ひと日記

お気に入りのモノ・ヒト・コト・場所について超マイペースで綴ります。

カシミアのジャケット&ローデンコート

2010-01-29 10:27:17 | 白井さん




 この日の横浜は朝から真冬らしからぬ生暖かい風が吹き、鉛色の空からは時折小雨がぱらつくというお天気で、服選びに頭を悩ませる方も多かったのではないでしょうか。かくいう私は、現在セール真っ最中の信濃屋さんをこの撮影の前々日に訪れて“奇貨おくべし”とばかりに購入した、ペイズリー柄の大判シルクマフラー、真っ赤なロイヤルスチュアート・タータンチェックのウールタイ、カルロ・バルベラのカシミア生地を使った八枚剥ぎハンチング、以上3点を早速身に着けたいという欲求とこの空模様が重なり、かなり無理をした強引なコーディネートで、でも嬉々として馬車道を駆け抜けていました(汗)。

 今日の白井さんの装いはそんな空模様を反映してか“色を使わない”と仰る装い。鈍い色合いのカシミアジャケットと、晴れの日雨の日どちらでも使える“オールマイティーコート”ローデンコートという着こなしです。

 

 今日は趣向を変えて靴からご紹介。これは私の勝手な想像ですが、恐らくこの日はこの靴からコーディネートをお決めになられたのではないでしょうか。80年代後半の伊シルヴァーノ・ラッタンツィ初期の頃のセミブローグで“ノルベジェーゼ・フレックス”製法の逸品。白井さんが以前雑誌のインタビューで『ラッタンツィなんてのは雨靴ですよ。そういえば以前、大雪の日に元町から本牧まで歩きましたけど水が一切滲みなかったなぁ。』と仰っていたことがありましたが、恐らくこの靴のことではないでしょうか。色はインカス・ジャロ(ジャロはイタリア語で黄色の意味)が元の色でしたが、白井さんがご自身で黒の靴墨を塗って、しばし置いてからニュートラル(恐らくどちらもキウィでしょう)を重ねてこのような微妙な色にしたとのこと。一度ラッタンツィ氏ご本人にオールソールさせたと仰っていたので、この靴は長年に渡って悪天候の中、白井さんの足元を支え続けてきたのですね。『あいつは字が書けないんだよ』と白井さんが軽いジョークを飛ばしていらっしゃいましたが、中敷にはラッタンツィ氏の手で“Schiray”と書いてありました(笑)。

 ソックスはこのブログ初登場のアーガイル柄。アーガイル柄については信濃屋の牧島さんが、やはり舶来ものの方が配色のセンスにおいて一日の長があると仰っていましたが、この日の色を使わないコーディネート中唯一この配色鮮やかな靴下で遊びを加えていらっしゃいました。因みに白井さんはこれまで全て無地のソックスをお履きになられていたので、私はてっきり柄物のソックスはお嫌いなのかと勝手に思い込んで“よし!俺も柄物は履かないぞ!”と一人心密かに決めていましたが、今回であっさり撤回となりました。たかだか10回程度のブログ更新で白井さんの好みをわかったつもりでいた自分にしばし反省。でもよせばいいのに『白井さんもアーガイルソックスをお履きになるのですね!』とうっかり口を滑らせてしまい、すわ大目玉か!と背筋が凍りつきましたが、この日の白井さんはなんだか穏やかな(はたまた呆れ返りすぎて達観されたのか?)ご様子。『いっぱいもってるよ。今度コックスムーアのとか持ってきてあげるよ。』と新たなご提案までしていただけました!かつてイタリア随一の洒落者ルチアーノ・バルベラ氏が『俺も持ってる』と白井さんと張り合ったという曰くつきの靴下・コックスムーアですので今からとても楽しみです(笑)。



 さて、足元からパンナップして次は・・・『今日はパンツのことは聞かないの?』と仰って白井さん自ら教えてくださった(これは稀なことです!なんだかこの日の白井さんはとっても優しいです!あまりに幸運すぎて帰り道事故に遇わないか心配になりました汗)伊ジャンニ・カンパーニャ製フランネルのパンツです。ツープリーツは当然のディティールとして、この日はなんとボタン留めのフロント部分までご披露くださいましたが、やはり撮影だけはご遠慮いたしました(汗)。ボタン留めフロントはクラシックな装いに拘る諸兄にとって必須のディティールですが、私はまだ一本も持っていないのでいつの日か足を通してみたいと思っています。やはり最初の一本目は、牧島さんが一二を争う履き心地と仰っていた信濃屋さんのルチアーノ・バルベラか、銀座・天神山さんでと決めています。

   

 『なんだか口を開けている写真ばかりだよ?』と、この日は白井さんから前回までの写真選びについて苦言をいただきました。古の武士に言う『男子は人前でむやみに歯を見せるものではない』との教えを白井さんも気にされてのことでしょうか、ですから今日は謹んで、きりりと口元が締まった写真ばかり取り揃えました! 

 くすんだ色の茶と緑が混じった微妙な色合いのジャケットは“ダリオ・ザファーニ”ネームの伊セントアンドリュース製。ポケットチーフはジャケットの色を拾ってオリーブグリーンのペイズリー柄、ボタンダウンシャツはこれも初登場のエクルー(生成り色)の無地、カシミアのタイはこちらも初登場の無地の淡いベージュ、という色柄使いをぐっと控えつつも着る人の個性がきらりと光る極めて高度な着こなし。

 さて本日の着こなしの主役カシミアのジャケットについてもう少し。イタリーのハンドメイドメーカー“セントアンドリュース”とそのオーナー“ダリオ・ザファーニ氏”(こちらの詳細については次のリンクをご覧下さい)については銀座天神山Iさんのブログにも紹介されていたので私も以前から存じ上げてはいたのですが、この日は白井さんにもお話を伺うことができました。この、イタリアに在るメーカーながら古き良き英国へのオマージュを忍ばせた名を持つ小さな工場セントアンドリュースは、オーナーのダリオ・ザファーニ氏の大変真面目で几帳面な性格を反映してか、いつ伺っても作業場が整理整頓され隅々まで掃除が行き届き、トイレにも塵一つ落ちていないという素晴らしい環境で物作りをしていて大変好感が持てたそうです。和服のめくら縞ならぬ“めくらグレンチェック(白井さんの造語です)”の控えめなウーステッドスーツを好む物静かな紳士だったザファーニ氏は、物作りに関してはまさにぴか一の、ルチアーノ・バルベラ氏が持つような感性の部分は別としても、見えないところまで手を抜かずしっかりした本物を作り出す本当の職人だったそうです。でもそんなザファーニ氏が、氏の右腕として辣腕を振るっていたチェッカーロ氏が亡くなられてから後を追うようにして逝かれたことを、白井さんはとても残念そうに思い出していました。お話を聞いていた私も少ししんみりしてしまいました。そのように伺って今日のジャケットの写真を見返してみると、これまでに登場したカラチェニの上着が肩や襟元に大人の男の色気を強く感じさせるのに対して、今日のこのジャケットには大人の男の知性が控えめに表現されているようで、今日の着こなしのテーマに合わせて白井さんがこのジャケットを選んだことも、私などが言うのも生意気ながら、何故か頷けるような気がします。



 
 
 お帰りのコートは、以前から白井さんのお話の中にしばしば登場していた“ローデンコート”がようやくこのブログ初登場!白井さんのローデンコート(伊ヴァルスター製)はローデングリーンが現行品より少し明るめで、生地(モエスマー製)も厚いような気がしました。上の写真は冒頭の大きな画像よりカメラの色彩感度を上げての撮影です。実際の色は両者の中間といったところでしょか。撮影技術が拙く正確にお伝えできないのが残念ですが、私はようやくこの両目でばっちりと本物を見れることができて大変満足です(笑)。実は私もこのローデンコートは所有しているので、このトラディショナルなコートについてもしご存じない方がいらっしゃいましたら、私の過去のブログに掲載した記事をリンクさせましたのでそちらをご覧いただければ幸いです。

   

 いつも気になりつつ、白井さんはお帰り際にぐずぐずされる方ではないので、詳細についてはなかなか伺う暇が無い小物については駆け足でのご紹介になってしまいます。帽子はローデンコートの時はこの帽子がセットですね、チロリアンハットです。こちらも現行品とは若干差異があるそうですが詳しくは伺えませんでした、残念。

 今日お使いだった手袋は長年愛用されているイエローのペッカリー(英デンツ)。更に今回は3つ愛用の手袋を見せていただきました。左から英デンツのペッカリー、真ん中がディンゴ(山犬の革)、右が仏ガンペランのペッカリー、とどれもが長年使い込まれ見事な経年変化を遂げた逸品ぞろい。因みに右上の白い小箱の中身はガンペランのグローブ専用石鹸です。因みに、今日お使いになられていたデンツのペッカリーは、革の黄色も現行品よりもう少し上品な印象の色合いでしたし、人差し指の継ぎ目も無く(これは革の歩留まりが多く出る贅沢な作りなので現行品では継ぎ目が有る仕様になっています。)、手の差込口の革の切れ目が入っている位置もサイド(現行品は手のひら側の中央)でした。またペッカリー革も非常に肉厚で現行品とは似て非なるものです。

 

 今日もとても多くのことを教えていただいた一日でした。





 

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2 コメント

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katka04993@yahoo.co.jp (katka(かてぃか))
2010-02-01 12:26:26
楽しく読ませてもらいました
僕は仙台在住で今日も最高気温が5度前後ですから装いもかなり変わってきます(防衛本能が発揮される季節です(笑))
また遊びに来ます
よろしくお願いします
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はじめまして (hito0815)
2010-02-01 20:47:37
(katka(かてぃか))さん、コメントありがとうございます。

 仙台は東京周辺よりもさらに寒さは厳しいでしょうが、こちらではなかなかできない完全防寒の装いが楽しめそうですね。と思いつつ、以前札幌出身の友人が、冬の札幌ではやたら厚着をしているとすぐ観光客だとばれてしまうと笑っていたことが思い出されました(笑)

 またお時間がありましたらお立ち寄り下さい。では。
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