WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

サウンド・オブ・レインボー

2007年04月04日 | 今日の一枚(W-X)

●今日の一枚 149●

Walter Lang Trio

The Sound Of Rainbow

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 ドイツ出身のピアニスト、ウォルター・ラングの2005年録音だ。キース・ジャレットをはじめ数多くの名盤を生み出してきたことで知られるノルウェーの「レインボー・スタジオ」で、「伝説」のエンジニア、ヤン・エリックによって録音されたものだという。

 写真をみると、ウォルター・ラングはなかなかのイケメンだ。キザな奴に見える。気に入らない。けれど、音楽はなかなかい。キザなイケメン野郎にありがちな(?)だらだらとした甘い感じはあまりなく、そのピアノの響きは硬質なリリシズムを感じさせる。やはり、録音がいいのだろう。全体的に透明感のあるサウンドだが、冷たくひきしまった空気の中を伝わってくる硬質な音だ。考えすぎだろうか。ニコラス・ダイズのベースもなかなかの迫力である。リアルで鮮度のよい聴きごたえのある音だ。

 いい選曲だ。キース・ジャレットの「カントリー」、チック・コリアの「チルドレンズ・ソング」ではじまり、チャーリー・ヘイデンの「ファースト・ソング」、パット・メセニーの「ジェームズ」で終わる選曲は、私のお気に入りの曲が目白押しである。現代の名曲中心の構成だが、もちろん単なる「なぞり」に終わらず、オリジナリティーを感じさせる解釈で演奏される。

 雑誌Sound &Life No.4 で小説家の藤森益弘氏は「いまを潤すディスク10選」のひとつにあげ、「最近の出色の一枚」と評している。

[追記]藤森氏の作品は読んだことがないが、藤森氏があげた「いまを潤すディスク10選」が、私の好みとあまりに同傾向なので、ちょっと驚いている。


イッツ・オール・ライト

2007年03月16日 | 今日の一枚(W-X)

●今日の一枚 139●

Wynton Kelly     It's All Right

Watercolors0008_2  斬新なジャケットである。何かしら楽しげな雰囲気のあるジャケットだ。ウイントン・ケリーの1964年録音作品『イッツ・オール・ライト』……。

 ウイントン・ケリーを「ひたすらハッピーな脳天気節と、哀調をおびたフレーズが違和感なく同居する独自のメロディー感覚で、完全にオリジナリティーを確立させたピアニスト」と評したのは、後藤雅洋氏であるが(『新・ジャズの名演・名盤』講談社現代新書)、このアルバムを聴く限り、後藤氏の言は至言というべきだろう。心躍るような楽しげな演奏からノスタルジックな曲まで、トレードマークのシングルトーンがゆったりと響く。ケニー・バレルのブルージーなギターが絶妙のアクセントをつけているのもたまらない。なかなかにいい気分だ。

 ケリーは若い頃(ジャズを聴きはじめの頃)よく聴いた。アルバムもそこそこ所有している。しかしよく考えてみると、ここしばらくはケリーの音楽に接してこなかったように思うのだ。なぜだろう。たぶん、刺激が少なかったのだ。ケリーのような穏やかで趣味のよい音楽は、ジャズに過剰な何かを求めて聴いてしまうとつまらなく感じてしまうのではなかろうか。

 しばらくぶりにケリーの音楽に接したが、これがなかなかいいではないか。若い頃のように性急に何かを求めるのではなく、気持ちに余裕をもって、ゆったりとした気分で聴いてみると、その演奏がじわじわと身体にしみてくる。それは、突き刺すような刺激ではないが、ゆっくりとゆっくりと細胞の隅々までしみわたるようだ。

 当然のことかもしれないが、音楽は聴くもののスタンスによって、まったく違って聞こえてくるものだ。


ウィッシュボーン・アッシュの百眼の巨人アーガス

2006年09月02日 | 今日の一枚(W-X)

●今日の一枚 37●

Wishbone Ash     Argas

Cimg1660_1 今週は忙しかった。音楽に向き合う余裕もあまりなかった。今、土曜日の朝6:00、やっとスピーカーの前に座っている。しばらくぶりに、ロックが聴きたくなった。古き良き時代のちゃんとしたロックが……。

 ウィッシュボーン・アッシュの1972年作品  「百眼の巨人アーガス」。いい……。正統的ブリティッシュ・ロックとはこういう作品をいうのだ。過剰なものをすべて削ぎ落としたかのような、ハードだが不思議に静けさを感じるサウンド。ゆっくりときちんと歌いこむボーカル。そして、ブルースフィーリング溢れる哀愁の旋律。

 side-1②Sometime World、side-2③Warrior などいい曲がそろっているが、私はなんといってもside-2④のThrow Down The Sword (武器よさらば)が好きだ。このバンドの「売り」であるツイン・リードギターが最良のかたちでフューチャーされている曲だ。テッド・ターナーとアンディー・パウエルのギターは、どちらが主/副ということなく、互いに別々のソロを弾くが、それが微妙に絡み合いひとつの「演奏」となってゆくさまは、実に聴き応えがある。しかも、その旋律はブルース・フィーリング溢れる美しいものだ。後の、イーグルスの構成的でドラマティックなツイン・リードとは、まったく違った演奏の形を示している。

 渋谷陽一ロック  ベスト・アルバム・セレクション』(新潮文庫)によれば、イギリスの手厳しい批評家ジョン・ピールでさえ、このウィッシュボーン・アッシュというバンドの演奏の、オリジナルの豊富さ、メロディーの美しさ、そのエネルギッシュさに感服しているという。

 もう、30年以上前のバンドだが、現在でもそのサウンドの素晴らしさは色褪せることはない。若い世代がこのようなすぐれたバンドの演奏に触れる機会が少ないのは残念なことだ、そう思う。