平和エッセイ

スピリチュアルな視点から平和について考える

フォトンベルト妄想(5)

2006年06月30日 | フォトンベルト妄想
【0】ヘッセ(といっても、あの有名なヘルマン・ヘッセではありません)はドイツでは長らく忘れられた作家でしたが、英語圏で広がったフォトンベルト妄想のおかげで、ドイツでも再発見されたようです。

ヘッセ(Paul Otto Hesse)は、地球が高エネルギーの場に突入することによって、すべての状態が劇的に変化するというアイデアを思いつき、1959年に『最後の審判の日』(Der juengste Tag)という題の本として出版しました。以下のサイトではヘッセのアイデアが説明されています。

http://www.holoenergetic.com/TX-trafomat.htm

私はヘッセの本は読んでいませんし、読む気も暇もありませんので、このサイトの情報だけでヘッセの説を紹介してみます。多くの読者の皆さんはドイツ語は読めないかもしれませんが、図だけでもご覧下さい。

ヘッセによりますと、太陽系はプレアデス星団の中心星アルシオーネ(Alcyone)という星を中心に2万4千年周期で回転しています。この星からは上下に(左右にと言っても同じですが)光の帯が出ています(図の白い帯です)。ヘッセはこの帯を「マナのリング」(der manasische Ring)と呼びますが、「マナ」というのは、旧約聖書で、エジプトから脱出したユダヤ人が砂漠で食べた、天から降ってきたという神秘的な食べ物です。この名称には、ヘッセの宗教的観念がよく出ています。

リングというので、これは帯ではなく、円盤状のリングだとヘッセはイメージしているようです。アルシオーネから何らかのエネルギーが出るとしても、なぜ球状ではなく、リング状になるのかよくわかりませんが、そういうことを詮索してみてもしかたがないのでしょう。

太陽系はアルシオーネの周囲の回転運動のために、「マナのリング」にかからない「闇の時代」と「マナのリング」に入る「光の時代」を定期的に迎えます。「闇の時代」は1万年続き、「光の時代」は2千年続きます。そのあとまた1万年の「闇の時代」に入ります。「闇の時代」は聖書でいう堕罪の時代です。「光の時代」に入ると、夜はなくなり、すべてのものが高エネルギーによって変容します。想念や感情も死者の霊魂も目で見えるようになります。そして、キリストと一体になった者たちだけが光の中で生きることができます。これが聖書でいう「最後の審判」だとヘッセは言います。そうすると、2千年続くという光の時代は、まさにヨハネ黙示録が語る至福千年王国に対応することになります。

ケンプさんの「物語」がヘッセの焼き直しであることは明白です。

ヘッセが『最後の審判の日』を出版したのは、1959年でした。人類最初の人工衛星は1957年に打ち上げられた、ソ連のスプートニク1号で、翌1958年にアメリカのエクスプローラ1号が打ち上げられました。しかし、初期の人工衛星は、ただ打ち上げたというだけで、高度な観測機器は積んでいませんでした。そんな時代に、「マナのリング」をヘッセがどうやって「発見」できたのでしょう? できるはずはありません。「マナのリング」はそもそも観測されない帯なのです。これはキリスト教の「最後の審判」を宇宙的な出来事として説明しようとする、まったくの思弁的なアイデア以外の何ものでもありませんでした。今ならさしずめ「宇宙存在からのチャネリング」と銘打っていたことでしょうが、ヘッセの時代にはそういう便利な言い方はありませんでした。

1万年+2千年=1万2千年という周期も、おそらくキリスト教から由来するでしょう。というのは、イスラエルの12部族やイエスの12弟子などというように、キリスト教においては12というのは重要な数字であるからです。

※この数字は別の論者たちによってのちに1万1千年+2千年=1万3千年に変更されますが、これについてはあとで説明します。

あと、ヘッセの図で印象的なのは、円周の一番外側にある黄道12宮です。黄道というのは、天球上で太陽が見かけ上1年かけて動く道です。西洋占星術ではここに12の星座を配置しています。

なぜ太陽が黄道を動くように見えるかというと、それは地球が太陽の周りを公転しているからです。地球が動くので、地球からは太陽が動くように見えるわけです。

さて問題は、春分における太陽の黄道上の位置です。これが少しずつ移動するのです。これが今までは魚座にあったのに、最近は水瓶座(アクウェリアス)に入ったと言われています。そこで、現代はアクウェリアスの時代である、などと言われるわけです。「入ったと言われています」という漠然とした言い方をするは、黄道上でどこからどこまでが水瓶座か明確にするのが難しいからです。

春分における太陽の黄道上の位置が変化するのは、地球の歳差運動のためです。地球はちょうどコマの首振り運動のような運動をしており、これを歳差運動といいます。そのため、太陽の見かけの位置が少しずつずれるのです。

ところが、ヘッセの観念(妄想)では、太陽はアルシオーネの周囲を回転しているので、その回転によって、太陽の黄道上の位置が移動するのだそうです。これは地球の歳差運動を、太陽のアルシオーネの周囲への回転にすり替える、まさにトンデモ理論です。そして、ヘッセの「マナのリング」は太陽が魚座(Fische)から水瓶座(Wassermann)に移行する場所にかかっています。まさに「マナのリング」がアクウェリアスの時代を告げるというわけです。

ヘッセの本は、普通ならばトンデモ本として、とっくに人々の記憶から失われていたことでしょう。ところが、それをオーストラリアの女学生が読んで、自分の「物語」にしたて上げ、それに「フォトンベルト」というもっともらしい名称を与えたのです。

【絵文録ことのは】によれば、この女学生の「物語」はその10年後、

【2】1991/02 オーストラリアの神秘系雑紙『Nexus Magazine』に上記「The Photon Belt Story」の内容が掲載される(ここからフォトン・ベルト伝説が広まる)。

ということになりました。この『Nexus Magazine』というのは、日本の『ムー』に相当する雑誌だといいますから、そのレベルがわかろうというものです。

太陽系がアルシオーネの周囲を2万4千年で1周するということは、科学的にまったくありえないことなのです。太陽系とアルシオーネの距離400光年を半径とする円軌道の長さを計算し、それを2万4千年で割ると、太陽は何と秒速3万キロ、光速の10%の速度で運動していることになります。これだけの速度で動くと、地球から見た星座の形が短期間で変形するはずですが、そういうことは起こっていません。

※ちなみに、地球が太陽の周りを回る公転速度は秒速30キロですから、秒速3万キロというのが、いかにべらぼうなスピードであるかがわかるでしょう。

太陽がプレアデスの周囲をこれだけの速度で回転するには、両者の間に強力な重力が働かなければなりません。紐に分銅をつけて振り回しますと、遠心力で紐が引っぱられます。分銅の速度が速くなると、遠心力はそれだけ強くなります。紐が弱いと、切れて、分銅がどこかへ飛んでいってしまいます。プレアデスと太陽の間の紐は重力です。太陽がプレアデスの周囲を光速の10%という超高速で運動するためには、強力な紐=重力が必要です。重力は例のニュートンの方程式で出せますが、それによればプレアデスには銀河1万個くらいの質量がなければなりません。

そんなことはありえません。プレアデスは銀河の中の一星団にすぎないからです。詳しくは:
http://kotonoha.main.jp/2004/09/24infamous-photon-belt.html

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