「影響の輪」を広げる

向上心旺盛と自画自賛している中年おじさんのブログ日記

黒澤明監督「生きものの記録」

2009-02-27 | 映画

 

この映画のタイトルが、「生きものの記録」。

 

 

 

今なら、動物を扱っている記録映画みたいなタイトル。

 

 

 

実際は、原爆、水爆を怖がっている鉄工所の社長(中島喜一)の話。

 

 

 

主人公の社長は、若い(35歳)三船敏郎が、老人役になって演技。

 

 

映画の詳細は、ここを参照:

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%9F%E3%81%8D%E3%82%82%E3%81%AE%E3%81%AE%E8%A8%98%E9%8C%B2

 

 

映画の中の会話:

 

 

調停委員の父(原田:志村喬)が、息子に問いかける場面:

父:「なぁ、進」

息子:「はぁ」

父:「お前、原爆だとか水爆、どう思う」

息子:「なんです、急に」

父:「まあ良いから。どう思う。怖いかい」

息子:「そりゃ、怖いですよ」

父:「本当に怖いかい」

息子:「本当ですよ。誰だって怖いに決まっていますよ」

父:「じゃあ何故そうやって落ち着いてられるのだい」

息子:「そりゃ・・・・、だからと言って、どうしようもないじゃないですか

(食事の場面:中略)

父:「しかしだよ、それをまともに受け止める人があったとっすればだがな」

息子:「冗談じゃないですよ、そんなことをしたら、神経衰弱になるのが関の山ですよ」

父:「それが、違うんだよね。絶対、神経衰弱じゃなんてものじゃないなぁ、ありゃ」

息子:「何なんです、一体。今日の裁判の話ですか」

父:「ああ」

息子:「で、どんな」

父:「うむ・・・・、どうも、検討がつかんな、あの人は」

と、まともに、原爆、水爆を怖がっている人が主人公。

 

 

この映画は、戦後10年目(昭和30年、1955年)の作品。

つまり、日本に原爆が2つ、実際に落とされてから10年しかたっていない。

 

 

 

一方、アメリカは水爆実験をしている。

 

 

 

そんな時代背景を理解しないと、その恐怖を持つ人の気持ちはわからないと思う。

 

調停委員での会話:

中島:「ばか、命あっての、ものだねということが、わからないのかね、お前たちは」

次男:「お父さん、命、命といいますがね。人間、誰だって、遅かれ早かれ死ぬんじゃありませんか。そう考えれば、水爆の放射能も」

長女:「そうよ、そうよ、そう考えれば・・・・」

中島:「死ぬのは已むを得ぬ。だが、殺されるのは嫌だ

 

 

 

不安の実感は、どういう動機からきているかを、調停委員が中島(三船敏郎)に聴取している場面:

中島:「不安。いやぁ、そんなものは感じておりません」

調停委員A:「では、何故、慌ててブラジル等へ」

中島:「わしは、原水爆だって、避ければ避けられる。あんなものにムザムザ殺されてたまるかと、思うているからこそ、この様に慌てているのです。

ところが、臆病者は、震え上がって、ただ、ただ、目を瞑っている。倅どもが良い例です」

 

 

自分の工場に火をつけて、その後、精神病院へ。

 

精神病院の医者:「しかし、あの患者を診ていると、なんだかその、正気でいるつもりの自分が、妙に不安になるのです。狂っているのはあの患者なのか、こんな時勢に、正気で居られる我々が、おかしいのか・・・・・・・。」

 

 

病院の個室で調停委員の原田(志村喬)が、中島(三船敏郎)に面談する場面:

原田:「原田です。」

中島:「へえ、良くおいでなすったなあ。

ふふふ、やあ、ここならもう大丈夫じゃ。ご安心なさい。

ところで、その後・・・、地球はどうなりました?

まだ、だいぶ人は残っているじゃろか。

人はまだ沢山おりますか?

え、そりゃ、いかんなあ。そりゃ、いかんぞ。

早く逃げないと、遺憾ことになるぞ。

なぜ、それがわからんのかな。

え、ここへ、この星に逃げてかなければ、いかん。

早く、この星」

(中島の顔に日が当たり、窓越しに太陽を見て)

中島:「はあ、ああ、地球が燃えている。

はあっ、地球が燃えとるぞ

ああ、燃えとる。

燃えとるぞ。

ああ、あ、あ。

あ、燃えとる、燃えとる。

ああああ、とうとう地球が燃えてしまった。

あっ、あああ。」

 

最後のシーンは、調停委員の原田が、階を降り、妾の娘が階にゆっくり上がる。

 

 

足音だけが、コツコツと響く。

 

 

映画の「終」が表示されてから、黒い画面で、怪しい曲が流れる。

 

 

考えさせる映画である。

 

 

 

閑話休題:

 

映像的に、見入ってしまったシーン:

 

①精神病院の個室で、中島と原田が、太陽を窓越しに見ながら、逆光で撮影しているシーン

 

②精神病院のスロープを、降りる、中島家の家族と見舞いにスロープを上がる原田とのすれ違いシーン

 原田が帽子をとる、中島家の家族には原田が目に入らない、原田が足をとめる、原田が覗きこむ。

 それぞれの人が、違った行動・反応をしているが、画面は、同じ。

 

③原田がスロープを降りる時、バックライトで照らして、原田の大きな影をスロープの床に描写している。

 ②と同じシーンのようでありながら、妾の娘とすれ違う時は、原田と挨拶もなく行き交い、顔見知りでない関係の演出。

 同じバックライトを当てているが、妾の娘には、手すり近くを歩かせて、大きな影を消しての描写

等。

 

 

 

それ以外も目を見張るシーンは、沢山あり、計算つくされた画面作りが凄いと感じさせる映画でした。