ひと日記

お気に入りのモノ・ヒト・コト・場所について超マイペースで綴ります。

Camel hair Polo coat

2010-12-23 04:00:00 | 白井さん










 『今はオーバーコートはお洒落着だから・・・』

 以前、白井さんは私にそう仰ったことがありました。

 帽子がそうであったように、かつて男にとってオーバーコートはお洒落以前に冬の必需品でした。が、今は室内のみならず、電車、自動車、飛行機の中と、外を歩くとき以外は完璧な空調が整えられ、次第に着る人が少なくなりつつあるようです。

 地球温暖化の影響も少なくはないようです。今からほんの30数年前、私が子供だった頃でも、冬は今よりももっと寒くて、街往く人々はたいがい重たい厚手のコートを着ていたような覚えがあります。雪が深々と降りしきる年末、毛糸の手袋と帽子を嵌めさせられ、首にはやはり毛糸のマフラーをぐるぐる巻きにされ、厚手のスウェーターの上にメルトンのダッフルで着脹れし、年越しの買い物に忙しい母に手を引かれ、白い息を吐きながら足早に歩く私の姿もまた、今ではもう遠い記憶の彼方で霞んでいます。雪が降らなくなった21世紀のクリスマスでは、サンタクロースも軽いハイテク素材に身を包んで子供達にプレゼントを運んでいるかもしれません・・・。

 ただ、それでも毎年冬が近づくと、オーバーコートに袖を通す日を待ち焦がれてしまうのは何故なのでしょう。

 目深に被った帽子の鍔影、襟元にゆったりと巻かれたマフラーの感触とドレープが生む陰影、杖をぎゅっと握りしめた革手袋の音と匂い、冷たく乾いた空気を伝い街路に鳴り響く硬い靴音、足元から伸びる灰色の影が映し出す幅広い両肩と大きな背中、重厚なシルエット・・・どんなに時代が変ろうとも、やはりオーバーコートを纏った男にはこの上なくエレガントな雰囲気が漂います。

 “OVERCOAT STYLE”が男のお洒落心を魅了し続けるのは、そのエレガントなスタイルが一年の内の僅かな時間にだけ許される“大人の男の特権”だからなのかもしれません。

 年末まであと僅かとなったこの時期、遂にこの項“白井さん”のタイトルにその名を冠する日がやってきました。“ポロコート”の登場!そして“コート5点セット”で“完全装備”の白井さんです(笑)。

 

 さて、この日の白井さんはたいへんご多忙でしたが、信濃屋顧客列伝中のお一人で、アメリカントラッドならこの方に聞け!というくらいの大のアメトラ通であられるT様が私のお相手をしてくださり、たいへん有意義な時間を過ごせました(笑)。T様、今度人形町行ってみます!

 え~我が家のPCがこの一年間撮り貯めた“白井さん”の画像で遂にパンクしました!前回から仕方なく近所のネットカフェから写真をアップしたところ、これぞまさに不幸中の幸い!我が家のPCより高性能な画像処理ソフトのお陰でこれまでよりもより大きく鮮明な画像をお届けできることを発見!今回からはオール“どアップ”の白井さん画像をお届けいたします(笑)。

 今季初のオーバーコートには“やはり”この“キャメルのポロコート”を選ばれた白井さん。実は密かに私が予想していた通りでした。何故そう予想したかというと、これは当然私の勝手な当て推量ですが、白井さんは“キャメルのポロコート”が一番のお気に入りなのではないかな?と、故に今季の一番に選ばれるのではないかな?と考えたからです。

 そう考えた根拠も一つあるにはあるのです。昨年末、このブログ“白井さん”の連載を始めたその第1回目のお帰りで、写真には写ってないのですが、白井さんは今回と同じコートを羽織られていました。因みに、その回にコートの写真が掲載されていないのは、初めての取材という極度の緊張で私が撮影するのをすっかり忘れてしまったためです(汗)。今では白井さんの自然な表情もかなり写せるようになってきたと自負している(といっても白井さんからは“変な写真ばっかり!”とよく怒られていますが・・・汗)私としては、一年という重ねた月日が偲ばれる良い思い出です。

 白井さんはその日、

 『この冬、初めてのオーバーコートだよ(笑)。』

 と仰っていました。

 “シーズンの初めには一番のお気に入りを着たい”と思うのは自然な人の情、それは白井さんとて例外ではないのでは、と考えたのが私の推量の根拠です。もっとも、“白井さんとポロコート”という図式が私の中で不離のものになっていて、私の只の思い入れの強さが一番の“根拠”なのかもしれません(苦笑)。些か余談が過ぎました、白井さん、勝手なことばかり書いてごめんなさい(汗)。

 

 ポロコートが、白井さんが殊にお好きな紡毛系の服との相性が最も良いコートの一つであることに異論を挟まれる方はおりますまい(笑)。また、その中でも“キャメルヘア”はポロコートに好んで用いられる最も代表的な素材の一つ。誕生以来100年を越える歴史を持つポロコートには多種多用な素材があり、このブログでも何種類かのポロコートが登場していますが、

 『ポロコートの大本命は“キャメル”。』

 とは、かつて白井さんに教えていただいた“至言”。

 天賦の感覚、磨かれた感性、重ねてこられた経験の深さで、着こなしにおいて“自在の境地”に達しておられる白井さんですが、その基本の部分、とでもいいますかベースといいますか、所謂“着こなしの論理”の部分に於いては、白井さんは飽くまで紳士服の“王道”を外しません。長きに渡って伝えられてきた“伝統”や、数多の男たちによって培われてきた“正統”というものをとても重視されているのです。

 『その服地なら夏のスーツに仕立てた方が良いよね。』

 『あの靴に合わせるならやはりツイードだよ。』

 『ブレザーにはこういう釦が一番良い。』

 挙げれば切りが無いほどに、私は白井さんから“正統”を重んじた言葉をたくさん伺いました。白井さんの着こなし、そして携わってこられた数多くの仕入れや商品開発、それら全てはそういう“堅牢な土台”の上に築き上げられたものであり、例えそこにどんな“遊び心”や“感性”を加えたとしても決して“見識の無い”ものにはならないのです。

 “長く着るなら普通が一番。”

 “ベーシックなフォルムで、仕立てや素材にクォリティの高さが感じられ、それでいて着る人の個性をキラリと主張する、そんな洋服に惹かれる。”(いずれも白井さん談)

 きっと“紳士服”という世界には“自らより普遍的であらんと欲する”という属性が本来的に備わっているのだとも思います。だから余分なもの、合わないもの、足りないもの、は次第に排除されていく。その場凌ぎだけの目新しさ、“オリジナリティー”を称した薄っぺらなもの、○○もどき、では一時の隆盛は得られたとしても、最後は儚く消え失せる厳しい世界・・・。

 だいぶ話が逸れてしまいました(苦笑)。“お前に何がわかる!!”と皆様からお叱りを受けそうです(汗)。確かに私は何も分かりません。だから、私にできることは、白井さんのような“本当のプロフェッショナル”を信頼することだけなのです。 



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