ひと日記

お気に入りのモノ・ヒト・コト・場所について超マイペースで綴ります。

ダークブルーのシャークスキン

2010-05-29 04:00:00 | 白井さん


 今日の白井さんはスーツスタイル。前回の明るい色使いのジャケットスタイルから一転、この日はダークブルーのシャークスキンを使った信濃屋オリジナル(日)の2つ釦のスーツで、大人の男の初夏の着こなしをご披露してくださった。
 
   

 『今日はTwo button!』

 これがこの日の白井さんの第一声だった。2つボタンのスーツはこのブログ初登場。

  

 つまらないお話で恐縮だが、私は“これが2つボタンのスーツか!”と意識して観たのはこれが初めてだった。スーツやジャケットの前身頃に使われているボタンの数に“2”と“3”の違いがあることは知識として知ってはいたが、元来の粗忽者ゆえこれまで特に意識したことは無かった。冒頭の白井さんの一言がなければ全く気が付かなかっただろう。我ながら情けない話だが、正直に白井さんにそのあたりをお伝えした。

 白井さん  『“2”や“3”だけじゃないよ(苦笑)。“1”だってあるし“4”だったら“ジャイビーアイビー”なんてのがあったなぁ。』

 牧島さん  『僕らは“エクストリーム”なんて云ってましたよ。ボタンが4つズラッと並んでて(笑)。』

 白井さん  『嘘か本当かは知らないけど、昔の仕立て屋のおっちゃんは“ボタンは5つが基本”なんて言ってたよ。前が1なら袖は4、2なら3、3なら2、つまり前と袖のボタンの合計が“5”っていう意味(シングル前の場合)。本当かどうかは定かではないけどね(笑)。』

 牧島さん  『はいはい、それは僕も昔聞いて知ってましたよ。』

 とこんな感じで、お二人はボタンの数についてだけでもどんどん話題が繋がる。こういうことが白井さんが常日頃から仰っている“基本ができている”ということなのだろう。本当に服が好きな人はボタン一つだって見逃さないのだ。

  

 この日お召しになっていたポプリンの白シャツは襟の先が丸みを帯びている“ちょんまる”。以前その言葉だけはご紹介したが今回は写真に収めることができた。因みにこれも白井さんに言っていただいて初めて判ったこと。ボタン同様である。

 

 『こういうブルー系の服には明るい茶色の靴はあまり合わせたくないんだよね。今日だと黒も無いかな~ま、好みの問題だね(笑)。』

 着こなしについて白井さんは“好みの問題”と仰ることがある。もちろん当然といえば当然なのだが、やはりその中に“白井流”がいっぱい詰まっているのだ。この日は幸運なことに、

 『コーディネートは・・・』

 そう仰ってお話を続けてくださった。因みに“コーディネート”という単語を白井さんが使われるのは極めて稀なことだ。

 『これでも毎朝結構時間が掛かったりするものだよ。こだわってないような顔してこだわってる(笑)。ぱぱっと決まっちゃうこともあるけど、まあ、やっぱりあれこれ悩むものだよ。まず服は何を着るか。次にシャツを決めて、ネクタイ、チーフと順に決めていく。靴?靴も服と同時に決めるかな。で、次に靴下。最近は崩れてきているけど、以前はネクタイと靴下の色を必ず合わせたりしていたね。それだと今日なら黄色の靴下ってことになるんだけどね(苦笑)。スーツと同じ(ダークブルー)じゃつまらないし今日は敢えてグレー。これ、それぞれ全部掛け算していったとしたらもの凄い数の組み合わせになるよ(苦笑)。一番悩む所はやはりネクタイかな。なにせいっぱいあるから(笑)。“これも良いけどこっちも良いな、いや、あっちも良い”なんて。だからあまり数が在り過ぎると悩みが増えるだけ!なんだけど、まぁそれも楽しみなんだよね。』

 『あと、女性の視線は意識の外(笑)。あくまで自分が楽しんでいるだけなんだよ。』





若草色のジャケット

2010-05-27 04:00:01 | 白井さん


 まずは前回訂正から。

 ● 信濃屋さんでかつて扱っていた舶来品の件で、

   『べーラムのヘアトニック』 → 『丸善のべーラム』

 ● 信濃屋顧客列伝中最高の洒落者“N様”の件で、

   身長146cm  →  サイズ46

 以上、訂正させていただきます。誠に申し訳ありませんでした。

 

 さて、この日の白井さんの装いのなんと“絵画的”なことか。色をたくさん使った初夏の着こなし、その主役は大柄のペイズリーがあしらわれたブルーのネクタイだ。

 前回の撮影で白井さんがお召しになられていたペイズリーのネクタイに話が及んだ時、白井さんは

『どちらかといえば小ぶりなペイズリーが好だけど大柄のペイズリータイも何本かあるので
今度してくるよ。』

 と仰っていたのだが、早速件のネクタイをこの日の着こなしに取り入れてくださった。更にこの日は敢えてダウンタウンの松ちゃんもびっくりの剣先パンツイン!以前、白井さんは何かのインタビューでネクタイについて、

 『肝心なのは、首もと(襟と結び目の間)にだらしない空きをつくらないことです。その急所さえおさえておけば、あとはそんなにピシッと決めなくても無造作でいいんじゃないですかね。僕も知らずに下(小剣)が出ていることだってあるし。ただ、こういう話をすると、それがイキとか言ってわざとやる人もいますけど(笑)。』

 と仰っていたくらいなので、剣先イン!などは雑作も無いことなのかもしれない。

 

 ジャケットはセントアンドリュース(伊)。グレンチェック柄に淡いブルーのペインが入っている。グリーン系の色が殊にお好きな白井さんは、きっと“お!これいいじゃん!”という感じでこのジャケットを選ばれたのだろうが、凡百がおいそれと選べる色柄ではないのではなかろうか。組み合わせを間違えればとんでもないことになりかねない危険なジャケットだが、上級者の手にかかればご覧のような結果となる。着こなしの妙とは斯くの如しである。

 パンツはギャバディン(伊ガエタノ・アロイジオ)。色は単純なベージュではなく、なんと表現したら良いのか、ほんの少しだけ“赤み”がさしているように感じられ、その赤みのぶんだけ洒落者向けな“大人っぽいパンツだなぁ”という印象を受けた。ギャバディンのパンツかぁ~・・・新たなマストアイテムの名が私のワードローブ(予定表)に追加されたようだ。

   

 以下余談。

 前回白井さんのお話に登場した“Nさん”の、白井さんがこれまでで最も感銘を受けたというその洒落者ぶりについて、私の筆ではどうも上手く書けなかった気がしたので、再び白井さんに伺ってみた。白井さん曰く、

 『とにかく何でも着こなしちゃうんだよ。バルベラのス・ミズーラ、当時は“ニコロ・ダ・ミラノ”って名前でキトンで作らせてたけど、それをビシッと着こなしたかと思えば、国産の何でもない綿のスーツとか、ジャッキーの半袖のポロシャツとかも平気で着ちゃったりするんだけど、何着てもサマになっちゃうんだよなぁ。』

 『ネイビーのダブルのブレザーに黒のホンブルグ被っちゃたりして、それがまたカッコいいんだ(苦笑)。夏の盛りに、出来上がったグレーの分厚いフランネルスーツを取りに来られてそのまま着て帰っちゃったりしたこともあったっけ(笑)。バーバリーの綿コートなんかも腕の辺りが擦り切れるまで着てたよ。袖の辺りがっていうのはよくあることなんだけど、腕の中ほどのところがそうなっちゃうんだから凄いよね。』

 『あと、靴の修理は半張りのみ。同じ木型を使ってじゃないと履き心地が微妙に変わるからオールソールはしないんだって言ってたよ。まあ何しろ“とんでもない人”だったね。』

 因みに、信濃屋さんのHP『白井俊夫のおしゃれ談義』の中で、

 “いつもとてもダンディな着こなしをされていて、フラリと立ち寄られては、サッと好みのものを買っていく。それがまた、私たちをうならせるような品選びをする方がいらっしゃいました。ある日その方が麻のスーツをお求めになられたのですが、そのときに私に向かって「白井君、麻のスーツというのはね、3年くらい着こまないと、本当の麻の良さが出ないんだよ。だから3年目の味わいを出すために、最初の2年間はムダに着るわけだよ」とおっしゃられた。私はこの言葉を聞いて、自分の装いを楽しむゆとりや豊かさ、しゃれ心とはなにかを教えられたと思いました。”

 というたいへん印象深い一文があるが、その、いつもとてもダンディな着こなしをされていたお客様こそ“Nさん”その人なのである。

 



“白井さんならどうする”~4~ Build a basic wardrobe

2010-05-27 04:00:00 | “白井さんならどうする─前編─”
  

“How would Lubitsch have done it?”

 映画『昼下がりの情事』『お熱いのがお好き』『アパートの鍵貸します』などを手掛けたハリウッド・コメディーの巨匠ビリー・ワイルダー(監督・脚本家)の仕事場には、自身が尊敬する映画監督エルンスト・ルビッチへのオマージュを込めたこの一文が額に飾ってあったそうだ。曰く、“ルビッチならどうする?”

 そして私もまた、毎朝ワードローブの前で一人こう呟く・・・“白井さんならどうする?”と・・・

                                       

 4回目を迎えた“白井さんならどうする”。過去3回は副題に『That's another story 』と付していたが、さしたるこぼれ話もご披露できない状態が続いていたので、今回からは副題を『Build a basic wardrobe』とした。私はこれを少し意訳して“着こなしの基礎を構築せよ”と唱え自らの規範としている。

 最近、以前から是非挑戦してみたいと思っていた故・向田邦子さんの著作を読み始めた。向田邦子さんの作品が如何に素晴らしいかとうことは、私如きが今更申し述べるまでも無いことではあるが、向田作品の影響で文体がすっかり変わってしまった。しばらくこの書き方で書いていきたいと思う。

 “高く積み上げたくば底辺を広げよ”

 “ハンドステッチは後々味が出てくる”

“紳士は白い麻のハンカチを持つべし”

 “アクセサリーの類はとりあえずひと揃え”

 “服を楽しむ人であれ”

 “想像せよ。イマジネーションが大切である”

 “一番大切なのは何をどう組み合わせるか”

 “長年使うからその良さが判る”

 “ブランド云々は卒業すべし”

 “着こなしを楽しむに何をか恐れることやあらん”

シャークスキンのスーツ

2010-05-22 04:00:00 | 白井さん


 冒頭からいきなり私事で恐縮ですが(ま、私のブログですので当たり前といえば当たり前なんですが・汗)、今週は突然の体調不良に遭遇し難渋しました。現在は快方に向いつつありますが、明日の撮影に差し支えるとそれこそ“本末転倒”になるので、今日のアップも無理をしないようにしたいと思います。



 またこの日は、誠に有難くも白井さんから『大丈夫?』とお声をかけていただき恐縮しきりでした。そしてきっと私の体調を考慮して下さってのことでしょう、白井さん自ら『よし!今日のテーマは“こだわり”だな!』と仰って盛り上げてくださり、普段にも増して有意義なお話をたくさん伺うことができました。

 

 『まず、“自分が好きなもの、良いと思うもの”を身に着けたい、というのがあるね。同時に人にも出来る限り“自分が好きなもの、良いと思うもの”を薦める、まぁこれは売り手としてのこだわりかな(笑)。男性はある程度“こだわり”がないといけないね。昔はそれこそ下着一つにも拘っていたものだよ。もちろん今もだけどね。』

 私も実は以前から“やっぱり白井さんは下着にもこだわりがあるのかなぁ?”と思っていたのですが、なにぶん事がコトなだけに正面切って伺うのはかなり憚られる話題。千載一遇のチャンスにメモを取る私の手には緊張が走りました。

  

 『PX(アメリカ軍の基地内の売店=post exchange)で買ってきてもらってさ。BVDから始まってジョッキー、ステッドマン、フルーツ・オブ・ザ・ルームと変遷していったなぁ。そうそう、PX流れといえば煙草。キャメルとかチェスターフィールド、フィリップモリス、ラッキーストライク、当時の煙草はフィルターなんて無いのが当たり前。パッケージのデザインも今なんかと比べものにならないくらいカッコ良かったなぁ。』

 そう仰って白井さんは懐かしそうに思い出され、その後は信濃屋さんで扱っていた舶来品(当時は雑貨が中心だったそうで未だ紳士服の扱いは無かったそうです)の名前が矢継ぎ早に登場してきました!固有名詞だけでも、ジレットの剃刀、パーカーやシェーファーの万年筆、ロンソンのライター、ジャンセンの水着、丸善のべーラム、ヤードレーのシェービングマグ、ブルジョアのオーデコロン、“ケルン水”4711、オールドスパイスやキングスメンのローション、と驚くほど多彩で、実にバラエティーに富んだ内容でした。でも時々お話が横道に逸れていって、その都度『あれ?なんか話がおかしな方向にいってるぞ(苦笑)。そうそう“こだわり”についてだったっけ。』と軌道修正されていました(笑)。

  

 かつて信濃屋さんを訪れていた、白井さんの思い出の中に居られる明治・大正・昭和の洒落者は、それぞれが御自身の“こだわり”を持った“強者”ばかりだったそうです。

 『今までで一番“この人はすごい”と思った洒落者は“Nさん”という方。歳?30年前で既に白髪だったからずっと年上の方(笑)。背が小さくて確か46とかその位だったかなぁ、履いている靴もやっぱり小さいから“英国にあるジョッキー(騎手)御用達の靴屋で買うんだ”なんて言ってたよ。その人のこだわりはたったの2つ、上着の“袖幅”と“内ポケット”。袖幅の数字ははっきり憶えてないんだけど確か平置きで13cm、内ポケットは『浅くしてくれ』っていう注文だったよ。普通は物が入れやすいように深くするよう注文されることが多いんだけど多分上着のシルエットを気にされてのことだろうね。その2点以外のことは一切何も言わなかった。いつもカッコよくて、でも結局最後まで何の仕事をされているか教えてはくれなかったよ(苦笑)。』

 『何に、どの程度、“こだわる”かは人それぞれ。値段が高ければそれが“こだわり”とは思わない。ただ一流を目指すのならばそれなりのものを選ばなければならない。“投資”をしなくてはならない。それは服だけに限ったことではなく、身につけるもの、食べるもの、観るもの、聴くものなど身の周りのこと全てについて云えること。底辺が広くなければ高く積み上げることはできないんじゃないかな。』

 

 今日、白井さんがお召しのスーツの生地はこのブログ初登場の“シャークスキン”。信濃屋さんでルチアーノ・バルベラ(伊)の製品を扱うようになった初期の頃のものだそうです。『これは良い生地だね。古くなってだいぶ焼けてきているけどね。』そう仰っていましたが、その焼け具合がとても良い色艶を放っていて独特な渋さがありました。

 シャンブレー織りのボディにラウンドカラーのクレリックシャツはフライ(伊)。ず~っと長い間出番が無く御自宅で眠っていたそうで、白井さん御自身もその存在を忘れていたそうですが最近ひょんなことから再発見されたそうです。また、他にも同時に何枚かのシャツが見つかり『(ワードローブの)シャツが都合90枚程度になったよ。』とちょっぴり喜ばれていました(笑)。ネクタイは白井さん好みのクラシカルなペイズリー柄(E・ゼニア)。

 『服(スーツ、ジャケット類)は大して持って無くてもいいからシャツやネクタイなどの類をなるべく多めに持っていた方がいいよ。組み合わせがより楽しめるからね。』(もちろん白井さん談)

 靴はジョンストン&マーフィー(米)。詳しいお話は伺いそびれましたが、その形、色、輝きは名品と呼ぶに相応しい佇まいでした。



ダブルブレストのコットンスーツ

2010-05-20 04:00:00 | 白井さん


 今日は今シーズン2回目の登場となりますコットンスーツ。前回は鮮やかな“黄色”が印象的なシングルブレストでしたが、今回は色はポピュラーなベージュながらダブルブレストにパッチ&フラップというちょっと珍しい仕様です。 

 

   

 今回、白井さんが履かれていた靴が初めてのスリップオンだったのですが、うっかりアップの撮影を忘れてしまいました。申し訳ありません(涙)。代わりといってはなんですが、下の写真は信濃屋さん取り扱いのオペラパンプス(チャーチ・英)です。英国ではスリップオンとは言わず、ステップイン(Step in)と言うそうです。靴箱の表記にご注目。

 

 申し訳ありません!デジタル写真集は後日アップとさせていただきます。今回は私が体調を崩してしまい取り急ぎ駆け足のアップとなってしまいました。本当は、“一流を目指すには”とか“ハンドの味について”とか、このブログならではの事柄をたくさん書きたかったのですが、次回以降に改めて試みたいと思います。白井さん、皆様、誠に申し訳ありません。



Blue Blazer & White linen handkerchief

2010-05-15 04:00:00 | 白井さん




 今回も信濃屋さんのお店先での撮影です。

 今更言うまでも無いことですが、信濃屋馬車道店さんはその名の通り馬車道沿いにお店を構えていますのでお店の前には常に人通りがあります。この日の撮影中も、ファインダーを覗く私の背後を通られた方がお知り合いだったようで、白井さんは『あ!どうも!』とちょっとびっくり&照れくさそうに笑顔でご挨拶(一枚目の写真)。次にお店先にあるテーブルと椅子を発見。さっとお掛けになって更にパチリ!(2枚目)。青いソックスが鮮やかに目に飛び込んできます。

 

   

 この日、白井さんはいの一番に『珍しいものを見せてあげるよ(笑)。』と仰って一冊のパンフレットを私に見せてくださいました。

 先日、信濃屋さんの長年の顧客のお一人であるH様が、アメリカ合衆国テキサス州サンアントニオに現存する“アラモの砦”跡を実際に訪れてこられたそうで、現地で入手された観光用のパンフレットをお土産代わりに白井さんに届けてくださったとのこと!無知な私は先だって白井さんから教えていただくまでその存在すら知らなかったのですが、アラモの砦は“合衆国の開拓史”を語る上では絶対に欠かすことのできない有名な場所(こちらをクリックするとアラモの砦の公式サイトにジャンプします→Daughters of the Republic of Texas: Welcome to the Alamo)。西部劇をこよなく愛す白井さんですから、きっとH様との服飾談義の中にもその地名が登場したことがあったのでしょう・・・なんと義理堅く、また粋な計らいでしょうか!

 『あ、このベスト“バックスキン(鹿革)”だって。昔の人は洒落たもん着てたよな。』

 なんて仰りながら、白井さんは遠い異国の地の過去と現在の風景や文物を、目を細めてご覧になっていました。

   

 さて、今回は“It is necessary to build a basic wardrobe!”久しぶりにブレザーの着こなしです。

 『ん?縞のネクタイじゃない!』

 そう思われた方も多いのでは。これまでのブレザースタイルには必ずセットになっていた縞のネクタイではなく、今日はクラシックな織り柄のネクタイを合わされた白井さん。私も早速その点について伺ってみました。

 『ブレザーでも絶対に縞じゃなきゃいけないってことではないんだよ。メタルボタンなんかだとやっぱり何となく気分として縞を合わせたくなるんだけど今日のはこれでもいいんだよ。』

 とのこと。

 それから今日のブレザーはゴージラインが低くクラシックな印象を受けます。襟の形も特徴的で、以前ご紹介した“ガエターノ・アロイジオ(伊)”のチョークストライプのスーツの襟型に似ていると感じました。今日の更新で38回目となった“白井さん”ですが、私も38回目にしてようやくゴージラインや襟の形の違いが目に入ってくるようになりました。早速その点についても伺ってみたところ、

 『いや、アロイジオはまだこの頃はいなかったんじゃないかな(笑)。この頃は48の8(S)を着てたんだよなぁ~でもまだなんとか着れちゃうんだから凄いね。ちょっと丈が短いけど(苦笑)。』

 とのこと。信濃屋さんでルチアーノ・バルベラ(伊)の取り扱いを始めた頃のブレザーとのことでした。因みにサイズ表記の“(S)”というのは“Short”の意味。つまり着丈バランスを表わす表記なのだそうです(イタリア語だと“C”の場合も)。更にその上にはレギュラーの“R”、ロングの“L”、とあるそうです。“L”は一般的な日本男性の身長ではかなり丈が長めになってしまうので国内での取り扱いは稀なのでは、とのこと。また信濃屋さんのスタッフ・Y木さんから伺ったお話では、信濃屋さんではスーツやジャケットをメーカーに発注する際、特に指定して信濃屋さん独自の“着丈バランス”にすることが多いそうです。Y木さんはさらっと仰っていましたが“信濃屋流スタイル”へのこだわりの一端が垣間見えるお話でした。

 

 白井さん、『そうそう、ハンカチは何を使ってる?』

 私、   『え?いや~安いやつですよ(照)。』

 白井さん、『いや、そうじゃなくて色は?素材は?』

 私、   『え?何か柄とかが入った綿のやつですよ?』

 白井さん、『ふふふ、それじゃいけないね~(笑)。今日はハンカチの話をしようか。』

 そう仰って白井さんが私に見せてくださったのが今日のタイトルに書いた“White linen handkerchief”・・・白い麻のハンカチでした。

 『残念ながら今はもう無いんだけど、ロンドンのバーリントンアーケードの一番先の左の角にあったリネンショップで買ってきたやつ。イニシャルは後から“ハンドエンブロイダリー(手刺繍)”で入れたんだけどさ。これは良いよ~一見リネンに見えないくらいにしっかりと目が詰んでて。周りはヘム。ボーダーなんてのもあるよね。俺はねティッシュって使わないんだよ、家でもね。昔からず~っと使うのはハンカチって決めてるんだよ。そして、ハンカチは白、そして麻、これは“絶対”だね。強調してくれて構わないよ。“紳士は白い麻のハンカチを持つべし”なんてね(笑)。昨今のブランドの綿の柄の入ったハンカチなんて問題外だね。いつから出回るようになったんだか(苦笑)。そうそう、そういえばルチアーノ(・バルベラ)も鼻かむ時は白い麻のハンカチだったっけ(笑)。』

 昔の洒落た人は良質の白い麻のハンカチを、半ダースとか1ダースとか、まとめて買っていったそうです。良い麻はたとえハンカチとはいえ決して安くはないもの。これぞまさに本当の“大人買い”ですね(汗)。私が単に物を知らないだけなのかもしれませんが、こんなことは初めて聞きました。白井さんは冗談っぽく笑いながら仰っていましたが“強調して構わない”なんて言葉を使われるのは極めて異例なこと。もう一度強調します・・・

 “紳士は白い麻のハンカチを持つべし”

 蛇足ながら、信濃屋さんではもちろん白い麻のハンカチを取り扱っています。 


 

グレンチェックのスーツ

2010-05-13 04:00:00 | 白井さん


 今日は前回の記述についての補足から。

 ●ウェスタンベルトの件にて・・・その素晴らしいハンドカービングはS女史という皮革製品全般の製作を生業とされていた方の手によるもの。私はその雄渾な手彫りの様からてっきり“男性”の職人さんを想像していたのですが、Sさんは『素晴らしいセンスと高い理解力、そして美しい容貌を兼ね備えた女性』(白井さん談)とのことでした。



  
 
 以前、白井さんが『ダリオ・ザファーニ(伊・セントアンドリュースのオーナー)が好んで着ていたよ。』と仰っていたのが、今日白井さんがお召しのような“めくらグレンチェック”柄のスーツ。

 セントアンドリュースはイタリアに在るメーカーながら古き良き英国へのオマージュを忍ばせた名を持つ小さな工場。白井さんの思い出の中では、オーナーのダリオ・ザファーニ氏(故人)の大変真面目で几帳面な性格を反映してか、いつ行っても作業場が整理整頓され隅々まで掃除が行き届き、トイレにも塵一つ落ちていないという素晴らしい環境で物作りをしていて、大変好感が持てたそうです。今日の着こなしはそんな“真面目な”ザファーニ氏のキャラクターと重なるようなイメージでしょうか。

  

 和服の世界には“盲縞”という言葉があるそうですが、“めくらグレンチェック”は白井さんの造語。近づいて見てやっとそれと判るほどの細かいグレンチェック柄、という意味ですね。ブルーのウィンドウペインも入っていますがこちらも控えめ。また、シャツ、ネクタイ(写真では紫っぽく見えますが実際は“青”と表現した方が近い色でした)、ポケットカチーフなど色味はほぼブルー系で統一されています。

 今日の着こなしの中で一箇所だけささやかながら異彩を放っていたのは、アンティークのカラーバー。着脱は所謂“安全ピン”と同じ構造ですが暦とした18金製。また、針先をシリンダーキャップで覆い隠せるという凝った作りになっていました。こういうアクセサリーの類は『そんなに数多く持って無くてもいいけど、とりあえず一揃え持っていたほうが何かの時に困らないのでは。』とのこと。

 

 靴は今回で3回目、最多登場となったシルヴァーノ・ラッタンツィのスウェード一文字。最初に登場した際、白井さんは『何にでも合わせ易く履き心地がとても気に入っていて、新橋の大塚製靴でオールソールリペアしてもらったくらい。』と仰っていましたので、なるほど仰っていた通りということですね。

 今日のステッキは今回が初登場ですが、お帰り間際で詳しくお話を伺えませんでした。次の機会を待ちたいと思います。

   

 余談ですが、最近ビデオで観た『セント・オブ・ウーマン』という映画の中で主演のアル・パチーノが着ていたスーツと、このブログの第3回目で白井さんがお召しになっていた茶色のグレンチェックのスーツの印象が、私の中で何故かダブりました。アル・パチーノのスーツはシングルブレストのピークドラペルで色はセピアっぽかったのですが、映画の中では彼がその服を着てNY滞在を満喫する場面が多く描かれています。

 白井さんは件の回で『大人の男はこういう服をこそ“遊び”で使いたいもの。』と仰っていましたが、アル・パチーノはまさにそのようにしていました。そして惚れ惚れするほどカッコ良かったのです。白井さん、アル・パチーノ・・・恐るべし(汗)。

 今日の白井さんはこれまでで一二を争う“真面目”な印象(笑)の着こなしでしたが、スーツの着こなしにもこれだけの幅があるんだなぁ~と感じます。





ギャバディンのウェスタンスーツ

2010-05-08 04:00:00 | 白井さん


 いきなり冒頭から前回訂正を(汗)。

 ● 服飾評論家・遠山周平さんのお名前に一部誤りがありましたので訂正させていただきました。“遠山さんって~遠藤周作に漢字が似てるなぁ~気をつけよう”と思いつつ執筆していたにも拘らずこのていたらく(汗)。我ながら今後が心配です。

  

 ● LBJハットの件でご紹介した上掲左の写真のコートは正しくは“ランチコート”。因みに間違ってご紹介した“サバーバンコート”は右の写真の右側の男性が着ているシングルブレストのコートのことです。因みに左の男性が着ているのは“ゴールコート”というそうです。襟の形に特徴があるのだとか。今回も大変貴重な白井さん秘蔵のスクラップブックの写真を撮らせていただけましたが、それがミス訂正でお手を煩わせてしまうという無礼なお願いになってしまい恐縮至極です。

 遠山さん、白井さん、大変失礼をいたしました。心よりお詫び申し上げます。

 では、本日の着こなしをご覧下さい。



 今日は遂にウェスタンスーツの登場!

 以前、白井さんが大好きなカントリーウェスタンの伝説的ミュージシャン、ハンク・ウィリアムスのお話に花が咲いた時にこのウェスタンスーツも話題に上り、白井さんが『今度着てこようか!でも電車に乗って来るのがなぁ~・・・いや、もうこの歳になったら怖いものは無い!』と仰って登場を約束されていた特別な一着。前回、服飾評論家の遠山さんからもリクエストがあったそうで、陽気も今が一番!とのことで満を持しての登板となりました。

   

 着こなしのテーマは“テキサスの石油○○”。テキサスで油田を掘り当てちゃった方だそうです(汗)。肉厚のギャバディン素材を使ったスーツの色は『タン(Tan)。シアーズなんかにはそう書いてあったよね。』(白井さん談)というカラー。シアーズとは“シアーズローバック社”が全米に展開した通信販売のカタログのこと。白井さんのお話に頻繁に登場するこのカタログは、『なにしろ何も無い時代だったから、一日中眺めても飽きなかったよ。』と仰るほどに少年時代の白井さんを魅了し続けたまさに“消費者の聖書”。横浜正金銀行(現在は神奈川県立歴史博物館。信濃屋馬車道店さんのご近所にあるあのごつい建物です。)に勤められていた白井さんの叔母様が戦後GHQのお仕事に携われていた関係でこのカタログを白井さんに持ってきてくれていたのだそうで、その中には今日白井さんがお召しのようなウェスタンスーツもいっぱい掲載されていたそうです。因みに白井さんが最初に買った靴はシアーズに載っていた黒い編み上げだったそうです。

 ついでですが今回初登場の素材“ギャバディン”、間違っても“ウールギャバディン”と呼んではいけません。白井さん曰く『ギャバディンはウールが当たり前!だからわざわざ“ウールギャバディン”って言うのはおかしい。蕎麦のことを“日本蕎麦”って言うのと同じこと。』とのことです(笑)。更に余談ですが、この日はT様というたいへんお洒落なお客様がご来店されて、たまたまT様もギャバディンのスーツをお召しでした。色んな服を経験されてきた方がちょっとリラックスした感じで着こなされていると実に良い雰囲気で“ギャバディン・・・大人の服地だなぁ”というのが私の感想です。

  

 シャツも当然ながらウェスタンシャツ。襟元には紐状のネクタイ“ストリングボウ”をきりりと結ばれています。

 白井さんはウェスタンシャツもお好きなようで、たくさんの種類をお持ちなのだとか。なんと母上様に作ってもらったこともあるそうです!『袖の切り替えしのところは苦労していたみたいだったよ(笑)。』とのこと。以前白井さんに伺ったのですが、白井さんの母上様は東京・目黒にあるドレスメーカー女学院、通称“ドレメ”の卒業生だったそうなのです。ですからお裁縫は大変な上手だったそうで、詳しいことは忘れてしまいましたが色んなお仕事(主に洋服のお直し)をお引き受けされていたそうです。少年時代の白井さんもたまに“きりびつけ”や“ほどきもの”などのお手伝いをしていたそうです。

 

 今日はディティール要チェックです!左手にチラッと見えるのは“おお~!白井さんがブレスレット!?”とびっくりしましたが実は腕時計。時計本体よりもこのベルトがポイント!とのこと。いつも通り細かいところも抜かり無しです!

   

 この日の一押しアイテムは腰のウェスタンベルト。『ここまでの仕事が施されているモノはなかなか無いよ。』と、白井さんが絶賛するハンドカービング(手彫り)で彩られた模様には職人魂が感じられて迫力満点!純銀製のバックルの着脱方式は2段階になっていて“レンジャースタイル”と云う凝った造作になっていました。普段は如何なる服や小物であってもその価格についてお話しすることは皆無の白井さんが、珍しくこのベルトについてだけは『これは高かったよ~。』と目を丸くされていたのは、このベルトが余程の逸品という証です。一昨年の暮れに行われた信濃屋さんのクリスマスパーティーで、白井さんが愛用のギターに装着していたストラップも同じ職人さんの手でハンドカービング(白井さんのイニシャルも見えます)が施されたもので、更に貴重な品なのだそうです(上の写真右下)。

 この日の陽気からストロー製のウェスタンハットにしようかな?とも思われたそうですが、今日はこのフェルト製のテンガロンハット(米・ステッソン)。この帽子も一昨年前のパーティーでお召しになられていたもので、純銀のバックルが付いたハンドカービングの革ベルトが巻かれています。今回初めて触らせていただいたのですが、もの凄く硬いフェルトが使われていて驚きました。私は“西部の荒くれ男のへヴィーユースに耐えられるようにとのことか?”などと考えながらついつい開拓時代に想いを馳せてしまったのが災いし、あろうことか白井さんに『顎紐は付いてないんですね。』と口走ってしまいました。余りに無知な質問に白井さんがガックリと肩を落とされたのは言うまでもありません(汗)。

   

 ブーツは“ほんの”トニーラマ(米、Tony Lama)。同席されていたお客様方は『ああ~トニーラマ・・・懐かしいですね~』と口を揃えて仰っていました(汗)。ただ、白井さんは“ほんの”と仰っていましたが私は初耳の名前なのでその意味するところがイマイチ判りませんでした(涙)。情けないことに私はウェスタンブーツを見るのが今回が“ほんの”2回目なのです(因みに1回目は一昨年前のパーティーで白井さんが履かれていた黒のウェスタンブーツ)。

 ですが、何処かの首相の発言のようですが、それよりも(ごめんなさいトニーラマ)私が驚いたのはパンツの裾がシングルだったこと。白井さんがシングル!?白井流といえば基本はダブル!在り得ない光景に戸惑う私でしたが、白井さんはこのスーツなれば当然のことと仰っていました。そういえば昔観た西部劇の映画で、確か村のお祭りのシーンだったでしょうか、今日の白井さんと同じような着こなしをした紳士達が晴れやかな表情で登場していたような記憶があります。今日の白井さんの着こなしは当時、いえいえ、もしかしたら現代でもフロンティアでの盛装ということでしょうか。

 

 白井さん秘蔵のスクラップブックの中の、外国の紳士服飾誌の切り抜きの記事に

“BUILD A BASIC WARDROBE" という言葉がありました。大変奥深い言葉でこのブログにぴったりのキーワードでもあります。

 そしてまた時には、今日の白井さんのように遊び心溢れる着こなしも洋服の世界の魅力の一つ。今回私は『自分の装いを楽しむゆとりや豊かさ、しゃれ心とはなにかを教えられた』(信濃屋HP“白井俊夫のおしゃれ談義”より)という白井さんの言葉と全く同じ想いを抱きました。



黄色いコットンスーツ

2010-05-06 04:00:00 | 白井さん


 今日、5月5日は五節句の端午、二十四節気の立夏。ついこの間まで続いていた肌寒さは何処へやら・・・連休中の首都圏は快晴に恵まれ、“夏”の到来を肌で感じる陽気となりました。

 今回も好天に誘われて屋外での撮影にチャレンジしてみましたが、私の撮影技術が未熟な為に何故か影で白井さんが真っ二つになっている上の写真が一番写りが綺麗でした(汗)。白井さん、申し訳ありません(汗)。

 

 “コットーネ(cotone)”・・・今日の白井さんは、初夏の陽射しに映える“コットンスーツ”の着こなし。このスーツの登場は2年ぶりとのことで大変貴重なショットです!

 この日まず最初に目に飛び込んできたのは“黄色”!前回の撮影時に白井さんからは『今度は黄色いコットンスーツ着てくるよ。』と予告されていたのですが、その余りの“黄色っぷり”には度肝を抜かれてしまいました。“きっとこの色には何か特別な思い入れがあるに違いない”と踏んだ私でしたが、白井さんにこの色を選ばれた理由を伺ったところ『特別な意味は無いよ。』とのこと(汗)。因みにカンパーニャ(伊)製です。

 

 この日はこのブログの撮影前に、服飾評論家の遠山周平さんがご来店されていたそうで、ウェスタンスーツ、 LBJハット、西部劇について服飾談義をされたのだとか。LBJハットというのは鍔が小さいウェスタンハットで、1964年東京オリンピックの開会式でアメリカ合衆国代表選手団が被っていたのがまさにそのLBJハットだったのだそうです。名前の由来はテキサス州出身のジョンソン大統領(Lyndon Baines Johnson)から。上の写真は遠山さんの記事を熟読する白井さんと、白井さん私蔵のスクラップ写真集からLBJハットとランチコートのカウボーイ達のモノクロ写真。

 白井さんとウェスタンは切っても切れない関係で強く結ばれていて、西部劇を観ずして白井さんとは語れない!といっても過言ではありません(注・過言です)。ジョン・フォード、ジョン・ウェイン、ジェームス・スチュアート、アラモの砦、デイビー・クロケット、ボーイズナイフetc、私は辛うじてジョン・ウェインを知る程度で、毎回白井さんから聞かれる言葉は未知のモノばかりですが、これらについて一つずつ調べながら知識を増やしていくことも私の密かな楽しみになっています。

  

 今日のスーツに合わせてシャツは細かいチェック柄のBD。およそ2~3年ぶりに登場させたそうです(笑)。ネクタイはごくシンプルな無地を選択。靴は2回目の登場、柔らかいスウェードを使ったシルヴァーノ・ラッタンツィのセミブローグ。

 

 前回の極めてクラシックな着こなしから一転、今日はリラックス感溢れるコットンスーツの特徴を活かし、アクティブで若々しくカジュアルなイメージで、全体をシンプルに纏められたという印象を受けました。



“サマーカシミア”のジャケット&クリーミーホワイトフランネルパンツ

2010-05-01 04:00:00 | 白井さん
 
 

 前回初めて屋外撮影を試みたところ予想以上に綺麗な写真が撮れたので、今回も白井さんを外にお誘いしてしまいました。また、白井さんにお渡しする写真の写りがかなり良かったこともちょっとした嬉しい収穫で、今後も天気と相談しつつ白井さんのお許しが得られればトライしてみたいと思います。

 この日の白井さんの着こなしは、初夏を想わせる心地好い陽気にピタリと合わせたまことにクラシック且つエレガントな装い。私のような素人カメラマンが撮影したにもかかわらず、歴史ある馬車道の風景に映える実に景色の良い写真が撮れました。

 ただし残念ながら、ジャケットの柄にどうしてもモアレが出てしまうので恒例の大きな扉写真は今回お休みです。

      

 夏向きのカシミア生地を使った、濃茶とベージュに少しの黄色も混じった大きなグレンチェック柄のジャケットはジャンニ・カンパーニャ(伊)。前回のスーツに引き続きこちらも信濃屋さんのHPに掲載されている逸品です。私はもう何年も前からこのジャケットに憧れ続けていて、この日こうして拝見した瞬間は感動で胴の内が震えました。既製品ながら白井さんはこのジャケットの“シルエット”特に肩の辺りが“ほわっと”してるところが殊にお気に入りなのだそうで、それ故登板回数も多めなのだとか。『下手にオーダーなんかするよりも既製が一番!』(白井さん談)という白井流哲学を体現する一着なのです。うっかり撮り忘れてしまったのですが、カンパーニャ製ということで裏地(背抜き仕様)にはシルクが使われていました。擦れる部分が少し変色し始めていて、愛着の程が伺えました。

  

 今日はタイトルにも登場させたトラウザースはブリオーニ(伊)の名パターンナー、ケッキーノ・フォンティコリ氏に製作させたという特別な一本。ベルトレス、リバースプリーツ仕様で、分厚く重たいフランネルは『バルベラでもちょっと敵わないくらい・・・恐らく英国製だと思うよ。』(白井さん談)という極上の素材。“本物の”フランネルを知っている白井さんならではのチョイスです。“クリーミー”と呼ぶに相応しい柔らかいホワイトからも実に上品な印象を受け、クラシックな装いには“絶対に”欠かせないアイテムです。

 『真っ白なホワイトは“ヨーグルトホワイト”なんて言ったりするよね。冗談じゃなく本当に(笑)。英国の色表現の仕方は面白いよね~例えば緑ひとつ取っても“フォレストグリーン”とか“シャーウッドグリーン”とか、赤っぽい色で“ルバーブ”とかね。』

 白井さんに接するにつれ感じていたことですが、白井さんは実に豊かな色彩感覚をお持ちの方です。であるからこそそれに伴う表現方法=言葉も常日頃から大切にされています。それはこういうちょっとした会話の中にも垣間見え、“ああ~この方はやはり正真正銘のプロフェッショナルなんだなぁ”と感じます。以前、白井さんが服飾雑誌を眺めながら色の表現について『プロなんだからもうちょっとマシな言い方できないもんかね~。』と仰っていたのを思い出します。日本語にも多彩な色表現がかつては在ったはずですが、それらも最近失われつつあるのはちょっと悲しいことです。

 

 チャーチのコンビネーション。やっとちゃんと撮影できホッとしました(笑)。先頃私がオークションで落札したチャーチは既製品ですが、こちらはプロトタイプですのでステッチの細かさなどに違いがあり、それより何より“年季”が比べものになりません(笑)。因みにソックスはこげ茶です。

  

 さて、どれも素晴らしい品ばかりなのですが、この日、白井さんはこう仰っていました・・・

 『個々の品ばかりに捉われていてはいけない。一番大切なのは“何を”“どう組み合わせる”のか。ブランド云々よりも組み合わせを楽しまないとつまらないもの。“このジャケットにはどんな色のネクタイが良いかな”と想像してみる。“じゃあパンツは何色が良いかな”と組み立てていく。今日なら“ソックスは赤でも良いんだけどせっかくのコンビが死んじゃうな”とか、“もう少し暖かくなればベージュのギャバディンも良いな”とかね。』

 『昔はモノクロのムーヴィーを観ながら想像したものだよ~“あの俳優が服の中に着ているニットは何色だろうな”とか“靴下は何色を合わせているのかな”なんてね。“イマジネーション”が大切。』

 『朝一番!その日の天気、気温、体調を考えながら組み合わせていく。冠婚葬祭は前の日に考えた方が良い場合があるけどね(笑)。基本は“人に不快感を与えないこと”。まぁブランド云々や成金趣味はあまり好ましくはないんだけど、それでも汚い恰好をするよりはよっぽどマシ(苦笑)。』



 “木を見て森を見ず”これはいけません。どんな極上品も着こなせなければ何の意味も無いのです。

 ここ何回か前から私は密かに“初心に帰る”をテーマに掲げて撮影に臨んでいましたが、やはりその考えは間違っていなかったと今は確信しています。やはり私は“白井さん”を見んがために横浜へ足を運んでいるのだと。