ひと日記

お気に入りのモノ・ヒト・コト・場所について超マイペースで綴ります。

ウィンドウペインのジャケット&キャメルヘアのポロコート

2009-12-28 17:01:50 | 白井さん
 

 12月最後の週末、喧騒のクリスマスを終えた横浜の街はゆっくりとその表情を年の瀬のそれへと変えつつありました。この日の白井さんは仕事納め。このブログ本年最後の“白井さん”は信濃屋流の着こなしには欠かせない“オリーブ色の”ウィンドウペインのジャケットと、白井さんが『ポロコートの大本命はやはりキャメル』と仰るその“大本命”キャメルへアのポロコートです。

   

 白井さんが『ルチアーノもおんなじ様なの持ってたなぁ』と仰るミックス調の柔らかいオリーブ色に淡いオレンジのウィンドウペインが入ったジャケットと、『最も好きで一番多く買っているのがグレーフランネルのパンツ。気に入って買って家に帰ると全く同じ色のパンツがあったりするくらい苦笑。』と仰るそのグレーフランネルパンツは共に伊ルチアーノ・バルベラ製。胸元にはジャケットと同系色のチーフを柔らかく挿し、ガンクラブチェックのウールタイ(こちらも恐らくバルベラ製で70年代後半の品。今では珍しいことに当時は同素材で作られたウール100%のシャツも信濃屋さんで扱っていたそうです。)をしっかりと結び上げ、タイのノットとシャツの間にだらしない隙を見せないいつもの白井さんのスタイル。インナーのVネックスウェーターはパンツより少し濃いめのグレーを合わせ、足元は英ヘンリー・マックスウェルのUチップ・フルブローグと、白井さんの2009年仕事納めの装いは、リラックスしたジャケットスタイルでした。

   

 続くキャメルヘアのポロコートも伊ルチアーノ・バルベラ製。この日の白井さん、気分はどうやら“ルチアーノDAY”のご様子。コートのキャメルヘアの素材感の重さを考慮して襟元は軽やかに緑のシルクマフラーを掛け、年代物のボルサリーノは今日はノーライニング。そろそろお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、白井さんは茶の帽子を戴くことが多く、ご自宅のワードローブの中の帽子の類もまた茶色が圧倒的に多いそうです。さて、いつもは“手ぶら主義”の白井さんですが、今日は愛用の“Fugee”さんの鞄を携えていました。そして、その美しい手縫いのステッチを眺めては『こんな綺麗な仕事をする人はいないよ。』と絶賛されているハンドメイドの鞄を握る白井さんの手にはエルメスのペッカリーグローブ(カシミアライニング)一双とステッキ一本。以上’09ファイナル・白井流コートスタイル本日は“6点”セットでした。

 

 さて、いつものように余談ですが、この日信濃屋さんに到着した私が地下の紳士フロアに降りると、白井さんは丁度お馴染みのお客様方(これがまた皆さんお洒落な方ばかりでした汗)と装い同様のリラックスした雰囲気で談笑中。私もお仲間に入れていただき皆さんのお話を楽しく聞かせていただきました。また思いがけず、お客様のお一人に『ブログ見ましたよ。』と優しくお声をかけて頂きびっくり!もう唯々おろおろして通り一遍のお礼を言うのが精一杯でした。
 
   

 お話の内容はやはり服飾談義中心。白井さんを筆頭に座中の皆さんは経験豊富な方ばかり。白井さんがこの日お持ちになられた映画スターの写真の話や、紳士服の名店居並ぶミラノでの遣り取りの話など、飛び交う述語や固有名詞は初めて耳にする言葉ばかり。私はひたすらメモを取るばかり汗。

 『ティンカーティでは云々・・・。』『ああ、ティンカーティね云々・・・。』とお客様と白井さん。

 『ティンカーティって何ですか?』と私。

 『ティンカーティ知らないの?だめだなぁ笑』と白井さん~とこんな調子の中、話題はいつしかお客様がお履きになられているシップスでお求めになられたというフランネルパンツの後ろに施された“ロッカーループ”について(ここで失礼ながらお客様にお願いして一枚パチリ!)・・・。ロッカーループ!文字通りロッカーのフックに引っ掛けるためのループで、シップスといえば当然鈴木晴生さんご提案のお品だとか。私にはこれまた初耳の述語の登場でしたが、その時白井さんがすかさず『シャツにもあるんだよ。』と仰って見せてくれたのは、昔々に誂えた白井さんの私物の1着。白井さんが『今度フライ(伊)に見本で貸してやろうかな。昔の人はこういうちゃんとしたものを普通に作っていたんだよ。』という程に匠の技が随所に光る逸品はなんとびっくりのメイドインジャパン!なるほど確かにその背にはちゃんとループも施されていました。後ろ襟にちらりと覗く替え襟用の銀ボタンもたいへん洒落たものでした。むむぅ~昔はフライより凄いシャツが普通にあったのか汗。

 

 白井さんといえばその装いに注目が集まりがちですが、実は白井さんについていつも驚かされるのはそればかりではなく、汲めど尽きせぬ話柄の多さと退屈知らずの巧みな話術、またそれらを支える驚異的な知識の量と記憶力(でもグレーフランネルパンツだけは例外か!?)もまた然りなのです。『最近はすぐ忘れちゃう苦笑。』と白井さんは自嘲されていますが、お歳の割りにどうのこうのという問題以前に、その“引き出し”の多さと内容の正確さには舌を巻くばかりで、そう思われているのは私のみならず多くの信濃屋の顧客の方々も同様ではないでしょうか。

 

 “引き出し”といえば、『今日はこんなのを持ってきたんだけどね。目は良いほうなの?』と白井さんが鞄同様愛用している“Fugee”さんのお財布からひゅっと出して私に見せてくれたのは本当に小さな小さな一枚の写真でした。

 『何だか判る?』と白井さん。

 『(しばらく凝視して)あ!!白井少年!!?』と驚きの私。



 写真の裏書には─Aug.1947 長者町 カマボコ兵舎にて─とありました。

 『おじが通訳をしていたから米兵の兵舎によく連れて行って貰ってね。座っているのは米兵が食事をするテーブル。その食事の輪の中にも入れてもらったよ。横浜の米軍はオクタゴン(第八軍)といって皆赤と白の八角形のエンブレムを着けてたな。』と、白井さんは私の手帳にその紋章の絵をかいてくれました。『ピーチジャムをたっぷり塗った真っ白なパン、バターでぐつぐつ煮たコーン、“ブルーシール”の青いラベルの1ポンドアイスクリームetc・・・今食べたら大して美味しくもないかもしれないけどその頃は何よりのご馳走だった。中でも新山下にあったペプシ・コーラの工場で飲んだ出来立てのペプシの味は今でも憶えている。薬っぽい味でまだ出来立てだから温くてね。だから今でもコーラに氷は入れないんだよ。』『子供だったから米兵が話す悪い言葉ばかりを真っ先に覚えて、カッコつけて友達としょっちゅう真似してた笑。○○○○ ○○○!!ってね。』と口を尖らせて往時のご自身を真似る白井さんの表情はそれはもう真剣そのもので、まるで当時の白井少年が目の前に在るかのようでした笑。聞いているだけで当時の横浜の風景が鮮やかに色彩を帯びて目の前に広がるようで、白井さんの独特の色彩感覚は着こなしのみならず、話術にもまた等しく活かされていると感るのは私だけでしょうか。また邂逅以来、私は白井さんから服飾についてのあれこれを教えていただきましたが、この様な服飾とは一見全然関係の無いお話も実に面白く興味は尽きません。中でも一番興味深いお話の一つに白井さんの原風景ともいえる“戦後”のそれが真っ先に挙げられ、それは決して色褪せたただの昔話とは私には到底聞こえず、ちょっと上手く言えませんが、今の白井さんとダイレクトに繋がっているようなお話に感じられるのです。

 あまりに貴重なプライベートでの写真ですので撮影を躊躇しましたが、白井さんには『どうぞどうぞ』とあっさりお許し頂きました。もしかしたら私のために。。。白井さん、ありがとうございました。


 

グレンチェックのフランネルスーツ&アルパカのポロコート

2009-12-25 11:25:29 | 白井さん
 

 2009年クリスマス・イブは前回の白黒よりも少し遊び心を潜ませた茶系のグレンチェックのフランネル・スリーピース、そして同じく茶色のアルパカのポロコートという白井流“ノエルスタイル”(これは私の勝手なネーミングです汗)。

   

 かの地で作らせたというスリーピースは伊カラチェニ製。白井さんが『茶で良い生地はないの?』と問うと御当主のマリオ氏が店の奥から引っ張り出してきたのがこの英国製のグレンチェック柄だったそうで、控えめな橙のオーバーペインが着る方の趣味の良さを偲ばせるまさに“大人専用生地”。白井さん曰く『大人の男はこういう良い服をこそ遊び着で使いたいもの。』とのこと笑。

 

 Vゾーンは白のレギュラーカラーシャツに、遠目はオレンジに見えますが赤地に黄色のペイズリーが鮮やかなシルクタイ。このタイはなんと数十年前の信濃屋オリジナル製!で当時700円くらいだったもの!なのだとか。信濃屋さんのB1F紳士服フロアの奥にひっそり佇むキャビネットに陳列してある白井さん私物の名品の中にあるナロータイ(英ヒューパーソン─HUGH PARSONS製)の図柄を真似て『こういう洒落た生地が当時はなかなか無かったのでもう少し幅を広くして作った』そうです。『あの頃はイタリアのものなんて全く無くて、紳士服といえばやはり英国という時代だったから。』人の手の温もりを感じさせる愛らしい図柄、数十年を経てもまったく張りを失わないシルク、前回のアルマーニのタイの時も感じましたが、こういう昔の良い品をちゃんと手元に置いていて今でも現役で出番を与えていることは、口で言うのは簡単なことですが本当に凄いことだと思います。『良いものはたとえ時代の気分に遇わず使わないことがあったとしても、いずれまた必ず出番を与えられる。』かつて白井さんが紳士服雑誌上のインタビューに答えて仰っていた言葉はご自身が紛れも無く身を以って証明されていました。

  

 ネクタイだけで感心するのは早計です。靴は英サクソン製のスウェードダービー。白井さんからこの靴の値段12,500円を伺ったとき最初は“???”でした笑。『12,500円・・・今でも憶えている。初任給が16,000円の時代だったからね。あの頃はそんな買い物の仕方ばかりしていたよ苦笑。』当時白井さん22歳。掛け値無しの半世紀前の靴が今も活き活きと出番を与えられ私の目の前にありました。

 更にこの靴、この日の登場にはちょっとしたエピソードも笑。

 年末も差し迫るとやはり白井さんもご多忙で、この日白井さんがご自宅から履かれてきたのは前々回『ガンクラブチェックのスパンカシミアジャケット』の時と同じクロケット製スウェード・ダービーでした汗。白井さんは『朝バタバタしてたからつい一番上にあるこの靴をひょいっと履いて来ちゃった・・・。』とちょっと申し訳無さそう笑。『履き替えようか?』そう仰ると先のキャビネットからこの“サクソン”を取り出して履き替えてくれたのです!なるほど“師走”とはよく謂ったものです笑。

 更に余談ですが白井さん曰く、昔の靴職人は外羽のウィングティップのことを“おかめとんび”と呼んでいたそうです笑。『ウィングの形状が“おかめ”の額の形に似ていたからでしょ。』・・・では“とんび”は!?・・・実に伺うことが多いです苦笑。

   

 最後はお馴染みのコート姿で、とカメラを構えていた私の前に現れたのは、これを見たら“イブのサンタも裸足で逃げ出す”かと心配してしまうかの如き迫力満点(でもちょっとかわいらしくもある)のアルパカ・ポロコート(伊アニョーナ─AGNONA製)姿の白井さんでした。その余りの存在感溢れるコート姿に“なんじゃそりゃぁ~!!”と私が心の中で叫んでいたのは言うまでもありますまい。

   

 アルスターカラーの襟元はチェックのマフラーであしらい、戴いたハットは英ジェームス・ロック製。“ターンダウン”といってブリム(鍔)の後ろが跳ね上がっていない形が美しく殊にお気に入りだそうです。ステッキはイタリーの老舗ラヴァリーニ─RAVARINI社製でスポーティーなコートスタイルの時にはこの一本をよく携えるそうです。白井さんはステッキも数本所有されていて着こなしに合わせて使い分けています。

 『スーツが続いたから次はジャケットかな。』・・・そう仰って今日も圧巻の着こなしで帰路に着かれた白井さんでしたが、私がこの日一番嬉しかったのは白井さんが私のブログをご覧になってくれたことでした。というのも、予て白井さんから『僕はパソコンは全然わからないから・・。』と伺っていたので、私としてもこのまま載せっぱなしも良くないと思い、この日はこのブログの画面をプリントアウトして白井さんにご覧頂くべく信濃屋さんに伺いました。私がいつものように地下の紳士フロアに降りると、そこには小さな画面に向かって慣れないPC操作をされている白井さんの後ろ姿がありました。『晴生ちゃんから“良いですね~信濃屋さんのブログ”って聞いてね。』(因みに“信濃屋さんの”ブログではないのですが汗)・・・なんと白井さんが晴生ちゃんと仰る方は、先日このブログでお写真をアップさせていただいたシップスの鈴木晴生さんのことでした。僥倖この上も無く思わぬクリスマスプレゼントに唯々感謝するばかりのイブでした。

 では、今年もMerry Christmas!



 


グレンチェックのフランネルスーツ&カシミアのポロコート

2009-12-20 22:45:14 | 白井さん
 

 先日の色鮮やかなジャケットスタイルから一転、この日の白井さんは色味を極力抑え“モノトーン”をイメージしたスーツスタイルでした。

 

 “白井流”フランネルのダブルブレスト・スリーピース(伊アットリーニ製)は伝統の白黒グレンチェック柄、“小さめのノットが今の気分”と仰る年代物のジョルジオ・アルマーニのドットのタイは黒、ぺイズリーのチーフも黒、“男のドレス靴はかくあるべし”といった佇まいを見せるクラシカルな7アイレットの米フローシャイムは40年以上前の逸品で、小さめのキャップトゥが光り輝く黒靴、という“モノトーン尽くし”。色味に使われているのはロンドンストライプシャツとスーツに入ったオーバーペインのサックスのみという着こなし。

  

 “グレンチェックは上級者向き”と巷では謳われていますが、さもありなんという風情です。でも白井さんはここからが更に凄い。
 
 白井さんはお帰りの時間が皆さんより少し早いので、この季節はコート姿も拝見できます(実は洋品店の方のコート姿はなかなかお目にかかれないもの!)が、この日はその“コートスタイル”も見事な“モノトーン尽くし”。

 

 今では希少な打ち込みがしっかりとした厚く重いカシミア素材(伊カルロ・バルベラ製)で仕立てられたピークトラペル・ダブルのポロコートはチャコールグレイ、ライトグレイのソフトハット(恐らくグァナコ素材)、襟元に巻かれた大判のカシミアマフラーはチェック柄のミディアムグレー、最後に黒革のグローブでスネークウッドのステッキを握って完璧な“白井流コートスタイル5点セット─ver.モノトーン”で帰路に着かれました。

 

 蛇足ですが、この日の始め、白井さんは私が巻いていたサックスのカシミアマフラーをご覧になって『マフラーいっぱい持ってるね。』と軽いジョークを。白井さんはマフラーの類を合わせて30本程所有されていると予て伺っていた私は思わず赤面の体。『少ししか持っていないのでなるべく意識して色を変えているだけです・・・』と照れ笑いしたのですが、白井さんから『いいね、それ大事だね。』と思いがけずお褒めの言葉を頂きました。なるほどなるほど笑。



ガンクラブチェックのスパンカシミアジャケット

2009-12-18 13:02:04 | 白井さん


 このブログに新しいカテゴリー『白井さん』を加えました。

 『僕が今まで見てきた人の中でも白井さんの着こなしの素晴らしさは群を抜いている。』・・・信濃屋さんご在籍当時から長年に渡って白井さんと接してきた銀座・天神山の店長Iさんが折に触れ私に仰る言葉です。

 『白井さんの服飾への拘りは半端なものではなかったよ。』・・・信濃屋さんに顧客として足繁く通っていた往時を振り返って、ご自身もまた良いものを妥協することなく愛されている天神山オーナーのMさんですらそう仰います。そして私もまた天神山のお二人とのご縁を通じて白井さんにお会いするようになると毎回その着こなしに魅了され続け、例外は今までただの一度としてありません。白井さんの着こなしを言葉で表わせば・・・“カッコイイ”・・・このシンプルな5文字の言葉に集約されているのではないでしょうか。

 また少し話が逸れますが、この撮影の時、別のお客様も交えつつ話された会話はいつしか野球の話(白井さんは野球が大好き!)へ。白井さんから往年の名選手、川上、青田、の名前が挙がったところで、私が『赤バット、青バット!』と合いの手を入れたところ、すかさず白井さんは『そうそう!俺なんか子供の頃バットをこう~赤~く塗ってさ、でも打つたびに色が剥げちゃって云々・・・』と実に楽しげにお話に笑。またそんな時は決まってちょっといたずらな表情で、それは言葉では表わせないくらいまことにチャーミングです。着こなしとは一見全く関係が無い話のようですが、実はそういう部分にも着こなしに繋がる“何事か”が隠れているのかもしれません(単なる想い過ごしかもしれませんが汗)。“一日接すれば一日の愛生ず”とは少し大袈裟ですが、お会いするにつれ私は白井さんのそんな“着こなし以外の部分”にもまた強く魅かれるようになりました。

 いつしか募るようになった想い・・・“白井さんをもっといっぱい写真に収めたい。”・・・私は写真術のプロでも何でもないですし服飾についてもズブの素人。まさに無謀厚顔不埒僭越極まりないアイディアで、今もって尚恥じ入るばかりですが、この日、勇を鼓して白井さんに今後のこのブログヘの掲載をお願いしました。白井さんは極々シンプルに、そして驚くほどあっさりと『いいですよ。』と許して下さいました。私のような若輩者が“不世出の洒落者”である白井さんをこのブログでご紹介することの是非については、私自身随分悩みましたが、白井さんが私の写真を『中々綺麗に撮れてるね。』とお褒め下さっていることを唯一の励みにこれを二つと無い機会と捉え、期間をこれからの四季一巡りまでと区切ってでき得る限り横浜へ足を運ぼうと考えています。掲載のスタイルについてもあれこれ悩みましたが、私らしく今まで通りのやり方で、カテゴリーのタイトルも至ってシンプルに『白井さん』にしました。この私的な試みを素人らしく開き直って思う存分楽しみたいと思います。『自然に自然に、あくまでも自然に』映画監督の故・黒澤明さんの晩年の言葉ですが、そんな気持ちで。

 もちろん白井さんは50年以上紳士服飾業界の第一線でご活躍されてきた正真正銘の“プロフェッショナル”であり、私は末席に連なる一顧客に過ぎないことは重々承知しているつもりですし、その関係はこれからも変りません。長年の顧客の皆さんの中にはきっと眉を顰める方も多くいらっしゃるかもしれませんが、平にご容赦下さい。

  

 さて、またも長々と書き連ねてしまいました汗。この日の白井さんの着こなしは『安かったんだよ。』と仰っていた伊カンパーニャのガンクラブチェックのスパンカシミア・ジャケットに緑地のシルクペイズリーのチーフを挿し、白地に細い赤いストライプのボタンダウンシャツ、シルクのレジメンタルタイ、インナーに鮮やかなグリーンのカシミアニット、濃いめのチャコールのフランネルパンツに白井さんが数年前クロケット&ジョーンズにご自身で別注したスウェード・ダービーのシューズ。『こんな格好良い靴は他に無いよ~。』と笑。全体をグリーンで纏め所々にアクセントの赤(因みにソックスも赤のソッツィ)をあしらうリラックスした雰囲気の中にもそこはかとない色気を感じさせる着こなしでした。『こういう方が楽しいよね。』とのこと。

 

 帽子は分厚いフェルトが今では希少な40年以上前の白井さん特注ボルサリーノ。『ソフト帽は前を上げつつもブリムは額を隠すようにスナップ(下げて)させ、少しアミダになるくらいに左右どちらかに傾けて被ると格好良い。』とお手本を見せていただきました。


Shinanoya Chiristmas Party 2009

2009-12-14 12:46:10 | お気に入り
 

 昨日、横浜信濃屋さんのクリスマスパーティーに今年も参加させていただきました。

 昨年に引き続き今回で2度目となったこの会。昨年は12月なのに最高気温が20度という暑さにも拘らず、白井さんに敬意を表してかオーバーコートをお召しになられた参加者の方がじつに多く、さすが信濃屋の顧客の皆様!とその洒落者ぶりに度肝を抜かれましたが、今年は平年並みの気温となり皆さん安心して自慢の装いを満喫されていた様子でした。

 会場はこのブログでも以前紹介したことがある横浜馬車道のレストラン『パネ・エ・ビーノ』。クラシックな装いの諸兄が犇めき合う店内は巷の忘年会とは一線を画す例によって独特な光景でしたが、普段信濃屋の白井さんを見慣れているお店のスタッフですからそこは手馴れたもの。料理はいつもながら大変美味しく会の進行も手際よくスムーズでした。

 

 パーティーの前には白井さんと“マエストロ”赤峰 幸生さんの好例の“トークセッション”。今年のお題は『映画から学ぶ紳士のスタイル』。会場には赤嶺さんが持ち込まれた、ゲーブル、グラント、マストロヤンニ、クーパー、などの往年の名俳優の写真や名画のポスターが並び、大きなスクリーンにはモノクロフィルムの映像が映し出されるという趣向が凝らされていました。さすが“マエストロ”!

 白井さんはハリウッド映画、殊に西部劇をよくご覧になっていたそうです。『だって当時はそれしか無かったんだもの』とのこと笑。“ニュー・シネマ・パラダイス”のトト並に目を輝かせてご覧になっていたのでしょうか。

 

 また今年は途中からシップスの鈴木 晴生さんがトークに加わって更に充実した内容となりました。甘いマスクと、白井さんも一目置かれる抜群の着こなしのセンスで紳士服飾業界では知らない人はいないという方で、私も天神山のIさんから“むちゃくちゃ恰好良い”と以前より聞かされていたので、初めての“生”鈴木さんにはむちゃくちゃ感動しました笑。毎年2回フィレンツェで行われ世界中の紳士服バイヤーが集う見本市“ピッティ ウォモ”の会場でも、鈴木さんの着こなしのセンスは群をぬいているそうです(“The Sartorialist”のBlog June 2008←こちらのサイトにピッティ会場でリネンスーツで惚れ惚れするほどの洒脱な着こなしを見せる鈴木さんの写真《15枚目》が掲載されています)。この日もナチュラルカラーのコーデュロイスーツを小粋に身にまとう姿が洒落者が居並ぶ会場でも一際存在感を放っていました。またハリウッド映画にも大変造詣が深く、精細な内容や一流の学者さんのような明晰な語り口調と、その端正な姿とのギャップも魅力的な方でした。撮影をお願いした時も驚くほど丁寧に対応していただいて感動頻りでした。



 こちらは元テイジンメンズショップの平井 剛さん。なんと鈴木さんが“僕を撮るならこの人も撮らなきゃ”とご紹介してくださった方!銀座の通りを行き交う紳士淑女やその道のプロをも魅了し続けてきたテイジンメンズショップのショーウィンドウのディスプレイを長年に渡って手掛けてきたのはこちらの平井さんで、鈴木さんが最も尊敬する先輩のお一人なのだそうです。

 パーティーの中締めに行われたインタビューに平井さんが登場されて“ある朝、開店前にディスプレイをしているとコンコンと窓を叩く音がして、振り返るとそこにジョン・レノンが立っていた”というお話をご披露された時には会場の皆さんが思わず驚嘆の声をあげていました。一緒に居たヨーコ・オノに“ジョンはあなたの店が好きなのよ”とも言われて、しばし彼らのお買い物のお相手をされたのが良い思い出です、と仰っていました。



 こちらも大変有名な方です。天皇陛下の洋服を代々手掛けられている金洋服店の服部 晋さんです。服部さんの名著『洋服の話』は私も読ませていただきました。物腰が柔らかくて“品格”という言葉がぴったり当て嵌まる装いのまさに“紳士”でした。

 という訳で、どこを見渡してもご自身のスタイルをお持ちの錚錚たる顔ぶればかりで、私の居場所など全く無く、ずっと壁にへばりついているという状態(料理を取り分けるとき以外)でしたが、信濃屋の皆さんにお力添えをいただきながらなんとか撮影することができました。皆さんありがとうございました。

 

 そしてやはり最後はこの方を。信濃屋の白井さんです。今回もこれが撮りたくて参加したというのが理由の大半を占めています。濃紺のダブルのスリーピースに水玉のボウタイを締め、胸のチーフは艶やかに、足元はピッカピカの黒のキャップトゥ、頭にホンブルグ帽を戴き、濃紺のチェスターコートの襟元はタイと同ピッチの水玉をあしらった濃緑のシルクスカーフ、手には当然ステッキという完璧な着こなし。“凄~い!これが天神山Iさんが以前言っていた、若者の街渋谷でも一際目立っていたという白井さんのコートスタイルか!!”と一人合点していました。



 最後は昨夜のベストショット!往年の名画のどんな俳優たちの写真よりも私にとっては遥に価値のある“今を生きる”一枚です笑。

 

FACON

2009-12-11 19:32:52 | 大人のカフェ巡り


 中目黒の『CAFE FACON(ファソン)』さんです。

 
 
 冒頭から少し話が逸れますが、私は飲食店の優劣を論じることは基本的にあまり好きではありません。また私は飲食店の方と必要以上に親しくなることも基本的にはあまり好みません。それから、飲食店内での写真撮影にも基本的に抵抗があります。

 つまり、この“大人のカフェ巡り”をアップすることは、実は私のそんな信条に自ら抗するというちょっとした冒険でもあるということを私自身の備忘録としておきます。

 

 私がファソンさんで最初に心魅かれた点はやはり珈琲の美味しさでした。ご主人はご自分の目で拘って選んだ最高の豆(この豆は“スペシャリティー・コーヒー”というカテゴリーの特別な豆だそうですが、素人の私の説明では心許ないので詳細はファソンさんのHPにお願いしたいと思います。)を、ご自身の手で店内焙煎し、挽きたての豆を五感を研ぎ澄ませて一杯ずつドリップ(ペーパー式とネル式いずれかを選べます)で丁寧に抽出しています。私の知る限りでは、そういう“至極真っ当なこと”をされているお店は極めて少数派だと思います。

 珈琲はオリジナルブレンドが2種類とドゥミタス、またストレートが何種類かあり、その時々で特別に仕入れた豆などもあるようです。私の好みは店名を冠した“ファソンブレンド”のネル式。飲みやすく後味すっきりとしたミディアムローストの珈琲で、はじめの薫りはやや控えめながら、一口含んだ瞬間に爽やかな酸味と共に複雑な印象の豆の旨みが口中にぱっと拡がって、鼻腔を貫けるフレーバーは芳醇この上ありません。

 ご主人は目に鮮やかな器も拘りつつコツコツと揃えているそうで、殊にリチャード・ジノリがお好きなのだとか。今日はどの器かな、と思いながら珈琲が点てられるのを待つのもまた一つの楽しみです。

 

 他にもカフェオレなどの類やジュース類も充実しています。食べ物も充実していて、私はこれまでチーズケーキとサンドイッチを頂きましたがどちらも大変美味しく、珈琲同様丁寧に作られている印象でした。また紅茶にも拘ってらっしゃるようですが、残念ながら私はまだ頂いていません。

 

 店内装飾で一際目を惹くのは壁に掛けられた大きな絵。伸びやかな筆致で暖色中心に描かれたその絵は、画家を志す若いお客様にファソンさんをイメージして描いてもらったそうです。

 都会のビルの3階にあるお店にも拘らず、ベランダに小さなテラス席が2つあるのも中々チャーミングです。気候の過ごしやすい頃は何とも心地好く、風情が感じられるのだとか。またその他の装飾、フロア中央にある曲線の壁で仕切られた半個室、BGM、スタッフの皆さんの接客姿勢などどれも借り物ではないユニークさが感じられます。お客さん目線の大小のアイディアに溢れ、雰囲気作りを大切にした店内はどこに座っても居心地良く、時間の流れがゆっくりと感じられ、お客さんは皆さん思い思いにリラックスして過ごされているように感じます。 



 さてさて、先日から“大人のカフェ巡り”と勇んで銘打ち今回が2店目ですが、早くもその存続が危ぶまれます。何故なら今後の更新の際、こちらのお店が間違いなく一つの“基準”になることが予想されるからです。それに最近はこちらに足繁く通っていて、いったい次の“カフェ巡り”は果たしていつになることやら・・・つまりそれ程、私にとってまことに素晴らしいお店ということになります。

 

 今回のアップですが、じつは大変時間が掛かりました。撮影をさせていただいたのは今日、たまたま他のお客さんがいない午前中の早い時間でした。午後には自宅に帰り、それからずっとPCの前に座っています。

 何故なら、これまで何度かこちらに伺い、最近はご主人とお話をする機会を得られるようになり、恐らくご主人は私とほぼ同世代(間違っていたらごめんなさい汗)ではないかなと思うのですが、その珈琲に対する見識の深さ、技術の確かさ、事業に対する情熱、将来への展望と志の高さ、自らのスタイルへの拘りに、未だ僅かばかりの邂逅にも拘らず、私は偏に感じ入ってしまい、またそれら全てがご主人が点てる珈琲の一滴一雫に凝縮されて味となっているのかしらと考えたり、翻って我とわが身を省みては筆が止まることが一度や二度ではなかったから、なのです。

 店名の“FACON”はフランス語で、“流儀”を意味する言葉だそうです。

 最後ですが、ファソンの皆さん、図々しいお願いにも快くお応えいただき恐縮しています。ありがとうございました。
 

ダブルブレストのネイビーフランネルブレザー

2009-12-07 21:34:36 | お気に入り
 

 ダブルブレストのネイビーフランネルブレザーです。

 

 数多ある服飾素材の中で私が最も好きな冬の定番“フランネル”。鈍い輝きを控えめに放つ滑らかな光沢感、やや硬めの感触と乾いた質感、スポーティーな出自ながらどこか気品漂い、着る人の個性をキラリと主張するこの素材は長年私の心を捉え続けてきました。

  

 私が日頃お世話になっている横浜・信濃屋さんも銀座・天神山さんもこの素材は大好物。信濃屋の白井さんはHPの中で“身も心も暖かくしてくれる冬服の定番”(2007年12月12日掲載『THE FLANNNE』より)と謳い、ダブルのフランネルネイビーブレザーは白井さん御自身の“定番”といっても良いくらいしばしば愛用されている印象が私にはあります。

 地球温暖化が叫ばれ、季節感のない装いが巷を占めている昨今にもかかわらず、天神山のIさんはブログ上で毎冬必ず紹介し続けるくらいこの素材がお好きで、これは私の勝手な印象ですが、チャコールのダブルブレストの幅広のチョークストライプの着こなしがあれほどサマになる方を私は他に知りません。

 天神山オーナーのMさんが茶とベージュ地に赤いペインのプリンスオブウェールズ柄のフランネルのスリーピースを上品に着こなしている様などを見るに至ってはただもう指を銜えて羨ましがるだけという始末だったここ数年・・・涙。

 

 この様に私の周りではこの素材を小粋に楽しむ方々がわんさか居て、毎冬羨望の眼差し無くしてはいられないという状態でしたが、遂にこの憧れの素材を我が身に纏う日がやってきました。

 

 霜降りのはっきりとしたミディアムグレーにも強い憧れがありましたが、グレーフランネルといえば当然スリーピース!ということになり、普段ジャケパンスタイルが多く、スーツを着る機会が殆ど無い私にとっては折角のフランネルも出番薄となってしまうので、今回はフラノといえばもう一方の定番であるネイビーブレザーにしました。素材はフランネルでは本邦で一、ニを争うと評判の尾州の老舗テキスタイルメーカー“三星毛糸”のMerrow Flannnelシリーズから、少し明るめのネイビーを選びました。綾目が少なく重さは程よい400g/m。

 

 “ネイビー”と一口に言っても黒に近いものからブルー寄りまで色幅は広く、選択肢は限りなくありますが、昨年製作したサージのネイビーブレザーがかなり濃い色だったので、今回はそれよりほんの少し明るめのネイビーにしました。またフランネルといえば霜降り感が大きな魅力の一つで、貧乏性の私にはこの点がどうしても捨て難く、ネイビーながら少し霜降り感のあるものを選びました。フランネルネイビーブレザーの素材としては正統というよりは少し趣味性が感じられますが、長年自分の中で温めていたアイディアだったので大変満足しています。ゆっくり時間を掛けてドリップした珈琲に豆の個性はっきり感じられるように、じっくり時間をかけて自分の中を濾過したアイディアで選んだ服にもまた着る人の個性が表れるような気がします。服飾初心者の私は、素材選びに関してもこれまではIさんやMさんのお勧めを頼りに選んでいたのですが、数あるブックの中から今回初めて自分が第一発見者となったので、エポックメイキングな一着といえるかもしれません。少しステップアップです笑。

 

 モデルは細かな体型補正を繰り返しもう私の体にすっかり馴染んだ銀座・天神山“CRCS”モデルですが、今回は初のダブルブレスト。フランネルといえばダブル!ということで迷わず選びました。特徴ある幅広のダブルブレストは天神山さんのお家芸。先端が丸みを帯びたピーク、襟の返りはいつもながら美しい曲線を描き、緩やかに湾曲した襟線は私の丸っこい体型にぴったり。ダブルブレストの最大の魅力は男振りある立ち姿も然ることながら、(これはめちゃ私見なんですが汗)座ったときの“襟の開き”にあるのではと思っています。シングルよりも前の合わせが多いダブルならではの襟の開き具合にはなんともいえない雰囲気があります。特に硬めの素材であるフランネルの開き方は鋭角的で、大人の男の色気をぷんぷん振りまいて、これは諸兄と座って対面してきた時に私が長年感じていたことでした。これで私もその仲間入りを無事果たすことができ感無量です笑。

 

 今まで天神山さんでお願いしてきた服は全て3パッチのジャケットだったので、“初”バルカ(船底型)の胸ポケットに、“初”フラップ腰ポケット、“初”チェンジポケットと今回は“初”が多いです汗。私は幅が広いいかり肩なのでパッドは1/3にして、縫製は片返し、サイドベンツのメタル6ボタン仕様。袖のボタンはメタルの輝きと私の短い腕を考慮して重ねず3つの本切羽で。ブレザーということでIさんには7㎜ステッチをお勧めしていただきましたが、今回は少しノーブルな素材感に合わせて敢えてコバステッチに仕上げていただきました。

 

 コーディネートは撮影用に天神山さんにお借りして、ラウンドカラーのクレリックにカシミアのストライプタイ、胸に白いシルクチーフ、パンツは同じくフランネルのグレーのグレンチェックを合わせてみました。天神山のお二人にもご協力いただき感謝多謝です笑。万能のネイビーブレザーなのでいろいろ試して楽しんでいきたいと思っています。

 

 来週の日曜日に予定されている信濃屋さんのクリスマスパーティーにはこのブレザーにカメラをぶら下げて颯爽と乗り込んでみようと思っています。『お時間がありましたら、私とおしゃれ談義の続きでもいかがでしょうか。』(信濃屋HP『白井俊夫のおしゃれ談義』より)・・・一度言ってみたかったこの台詞(照)。

 天神山さんのHPです→http://www.tenjinyama.jp/

 信濃屋さんのHPです→http://www.y-shinanoya.co.jp/top.html