祉業界の「利用者さん」など、その業界では当たり前に使われている用語です。「知りませんでした」「勉強になりました」「ぜひ教えてください」では、いかに新人でも営業とは言えませんし、売れる営業にはなりません。

そういう私も「養生」という言葉の意味を知らず、戸惑ったことを思い出します。養生には、「病気を治すように務める」の意味の他に、「建築工事や搬入作業などで破損防止の手当てをする」の意味があります。実は、半導体計測装置の据え付けの話のときまで、後者の意味を全く知りませんでした。今は、さも昔から知っている顔で話しますが。

顧客の方が、数段上なのですから、顧客を凌駕する知識を披露することはできなくとも(空気を読まないと逆に嫌われる)、「この新人、よく勉強しているな」と心の中で思わせるくらいでなければなりません。自分の売りたい製品やサービスの情報だけではなく、「顧客を知る」ことが非常に大事です。

さて、次回は別の分析ツールの解説といきたいところですが、この事例の営業ステップでは、次は「顧客V社との打ち合わせ(案件内容・スケジュール把握)」。取集した顧客基礎情報をベースにどのような会議を能動的に行うか。顧客との会議の準備として『会議設計』の話をします。




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『理詰めの営業』 - 顧客基礎情報の収集・分析(更新)

2018-07-23 23:10:32 | ・・顧客の基礎情報を収集・分析する
顧客基礎情報の収集・分析
顧客の現状分析に必要な基礎的情報の収集と不足情報に関する入手計画を立案するツールです。新規顧客の場合は最初のステップであり、既存顧客であれば最新情報に更新するステップです。

必要情報は、企業業績、関連事業業績、中期・長期事業計画、本年度投資計画、組織図、意思決定プロセス、当該企業の課題、競合情報などです。

これらの情報から顧客の全体像を把握し、当該案件の実施の確度(本気度)や関係者の洗い出し等に活用します。

1.企業業績、関連事業業績、中期・長期投資計画、本年度投資計画
株主向けの情報や四季報、経済新聞、業界新聞などでこれらの情報を収集します。関連事業の企画部門や購買部門からも必要な情報を入手できる場合もあります。もっと効果的なのは、会社のトップ同士が懇意になり、日ごろの付き合いの中で、投資情報等を聞き出すというのがもっとも現実的で精度の高い情報入手方法と言えるでしょう。本年度の投資計画に限って言えば、関連部門の部長・課長からも入手可能です。

2.問題・課題
企業には大きな経営課題から現場の問題・課題まで様々な問題・課題があります。ここでは、貴社が提供するソリューションに関連する問題・課題を整理します。それらが経営課題と結びついていれば、実施の可能性は高くなります。

3.組織図(全体・関連部署)
当該企業全体の組織と案件と関連のある部署の組織図を入手します。既存顧客の場合は、組織図上で、貴社に好意的な顧客、貴社に好意的でない顧客(いわゆるアンチ)と中立的な顧客に色分けしましょう。人間関係構築に関する課題が見えてきます。

4. 意思決定プロセス
意思決定プロセスは、投資計画立案段階か、実施を決める段階かなど、案件の進捗状況や会社の組織あるいは購買手続きの変更等により変わっていきます。また、最終的には社長あるいは当該事業の事業部長・役員が承認することになるのでしょうが、実際には現場の課長の意見が尊重される会社もあります。実質的で最新の意思決定プロセスを把握しておきましょう。

5. サプライチェーン
当該企業の上流および下流のサプライチェーンを調べましょう。例えば、貴社が計測器メーカーで、当該顧客の販売先を知っている場合、その販売先から貴社の計測機で検査したものを納品するように仕様書に書いてもらくことにより商談を有利に導くことができます。あるいは、逆に当該顧客の部品納入業者に計測器を買ってもらい、当該顧客での歩留まり改善を図るという方法も考えられます。

6. 競合情報
当該案件と関連のある競合情報の収集です。長年、同じビジネスを行っていれば競合情報はある程度蓄えていると思います。提供する製品やサービスによっては、見方を変えて競合を探す必要があります。例えば、マクドナルドの競合は、ハンバーガーという切り口で言えばモスバーガーやバーガーキングなどですが、ランチの価格帯で見ると、コンビニ弁当や吉野家の牛丼などが競合になります。貴社の製品、サービスをいくつかの切り口で分析してみましょう。

7. 業界情報
業界紙やサプライチェーンの中での情報収集から、業界としての技術トレンドや課題、大きな潮流などをつかんでおきましょう。大きな潮流が変わると、貴社の製品やサービスは不要になるかもしれません。直近の案件のためというよりも、営業トークのタネ、あるいは、中長期的なビジョン作成のためと考えていただければと思います。

顧客基礎情報は、顧客の全体像を把握し、今回の投資の確度の分析や関係者の洗い出し、あるいは顧客の選択等にも活用します。これらの情報の収集・分析の一部は、マーケティングの仕事ですが、マーケティング部のない企業では、営業が積極的かつ日常的に行わなければなりません。

実際のところ、営業が個人的にこれらの情報を収集するのは不可能に近いと言えます。また、タダで入手できる情報には限界があります。業界に精通したマーケティング会社から情報を買うなど会社としての対応が必要です。



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