ひと日記

お気に入りのモノ・ヒト・コト・場所について超マイペースで綴ります。

ガンクラブチェックのジャケット&綿のバルマカーンコート

2010-03-30 04:00:00 | 白井さん




 ちょうど一週間前に開花宣言が発表されましたが、その後は毎年恒例の“花冷え”が続き“満開”にはまだまだ程遠い桜花。このブログでも私が昨年撮影した皇居・千鳥ヶ淵の桜の写真をアップしたのですが、どうやら完全にフライングだったようです(汗)。

 この日、馬車道店の一階では“信濃屋馬車道サロン”のセミナーが催されていて店内はいつもより賑やか。『俺も見てみるよ。』と白井さんも参加される勢いを示されたので私もお供することに(笑)。



 内容はイメージコンサルタント・尾崎有香先生による“パーソナルカラー診断”。お馴染みのお客様方と共に尾崎先生の講義を拝聴しつつ自分に一番似合う色を診断していただく、という流れでした。

 『例えばピンクと一口に云っても、鮮やかなピンク(春)、くすんだピンク(夏)、深いピンク(秋)、濃いピンク(冬)と色々なピンクがあり、どの(季節)傾向のピンクが似合うかはその人それぞれ。自分に一番似合うパーソナルカラーの傾向が判れば、今まで敬遠していた色の服も着こなせるようになっておしゃれの幅が拡がります。』といったお話でした。私も診断していただき“春”と“冬”の傾向の色が似合うことが判明しました。尾崎先生のお話は素人の私にも大変判り易く、意外と聞くことが少ない第三者の意見を自分の着こなしに反映する機会を得られたことはとても良い経験でした。なるほどなるほど、大変面白い試みですね。

 

 真面目に講義を受ける白井さんです(笑)が、最後に『俺はね、“俺は何色だって似合うんだ”と思ってず~っとやってきたよ。』と尾崎先生にブイブイいわせていました!“白井流”全開です!(因みに私には『君は何色も似合わない!ふふふ。』と仰っていました・汗)

 『そうですね。それが一番ですね(笑)』と尾崎先生も“元祖イメージコンサルタント”の白井さんに敬意を表してにこやかに頷かれて、その後白井さんとツーショットで記念撮影をされていました。なるほどなるほど、大変面白い光景ですね。(因みにその記念撮影のカメラマンは私でした・汗)

 尾崎先生、撮影にご協力いただきありがとうございました。

 

 またこの日は“信濃屋顧客列伝”でお馴染みの“W様”もセミナー参加者のお一人に加わっておられ、その後は白井さんと服飾談義に花を咲かせていました。ステッキや鞄など、特に小物を中心とした話題の中で前回のアップでご紹介した“信濃屋オリジナル・小島の傘”のお話になり、いつも白井さんが置き傘にしている茶色のナイロン張りの小島の傘を手にしたW様が絶賛されたところ、白井さんが『良かったら差し上げますよ。どうせ使わずにずっと置きっぱなしだから。』とW様に突然のプレゼント!余りのサプライズにさしものW様も驚かれていました。どんなにお金を積んでも今では絶対に手に入らない幻の信濃屋オリジナルの傘。W様はその後お帰りまでず~っと小島の傘を握りっぱなしでした(笑)。

   

 という訳で、この日はなかなかじっくりと白井さんのお話を伺う余裕がなかったのですが、今日のジャケットは初登場のKiton・キートン(伊)です。『肩のあたりがキートン。』そう白井さんは仰っていました。

 シャツはフライ(伊)の別注品で写真には写ってませんが襟の先端がちょっとだけ丸みを帯びた“ちょんまる”でした。

 薔薇の小紋柄のタイはルビナッチ(伊)の繻子織り(サテン)。『サテンはあまり好きじゃないんだけどね。』(白井さん談)と仰っていましたが、この“白井流”の傾向については以前からいつもお馴染み銀座天神山のIさんからも伺っていたので、私も“繻子だ!珍しいなぁ~これは貴重なショットだぞ!”と思いました。

 パンツはアットリーニ(伊)で、今まではジャケットスタイルの時はほぼ厚手のグレーフランネルが中心でしたが、今日からは同じグレーでも若干薄手の“ミルドウーステッド”素材の登場で季節の移ろいを感じます。またこのパンツはスーツと同じ工場で作らせた逸品だそうです。信濃屋のY木さん曰く『白井さんはパンツの履き心地はとても重要視されていますよ。』とのことなので、今度時間の余裕があるときに白井さん流のパンツへのこだわりについて伺ってみたいと思います。

 それから、実はシャツについても“ハシミシン”や“アペルト”などもう少し突っ込んだお話も伺ったのですが、何せこの日は白井さんもお忙しかったので、慌てずじっくりとまた機会を作ってまとまった内容でご紹介したいと思います。

   

 オリーブ・ブルー・グリーン・ブラウンと落ち着いた色あいのガンクラブチェックのジャケットに合わせて全体的に落ち着いた色あいのコーディネートの中で、今日は一際目を惹くのがこちら!ピッカピカのチャーチ(英)です。サンダルウッドカーフのクォーターブローグはもちろん信濃屋オリジナルの逸品。白井さんが以前『オリジナルのチャーチは自分が履きたいと思うものばかりを作らせていたからそれこそ何十足って持ってたけど、殆ど人にあげちゃって今では3足しか持ってないよ。』と仰っていた内の貴重な一足です。

 4枚目の写真のスウェードはW様がお履きになられていた’90年代のシルヴァーノ・ラッタンツィ(伊)。『いいねえ~本人(ラッタンツィ氏)が真面目に作ってた頃の靴だよ。』と白井さんが仰る逸品です。いつもこのブログをご愛読いただいているW様は、私がカメラを向けると『どっちの足ですか?』と仰ってそっと靴の内側を見せてくださいました。心優しき紳士・W様、撮影にご協力いただきありがとうございました。

 

 

 お帰りのコートは恐らくこれまでで最軽量でしょう、綿のバルマカーンコート(チェスターバリー英)です。襟元はビエラ・コレッツォー二(伊)のシルク・ウールのドット柄マフラー。ぱっと見ただけなので確信は無いのですが恐らく一重のコートだったような気がします。綿も触った感じで上質なものが使われていると感じました。何の飾りも無い極めてシンプルな無地の綿コートだったのですが、白井さんが軽やかな動作でさっと無造作に羽織った時の“さりげないカッコ良さ”にスプリングコートの魅力を見た気がしました。

 

 『僕は無精者だから・・・コートや服のメンテナンスといってもポケットに樟脳を一つ入れておくだけ・・・』

 以前、男性服飾誌上のインタビューに応えて仰っていた言葉。実は私はこの記事を読んで以来、“樟脳”についてず~っと白井さんに伺ってみたいなぁ~と思っていて、前回のアップで“衣替え”について白井さんに伺ったときに“樟脳”についてもいろいろ教えていただきました。

 『樟脳の匂いが好きなんだよ。ナフタレンは便所臭くてダメ(苦笑)。これは昔、親父に聞いた話だけど、昔は“カンファーボックス”っていって楠の丸太をくり抜いたやつに冬物のコートやジャケットを入れて夏を越したらしいよ。昔から家で使っているのは“藤澤樟脳”ってところの樟脳。近所の薬局で買ってくるんだけど、そこのオヤジさんが“最近は樟脳なんて知っている人は少ないから”ってちょっと嬉しそうに言いながら店の奥から出してくるんだよ(笑)。これ一つをティッシュペーパーに包んでポケットに入れて、直接入れると服が黄色くなっちゃうから必ずティッシュで包んで。良かったらこれあげるよ、でも売り切れになっちゃうと困るから内緒ね(笑)。』

 そう仰って一箱私にお譲りくださったのが写真の“藤澤樟脳”です。『内緒ね』と白井さんは冗談っぽく仰っていましたが、白井さんが長年愛用している品ですから私から是非にとお願いしてこの度のアップとなりました。100%天然素材を使用している樟脳ですから匂いはとてもナチュラル。男同士でいささか不気味ですが(汗)、白井さんと同じ匂いで何だか洒落者度がアップしたような気分でちょっと誇らしくもあります。また、前回のお話を受けて早速私のためにこの“藤澤樟脳”を持ってきてくださったことが、私にとっては何よりのプレゼントであり最高の誉でした。白井さん、ありがとうございました!!

 おっと!忘れるところでした(汗)、最後に前回訂正です。

 『因みにブリッグと並んで有名な傘メーカーのフォックスアンブレラは“F.FOX”ですから別の会社です。』と書いた件の、“F.FOX”は間違いで正しくは“T.FOX”です。関係各位にお詫び申し上げます。



チャコールグレーのフランネルスーツ&ヘリンボーンツイードのコート

2010-03-27 04:00:00 | 白井さん




 早速ですが、今日は前回訂正からスタート。『まずは国語の問題からね(笑)』(白井さん談)。

 私が春の嵐に遭遇した件の、『と言うよりもああいう時は鼻から傘を差すことは諦めるのが一番ですね。』という部分ですが、“鼻”ではなくて“端”が正解。

 撮影及び取材についての反省で、『前回のアップで“使命感を持って”と大風呂敷を敷いたにも拘らずこの体たらくで申し訳ありません。』と書いた部分。大風呂敷は“敷く”ではなくて“広げる”が正解。服飾のみならず誤字脱字、誤った表現についてまでご指摘いただき恐縮です(汗)。

 続いて本題の服飾について。

 『タッターソールのシャツは“ブルー&ベージュ”じゃなくて“グリーン&ゴールド”だよ。それからスウェード靴のバンプ(甲)に入る、履き皺と言うよりは“白線”と言ってるんだけど、あれが入るのは革質、“なめし”の問題だよね。昔のサクソンのスウェード見てみなよ。“白線”なんて殆ど入ってないでしょ。“本当に良い革”を使っている靴には入らないんだよ。』(白井さん談)

 この日も白井さんはお手製のメモに修正箇所を認めていました。本当に有難いことです。

 この日の横浜は“寒の戻り”に見舞われて真冬並みの気温を記録。この時期はもしかしたら一年で一番着るものに悩むシーズンかもしれませんが、白井さんは流れに逆らわず、時計の針を少し戻しての“貫禄”の対応でした。また、衣替えの時期でもある今日この頃ですが、白井さんは『基本的に彼岸過ぎは起毛系の服は着ないようにするけどね。ブレザーは別だけど。』と仰りつつも、特に衣替えだからといってスパッと春物に切り替える、みたいなことはなさらないようです。『衣替え?だらだらだよダラダラ(笑)』(白井さん談)とのこと(笑)。

   

 久々に登場のフランネル素材を使ったスーツはアットリーニ(伊)で18~9年ほど前に作らせた一着。濃いめのグレー無地、シングル・ピークトラペル、ノーベント、玉縁ポケットといった色、柄、ディティールでドレスシーンを意識した作りの極めてシンプルなスリーピースですが、この一着が日本の服飾界に与えた影響は計り知れません。なんて、こんな大袈裟なことを書くとまた白井さんに怒られちゃいそうですが(汗)、以下は信濃屋さんのメインスタッフのお一人・Y木さんに伺ったお話。

 『あれは恐らく94年頃だと思いますが、白井が紳士服飾雑誌上での対談に臨んだ時に着ていったのが今日のアットリーニでした。信濃屋でアットリーニを扱い始めたのは90年代の初頭だったのですが、その頃はアットリーニなんてまだ日本では殆ど知られていませんでした。その対談でお話相手から“白井さんが今日来ているのは何処のスーツですか?”と訊ねられた時に、白井が“アットリーニです”と答えたのが契機となってアットリーニという名が世に知れ渡るようになったようですね。』

 とのこと。カッコいいですね~!!でも、誤解を恐れずに言わせていただければ、私がこれまで白井さんに接してきた限りでは、世に持て囃されてもはや久しいアットリーニですが、白井さんにとってはアットリーニも“ワン オブ ゼム”にしか過ぎないようです。ですから上記のお話も“予期せずたまたまそうなった”というのが真相のようでした。

 ネクタイは『色とドットの配列が気に入って、何故かフィレンツェの靴屋“マウロ・ヴォルポーニ”で買ったヤツ(笑)。』とのこと。ネクタイのドットの配列は、大きさにもよると思いますが、白井さんは縦横一直線並びがお好きなのだとか。

 今日のスーツで白井さんが一押しだったのは裾のフライボタン。ちょっと写真がピンボケ気味で申し訳ありません。裾に着脱が容易なスナップボタンが付けられているのはしばしば見られるディティールですが、『あれ(スナップ)は光っちゃうから嫌い、これが本物』とのことです。

       

 今日の靴はスーツの色とドレス感に合わせて選ばれたというボタンアップブーツ。新橋の大塚製靴に作らせた2足のうちの一つとのことで、今日は黒の表革とグレーのスウェードのコンビネーション。もう一足は茶の表革とキャンバスのコンビネーションなのだとか。今日の黒はスナップボタン式なので比較的着脱が容易なんだそうですが、大塚製靴さんのHPでも見られるボタン穴に手で留めるタイプは履く時(脱ぐ時)に一苦労するそうで、『あんなの歳取ったら履けないよ!履くなら若いうちがお薦め。』(白井さん談)なのだそうですよ(笑)。

 靴の下の写真の白い物体は白井さんの私物の逸品の一つ“スパッツ”。以下白井さん談

 ・・・・・・映画『お熱いのがお好き』で、ジョージ・ラフトが身に着けていたのが“これ”で、ラフトの役名もそのままズバリの『スパッツ』。これはロンドンのロブ(ジョン・ロブ英)で作らせたヤツなんだけど、最初は社長がなんだか怪しげな採寸をして作ったんだけど案の定全然ダメで(苦笑い)。サイズが合ってないからもう一回作り直させたよ。素材はダック(DUCK)。あれ?ダック知らないの?“ズック”の語源だよ、キャンバス地ね。履く時は、このフックを使ってボタンを留めるんだよ。こう~やってね。・・・・・・

  

 さてさて(笑)、今日のアップのメインイベント~“目玉”はこの2本の傘。“信濃屋オリジナル傘”です。

 先程のスパッツなど、信濃屋馬車道店の地下紳士フロアの奥の一隅にひっそりと陳列されている白井さん私物の名品の数々の中に一本の日傘があります。数年前、白井さんからその日傘を見せて頂いた時、白井さんは『これは良い傘だよ~ブリッグなんか相手にならないね。』と鼻高々でした(笑)。ただ、当時の私は、まずブリッグを知らなかったですし、傘が紳士の装いの上で重要なアイテムだという認識も無かったので、白井さんからすればきっと張り合いの無いリアクションしかしていなかったのではないでしょうか。

 しかし、不肖この私もブリッグを経験した今、今日のこの傘が如何に素晴らしい傘かということが理解できます。拡げた傘の縁のラインの芸術的な美しさ。ブリッグをも凌ぐ力強い張り感と開いた時の“ブブブ”という独特の音。そして、私は未だ聴いたことはありませんが、シルク張りに落ちる雨音の感動的なまでの心地好さ。白井さん自慢の日傘、そして今日の黒傘(シルク張り)と茶の傘(ナイロン張り)、これらを作ったのが今は亡き日本の傘職人で、浜っ子である白井さんご自慢の“横浜元町職人列伝”中のお一人“小島氏”。

 『元町の代官坂の下辺りに作業場を構えていてさ、兄貴みたいな感じだったからよく遊びに行ったものだよ。先代の小島が洋傘を作り始めたんだけど、恐らく日本で最初だったと思うよ。多分、山手の外国人が捨てていった“お猪口”になった洋傘かなんかで独学で研究したみたいだね。当時、信濃屋オリジナルの傘は紳士も婦人も全部ここで作らせてたんだよ。』(白井さん談)

      

 柄は桜、中棒は樫。シルクの張りは広げた縁に耳が付いたもの。つまりこの傘のためにサイズを誂えて織られた絹織物を使っているという証です。骨は“S.FOX社製”。同社は今は無き英国の老舗スティールメーカーで鉄道の軌道から傘の骨までありとあらゆる鉄製品を作っていた大きな会社だったそうです。因みにブリッグと並んで有名な傘メーカーのフォックスアンブレラは“T.FOX”ですから別の会社です。茶の傘は今はナイロン張りですが元々はシルク張りだったのを張り替えたもの。持ち手の柄の部分にもピッグスキン(豚革)が巻かれていたのだとか。石突は水牛で先端部分の仕上げ処理も完璧なんだそうです。こんな細かい所にも手抜きは一切ありません。

 『もうそれこそ何十年と使っているけど驚くべき頑丈さで未だにどこも悪くならないよ。昔の職人はそれだけ“真剣に”物を作っていたってことだよ。』(白井さん談)

 

 

 さて、お帰りは、もう一度拝見できてラッキーでした!、ルチアーノ・バルベラ(伊)のヘリンボーンツイードのコートです。帽子はボルサリーノ(伊)で前回このコートを拝見した時も同じ帽子との合わせでしたね。白井さんは“このコートにはこの帽子”という風に組み合わせは大体決めているそうです。真っ赤なマフラーはカシミアで、相当昔からお使いの品なのではっきり判らないけども恐らくスコットランド辺りだろう、とのことです。以前、白井さんは“真っ赤大好き!”と仰っていましたが、この色は特によくお似合いでだと思います。因みにですが、私は今まで白井さんからお薦めしていただいて、マフラーをカシミアとシルクを一枚ずつ計2枚購入していますが、そのいずれもが赤いマフラー。実は今回、赤いマフラーは意外にもこのブログでは初登場で、もう春になりマフラーの出番も無くなりそうになっていたこの頃は『白井さん、僕に薦めていたのに・・・赤(涙)』と一人密かに黄昏ていた私としてはほっと胸を撫で下ろして安心して春が迎えられる心持となりました(笑)


 

ウィンドウペインのスーツ

2010-03-23 04:00:00 | 白井さん


 昨日は激烈な春の嵐が日本列島を席捲。あの凄まじい風には本当に驚きました!あまりの凄まじさに私、生まれて初めて“風で傘が折れ曲がる”という経験をしました。よく強風の日などはテレビのニュースで、差した傘が裏側から“お猪口”のようにめくれ上がって難渋されている方の映像などはしばしば放映され、ある意味見慣れた光景ですが、昨日の強風はなんと、私が正面に対して身を守るように差し出した傘の骨16本を、其々の中間支点部分からぐにゃりと曲げてしまったのです!後から考えると、瞬時に咄嗟に傘を閉じれば良かったのですが、何せ余りに突然の、しかも未曾有の強風が真正面から襲ってきたためその場から一歩も動けず、只々身を守ろうと必死で、そんな冷静な判断をする余裕は全くありませんでした(汗)。と言うよりもああいう時は端から傘を差すことは諦めるのが一番ですね。不幸中の幸いは、流石にブリッグ(英)の傘は家を出るとき選ばなかったことと、曲がった骨が辛うじて元に戻ったことでした、ほっ(苦笑)。

 “暑さ寒さも彼岸まで”~~今回から白井さんはコート無しのスタイル。遂にこの日が来てしまったと些か寂しさを禁じえませんが、今日は東京都心で桜の開花宣言もされたようですし、気持ちを徐々に切り替えながら春夏へと移行しなければいけないな、と思う今日この頃です。

       

 『今日は全部パターン。パターン・オン・パターンだね。』

 白井さんの言葉はいつも短いですが的確です。今日の着こなしのポイントは“パターン”。

 春先にピッタリの淡い若菜色のグリーンにカラフルなウィンドウペインが入ったスリーピーススーツはダリオ・ザファーニ(伊)。絶妙な色出しと柔らかい質感が“さすがはセントアンドリュース”(牧島さん談)と大向こうを唸らせる一着は、広めの肩幅と襟幅、がっしりとした二の腕、ゴージやボタン位置があまり高くないオーソドックスなスタイル。また今回は、ダブルブレストのスーツを殊に好まれる白井さんには珍しく、このブログでは久しぶり2回目の登場となるシングルブレストのスーツ。

 ルチアーノ・バルベラ(伊)のBDシャツはこのブログで初登場となるチェックのシャツ。白井さんはチェックのシャツはお嫌いなのかな?とまたまた勝手に思い込んでいた私でしたが、今回でまたもや見事に覆されました(苦笑)。写真ではちょっと判りにくいですが、グリーンとゴールドのタッターソール(馬乗り格子)がとても上品な印象です。

 チェックのウールタイもルチアーノ・バルベラ。このタイはいつもお馴染み銀座天神山のIさんのブログでも登場している思い出の一本で、ありそうでなかなか無い色の組み合わせが見事な逸品です。Iさんや信濃屋のY木さんのご記憶では、20数年前にイタリアのピッティ・ウォモの会場で、ルチアーノ氏がこのタイをネイビーのダブルブレストのチョークストライプスーツ、白抜きのシャツ、スウェードの靴というコーディネートで合わせていたのが当時としては印象的だったのだとか。

 こうして改めて写真で確認すると、どれも一見普通なんですけど実はなかなか無いという素晴らしい色使いの品ばかりで、尚且つ、スーツ→シャツ→タイの順でパターンが小さくなっています。これが白井さん流の高度な計算によるものなのか、はたまた感性を活かした直感の産物なのかは私には全く見当がつきませんが、見る人が見ればきっとお分かりいただけるのでしょう。今日は(というか毎回そうなんですけど・汗)かなり高度なコーディネートなのだな!というのは私にもなんとなく判りましたが、ではどう高度なのか!?というところまでは突っ込んで伺うことはできませんでした。また今日は、写真も枚数が少なく、ピンボケが多かったり、同じ構図のものばかりと、前回のアップで“使命感を持って”と大風呂敷を拡げたにも拘らずこの体たらくで申し訳ありません。まだまだ圧倒的に勉強不足ですし、インタビュー中の集中力も足りず、今回は反省しきりです。

 靴はニュー&リングウッドのロイヤルスウェード(毛足の長いスウェード)・フルブローグ。白井さん曰く『履きこみ口が広いので靴紐を緩めないでも履ける。』とのこと(汗)。Y木さんに伺ったところ、甲の部分の履き皺があまり目立たない点も気に入られているのでは?、とのこと。そういえば天神山のIさんもよく“履き皺が気になる”という主旨の発言をされていますし、白井さんご本人からも同様のお話を伺ったことがありました。正直に言うと私はあまり気にしたことは無かったのですが、皆さんには中々重要な問題のようで、どうやら履き皺と靴のサイズに相関関係があるようです。詳細については今後明らかにしていきたいと思いますが、こんなところにも“白井流”のこだわりが隠されているようです。

   

 ここで前回訂正を2点。

 まず、前回白井さんがお召しになっていたシャツのストライプについて、私は明るめのブルーと書きましたが、白井さんから『あのシャツのストライプは手持ちの中でも一番濃いブルーだよ。』と訂正を受けました。ブレザーのネイビーとのコントラストで私が明るいと錯覚してしまったのが原因です。

 次にカシミアのブレザーについて“ホケホケ”という表現を使いましたが、白井さんは『アレあんまり着てないよ。』と仰っていました。これも私が先入観からそう見えたように錯覚したのが原因でしたので、この場借りて訂正とお詫びに替えさせていただきます。

 今日は私の取材が中途半端だったせいでいつもより短めです。お詫びの意味も込めまして、今日の桜の開花宣言に因み、昨年の春に撮影した皇居・千鳥が淵の桜の画像を同日アップしました。この下のページでご覧いただけます。一足早い満開の桜です。

 
 

カシミアのブレザー&キャバリーツイルのコート

2010-03-20 04:00:00 | 白井さん




 今回はいきなり前回訂正から(笑)。但し、ご指摘をしてくださるのは白井さんではなく、なんとお客様!信濃屋さんの長年の顧客のお一人で兵庫県宝塚市在住のO様からお電話で(信濃屋の牧島さん経由)、前回ご紹介した、私がネットオークションで落札した信濃屋オリジナル・チャーチのコンビネーションの作製時期(80年代)は第1回目ではなく2回目です、とのご指摘をいただいたとのこと。決め手はラストの違いで、1回目は#73(白井さんのお話では“チェットウィンド”“ディプロマット”などに使っていたラストとのこと)、2回目が#84だったとのことで、なんとO様はこの両方のコンビネーションを所有(もちろん箱付き)されてるので間違いありません(笑)。

 信濃屋顧客列伝中のお一人O様はチャーチに限らず、『Oさんは持って無いモノはないんじゃない(笑)』と、白井さんも思わず笑ってしまわれるほど実に数多くの名品をお持ちで、それ以上に、白井さんが『メディアに一切惑わされること無く、御自身の感性に従って良いと思ったものは迷わずお買いになるその“買い方”が素晴らしい方』と常日頃から賞賛される方。この日のお電話では白井さんと更なる服飾談義に花を咲かせていらっしゃったそうですが、このブログをご愛読してくださっているO様から『もっと古の名品逸品の小物の類を取り上げて!』とのリクエストがあったそうです(笑)。もしかしたらいっそのこと私がO様を訪ねて、O様が所有されている名品の数々について伺った方が良いのかもしれません(O様申し訳ありません。冗談です笑。いつもご愛読ありがとうございます。この場をお借りしてお礼申し上げます。)。

 この日はまだ風邪気味の白井さんでしたが、『そうだな~もっと色々話さないとね・・・よし!じゃあ今日はボタンの話だな。』と張り切っておられました(笑)。という訳ですので、今日はこのままスタートです!

  

 カッコいいですね~!私見ですが“ブレザーといえば白井さん”“白井さんといえばブレザー”というくらいよくお似合いだなぁ~と思います。私は、信濃屋さんのHP(『信濃屋オリジナルブレザー』)で白井さんがブレザーのいろんな着こなしをご披露されているのを、それこそ画像のブレザーが擦り切れるんじゃないかっていうくらいしょっちゅう観ていたので、パブロフの犬なみに“白井さん=ブレザー”というふうに刷り込まれているのかもしれません(汗)。また、いつもお馴染み銀座天神山のIさんもブレザーがお好きでかなりの頻度で着用されていて、そしてまたよくお似合いです。Iさんの説では“好きな服とそれを着る人の関係”には『好き→よく着る→着こなす→よく似合う→更に好きになる』という好循環があるそうです。『白井さんもブレザーは好きで年間を通して10着は持っているよ。』とIさんは御自身のブログ上でも過去に2回(“今日の着こなし”『春のフランネル』『サマーカシミアのブレザー』)、白井さんのブレザーの着こなしをご紹介されています。斯く云う私も“白井流”の影響で当然ブレザー大好き人間となっており、現在は3着も(10着中なのに・汗)所有しています!

 この日確認したところ、白井さんご自身は『夏物で“柄”ってあんまり持ってないんだよね。だからこれからの季節は自然とブレザーばっかりになるんだよ。』と仰っていました。ということは、これからは白井さんのブレザーの着こなしを数多く拝見できるということ。私としては俄然胸が躍ります。暖かくなるにつれ身につけるアイテム数が減り、その分着こなし術の差が如実に顕れてくるこれからの季節、“永遠の定番中の定番”“紳士の必需品”“着こなしの基本アイテム”であるブレザーの着こなしは“白井流”を志す私としては絶対に押えなければいけない“必須科目”です。因みに今日のブレザーは20年程前のルチアーノ・バルベラ(伊)のカシミア。白井さんも絶賛の打ち込みのしっかりとした分厚いカシミア生地を使用した逸品です。

 濃いめのブルーのストライプシャツ、紺とイエローゴールド、2色使いの幅広めのレジメンタルストライプのレップタイ、それに近い色のポケット・カチーフ。紐靴ではない靴は初登場ですね、スウェードのモンクストラップ・シューズもルチアーノ・バルベラ。白井さん曰く『昔はうちでもやってたんだよ。』とのこと。

       

 写真のボタンはThe London Budge & Button Companyのシルバー925。

 白井さん、『純銀のボタン付けたブレザー着ている人なんて滅多にいないもの。服なんてどうでも良くて、こういう小物使いで違いが出てくるんだよ。昔はそういう本当のお洒落ができる人がいっぱいいたなぁ。純銀のプレーンなボタンにモノグラム(2ないし3、稀にそれ以上の文字や書記素を、単に並べただではなく、組み合わせた記号。個人や団体の頭文字で作られ、ロゴタイプとして使われることが多い。ニューヨーク・ヤンキースや読売ジャイアンツなどの野球帽に付いてるマークがその一例)を彫らせてたお洒落なお客様がいたりしたものだよ。そうそう、昔、元町に“刀彫り(とうぼり)”の細工職人がいてね。その技術を持っている職人は日本で、横浜、長崎、神戸に一人ずつの計3人しかいなかったんだよ。元々は代々山手の外国人相手に商ってたと思うんだけど、小さな鋼の刀を使って銀食器やなんか模様を彫るから手が硬くなっちゃっててさ。うちでも何度かお願いしたことがあって時間は掛かるんだけどそれはそれは見事な腕前でね、彫りの角がキッと起っていて・・・昔の元町は色んな職人がいて色んな店があって面白い街だったよね。』

 私、   『なるほど、でも白井さん、どうして小物が大事なのですか?』
 
 白井さん、『小物が大事というのもそうだけど“どういう組み合わせにしているか”ということが凄く大事。本当にお洒落な人は擦り切れたコートを着ていようが国産のヨレヨレのコットンスーツを着ていようが、長年の経験で磨きをかけた着こなしでそれなりにさまになるものなんだよ。なんと云うかそういう人はもうそういう風に人間ができちゃっているんだよね。基礎がしっかりしている。』

 私、   『では白井さん、基礎をしっかりさせるためにはどうすれば良いのですか?』

 ここで少し話が逸れますが、このブログのカテゴリー“白井さん”は白井さんの着こなしに兎に角多く接したいという私の個人的な希望から始めましたが、今は少し使命感のようなものも伴い始めました。それは、私のような服飾経験が浅い人や、私よりももっともっと若い人にこのブログを読んで欲しいというものです。もちろん服飾関係の方や、名うての洒落者の方々、服飾愛好家の皆さんに読んでいただいていることも嬉しいことではあるのですが、そういう方でしたら写真を見れば一発で白井さんの着こなし術の巧みさは伝わると思います。もちろん白井さんが常日頃仰っているように、やれ何処そこのメーカーだとかなんだとかといった、そんなことはどうでもいいような文字情報中心のカタログのようなブログにするつもりは更々ありません。私のような素人のブログなればこそ、むしろその目線を活かして文章を書きたいと思っています。

 以前、作家の故司馬遼太郎氏のエッセーで読んだ事があるのですが、氏は小説執筆にあたり未知の知識を勉強する必要があるときは、まずその分野で小中学生用に出版されているごくごく初級レベルの本を読むところから始めるそうです。何故そうするかというと、そういう本ほどその分野の当代髄一の学者さんが知恵を絞って誰にでも解るように書かれてあるので内容に間違いが無く、入門編としてこれほど確実な方法は他に無いからなのだそうです。私如きが歴史小説の巨人・司馬遼太郎氏を引き合いに出すなど驚天動地の厚顔ぶりですが、このブログもまた当代随一の洒落物である白井さんに登場していただいているのですから、私も“司馬流”を見習って出来るだけ多くの人の、それも願わくばより若い方の役に立てるようこのブログの作製に臨みたいと思っています。

 今回は私のそんな思いを白井さんにお伝えした上で、白井さんのお話の中で度々登場する“基礎の大切さ”をどう学べば良いのか?という上記の質問をぶつけてみたところ、

 『セパレートを着ることだね。これは晴生(この方も当代きっての洒落者といって間違いないと思います、白井さんも認める着こなしの達人・シップスの鈴木晴生さんのことです)も同じこと言ってたよ。』

 と、白井さんは即答されました。

 『スーツはネクタイさえ間違えなければそれなりに見えるものだけど、セパレート、今で言うジャケット&パンツは組み合わせの良い練習になるよね。組み合わせの変化を学ぶためには服ばっかりとか、靴ばっかりとか、何か一つにばかり凝ってそればかり揃えるんじゃなくて、色んな小物も含めて万遍無く投資することが大切。そうして徐々に揃えていって毎日組み合わせを変化させる練習を繰り返せば、まあ生まれ持った感性の差はある程度は仕方ないけれども、着こなしの基礎が自然と養われていくものだよ。』

  

 

 コート無しで帽子姿を撮影することは白井流では“ご法度”なのですが、余りに後姿の景色が良かったので一枚掲載させていただきました。今日もお帰りは『この時期は専らコレ』と仰るキャバリーツイルのコート。帽子は分厚いフェルトが今では希少な40年以上前の白井さん特注ボルサリーノ(伊)。

 本当はこの日はもっともっとご紹介したいお話、少年時代の白井さんのお洒落心に影響を与えた叔母様やシアーズ・ローバックのカタログのお話、ボブ・ホープや“バッテン棒”や『底抜け落下傘部隊』について、ラジオ番組“グランド・オール・オープリー”、ハンク・ウィリアムス、ジョニー・キャッシュ、ジュン・カーター、エルビス・プレスリー、映画『ウォーク・ザ・ライン』、カントリー&ウェスタンやロックンロール草創期の巨星たちについてのお話、などなどたくさんのお話を白井さんから伺いました。そういう服飾とは関係ないお話も、白井さんの着こなしを語る上では実はすごく大切で是非是非ご紹介したいのですが、残念ながら今日は私に許された時間に限りがあるので、それらについてはまたの機会に必ず書きたいと思います。今日はその中から、白井さんが最も好きなミュージシャンの一人“ハンク・ウィリアムス”の動画をリンクさせておきます。

 『当時のアメリカのカントリーミュージシャンは本当にカッコ良くて憧れの存在。現代のカントリーミュージシャンは全然ダメだけどね。』

 これを観れば、一昨年のクリスマスパーティーでの白井さんの着こなしが極めてクラシックな装いだったことが頷けるはずです。



グレンチェックのスーツ&キャバリーツイルのコート

2010-03-16 04:00:00 | 白井さん




 “荒れる春場所”とは大相撲の世界での慣用句。番付下位の力士が上位の力士を破る所謂“番狂わせ”が多いのが、この3月に行われる大阪場所の傾向なんだそうですが、その原因の一つが、三寒四温、花粉症といったこの時期特有の自然現象群による体調不良。春は如何な屈強な力士達でも自己管理が難しい、故に“荒れる春場所”となるのだとか。今期からロサンゼルス・エンゼルス・オブ・アナハイムに移籍した松井秀喜選手も確か花粉症で、例年この時期はあまり調子が良くなかったような記憶があります。因みに私も花粉症持ちですが、昨年から職場の先輩に教えていただいた“フルナーゼ”という点鼻薬を愛用しているお陰でかなりストレスが軽減されています。まだご存じない方はお近くの耳鼻科で処方されてみてはいかがでしょうか。お薦めです(笑)。

  

 服飾好きの我らが“大横綱にして不動の4番バッター”白井さんも、先日の出張で体調を崩されたそうで、この日は風邪気味。『2件くらい寒い所があってね・・・ゴホッゴホッ』と、この撮影中もみるみるうちに声が変わっていってしまいお辛そうでした。こうして改めて写真を見てもいつもよりお顔の色が優れません。白井さんは一旦お風邪を召されると長引くことが多いそうなので心配です。次回の“白井さんチェック”の負担が増えないように今回は努めてテンポ良く手短に参りたいと思います。

 まずは前回の訂正ですが、Solt&Pepperはスペル間違いでSalt。それから前回お召しのスーツについて白井さんから『あれは“ツイード調の”軽い生地でダニガルツイードじゃないよ。本物のダニガルはもっと分厚くてゴリゴリしてるからね。』とご指摘をいただきました。我ながらとんでもない間違いをしたものだと今回も反省しきりです。この場をお借りして訂正とお詫びにかえさせていただきます。

 

 またこの日の信濃屋馬車道店では“マエストロ”こと赤峰幸生氏が主宰されている『AKAMINE ROYAL COLLECTION』のオーダー会が催されていました。赤峰さん、撮影にご協力いただきありがとうございました。翌日、早速スカモルツァとパルミジャーノ・リゾットを美味しくいただきました(←これは赤峰さんと私の秘密の会話です笑)。

 下の写真は真面目にお仕事中の白井さんを隠し撮りした写真と、隠し撮りに気づいて驚くふり(怒ってません)をしておどける白井さんです。

 



   

 久しぶりの登場となったグレンチェックのスーツは白黒に赤いペインが入ったカルロ・バルベラ(伊)の生地を使用した信濃屋オリジナル(天神山)製。2本の赤いピンストライプが入ったシャツはFRAY(伊)。赤とシャンパンゴールドの細かいチェック柄ネクタイはルチアーノ・バルベラ(伊)で、かなり古いものらしく“お気に入りの一本”という感じでしたが、いかんせん体調不良のため白井さんの主張もやや弱め(汗)。

   

 ですが、この日一番のお顔をされたのはこの靴について触れられた時でした。『だいぶ古くなって革も切れてきちゃったけど、何しろ形が大好き!』(白井さん談)とこれまででも最上級のお気に入りっぷりの靴は、漸くにして初登場!ジョンストン&マーフィー(米)の黒いキャップトウです。6アイレッツ、小さめのトウキャップ、角度のあるベベルトウェスト、白井流靴哲学の源流を成すと云えそうな非常にクラシックなアメリカ靴については、私もいつもお馴染み銀座・天神山のIさんからよく聞かせていただいていました。そんな伝説の銘靴をこの度やっと拝見できたことには私も感慨深く、また、よく見ると靴の表情が何だかちょっと不思議と白井さんに似ているような気がしてくるから不思議です(笑)。

 

 

 今日はお早めに帰宅なさって下さい! この時期一番活躍するやや軽めのコート、キャバリーツイルのラグランコート(ビエラ・コレッツォー二伊)です。襟の形、ゆったりした身頃とがっしり太めの袖幅は白井さんも殊にお気に入りのご様子です。こういうカジュアルな表情のコートは肩にゆとりがあって全体もゆったりとしたシルエットの方が良いですね。先日、私もお気に入りの天神山製のポッサムのポロコートを、購入から2年目にして初めてニットの上から直接着てみたところ、ジャケットの上から着たときよりも肩線がナチュラルになって柔らかい表情を見せてくれたのは新たな発見でした。

 今日の合わせは、フランコ・バッシ(伊)の赤白ストライプ柄のシルクマフラー、毛足の長いライトグレーのファーラビットはボルサリーノ(伊)、ラバリーニ(伊)のステッキ。ストライプのマフラーもこれくらいの細い縞だと上品な感じになるんですね。白井さん曰く『小物は凄く大切。なるべく色んな種類のものを多く揃えて組み合わせの妙を味わうのが着こなしの醍醐味。』なのだそうです。

 風邪気味でも普段と全く変らない白井さんの素晴らしい着こなしには驚嘆を禁じえませんでした。また律儀な白井さんは赤峰さんを最後まできちっと見送られ、その際『帽子被らないの?』と“マエストロ”と呼ばれる赤峰さんにも私や他のお客様に仰るのと変らない調子で“ご提案”されていたのが可笑しかったです(笑)。今日は手短になりましたが、白井さんが早く全癒されることを心から願います。

 余談・・・先日アップしたチャーチのコンビネーションを早速白井さんにも見ていただいたところ、80年代に都合2回作製したコンビネーションの一回目だろうということでした。今から約30年前にご自身が製作に携われた靴がほぼ完璧なコンディションで、廻りまわって私の足元に収まっている不思議さには白井さんもちょっぴり驚かれていました。『普段の心がけかね(笑)。』と思いがけずお褒めの言葉も頂き、私も喜び一入でした。元来、ネットオークションには余り関心をお持ちでは無い白井さんですが、『良いものならいいんだよ。』とこの靴にはお墨付きを頂けました。これで晴れてこの靴が私にとっては正真正銘掛け値なしの“宝もの”となり感慨無量です。






 

 “白井さんならどうする”~2~ That's another story 

2010-03-13 04:00:00 | “白井さんならどうする─前編─”
  

“How would Lubitsch have done it?”

 映画『昼下がりの情事』『お熱いのがお好き』『アパートの鍵貸します』などを手掛けたハリウッド・コメディーの巨匠ビリー・ワイルダー(監督・脚本家)の仕事場には、自身が尊敬する映画監督エルンスト・ルビッチへのオマージュを込めたこの一文が額に飾ってあったそうです。曰く、“ルビッチならどうする?”

 そして私もまた、毎朝ワードローブの前で一人こう呟きます・・・“白井さんならどうする?”と・・・

                    

 今日は、丁度前回でカテゴリー“白井さん”の更新が記念すべき20回目を迎えましたので、恒例の“白井さんならどうする”をアップします。

 いや~凄いです!こうして20回目の節目を迎えられ感無量です。これも全て応援してくださっている皆様、信濃屋の皆さん、そして何と云っても毎回完璧な着こなしで私を暖かく迎えてくださる白井さんのお陰様です。皆様本当にありがとうございます。

 ※それぞれの写真をクリックしていただくと各々の更新回に画面が切り替わります。尚、今週木曜日は白井さんが出張のためカテゴリー“白井さん”の撮影はお休みをいただきました。        

  “着こなしの大敵は独り善がりな思い込み” 

  “生地に『着られ』るは愚の骨頂” 

  “本物ほど中庸”

  “エイジングは自分の手で” 

  “映画も本物を観るべし”

  “休日にもこだわりの着こなしを”

  “良い服地は触ってみるべし”

  “もてなし≒着こなし” 

  “服は少しだけタイトめに着るべし”

  “良い既製服を着るべし”


信濃屋オリジナル・チャーチのコンビネーション

2010-03-13 03:59:00 | お気に入り
 

 信濃屋さんが1980年代に英国のシュメーカー・チャーチ社に別注したコンビネーションシューズ。アイビーウッド&ホワイトのカーフ。ラスト#84“Hickstead”。フィッティングF。

 いつもお馴染み銀座天神山のIさんがご自身のブログ上で、信濃屋さんご在籍当時の忘れられない大切な思い出の一つとして綴っていた信濃屋別注のチャーチの一つ。

 白井さんが『全部で約50型くらいやったかなぁ。自分が履きたい靴を注文していたようなもの(笑)。いっぱいあったけど殆ど他の人にあげちゃったから今手元に残っているチャーチは3足しかないよ(苦笑)。』と仰っていた、その3足の内の1足がこのコンビネーションのプロトタイプ(信濃屋HP『Shirai Textbook』をご参照ください

 

 英国既製靴の良心の象徴・チャーチ社が最も輝いていた時代に信濃屋さん(白井さん)とのコラボレートで生まれた秀作の靴の数々は、先達の思い出話の中にしばしば登場していました。また、エイジングが重ねられた諸兄所有のチャーチは私にとって垂涎の的以外の何物でもありませんでした。その、私にとっては幻同然の靴を、今回ネットオークションで落札しました。

 

 ここ数ヶ月、白井さんの薫陶を授かってきた私は、かつて一時期熱中していたものの、ネットオークションでのバーチャルな買い物には実はすっかり興味を失っていました。ですが今回、図らずも友人T君の導きで、本当に久しぶりに、たまたま開いたネットオークションのサイト上でこの靴を“発見”したときは、大袈裟でなく“我が目を疑い”、文字通り“胴のうちが震えるほど”の驚きと興奮を覚え、『天佑』という言葉が頭に浮かびました。

 これはきっと“白井さん”更新20回目のご褒美、と思い素直に落札することにしました。でも『禍福は糾える縄の如し』『好事魔多し』とも云われますから、これを最後にオークションは完全に“卒業”したいと思います。これ以上の喜びはもう決して無いでしょうから(笑)。

 

 流石は信濃屋さんで靴をお求めになられた方が手放された靴でした。状態はほぼ完璧に保たれていました。昨日天神山のIさんに見ていただきましたが、普段は辛口のIさんが『これなら僕も落札したかもしれない。価値ある靴だね。』と仰った時はさすがにちょっと目頭が熱くなってしまいました(照)。そして今日、白井流の靴磨きで丁寧に光らせました。元の所有者が何処の何方かは判りませんが、生涯大切に使わせていただきます。

 明日は気温も上がり春らしい陽気になりそうなので、下ろし立てのダリオ・ザファーニのグレンチェックにこの靴を合わせて履き、颯爽と“白井さん”の撮影に向かおうと思います。 明日からは白井さんの着こなしも“春編”のスタートとなるでしょうね。

ツイード調のスーツ&Burberry のトレンチコート

2010-03-09 04:00:00 | 白井さん




 ♪~心で編んだセーター渡すこともできず一人部屋で解く糸に思い出を辿りながら~♪(村下孝蔵『春雨』より)

 ここ数日は暑くなったり寒くなったり、降ったり止んだり、天空逆巻き不安定な天気が続き“春まだ遠からじ”といった雰囲気で、私の気分も何だかちょっと停滞気味。鬱陶しい雨空を見上げると何故か懐かしのフォークソングが口を吐いて出てきました。昨日も真冬並みの寒さが戻ったということでしたが、ただ、大洋の湿り気を多く含んだ空気には、冬のあの肌を刺すような厳しい冷たさはもう既にありませんでした。やはり春はもうすぐそこまでやって来ているのです。我慢我慢!

 さて!今日の白井さんの装いは、“Salt&Pepper!”白黒グレーのホームスパン調のスリーピーススーツに、出ました!泣く子も黙る“トレンチコートスタイル”です。



     

 今日の白井さんはスーツスタイル。白黒のみのグレーホームスパン調の軽めの生地を使用した洒落た大人の男専用スーツ。こうして白井さんがさらっと着こなす姿を拝見すると、専らカジュアルなイメージが強いツイード調の服も、着こなし方次第で充分ビジネスシーンにだって通用することがわかります。もし会社にこんなお洒落な上司がいたらきっと“一生ついて行きます!”と後先考えず誓ってしまいかねない大変危険なスーツ(伊ルチアーノ・バルベラ製)です(笑)。

 私が今秋冬、銀座天神山でツイードのジャケットを初めて作製した際、いつもお馴染みのIさんからは『スーツで作ったら?』とお薦めしていただいたのですが、元々私はスーツを着用する機会が殆ど無いのと、“ツイードなのにスーツ?”と昨今のツイードに対する先入観からジャケットのみでのオーダーに留めてしまいました。また更に白井さんからも『スーツで作れば良かったのに。』と言われたことも。正に“後悔先に立たず”とはこのこと。今回の撮影で粗忽な私にもお二人が仰ったことの意味がやっと理解できました。

 コーディネートは白のオックスフォードBDシャツに赤とベージュのレジメンタルストライプのレップタイ(タイはルチアーノ・バルベラ、恐らくシャツも)。信濃屋の牧島さん曰く『あのスーツに白のBDとレジメンタルを合わせるところが“白井流”ですよ。』とのこと。私如きではその意味するところの深遠さは未だよく解りませんが、そう言われると確かにそうかもしれません。オフホワイト地に黒いペイズリー柄のシルク・ポケットカチーフ(Pocket Kerchiefが正確な表記。この度、信濃屋さんで皆さんと海外の古いブックを見ていて発見、白井さんからも“コレが正解”と教えていただきました。)は、白井さん曰く『これは大昔に100円で買ったやつ。横浜は昔はシルクの問屋がたくさんあったからね、何かで(問屋さんが店閉め?)ダンボールいっぱいあった中から20枚くらいまとめて買ったなあ。』とのこと。

 

 黒い靴はこれで3度目の登場ですが、全てキャップトウ。白井さんも“所有している黒靴は殆どキャップトウ”と仰っていました。今回は“EG”エドワード・グリーン(英)。巷では高名な靴屋さんですが、白井さんは『コバが張り出してないから女の靴みたいであまり好きじゃない。』そうです。このブログは白井さん別注のクロケット&ジョーンズから始まり、フローシャイム、サクソン、ヘンリーマックスウェル、ラッタンツィ、ペロンペロン、オールデン、ナンブッシュ、信濃屋オリジナルが登場していますが、それらと比べるとやはり大人しい印象ですね。この日は雨だったので“嫌いな靴を履いちゃう作戦”だったのかなと思いきや、牧島さん曰く『白井さんは雨だからどうこうっていうのは基本的に無いみたいだよ。“その日履きたいものを履き、着たいものを着る”が一番じゃないかな。』とのこと。それと“ワードローブの品は満遍なく使う”が白井流の基本ですから、ごま塩グレーのスーツ→黒靴→EG、という流れで選ばれたのかもしれません。因みに、天神山のIさんから以前伺ったお話によると、白井さんはご自宅のワードローブの靴を、『黒靴コーナー』『茶靴コーナー』『スウェード靴コーナー(因みにスウェードは埃が被らないように特に下駄箱の中に保管)』とに大別されているそうです。こういうちょっとした工夫が毎朝の品選びをスムースに進行させ、結果的に洗練された着こなしの一助になるのでしょうね。ソックスは久しぶりの赤。これまで見てきた限りですが、白井さんの靴下選びは“ネクタイの色に合わせる”ことが一番多いと思います。



   

 出ました!バーベリー社(英)の代名詞・トレンチコート。45番色“グリーンの玉虫色”です。裏地はグリーン&オレンジのチェックで白井さん曰く『45番の裏地はこれ!』とのことで、今は“バーばリー”といえばブランドアイコンになっているあの“バーばリーチェック”一辺倒ですが、かつては色んな裏地があったようですね。

 傘はブリッグ。メイプルのシルク張りで、前回のヒッコリーは26インチサイズでしたが今回は25インチ。純銀のカラー(ブリッグのカタログにはSilver Collarと表記されていました)には“TS(白井俊夫)”のイニシャル入り。帽子は信濃屋別注のボルサリーノ。画像が少しわかり難いですが“SHINANOYA”のロゴが入っています。普段は茶の帽子が多い白井さんですが、セカンドチョイスは恐らくこのグレー色でしょう。私ももし2つ目の中折れ帽子を買うならこの色にしたいと思っています。年季の証の焼けたグレーが今日のコートにぴったり合っています。

  

   

 白井さんから伺ってちょっと俄かには信じられませんでしたが、今日のこのトレンチコートは三陽商会(日)さんのライセンス品だそうです。所々が擦り切れた分厚いコットンギャバの撚れた感じ、焼けた玉虫のオリーブドラブ色、白井さんと共に歳を重ねてきたこのコートが放つ圧倒的な存在感はまさに“常在戦場”と言わんばかり(汗)。その前では輸入品だとかライセンスだとか、なんだかもうそんな細かいことはどうでもいいことに思えてきます。

 そして、もう何と言ったら良いのか、いえいえ、余計な言葉は要りませんね(笑)。トレンチコートを着てこれほどさまになる方を私は他に知りません。元軍服故か男心を擽る歴史とそれにまつわる薀蓄盛りだくさんのこのコートですが、街でたまに見かけても自然と着こなしている方はまず見たことがありません。それどころか前をだらしなく開けていたり(いえいえそれはまだ良いでしょう)、ベルトを後ろで蝶々結びしていたり(いえいえここまではなんとか目は瞑れましょう)、ベルトを引き摺っていたり(いえいえそれも許しましょう)、最後は面倒になってベルトを付けてない人がなんと多いことか!ループはもちろん残ったまま!ベルトを付けるか!ループを外すか!いっそのことトレンチコートそのものを着ないか!○※△×▲~#!!!・・・あまり人の服装をとやかく言うのは良くありませんが、要するに着こなす以前にちゃんと着れてない方々が余りにも多すぎて“トレンチコート=残念なコート”というのが私も含め、多少なりとも着こなしに気を遣かっている方々の大方の印象ではないでしょうか。私はこの場をお借りして声を大にしてこう申し上げたい。『こういう風に着て下さい!!!』と。

 

 数年前、私が初めてお会いした銀座天神山のIさんに猛反対され(笑)購入を見送ったのがこのバーベリーのトレンチコートで、その代わりに天神山さんで購入したのがローデンコートでした。振り返って考えてみるとこのトレンチコートは、今ある天神山さんや信濃屋さんとのご縁を作ってくれた陰の立役者かもしれませんね。その経緯については白井さんもご存知で『これはこれでなかなか良いもんだよ(笑)。』と仰って笑っていました。いつか、もう少し、私が成熟したら、その時はもう一度、購入を検討してみてもいいのかもしれませんね。その時もIさん、猛反対するかな?(笑)



ダイヤゴナルのカシミアジャケット&キャバリーツイルのコート

2010-03-06 04:00:00 | 白井さん




 “三寒四温”~日替わりで上下する気温と近づきつつある春を端的に捉えた写実的且つ詩的な素晴らしい日本語です。

 今日の白井さんは“洗練された大人のカントリースタイル”。ダイヤゴナルのカシミアジャケット&キャバリーツイルのコートです。



   

 今日はA・カラチェニ(伊)で90年代半頃に誂えられたというジャケット。うっすらとした橙(茶?)のペインが入ったダイヤゴナル柄のカシミア生地はカルロ・バルベラ(伊)製。素人の私ではちょっと言葉で表現するのが困難なほどの微妙な色合い、質感はしっとりと柔らかく、『(イタリーでの何かの席上で)隣に座ってたアントニオ・パニコが“良いなぁ~”と言って触ってたっけ(笑)。』(白井さん談)と同国の同業者も唸らせる、英国的カントリーテイストを得意とする同社の真骨頂といえる逸品。『生地なんてどうでもいいんだよ。』と白井さんにまた怒られそうですが(汗)。

 『生地なんてどうでもいいんだよ。』というのは白井さんの口癖。生地に限らず服や靴、小物に至るまで全ての品についても同様にそう仰います。一番大事なことは、その品を最初に見た時に感じる、色、触感、着てみたときの全体の雰囲気など、それら感覚に訴えてくる“一次情報”を通して自分がその品を気に入るかどうか。生産国、メーカーやブランド、価格、付随する薀蓄などは飽くまでも“二次的な文字情報”に過ぎず、それのみで物の良し悪しを判断してはいけないよ・・・私はそう教えていただいていると思っています。

 また今日のジャケットは私にとって個人的に曰くつきの品(その想いは先日アップしたこちらの記事に認めましたのでお暇があればご覧下さい)。昨年末、今日のジャケットを白井さんがお召しになっている写真を拝見し、私は銀座・天神山のIさんがお薦めしてくださっていたダイヤゴナルのジャケット購入を直感で決めました。今日こうして“本物”を拝見し、私は“ああ~やはりあのジャケットを買ってよかった!”と確信することができました。

   

 コーディネートは白のオックスフォードBDシャツに、白井さんには珍しい無地のネクタイは『“チャコールブルー”勝手にそう呼んでるんだよ、ふふ(笑)』と仰るイザイア(伊)のもの。今日の着こなしのアクセントになっているのはトラッドの必需品・タッターソールのベスト、と思いきや『今日は選んだパンツがサスペンダーくっついたままだったから着てきただけで他意はないよ。ちょっと(合わせの部分が)波打っちゃってるけど(苦笑)、ベストは向こうの映画なんか観てても皆ピタッと着ているよね。』とのこと。これは私見ですが、今日の白井さんの装いは、後で登場するコートもそうなんですが、ある程度年齢を重ねた方でないとなかなかさまにならない、という品ばかり取り揃えているという感じです。それらを“ひょい”っと選んで着こなされてしまうのですから“ぅ~ん”と驚くばかりです。

   

 この日の天気は雨模様だったので雨靴“シルヴァーノ・ラッタンツィ(伊)”のス・ミズーラ。ノルベジェーゼ・フレックスのタコキューゾです。タコキューゾとは“タコ(踵)がキューゾ(お休み)”つまり“ステッチが踵までは入っていません(お休み)よ”という意味だそうです。ここでいきなり前回訂正(というか前々回・汗)ですが、白井さんは私が“昔の靴はよくタンニンなめしがされていたので丈夫だった”といったことを書いていたのを思い出されて、『タンニンなめしは“底革”だけだよ。全部じゃないからね。』と仰っていました。それから“雨でも革底の靴が良い”と仰っていた白井さんにもう少し詳しくその理由を伺ったところ、ゴム底に比べると革のほうが“水分を発散して蒸れない”から、ということでした。

 また、この日同席させていただいた信濃屋さんの顧客のお一人、ラヴァツォーロ(伊、もちろん信濃屋別注の品)の茶の千鳥格子のスーツをスマートに着こなされた穏やかな紳士で、以前このブログにもコメントを下さったことがある“Lechner”さんは『コバをよく磨くと雨水が滲みにくくなりますね。』と仰っていて、白井さんも同感といったかんじで頷かれていました。ふむふむ、“Lechner”さん貴重な情報をありがとうございました!



   

 お帰りのコートはビエラ・コレッツォー二(伊)。オーナーのジャンニ・バスタ氏からの贈り物だそうです。襟の形が今まで登場したコートとはちょっと違っていてややカジュアルな印象です。これまた『生地の名前なんてどうでもいいんだよ。』と白井さんに窘められそうですが、編集の都合上“コート”だけでは締まらないので、信濃屋さんのY木さんにフォローしていただき“キャバリーツイル”とい織りの生地を使ったコートだということが判りました。元々乗馬用のパンツに使われたりする丈夫な生地だそうですから、今日のコートの雰囲気にもマッチした素材ですね。マフラーはエトロ(伊)のシルク&ウール。軽く柔らかな素材は今の季節や秋口などの“間”の時期に重宝しそうですね。

 帽子は前回と同じですが、今日のコートに一番色が合っているので敢えてこちらにしたそうです。ここでまたもや突然の前回訂正です。今回はアップの画像をご用意しましたのでご覧下さい。帽子のリボンの辺りに巻きついている紐、この紐について前回“顎紐”などと書いてしまいましたが違います!この紐は“風が吹いても帽子が飛ばないように服のボタンなんかに引っ掛けておくための紐”。クラウンに巻きついている紐を外し、画像にある黒い丸い部分を中心に輪っかを小さく絞ると自動的に紐の長さが延びてきて服まで届き、例えばシャツのボタンなどに小さくなった輪っかを引っ掛けておく→風が吹いても安心、という手の込んだ便利機能付きの帽子なのでした。

 繰り返しになりますがこの日は雨模様。ですが基本手ぶら主義の白井さんは『少々の雨なら傘は差さないよ。』とこの日はノーアンブレラ!ちょっと残念でしたが、前回のシルク張りのブリッグの傘についてもう一つ貴重な追加情報をいただきました。『確かにシルク張りはナイロン張りに比べて見た目も良いのだけれど、それ以上に良いのは“音”。雨が当たったときの音がまるで違うんだよ。』とのこと。私は、流石ブリッグ、ナイロン張りでも充分良い音だと思っていたのですが、更にその上の“音”とは・・・恐るべし紳士服飾の世界!

 さて、以下は余談ですが、いつも白井さんとの撮影では服飾のお話がだんだん逸れて行って最後には全く関係の無い話題で盛り上がることがしばしばあります(笑)。この日も『赤いギンガムチェックのスーツを着こなすには』、『ウールギャバディンと日本そば』、『“西部の男”と“西部の王者”』とだんだん逸れていき(これらの話題も追々ご紹介できると思います)、最後は白井さんの子供時代の遊びについての話題に(笑)。

 白井さん『においガラスって知ってる?』 

 私   『え!?何ですかそれ?』 

 白井さん『え、知らないの?だめだなぁ~(笑)。厚いガラスの破片をさ、こ~うやって教室でこするんだよ。で匂いを嗅ぐとすごくいいニオイがするんだよ!』

 私   『え!?それって何のためにするんですか??』

 白井さん『知らない。でさ、そのガラス何のガラスだと思う?戦闘機のコックピット
のフロントガラスなんだよ(笑)。子供ってどっかから変なもの拾ってくるよな~(笑)。じゃあさ、ホンチ知ってる?』

 私   『え!?何ですかそれ?』

 白井さん『ええ~!?知らないの!?横浜来ちゃだめだよ~(笑)。クモだよ蜘蛛、オスは“ホンチ”で雌は“ババ”、ハチマキ締めたのが“カンタ”。カンタまで知っている奴はそうはいないぞ!!(笑)。で、そいつらをマッチ箱でもなんでもいいから中に入れて、教室で戦わせるんだよ。』

 私   『え!?それって何のためにするんですか??』

 白井  『知らない。箱の下から“ほれ!ほれ!”って突っつくとこ~うやって戦うんだよ。』

 と蜘蛛が戦う様子を身振り手振りで真似をする白井さんの真剣な表情は、こんなに笑っては腸捻転になるのではと本気で我が身を案じたくらい可笑しかったです。普段から些かリアクションが大きい私ですが、それにしてもあんなに大笑いしたのはもう何年ぶりか!というくらいの大笑いでした。

 そんな白井さんのパフォーマンスに応える為にネットでホンチが戦う動画を見つけました。白井さん懐かしいだろうな・・・(笑)





 

 

チョークストライプのフランネルスーツ&Burberry の“Rider”

2010-03-02 04:00:00 | 白井さん




 ♪摩天楼蒼く煙らせる雨は おまえの流した涙のようだね
  
  見えない絆を確かめるように 何度も振り向く背中がつらいよ
  
  サヨナラが最後の優しさだなんて 二人とも生まれる時代を間違えたのさ
  
  Blue rain my soul♪

 この日は雨。信濃屋さんへ向かう道すがら、お気に入りの雨歌を口ずさみながら私は、『今日は間違いなく“アレ”をお召しになって来られている。』そう考えていました。

 今日の白井さんは茶のチョークストライプのフランネルスーツ、そして私の予測は見事的中しました、英国バーべリー(白井さんは“バーバリー”ではなく“バーベリー”と発音されていたので私もそれに倣います。)社のライディングコート“Rider(ライダー)”を身に纏われた“Spring rainy day style ”です。

   

 ニューヨークやシカゴのギャングスターを髣髴とさせる茶色のフランネルスーツは“信濃屋オリジナル”(天神山)製。チョークストライプは白ではなく少し捻って同系色の茶系を使い、地味になりそうなところを襟の縞の線を襟のラインに沿わせず外側に抜けるようにして変化を出されたのか。靴は昨年発売された最新の信濃屋オリジナルシューズ“Douglas MacArthur”Uチップ・バルモラルです。『雨で革が変になっちゃった。』と仰っていたのでアップでの撮影はご遠慮させていただきました。実は私も同じものを購入していて、2009年11月16日にこのブログ上にてご紹介しているので詳細はそちらをご覧下さい。よくよく考えると白井さんと同じ靴を同じ時代に購入できたなんて実に嬉しい出来事です!新しい靴ですが、もちろん白井さんはKIWIを使い熟練の技でピカピカに磨き済み。私も見習わなければ(汗)。ただ、以前白井さんからは“あまりいっぺんに急いで光らせようとするとワックスが剥がれちゃうよ”と教わっているので、焦らず磨きこんでいこうと思っています。白井さんは色が赤っぽくならないように元々の革の色(くすんだブラウン)を保ってそのまま濃くなるように気をつけて磨かれたとのこと。どうやら現在日本で入手できない色のKIWIをお使いになられた模様です。私の怪しい記憶では、確か昨年の11月に信濃屋の牧島さんが兵庫にお住まいの信濃屋顧客列伝中のお一人“O様”とお電話でお話されていたときに、白井さんがこの靴を磨かれた際の話題になり、確か“白井さんはミッド(もしくはライトだったか?)タンで磨いていた”と仰っていたような記憶があります(怪しい記憶ですけど・汗)。因みに、このブログではもう何度も書いていますが、白井さんは靴磨きにKIWIしか使いません。もう50年以上そうされているそうです。私はこの“白井流”の技の一つを“KIWISM”と勝手に名付けて悦に入っています。

 昨年私がこの靴を購入した頃、いつもお馴染み銀座天神山のIさんに『白井さんも同じ靴を購入されたんですよ。』と言ったら『え~白井さんまた買ったの!?靴いっぱい持ってるのに~!?』と笑っていましたが、気に入ったら即購入!そこがまた白井さん流なんだそうです(笑)。白井さんはこう仰っていました、『靴は今までそれこそいっぱい買って履いてきたけど、“履き心地”なんて未だによく判らないしあんまり気にしてないよ(笑)。なんたって毎日満遍なく履いてるんだから。』

 細いブルーのストライプシャツはアンナ・マトッツォ(伊)。FRY、リガッティなどイタリアのシャツ屋さんは女性経営者が多いそうですが、アンナ・マトッツォ女史もそのお一人。ハンドメイドシャツ屋さんとして知られていますが、白井さん曰く、『シャツのハンドメイドはあまり意味が無いね。ボタン付けや穴かがりくらいならまだ理解できる部分はあるけれど、シャツは本来は下着。頻繁に洗濯して丈夫さが求められるものを敢えて手で甘く縫うなんて。“否、着心地が違う”なんて云うけどそんなの全然解らないよ。本人(マトッツォ女史)にも言ったんだけど、あれは全然改心していない顔だったな(苦笑)。そんなことより今日はこれこれ・・・。』

 

 そう仰って白井さんが私を導かれた先は入り口近くのコートラック。今日の“白井シェフ”の“メインディッシュ”はやはりこちらのようです(笑)。おっとその前に好例の前回訂正を忘れないうちに!

 まず“前回の訂正”の訂正。カントリーウェスタン奏者がフランネルのスーツにテンガロンハット、ウェスタンブーツを合わせるのは『カントリーウェスタンの世界ではよくある着こなしだよ。』(白井さん談)と書きましたが、『あれは昔の話。’50年代頃かな・・・スーツのデザインもディティールがウェスタン調でね。機会があったら今度見せてあげるよ。』とのこと。洋服と共にカントリーウェスタンをこよなく愛する白井さん。一昨年の信濃屋さんのクリスマスパーティーでご披露された白井さんの美声はまさに玄人はだし。もしあのような機会がまたあったらなぁ~その時は是非白井さんの歌声を収録してデジタル写真集のBGMに使わせていただこうかなぁ~そんな不届きなことを考えてしまいました(笑)。

 それから前回訂正をもう1点。藤井さんがお召しになっていたタッターソールのシャツ。私はそのシャツを“白井さんからのプレゼント”かと勘違いしていたのですが、これはある件で藤井さんにお世話になった“信濃屋さんからのプレゼント”だそうです。よくよく思い出せば白井さんは“自分から”とは一言も仰っていなかったのでこれは完全に私の早とちりでした。白井さん、藤井さん、皆様にはこの場をお借りして訂正させていただきお詫びいたします。

 
 
 白井さんがまず取り出したのは傘。何本か所有されている傘の中から白井さんがこの日携えてこられたのはブリッグ(英国)の傘。クラシックな着こなしを信条とする紳士必携の品・ブリッグの傘については天神山Iさんのブログ(2006年9月19日掲載『こだわりの名品“ブリッグの傘”』)に詳しいのでまずはそちらをご覧下さい。

   

 上の写真一枚目は牧島さん所有の同じくブリッグ。持ち手はメイプルで張りはナイロンの黒。2枚目の左の無垢木の方は、生意気ながら私所有のブリッグ。持ち手はアッシュで張りはナイロンの黒。白井さんも『凄いね~ブリッグ持ってるの!』とちょっと驚かれていました(苦笑)。私のブリッグは銀座天神山さんで購入したのですが、昨年の秋のある日、それまで使っていた国産の傘を天神山さんにうっかりわすれて帰ってしまったのが運の尽き、Iさんから『あれ?ブリッグ持ってないの!?』とまるで“そりゃまずいです!”と仰らんばかりに驚かれやむなく購入したのがブリッグとのご縁の始まりでした。英国が誇る紳士必携の名品・誉れ高きブリッグの傘については私も以前から知ってはいましたが、ちょっと私如きには早すぎるのではないかと遠慮する部分があり、購入当初は携えるのに些か気恥ずかしさを覚えていました。ただまあ、これも紳士修行の一環と思い定めて、この半年間は雨の日には必ず持って歩き続けました。

 それまで使っていた国産の傘も“皇室御用達”として有名で日本橋三越で購入したもの。なかなか使い勝手の良いものと記憶していたのですが、先日、たまたま近所のTSUTAYAに行くだけだからと、何の気無しにその“皇室御用達”を半年振りに携えたところ、そちらには申し訳無いのですが、まるで“子供用の傘”のように軽いのでビックリ!開いても、力強い張り感から来る新雪に足を踏み入れたときのような“ブブブ”というブリッグ特有の音も無くて寂しく感じ、差していても何となく頼りなく感じられました。使い勝手の良さには定評のある国内メーカーですからもちろん傘としての機能にはなんら問題は無いのですし、こと雨に対する強度という点では日本と英国の雨の性質の違いからか、国産の方が優っているそうなのですが、こればっかりは気分の問題。やっぱり何でも経験してみないと判らないものですね。

 牧島さんにはスウェイン・エドニー&ブリッグのカタログも見せて頂きました。さすがは日本と並ぶ雨の国・英国の老舗、実に多くの種類の傘が扱われていますね。

 

 余談が長くなりました(汗)。お話を白井さんに戻します。白井さんのブリッグの持ち手はヒッコリーで張りはシルクの黒。シルク張りは私のナイロン張りと見比べましたが、表面の織りの肌理細やかさは比べるべくもありませんでした(もちろんシルクが上)。

 そして何と云っても今日最大のポイントは持ち手にあります。アップの画像でお判りいただけるでしょうか。

 『今は変な銀のプレートがくっついてるけど、昔のは“BRIGG-MAID IN ENGLAND”って刻印があるだけ。この刻印が無いと“本物”とは云えないね(笑)。』

 以前から白井さんにそう伺っていた“本物”のブリッグの傘を遂に今日この目で見ることができました。因みに牧島さんのメイプルも刻印だけのタイプ。私の新参のブリッグを見て白井さんがすかさず『銀のプレートかぁ~だめだな~(笑)』と仰ったのは言うまでもありませんね(苦笑)。確かに、やはり持つと素晴らしいブリッグですが、携えるときに感じる気恥ずかしさ、その原因の大部分はその銀のプレートの仰々しさから来るものかもしれません。本物が持つ佇まいって“ナチュラル”で意外と“控えめ”だったりするものです。

 

 さて、本日の“メインディッシュ”は間違いなくこれでしょう。このカテゴリー“白井さん”も早いもので今日から3月。初春を迎え初の綿素材のコートスタイルです。これから桜が咲くまでの一ヶ月間は暑くなったり寒くなったり、また突然の雨に遭遇したりと、行きつ戻りつする春には着るもので悩むもの。そんな時に断然重宝するのは綿のコート。寒暖差を補い、傘を忘れたって少々の雨にはびくともしない、この時期の主役です。

 白井さんが今日お召しになられているのは、かつて信濃屋さんで扱われていた幻の名品。雨の国英国が世界に誇る(最近は?ですが・汗)老舗“Burberry”のレインコート“Rider(ライダー)”です。信濃屋さんが数年前からこのライダーを信濃屋オリジナルとして復刻させたレインコート、その名もズバリ“Rider”は私も所有しております。

  

 『ここよく見て。襟裏のタグの下辺が縫ってないんだよ。サイズ表記はここに隠れててめくると見えるんだ。“本物”はこうでなきゃ(笑)』そう仰る白井さんのお顔はなんだか嬉しそう(笑)。また、元々は乗馬用のコートとして作られたこのコート。両裾の裏側には乗馬した際に裾が翻らないように裾を足に固定するためのベルトが付いています。これもまた“本物”のライディングコートの証。

 バーベリー社のレインコートには他にも“コマンダーⅡ”“ラドゥナー”“GWBⅡ”(GWはジェントルマンズウォーキング、Bはバーベリー、Ⅱは恐ら二枚袖の略ではないかというお話でした。ちなみにライダーは一枚袖。)といった名品の数々があった(今もあるのかな?)そうです。今日のライダーに使用されているコットン素材はベルギーの“DK”ドラッカーズ社のもの。色番は“53”。バーベリーの色見本はもちろん他にももっとあるそうですが、信濃屋さんでは“45”“46(グリーンっぽい玉虫色)”“53”を使っていたそうです。他にも“ST”ストッフェル社のポリエステル100%素材は軽くて年配の方にはなかなか好評だったそうです。

 今日の帽子は今までよりもやや鍔幅の広いボルサリーノ、顎紐つきのタイプです。この帽子はスーツスタイルの時に被ると決められているそうです。白井さんは他の帽子も“こういう時にはこの帽子”と全体の雰囲気の感じでだいたいお決めになっているそうです。

 因みに先日、天神山のIさんが愛用されているアクアスキュータムの綿コートを見せていただく機会がありました。Iさんはあまりお洒落っぽくないなんて自嘲されていましたが、決してそんなことはありませんでした。Iさんは『袖が擦り切れてきたから直さなきゃ(照)』とも仰っていましたが、それこそ飽きずに長く付き合える“本物”の証ですね。綿素材が経年変化を遂げ雰囲気があり、実にシンプルで飽きの来ないデザイン、大人の男にふさわしい“本物”のレインコートとは斯くあるべし、そんなカッコいいコートでした。今日の白井さんのライダーももちろん言わずもがなです。

     

 最後に、今日は敢えてたくさん登場させた“本物”という台詞は白井さんがよくお使いになる口癖(笑)。ただこれは他のものが“偽者”という意味でお使いになられているのではないでしょう。白井さんがこの台詞に込めている意味は、上っ面の華美は排し見えないところにも手を抜かないクラフトマンシップ、後々になっても使え長く付き合うほどに判ってくる本来的な良さ、私はそういう意味だと思っています。白井さんはこうも仰っていました、『今までいろんなものを買ってきて、そりゃちょっとくらいは“これは失敗だったかな”って思うものはあったけど、深く後悔したなんてことは、それは性格的なこともあるんだろうけど、一度も無いよ。新しいうちはなかなか判らないものだし、それが“良いもの”かどうかは長く使ってみないと判らないけど、自分で“これは良い!”と思って買ったものはやはり今も全て手元に残っている。そういう“本物”ほど“ナチュラル”で“中庸”で“シンプル”で後々まで使える。そしてもしその時に買っておかなかったとしたらその後は絶対に手に入らないものばかりなんだよ。不思議とね。』

 

 今日は皆様に白井さんにしか言い得ない“本物の言葉”をお伝えできたと自負しています。また白井さんは今日と全く変らないご発言を信濃屋さんのHP上でなさっていますので、そちらも併せてお読みいただきたいと思います。信濃屋HP『白井俊夫のお洒落談義』はこちら