石橋みちひろのブログ

「つながって、ささえあう社会」の実現をめざす、民主党参議院議員「石橋みちひろ」の公式ブログです。

「外国人高度人材に関するポイント制」とは?

2011-08-17 23:23:31 | 活動レポート
「外国人高度人材に関するポイント制導入」って、聞いたことありますか? 聞いたことある人は、なかなかの事情通ですが、多くの皆さんはまだご存じないのは。今、導入に向けて検討が進められている新しい制度で、実現すると、海外の「高度人材」が日本に来て就労しやすくなるのです。

でもそれっていいこと?

一緒に考えてみましょう。

ご存じのように、昨今、経済のグローバル化や技術の高度化が進んで、国家間、企業間の経済競争が激化してきています。そのような状況の中で、日本の産業や企業のこれからの国際競争力や、国全体としての成長戦略を考えた時に、日本で不足している分野の専門家や技術者を海外から積極的に受け入れて企業活動の活性化や競争力の強化を図ろう、というのが基本的な考え方です。

ただ、そのような高度人材はどこの国でも必要としていますから、競争になります。そこで、海外からの高度人材を日本に受け入れるにあたって、他国と同等かそれ以上のインセンティブを導入しようと。ただ、誰にでもというわけにはいかないので、新たにポイント制を導入して、一定以上のポイントを満たした者を「高度人材」と位置付けて優遇しようというわけです。

ポイントは、「学歴」、「職歴」、「年収」、「地位」などでポイント化されます。そしてインセンティブは、専門分野を越えた活動の許容や、最長在留期間の5年への延長、永住権取得条件の緩和、さらには親や家事使用人の帯同、配偶者の就労許可といった優遇措置が検討されています。

そもそも、自公政権下にあった2009年5月に、『外国高度人材受入推進会議』なるものが報告書を出し、そこで「外国高度人材の受け入れ推進を成長戦略の重要な一翼と位置づけて、中長期的観点から高度人材の受け入れを進めて行く必要がある」と提言したのがきっかけ。その後、民主党政権になり、昨年策定した新成長戦略の実現と併せて「ポイント制」の導入による高度人材の受け入れ制度の検討が進められてきました。

そして、今年5月、法務省が「高度人材に対するポイント制による優遇制度の基本的枠組み案」という素案を発表し、上記のような制度案が明らかになったのです。

しかし、ここで問題が!

これ、対象者の範囲や優遇措置の内容によっては、国内の労働市場や社会保障制度など、厚生労働分野に大きな影響を及ぼす可能性があるのです。推進したい側は、できるだけ対象範囲を拡大して、優遇措置を拡充したいと思うでしょうが、それは一方で、日本のこれまでの方針を大きく変更するばかりか、日本人の雇用や暮らしにも影響を及ぼすことになりかねないわけですね。

だから今後の制度設計に当たっては、施策のメリット・デメリットをきちんと検討した上で、合理的な基準が設定される必要があります。そのため、6月以降、厚生労働省が労使、学識経験者の参画する検討会を開催して、適切な基準の設定に向けた努力を重ねてきました。

先般、その検討会の「中間的な論点整理」が公表されたの読んでみたのですが、正直なところ、まだまだ議論されるべき課題が多いな~という印象です。興味のある皆さんは、ぜひご一読下さい:

 ・「外国人高度人材に関するポイント制導入の際の基準等に関する論点整理」(PDF形式)

いろいろと問題提起したいのですが、今日は下記の2点について、ちょっと私見を述べておきます。

まず、そもそもなぜ外国人高度人材の受けれが必要なのか?という根本的な問題に関する考え方です。

中間整理では、求められるべき人材像は「国内で代替することが出来ない良質な人材」だとされていて、「国内産業にイノベーションをもたらし、労働市場の効率性を高めることが期待される人材」となっています。これは裏返して言えば、国内に高度人材が不足していて、イノベーションが停滞しているので、その補完が必要である、ということを意味しているのでしょう。

国内に必要な高度人材がいないというのは、これは大きな問題ですよね。日本は、まがりなりにも戦後の復興を通じて欧米にキャッチアップし、世界第二の経済大国になった国です。さまざまな産業で、世界的な認知度とシェアをもつ製品を生み出してきていますが、その原動力はやはり日本人自らの技術力やイノベーション力であったはず。その日本に、今、高度人材が不足しているというのであれば、その原因が何なのか、ということを突き詰めて考えないといけないと思います。

そして、その原因に対して適切な対応を行って、今後、中長期的に、さまざまな分野で活力やイノベーションをもたらすことの出来る人材を育成していける体制をつくっていかないといけません。

そういう戦略で考えないと、単に今、不足しているから海外の高度人材の助けを借りればいいという発想では、日本は今後、長期にわたって海外からの人材に依存する体制になってしまい、国内での人材育成がなおざりにされてしまうのではないかと危惧するのです。実際、推進派は、できるだけ「高度人材」の範囲を拡大して欲しいという要望を持っている様子。例えば、年収要件を300万円程度まで引き下げるべき、という意見も。これでは目的が違っちゃいますね。

私自身は、やはり日本の教育のあり方、人づくりのあり方をもう一度しっかりと作り直していく必要があるのではないかと思っています。そのために海外の高度人材の助けを借りるのであればそれは大賛成ですが、だとすればそういう形の制度設計にすべきでしょう。そして、高度人材を日本に受け入れることも必要でしょうが、もっともっと日本人を若いうちから海外に出して、勉強・経験させることこそ検討されるべきでしょう。

そのような観点からいくと、この外国人高度人材の受け入れに関する議論は、これだけ独立して検討されるべきではなくて、文部科学省所管の中央教育審議会が答申を出した「キャリア教育・職業教育のあり方」に関する議論や、厚生労働省所管の「第9次職業能力開発基本計画」の実行とも連携した議論にして、もっと総合的な観点から日本の成長を考えるべきなのではないでしょうか。これはちょっと論点がずれますけど・・・。

さて、二点目の問題は、法務省の素案で最も議論を呼んでいる優遇措置に関する議論で、「親の帯同、家事使用人の帯同、配偶者の就労」が提案されていることについてです。

推進に積極的な方々の考えは、要は高度人材の獲得競争が起こっている今、他の国にはない優遇策をとらないと誰も日本に来てくれない、ということですね。仮にそうだとして、では親の帯同、家事使用人の帯同、配偶者の就労という条件が、それぞれどれだけ高度人材の就労先の決定に影響力を持っているのか、それが比較優位条件になる得るのかということをもっと良く考えないといけません。

もし皆さんが、高度人材で、日本以外の国で働こうと思ったら何を基準に選びます? まあ、日本人と外国人では、選択の基準が違うので一概に比較はできないでしょうが、それでもやっぱり一番の基準は、働く先(企業や国)の魅力(ダイナミズム、成長性、革新性、など)や労働条件(給料や休暇)、そして働きがい(企業にどこまで必要とされるか、どれだけの貢献ができるか)なのではないですかね?

ここのところを間違うと大変です。親の帯同、家事使用人の帯同、配偶者の就労という優遇条件が、むしろそっちがメインのインセンティブになってしまって、そもそもの趣旨と違う目的での就労が促進されてしまい、制度自体が予期せぬ副作用を生み出す可能性もあるわけです。

親の帯同というのは、日本の社会保障制度との関係から言っても非常に慎重な検討が必要ですし、家事労働者の就労はそもそも日本で権利保護の規定が整っていないことなどの懸念があります。これらは、引き続き検討会で慎重に議論してもらう必要があります。

ただ個人的には、配偶者の就労というのは条件付きで認められてもいいと思っています。これまでの経験から言って、国際的に働く高度人材の多くは配偶者も職を持っていることが多いです。であればこそ、外国に行って配偶者が自由に就労出来るかどうかというのは結構、大きな問題になるのですね。

実は、現行制度でも一定の要件を満たしていれば就労することは可能なのですが、要件の緩和は必要でしょうね。この点、目的外の使い方ができないような工夫をしつつ、制度としては原則、就労を促進してあげる方向でよいのではないかと考えていますが、今後の議論に注目したいと思います。

他にもいくつかポイントがあるのですが、長くなったのでこの辺で終わりにします。少しでも皆さんの参考になれば幸いです。中間整理、読まれた方はぜひご意見をお聞かせ下さい!