細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『フォーカス』の詐欺手口には、どうぞご用心。

2015年04月09日 | Weblog

4月3日(金)13-00 内幸町<ワーナー・ブラザース映画試写室>

M-037『フォーカス』" Focus " (2015) Warner Brothers / Di Novi Pictures / zaftig Films

監督・グレン・フィカーラ+ジョン・レクア 主演・ウィル・スミス <105分> 配給・ワーナー・ブラザース映画

ハリウッドの商業映画は、もともと現実を巧みに操ったギミック・エンターテイメントがベースになっていて、「スティング」や「ハスラー」など名作が多い。

この「フォーカス」というタイトルも、ひとの「視線」を巧みに騙して金銭を強奪するというプロの詐欺師の話。<焦点>をボカすことで、ひとの興味の焦点を誘導する。

そこで、ここではスリ、詐欺、窃盗などの犯罪専門のアドヴァイザーまでを演出と監修のスタッフとして迎えているという、まさに<本格詐欺映画>なのだ。あ

久しぶりのウィル・スミスがここで演じるのも、口車と手品などのトリックで金持ちの興味を引いて罠にかけるという、いま取り沙汰されている<振込詐欺>の元祖とも言えようか。

銀行強盗や賭場荒らしは、新しい作戦や人以上の度胸が必要だが、この「フォーカス」のように、ひとの興味を誤摩化して騙すというのは、かなりの頭脳が要求されるのだ。

まさに「マジック・イン・ムーンライト」のように、ここでは<話術のマジック>が持ち味なので、くちの達者なウィルは適役だろう。特に大物だけを狙う詐欺には度胸よりも資金もいる。

で、カレはニューオーリンズでの、アメフトのスーパーボール、ビッグ・イベントで、何と選手を装った仲間たちも動員して、ゲームそのものを偽装してみせたりするのだ。

ワーナー・ブラザースは「ペテン師と詐欺師」や「オーシャンと11人の仲間」の頃から、伝統的にも、このようなフェイク作品がお好きなようで、これもまたそうした系列。

それにしては、今回はシナリオも演出もお粗末で、このような展開では、かなり無理が多い。そこで美人の詐欺初心女子を巻き込んでの恋模様で誤摩化すが、これがまたモタつくのだ。

それで、ラストではブエノスアイレスでのモーターレースえの大きな詐欺のゲームに挑むのだが、やはり仕掛けが大きくなると話も大袈裟になって、結局、映画のトリックも締まりがない。

罠も大きく複雑にすると、展開もややこしくなってしまい、必ず破綻も起こしやすいのは犯罪の常だろう。という次第で作品的な<フォーカス>もボケっぱなしの後半となってしまった。

 

■変化球の読み違えで、当たりそこねのファースト・ゴロ。 ★★☆

●5月1日より、新宿ピカデリーなどでロードショー 


●遜色衰えない『裸の町』が3月サンセット傑作座ベスト!!!

2015年04月07日 | Weblog

3月のニコタマ・サンセット傑作座上映ベストテン

 

*1・『裸の町』48(ジュールス・ダッシン)バリー・フィッジェラルド <VHS> 

   若い女性の殺害事件を捜査していた警部は、いろいろな事件や目撃情報から、意外な容疑者を炙り出して行く本格的な推理と、複雑な大都会の構造。

 

*2・『情婦』57(ビリー・ワイルダー)タイロン・パワー <DVD>

   病み上がりの裁判で無実を訴える男の弁護を引き受けたベテラン弁護士は、検察側の証人が変装していたのを見抜けなかったA・クリスティ原作のカラクリ。

 

*3・『地下室のメロディ』62(アンリ・ヴェルヌイユ)ジャン・ギャバン <LD>

   出所した老泥棒は、引退資金のつもりで、カジノの金庫から窃盗に成功するが、仲間の若造が前代未聞のドジをしたために、大金は目の前でプールに浮いてくる。

 

*4・『レッドムーン』68(ロバート・マリガン)グレゴリー・ペック <VHS>

   先住インディアンに拉致された女性を救い出した元軍人は、遥かなる新天地での生活をしていたが、執拗なアパッチの元カレはリベンジに出没するサスペンス。

 

*5・『大いなる眠り』77(マイケル・ウィナー)ロバート・ミッチャム <LD>

   チャンドラーの原作再映画化で、マーロウ探偵をミッチャムが演じるという最高の条件で、舞台をイギリスに移しての異色ハードボイルド・ミステリー。

 

*6・『フィクサー』07(トニ・ギルロイ)ジョージ・クルーニー <DVD>

*7・『ガン・ランナー』58(ドン・シーゲル)オーディ・マーフィー <VHS>

*8・『ガス燈』44(ジョージ・キューカー)イングリッド・バーグマン <DVD>

*9・『ブロードウェイと銃弾』93(ウディ・アレン)ジョン・キューザック <LD>

*10・『山河遥かなり』47(フレッド・ジンネマン)モンゴメリー・クリフト <DVD>

 

*その他に見た傑作は

『女囚の掟』エリナー・パーカー

『追いつめられた男』ジョセフ・コットン

『離愁』ジャン=ルイ・トランティニアン

『死の砂塵』カーク・ダグラス

『動く標的』ポール・ニューマン

『ザ・センチネル』マイケル・ダグラス・・・・などでした。

*いよいよ4月24日(金)には、ここ二子玉川にも、10スクリーンの<109シネコン>がオープンします。

わがサンセット傑作座も負けずに、独断と偏見とボケ防止のセレクションで、がんばります。デス。 


●何って言ってもマイケル・マンの新作が、3月の試写ベスト。

2015年04月05日 | Weblog

3月の新作試写・独断と偏見のベスト3

 

*1 『ブラックハット』監督・マイケル・マン 主演・クリス・ヘムズワース ★★★★

   政府機関や原子力発電所の機密ネットがサイバーテロ・ハッカーに襲われて、服役中の天才前科者のスペシャリストが国際捜査を開始するマン監督5年ぶりの切れ味。

 

*2 『真夜中のゆりかご』監督・スザンネ・ビア 主演・ニコライ・コスター=ワルドー ★★★☆☆☆

   デンマークの刑事がDV夫婦が赤子を虐待している事件を捜査中に、自分の妻の不手際で乳幼児が急死した。さて、刑事は予測外のスワッピング・ベイビーをしたのだ。

 

*3 『新宿スワン』監督・園 子温 主演・綾野 剛 ★★★☆☆

   無一文になった家出青年は、夜の新宿歌舞伎町ネオン街で若い女性をハントして、地元のヤーさんにボコボコにされるが、度胸を買われて、スカウトとしてデビューする青春。

 

*4 『海にかかる霧』監督・シム・ソンボ 主演・キム・ユンソク ★★★☆☆

   北朝鮮からの難民を、漁船で密入国させようとした韓国漁船は、思わぬガス事故でパニックになったところ、巨大台風の荒波に巻き込まれて難破したが、ふたりの生存者がいた。

 

*5 『アリスのままで』監督・リチャード・ブラッツ 主演・ジュリアン・ムーア ★★★☆

   コロンビア大学で心理学の講師をしていたジュリアンは、50才の若さで若年性アルツハイマー病を発症して、幸福だった家庭生活が突然に崩壊しだすが、それも認知できなくなる。

 

*その他の試写で、まずまずの新作は

『イマジン』監督・アンジェイ・ヤキモフスキ

『あの日の声を探して』監督・ミシェル・アザナヴィシウス

『シグナル』監督・ウィリアム・ユーバンク

『インヒアレント・ヴァイス』監督・ポール・トーマス・アンダースン

『イタリアは呼んでいる』監督・マイケル・ウィンターボトム・・・・・といったところ、でした。 


●『イタリアは呼んでいる』気ままな俳優二人との駄洒落ドライブ。

2015年04月03日 | Weblog

3月31日(火)13-00 六本木<シネマートB1試写室>

M-036『イタリアは読んでいる』 The Trip to Italy " ( 2014) The Trip Pictures U , K. / Crest -inter.co Italyi

監督・マイケル・ウィンターボトム 主演・スティーヴ・クーガン <108分> 配給・クレスト・インターナショナル

気軽なおとぼけ中年男ふたりのイタリア駄洒落旅行記だ。しかし二人は、それぞれに人生の岐路を迎えようとしているのが、ドラマのボトムラインとなっている。

イギリスの落ち目なダテ男のスチィーブは喜劇役者としての仕事の挫折で、進退を考えていたときに、友人で若手のコメディアンとのコンビで、イタリアの旅と料理の取材旅行を引き受けた。

ふたりは古い映画の人気俳優のモノマネが得意で、このレンタカーでのドライブ中、とにかく機関銃のように、パチーノやブランドやデ・ニーロなど「ゴッドファーザー」の物まねを連発する。

たしかにイギリスの俳優らしく、ショーン・コネリーやアンソニー・ホプキンスなどの地方なまりの真似は巧くて、彼らの映画の芸風を知っているマニアには、かなり笑えるシーンが多い。

しかもイタリアでロケした多くの名作の跡地をめぐるドライブは、われわれ映画ライターにとっては非常に興味をそそるし「悪魔をやっつけろ」や「イタリア旅行」のエピソードは嬉しくなる。

ただし、このバディ・ムービーの楽しさは、手慣れた監督の軽快なタッチが、ときどき空転しているような白けた瞬間も覗かせるのだ。

それは、この共演のロブ・ブライアンも、どうもスティーヴと同種な”のり”を感じさせるからで、あのジャック・レモンとマストロヤンニの『マカロニ』のような味わいの深みにはほど遠い。

だから、個人的にはかなり映画ネタで笑えたものの、それほど古い映画の知識のないひとには、この映画って面白いのかね????と、余計な心配までさせてしまうのだ。

たしかに疎遠だった息子との関係を修復しようとする落ち目のスティーヴと、対照的にハリウッドからのオファーの決まったロブとの、人生のアップダウンの誤差はラストで少し滲ませるが・・・。

ま、あの風光明媚なイタリアの西海岸のヴィラの美しさと、調理されるイタリア料理のインサート・カットの数々には魅力はあるのだが、楽屋落ちだらけの会話には、正直ついていけない。

 

■高く上がったセカンドフライを、ショートと譲り合って落球ヒット。 ★★★☆

●5月、Bunkamuraル・シネマなどでGWロードショー 


●『アリスのままで』ごく日常的に崩壊してゆく心の記録。

2015年04月01日 | Weblog

3月26日(木)13-00 築地<松竹本社試写室>

M-035『アリスのままで』" Still Alice " (2014) BSM studio / Killer films / Big Indie Pictures

監督・リチャード・グラッツアー+ウォシュ・ウェストモアランド 主演・ジュリアン・ムーア <101分>配給・キノ・フィルムズ

ご存知、ことしのアカデミー主演女優賞を圧倒的な独走で受賞したジュリアンの、過去ノミネート5作品目にしての悲願。その涙の栄冠が、この作品の印象のすべて。

コロンビア大学の講師でもあった彼女が演じる才女は、同時に素晴らしい家族の主婦でもあったが、ある日めまいを感じて、大学構内の帰路がわからなくなった。

50才の誕生日を迎えたばかりなのに、突然、なぜか日常的なもの忘れが気になりだした。講義の途中にも、その内容での肝心なポイントが失われて、一瞬真っ白になった。

ま、われわれ高齢者になると、こうした物忘れは日常的にあって、それは適当にごまかしてしまうのだが、こと教育現場の重要な職業となるとそれは許されないし、まだ50才では、若すぎるのだ。

大学病院での診断で、若年性アルツハイマー病と通告されたアリス、つまりジュリアン・ムーアは講義のスケジュールをキャンセルするが、病は、日常生活でも次第に頻繁に生じるようになる。

作品は、そのような日常的な変化を、アメリカン・ホームドラマの上質な風景の一部として、ごく些細だが、自然にスケッチしていて、そのクールなカメラには知的で好感が持てる。

以前、わが渡辺謙主演で「明日の記憶」という同じ若年性アルツハイマー病の作品があったが、あれほど大仰ではなく、非常に淡々として病の進行を見つめる視線には、かなりの自制が感じられるのだ。

という意味でも、思ったよりは程ほどにヒステリックにならない作品の知性は好感が持てるし、あのジュリー・クリスティ主演の「アフター・グロウ」のような静観ぶりが伺える。

妻の発病に戸惑うアレック・ボールドウィンも、「ブルー・ジャスミン」同様にサポーティング・ハズバンドぶりを好演していて、彼なりに、このようなポジションでの節度を心得ているようだ。

個人差はあるとしても、誰でもいずれは迎える知的障害の実状を見るドラマとして、この作品は静かなる警鐘を鳴らしていて、巨匠ベルイマンの多くのホームドラマのような厳しさも臭わせている。

 

■低い弾道の左中間への当たりだが、フェンスまで達してツーベース。 ★★★☆☆

●6月27日より、新宿ピカデリーなどでロードショー